シリーズ最新作“マフィア III”の登場が迫る今、あらためて振り返る野心作「Mafia: The City of Lost Heaven」

2016年8月2日 12:24 by katakori
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
sp
「Mafia」
主人公トミーと共にドン・サリエリを囲むファミリーの主要人物達

先日、人気シリーズ最新作“マフィア III”の発売に向けて、これまでに報じられた作品の具体的なディテールや主要キャラクターの情報をまとめてご紹介しましたが、1968年のアメリカ南部を描くシリーズ最新作は、前作の主人公であるヴィト・スカレッタの登場を含め、1930年代の古き良き伝統的なマフィアを描いた初代「Mafia: The City of Lost Heaven」から(緩やかながら)直接的に続く長い歴史と同じユニバースを共有しています。

前回ご紹介した通り、“マフィア”シリーズは、数多ある犯罪系オープンワールドジャンルの中でも、一貫して“組織犯罪”をテーマに描く希有なフランチャイズで、何れの作品もマフィアの伝統や血の掟、組織のヒエラルキーによって駆動するゲームプレイと物語を特色とする一方で、そのアプローチやテーマは作品毎に大きく異なっています。

元CIAのエージェントが主人公の復讐劇について証言するドキュメンタリーに近い形式で描かれる“マフィア III”は、所謂イタリア系マフィアを明確な敵として描くことで、ブラックパワーの台頭やテレビの普及に伴う現代的メディアの誕生と身体性の関係など、激動の時代にあった1968年のアメリカを象徴する時代性を大きな特色の1つとしていますが、これまでのシリーズはどういったスタンスで“マフィア”の物語を描いたのか。

今回は、現在入手が困難な状況にある“Mafia: The City of Lost Heaven”(2002年)の突出したストーリーテリングにスポットを当て、傑作と呼ばれる初代がいかに特別な作品だったのか、来る“マフィア III”の登場に向けて、改めてその功績と作品の概要を振り返りたいと思います。

参考:“Mafia: The City of Lost Heaven”のトレーラー

映画的なプロットを追求した初代「Mafia」の野心とストーリーテリング

「Mafia」
一介のタクシードライバーから成り上がる主人公トミー

1938年、アメリカ東海岸の都市“ロストヘブン”、1人の男が市警の刑事ノーマンを呼び出し、ある情報と引き替えに司法取引と身元の保護を求めた。その男トーマスが語り始めたのは、平凡な日々を送っていたタクシー運転手が思いもよらぬ事件からマフィアの一員となり、組織犯罪に手を染め、暗黒街を上り詰める成功と裏切りの物語。そして、アメリカ史上最大規模の法廷闘争を巻き起こす組織犯罪の全容だった。

初代“Mafia”は、第一次世界大戦後の投資ブームと著しい技術革新が生んだ巨大なバブルに沸く狂騒の20年代を経て、大恐慌を迎えた1930年代の物語を描く作品で、前述したプロットの概要通り、本作はタクシーの運転手として働いていた主人公トミーことトーマス・アンジェロが、サリエリ・ファミリーと呼ばれるマフィアの一員となり、その後頭角を現し、ファミリーの中核を担うまでに至る過程を追体験する三人称視点のオープンワールドアクションタイトルでした。

初代“Mafia”のゲームプレイは、血で血を洗うファミリー間の抗争から要人の暗殺、密輸、窃盗、強盗と様々な組織犯罪をベースに、ロマンスあり、人情話あり、はてはカーレースに至るまで、古き良き時代の伝統的なマフィアを真っ向から描いた非常にストレートな内容で、ストーリーは主に映画的な演出で描かれる数多くのカットシーンを中心に進んでいきます。

初代のリニアなストーリーは、ありていに言えば映画“ゴッドファーザー”とスコセッシの“グッドフェローズ”を足して2で割ったような展開、と言えなくもありません。しかし、本作の技術・時代的な要因や独特の語り口は、まるで魔法のような相乗効果を生みだしており、問題のあるゲームプレイを補って余りあるビデオゲーム史上屈指の濃密なストーリー体験を描くことに成功しています。

「Mafia」

本作のプロットは、1930年秋から1938年まで、タクシー運転手からマフィアの一員として認められ、その後ファミリーの中でのし上がり、裏切りと陰謀の只中に身を置くに至る、典型的な三幕構成と、幕間のインテルメッツォ(※ トミーがノーマン刑事に過去と現状を語るパート)、そしてある時代を描くエピローグからなる構造ながら、ときおりはさまれるトミーの心境は、この何れでもない、言うなればトミーの人生そのものから遊離したような、或いはトミー本人が自分自身の人生を観る観客のような視点と時点から語られます。

本編において、ある種の冷静さと客観性、人情深い優しさ、何かが欠落しているかのような残虐さを持ちあわせるトミーの非常に複雑な人間性と野心、人物像、そして前述した語り口は、ここでトミーの背中と映画のようなカットシーンを見つめるプレイヤーの決して高くない作品への没入度と相まって、タイトなストーリーの熱量を静かに蓄え、作品のテーマとトミーの人生を一点に集約させる非常に寓意的なエンディングを迎えたその瞬間に、これまで遊離していたトミーの視点とプレイヤー、ストーリーを力強く一体化させ、忘れることのできない問いと余韻を突きつけるのです。

初代“Mafia”を重要な作品として位置づける要素は様々あれど、この一点と卓越したストーリーテリングが何よりも本作の特筆すべき点であることは間違いありません。

「Mafia」
刑事ノーマンにファミリーの全容を語り始めるトミー

初代「Mafia」に宿ったマジック

先ほど、本作のストーリーに魔法のような相乗効果が生じたと説明しましたが、これは2002年に登場した本作の規模が、技術的・世代的な側面から見て、(当時は最先端だったものの)現在よりもはるかに限定的だったことに起因するもので、12平方マイル程度の小さな都市環境と少ないアクティビティ、決して多くない登場人物達、自由度の低いリニア展開など、ビデオゲーム的な意味ではマイナスとも言える制約が、結果的に極めてタイトなストーリーと濃密な人間関係、1テーマにフォーカス可能な作品のサイズに結びついたと言えます。

近年、止めどなく大規模化するAAA規模のオープンワールド作品は、ゲーム世界のインタラクションや多彩なアクティビティ、自由度の高いサンドボックス機能、群像劇のような(TVシリーズ的な)大きな物語を提示することにますます磨きを掛ける状況となっていますが、一方でごく一部の例外を除けば、1本の映画が描くような小さな物語や1つのテーマを集中的に描くことは年々難しくなっています。

その尤もたる成分が犯罪ジャンルにおけるノワールであり、アクティビティが多用化し、作品がコントローラブルであればあるほど、ストーリーの推進力は損なわれ、結末やプロットがゲームプレイから剥離する結果となってしまいます。(※ 近年においても幾つかの大作が同じ轍を踏み失敗するなか、インディー作品である“Her Story”が非常にトリッキーながら、ファムファタールそのものと優れたストーリーを、プレイヤーにコントロールを委ねノンリニアに描き切ったことは、発明と言っても過言ではない象徴的な事件でした)

という事で、初代“Mafia”は取り扱いの難しいノワールやアメリカン・ニューシネマ的な要素に手を出さず、王道のギャング映画的ストーリーを正攻法で描き、最小限かつ極めて効果的なツイストを利かせたプロットと、コンテンツの規模が奇跡的にマッチした結果生まれた傑作だったと言えます。

余談ながら、本作の脚本と(映画的演出の)監督は、現在Warhorse Studiosでドラゴンや魔法が登場しないハードコアな中世オープンワールドRPG“Kingdom Come: Deliverance”の開発を率いるDaniel Vavra氏が担当したことで知られていますが、氏は本作の開発にあたって、他人のルールに従わない人々を深く掘り下げ、1人の若者がマフィアに加わり、組織のトップを目指し、奈落の底へと落ちる、ギャングの人生の一部始終そのものを伝えたかったと説明していました。

初代「Mafia」が2002年に成し遂げたこと

初代“Mafia”が発売された2002年は、Battlefield 1942や初代Ratchet & Clank、初代Tom Clancy’s Splinter Cell、Grand Theft Auto: Vice City、The Elder Scrolls III: Morrowindといった作品が登場した年でもあります。

その時代性を鑑みれば、初代“Mafia”が今も数多ある“映画のような”ゲーム体験ではなく、限りなく1本の映画に近いストーリーをオープンワールドゲームのフォーマットで力強く描ききったこと、そして、2002年の技術で“ゴッドファーザー”と“グッドフェローズ”のような物語を過不足なく実現したことが初代“Mafia”の大きな功績だと言えます。

来るシリーズ最新作“マフィア III”は、初代に似た形式で予め決められた結末へと向かう作品となっていること、主人公リンカーンの目的である“復讐”をテーマに描くことが既に判明していますが、一方で1968年のアメリカにおける時代性を非常に強く反映させた作品であることも報じられています。

最新作の開発を率いる“Hangar 13”は、シリーズの本質を入念に研究した上で、作品世界とストーリーの構築を進めていると強調していますが、初代の成功と続編が踏んだ轍をどう捉え、新しい世代の“マフィア”作品に落とし込むか、そのアプローチを確認することも最新作の大きな楽しみの1つと言えるのではないでしょうか。

初代「Mafia」のゲームプレイシステムや開発、名門“Illusion Softworks”(2K Czech)について

「Mafia」
ロストヘブンの警察と銃撃戦を繰り広げるトミー

最初にご紹介した通り、初代“Mafia”は現在非常に入手が困難であり、特に日本語版でこれをプレイすることはさらに難しい状況となっています。

Steam版の販売がいずれ再開されるか(※ 3年ほど前に突如取り下げられ、現在は国内外共に取り扱い無し)、いつの日かリマスターが実現するか、今後の動きは一切不明ですが、次回の特集と来る最新作に向けて、今一度改めて“Mafia: The City of Lost Heaven”の大まかなディテールをご紹介しておきます。

■ “Mafia: The City of Lost Heaven”の概要

  • PC版の海外ローンチは2002年8月28日。開発はチェコのIllusion Softworks(現2K Czech)。その後2004年Q1にPS2とXbox版が発売されたが、Illusionは移植に携わっておらず、一部機能やディテールが排除されている。日本国内では2003年にPC向けの日本語版が発売され、2009年には“Best Selection of GAMES”版マフィアが再版されたが、何れも入手は困難。
  • ジャンル的には三人称視点のオープンワールドアクションシューターだが、ミッション進行とストーリーは何れもリニアで、いわゆるサンドボックス的な自由度やフリーローミング的な楽しみはかなり控えめと言える。
  • 初代の舞台“ロストヘブン”について:舞台はアメリカ東海岸に位置する架空の都市“ロストヘブン”(人口約120万人)。1930年のシカゴをモデルに、一部サンフランシスコの要素を取り入れており、タクシーや列車といった公共交通機関や高層ビル、美しいホテルや港湾地区、空港を備えた大都市として機能している。“マフィア III”の舞台ニューボルドーと同じく、10数種の地域によって構成され、それぞれに固有の街並みや特色を持つ。現実世界のシカゴと同じく世界恐慌による酷い不況下にあるが、1930年代特有の時代背景等は深く掘り下げられおらず、禁酒法時代のマフィアものとして不変的なストーリーが描かれている。古き良き伝統を重んじるサリエリ・ファミリーと、暴力で影響力を拡げるモレロ・ファミリーが争っている。
  • 進行システム:セーブとゲームの進行は、チェックポイントシステムで管理されており、任意にセーブはできず、チェックポイントは限られている。本作は銃撃戦や一部コンテンツ/ミッションの難易度が非常に高いことから、クリアを断念するプレイヤーも少なくなかった。(その後、一部の要素はパッチやSteam版アップデートにて改善済み)
  • 戦闘について:戦闘は、カバーを持たない三人称視点のオーソドックスなシューターで、ハンドガンを中心にいわゆるトミーガンからモシン・ナガン、ポンプアクションのショットガン、シシリーの伝統的なソードオフショットガンといった武器が登場する。また、近接戦闘用の武器として野球バットも使用可能。
  • バリエーション豊かなクラシックカー:約50種の操作可能なクラシックカーが登場し、数少ないサイドアクティビティとミッションを通じてアンロックされる。また、入手した車を飾るためのギャラリーモードが実装されている。
  • 初代“Mafia”は、もともとDriverシリーズ的な犯罪系ドライブゲームとして計画が始動したもので、当時としては入念に作り込まれたドライビングに加え、モデルを含むリアルなダメージシステムが用意されていた。
  • 当初はIllusionの代表作である“Hidden and Dangerous”と同じエンジンを採用していたが、ゲームのビジョンや機能を実現することができず、最終的に内製エンジン“LS3D”を開発し、これに採用した。なお、LS3Dはその後“Hidden & Dangerous 2”やSilver Wish Gamesのステルスアクション“Chameleon”にも採用される。
  • Illusion Softworksと2K Czechについて:Illusion Softworks、現在の2K Czechは、1997年にチェコ共和国のブルノに設立されたデベロッパで、人気タクティカルシューターシリーズ“Hidden & Dangerous”や“Mafia”シリーズ、ベトナム戦争をテーマにしたFPS“Vietcong”シリーズといった作品を手掛けた名門として知られている。2014年にはプラハオフィスが再編により、ブルノに統合する形で閉鎖され、一部の開発者が“Hangar 13”へと移籍したが、ブルノオフィスと2K Czech自体は現在も活動を継続しており、来るシリーズ最新作“マフィア III”の開発に参加している。
「Mafia」
12平方マイル程度の大きさながら、郊外エリアや表情豊かな複数の地区を持つロストヘブン
「Mafia」
ムダのない多彩なミッションも初代の魅力、トミーはひょんなことからカーレースにも参加する
「Mafia」
収集した車をゆっくり眺めることができるギャラリー
本編にはフリーライドモードも用意されている

「マフィア III」関連リンク

本日のニュース一覧

おこめの「The Elder Scrolls V: Skyrim」記!

skyrim記リターンズその136
「4コマ:攻撃しようにも」
skyrim記
“Skyrim”記バックナンバーはこちら

“Skyrim”記リターンズバックナンバー
Lineスタンプ
おこめがLINEスタンプを作りました!
かわいい子達がたくさんいるのでよかったらどうぞ。

アーカイブ

doope.jpについて

doope.jpは国内外の様々なゲームに関するニュースをご紹介するゲーム総合情報サイトです。
当サイトに関するご質問等はお問合わせフォームをご利用頂くか、またはメールで[doopeinfo@gmail.com]までお問い合わせ下さい。
sp



About the author

かたこりTwitter ):洋ゲー大好きなおっさん。最新FPSから古典RPGまでそつなくこなします。

おこめTwitter ):メシが三度のメシより大好きなゲームあんまり知らないおこめ。洋ゲー勉強中。

Tag

Copyright c image and method All Rights Reserved.