「マフィア III」に向けて振りかえる空白の50年代アメリカ:マッスルカーの登場とライフスタイルの変化

2016年10月13日 11:37 by katakori
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「Mafia III」

これまで5回の特集を通じて、過去にリリースされたシリーズタイトルの概要やテーマ、そして最新作「マフィア III」のディテールまとめとインタビュー、ハンズオンプレビューをご紹介しました。

前回のハンズオンプレビューでもご紹介した通り、6年ぶりのシリーズ最新作として1968年当時の事件や社会問題をモチーフに盛り込んだ「マフィア III」は、これまでの作品以上にアメリカ社会そのものを色濃く反映しており、1964年まで異人種間の結婚が違法だった南部で混血として育った主人公リンカーン・クレイの復讐劇に力強い説得力と奥深い背景を与えています。

激しい復讐劇を軸に描く「マフィア III」は、充実したアクティビティやサイドミッションを用意したフルオープンワールド作品に進化し、パワフルなストーリーと美しいビジュアル、映画のようなカーチェイスや銃撃戦を用意したゲームプレイだけでも十分に楽しむことができます。

しかし、驚くほど緻密に作り込まれたゲーム世界と物語には、当時の社会を切り取った要素がふんだんに盛り込まれており、1968年のアメリカ南部を巡る特殊な状況や歴史的背景をある程度知っていれば、その楽しさが何倍にも膨らむことは間違いありません。

という事で、今回から数回に渡って、アメリカが1960年代後半に迎える大きな変化の様々な原因を蓄積した10年、これまで30年代と40年代を描いたMafiaシリーズにおいては空白の10年でもある“1950年代のアメリカ”にスポットを当て、最新作「マフィア III」のストーリーや背景に関係する公民権運動の台頭、広告・メディアの革命、自動車産業の発展とマッスルカーの登場、キューバとアメリカの関係など、幾つかのトピックを掘り下げる特集記事をお届けします。

はじめに:50年代アメリカに生じた新しい変化

現代的なテレビメディアの誕生に伴い、コミュニケーションの性質が大きく変化し、理想的なライフスタイルの共有や劇場型の政治手法が初めて本格化し始めた時代がまさに1950年代だと言えます。

電気や現代的メディアの誕生が世界の距離を相対的に縮小させたことで、社会的、政治的な現象は瞬時に統合され、全ての個人がそれぞれの視点やイデオロギーに関わらず、あらゆる事象への参加と関与を余儀なくされる。現在のソーシャルメディアやインターネットにも顕著なこの現象は、テレビが商用媒体として爆発的な普及を果たし、メディアが理想的なライフスタイルを形成した1950年代に始まったものでした。

こういった参加性は拡大の一途をたどり、1963年にはテレビ中継を通じてケネディ大統領の葬儀が放送され、アメリカの全国民がこれを目にし参加するまでに至っています。(大統領暗殺の実行犯とされるリー・ハーヴェイ・オズワルドの暗殺までもがテレビで生中継された)

最新作「マフィア III」と過去2作品のストーリーテリングを比較した場合、最も大きな違いの1つは空白の10年に生じた“映像の時代”以前と以降の差にあるといえ、本編には当時撮影された本物の映像が多く盛り込まれているだけではなく、ゲーム内で当時を振り返る関係者のインタビューや議会による事件の公聴会の記録など、それぞれのシーンを撮影する“カメラ”の存在や違いがストーリーテリングにおいて重要な役割を担っています。

ゼネラルモーターズの台頭と消費の娯楽化

シボレーが58年に放送したCM、卒業パーティを迎えた息子と家族を描くストーリー仕立てで
曇りひとつ無い理想的な家族像とそこに求められるステータスが分かりやすく描かれている

スティーブ・マックイーンが主演した映画“ブリット”の影響や荒々しいマッスルカーの登場、デンビー・グレイス氏のインタビューからも分かる通り、最新作「マフィア III」のドライビングは、映画のようなカーチェイスを実現すべく大幅に強化され、クラシックカー然とした車両が多くを占めたシリーズタイトルから大きく様変わりしました。

この変化は、大量生産技術で40年代以降の高度経済成長を根底から支えたフォード・モーターとT型フォードが、その前時代化に伴い衰退するなかで、イメージ重視のプロモーションと多彩な車種、スタイリッシュなデザインで台頭したゼネラルモーターズの著しい成長。そして1940年代後半に訪れ、石炭にとって代わった安価な石油資源の恩恵に伴う社会的な変化が背景にあります。

フォードとゼネラルモーターズの覇権を巡る交代劇は1920年代に終わりを告げ、以降はゼネラルモーターズが様々な企業やサービスの買収と世界市場への進出を重ね、アメリカ最大の企業として確固たる立場を築き、1953年にはチャールズ・E・ウィルソン社長がアイゼンハワー政権の国防長官となり、1955年には人類史上初めて年間の売上高が10億ドルを超える企業となったことが知られています。

極めて実直かつ厳格で、変化をよしとしなかった最盛期のフォードに対して、ゼネラルモーターズはまだ活字媒体が優勢だった時代から映像やビジュアル、消費に対するストーリー付け、ノーマン・ロックウェルの絵やコカ・コーラ、ロックンロール、庭付きの一戸建てといったいわゆるアメリカ的なるものの憧憬を描くことに力を入れ、車を持つことのステータス化と上級ブランドへの消費を欲求付ける購買層の分類を行いました。

若者やブルーカラー向けのシボレーや1ランク上のスポーティーと優美さを備えたポンティアック、セクシーなフォルムを持つハイミドルのビュイック、持てる者の証であるキャデラックなど、ブランドのヒエラルキーとプロモーショナルなライフスタイルの構築を推し進めたゼネラルモーターズは、50年代以降の市場と経済成長を大きく牽引することになる「毎年のモデルチェンジと買い換えのエンターテインメント化によって駆動するビジネス構造」を作り上げることに成功しました。

ダイナ・ショアが歌ったシボレーのテーマ曲“See the USA in Your Chevrolet”を用いた59年のCM
郊外の一戸建てや当時のライフスタイルを覗わせるシーンも興味深い

毎年のモデルチェンジと乗り換えを軸とするビジネスモデルは、ハイオク燃料とV型8気筒エンジンの実用化と相まって必然的に車両の大型化と高性能化、高出力化につながり、1950年代後半には年々増す余剰性能を利用したエアコンやパワーステアリング、パワーブレーキといった装備を備えたキャデラック並みの大衆車まで誕生し、マッシブなアメ車が数多く登場する「マフィア III」時代の下地が着々と整えられたのです。

しかし、こういった過剰なモデルチェンジビジネスは、航空機を装うようなテールフィンに象徴される機能的に何の意味もない些細な外観の美に対する偏重や、利益の最大化と最適化に伴うある種の均質化を必然的に生みだしました。

50年代後半にほころびを見せ始めた停滞感と、毎年複数のラインアップをモデルチェンジすることは、すなわち“最善と思わせた前年のデザインや機能に不満と物足りなさを抱かせる”ための取り組みでもあり、不毛な外観への固執は競合に対して技術やサービス面のアドバンテージを与えるに十分な失策だったと同時に、50年代に作られた共通認識としての“理想的なライフスタイル”に疑念や不満を抱かせる種子の1つでもありました。

こういった事態の裏では、フェルディナント・ポルシェが国民車の構想を結実させたフォルクスワーゲンが、購入者向けに特化したアフターサービスの充実と、共産主義的とも言える画一さ、ラインアップの少なさに伴う確かな品質や耐久性で50年代初頭からひっそりと、しかし着実に販売台数を伸ばしており、毎年の買い換えでステータスを無駄に誇示する必要性を感じないローエンド市場やインテリ達のシェアを奪ってしまいます。

「マフィア III」は、マッスルカーと激しいカーチェイスにスポットを当てる一方で、こういった歴史にもしっかり目を向けており、ゲーム内には60年代の時代背景を捉えたコンパクトカーやビートル風の車両もしっかり登場します。豊かなアメリカを象徴する荒々しいアメ車を存分にぶっとばす一方で、愛らしい車たちにも目を向けてみれば何か新しい発見があるかもしれません。

参考:大型化の一途を辿ったシボレーが67年に放送したCM
男らしさや荒々しさはマールボロが大きな成功を収めたCM戦略の影響か

モータリゼーションと郊外生活の到来が与えた都市の新しい変化

“Mafia II”の特集記事でも少し触れましたが、50年代に確立される理想的なライフスタイル像と新しいアメリカンドリームは、フォードが1920年代に実現したモータリゼーションと、この大量生産技術を住宅建築に応用したウィリアム・レヴィットによる安価な郊外住宅の大量生産を基盤とするもので、ゼネラルモーターズがもたらしたアメ車の大型化や消費を欲求付ける社会的なステータスと相まって、物質的に豊かで幸福な未来像を“実現可能な夢”として白人の下位中産階級にまで浸透させることに成功しました。

ウィリアム・レヴィットが生んだ構想は、マンハッタンから30kmほど離れたロングアイランド西部に広がる農地を格安で購入し、1万ドルを割る価格の一戸建てを大量に建築するという、もはや町そのものを作り上げると言ったほうが早い計画で、復員兵を対象とした第一次レヴィットタウンには、1万7,000件もの住宅が並び、8万2,000人が暮らす共同体が出来上がりました。

ここには、郡が公共事業として建設した5つの学校や17のプール、教会までもが存在しており、夫達は毎朝自動車でニューヨークの職場へ通勤し、女性は専業主婦として家と新たな共同体コミュニティを維持する……まさにゼネラルモーターズがシボレーのCMに描いたような曇り一つない理想的な家族像のひな形が誕生したのです。

その後もウィリアム・レヴィット率いるレビット&サンズ社は、さらなるレヴィットタウンの建築を進め、60年代の終わりまでになんと14万軒を超える一戸建てを建設しました。

当然ながらこの成功と分譲ビジネスモデルは広く一般化し、大規模な郊外化の進行が都市部の人口減少を生んだだけでなく、従来の集合住宅を過去のものとしましたが、一方では戦時中に進んだ女性の社会進出を後退させ、60年代に爆発する様々な矛盾の温床となり、「マフィア III」の大きなテーマの1つでもある人種差別の問題や公民権運動にも影響を与えることになります。

また、こういった郊外化は社会に新しいニーズを生み、ウォルマートやターゲット等に代表される郊外型巨大ディスカウントショップの元祖であるEJコルベットの誕生に繋がり、小売業界の激しい安売りビジネスと大量消費の基盤を作り上げたことでも知られています。

「マフィア III」の舞台ニューボルドーの多彩な地区を紹介する解説映像

「マフィア III」の舞台となるニューボルドーには、フランス街に代表されるニューオーリンズの伝統的なアイアンレースの装飾が美しい建築物や、行政の中心として近代的なビルが建ち並ぶダウンタウン、産業地帯として機能する東部のティックフォー港など、様々なロケーションと共に、庭付きの一戸建てが並ぶ郊外の閑静な住宅地や、広い駐車場と店舗を持つ郊外型のスーパーマーケットも多数存在しています。

ニューボルドーの地区ごとに大きく異なる景観や建築様式、組織犯罪のレイアウトそのものが、当時の社会的背景やニューオーリンズの地理を巧みに反映したものだと考えれば、ゲーム中のドライブと観光がより楽しいものになるのではないでしょうか。

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