オープンワールドジャンルに革新をもたらすストーリーと刷新されたゲームプレイ、シリーズ最新作「マフィア III」のプレイレポート

2016年9月21日 0:00 by katakori
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「Mafia III」

先日、2Kのエグゼクティブ・プロデューサーを務めるデンビー・グレイス氏のインタビューをお届けした人気シリーズ最新作「マフィア III」ですが、今回東京ゲームショウ2016に先駆けて行われたメディア向けのイベントには、日本語化済みのPS4版デモビルドが用意されており、オープニングから3時間程度の冒頭パートに加え、本格的なオープンワールドとノンリニアな展開が楽しめる中盤以降のパートを5時間ほど、計8時間近くプレイすることが出来ました。

今回はこのハンズオンに基づくプレイレポートとインプレッションをご紹介しますが、予めはっきりと分かった結論を提示しておくと、“マフィア III”はシリーズのファンのみならず、未体験のプレイヤーにもオススメできる新基軸の最新作で、オープンワールドジャンルにおけるストーリーテリングの手法を更新し、新しいフォーミュラを生む可能性を宿した作品だったと言えます。

もう一つ、「“大人向け”の成熟したストーリー」を描くことについても一切の妥協や迎合はなく、挑戦的という一言ではとても括れない、例えるなら、近年のTVドラマを刷新したブレイキング・バッドやハウス・オブ・カード、そしてゲーム・オブ・スローンズといった作品が登場した時期を思い出させるような、細部に至るまで徹底的に作り込まれた世界からのみ生まれるドラマの片鱗を垣間見ることができました。

カルト的な傑作として知られる初代“Mafia: The City of Lost Heaven”と“Mafia II”は何れも素晴らしい作品でしたが、同時にゲームプレイとストーリーのペーシングやアクティビティ、バランスといった面で幾つかの問題を抱えていたことも事実です。今回プレイできたのは僅か8時間程度ですが、6年ぶりの新作となる“マフィア III”は、密度の高い充実したアクティビティとサンドボックス要素を備えたフルオープンワールド作品に生まれ変わっており、シリーズの伝統をさらに押し進めた魅力的なストーリーも相まって、今作が飛躍的な進化を遂げたシリーズの最高傑作となることはもはや明白だと言えます。

作品全体の著しい進化に比べれば、幾つか存在した懸念を払拭したことなど、ほんの僅かな改善に1つに過ぎないと感じられ仕上がりだった“マフィア III”ですが、一体どんな取り組みが本作を全く新しい次元へと昇華させたのか、今回はその主な要素と背景を紐解いてみます。

完全なオープンワールド作品に生まれ変わった「マフィア III」のゲームプレイ

「Mafia III」

“マフィア III”の真骨頂は、後ほど詳しくご紹介するストーリーと、これを支えるゲーム世界や背景の異様な作り込みにありますが、まずはその入れ物として機能する基本的なゲームプレイやシステムの改善について、実際に作品を体験したことで分かったプレイフィールとハイライトをご紹介します。

なお、これまでに判明している“マフィア III”の概要や主要キャラクターを含むディテールについては、初回の特集記事にまとめてありますので、興味がある方はこちらをまずご確認下さい。

  • 難易度選択について:“マフィア III”には、イージーとノーマル、ハードからなる3種の難易度が用意されており、プレイ中も任意に変更可能。コントローラーのエイムアシストも、オフ/低/高の設定が存在し、シューターやアクションが苦手なプレイヤーでも本作のストーリーを十分に楽しむことができる。
  • ステルスの強化を含む三人称視点の戦闘:奇をてらわない非常にオーソドックスな操作方法と操作感、カバーシステムに加え、シンプルなラジアルメニューも用意されており、ほぼ迷うことなく直感的にプレイできる。使いやすくなった近接攻撃や状況によって変化する派手なフィニッシュムーブ、それぞれに固有の特徴を持つ標準的な武器カテゴリなど、モダンな三人称アクションとして細部や戦闘フローがブラッシュアップされたほか、前作にも存在したステルス要素が大幅に刷新され、おびきよせや死体運搬/隠し、テイクダウン、これに併せた敵AIの改善といった新要素が追加され、同じミッションを多種多彩なアプローチでプレイ可能となっている。
  • リアルなドライビングと車両の改善:マッスルカーの登場や映画ブリットにインスパイアされた経緯もあり、事前情報通りいわゆるアメ車の運転は意図的に難易度が引き上げられ、映画のような荒々しいカーチェイスが楽しめた。また、異なる視点が幾つか用意されているほか、オプションに運転モードの項目が存在し、“ノーマル”と“シミュレーション”が選択可能。さらに、走行に影響を与えるダメージ表現も実装されている。馬力やハンドリングなど、車両毎の特性がはっきりと再現され、操作感が大きく異なる。また、運転中の戦闘も可能で、敵車両のタイヤを簡単に狙う機能が存在し、映画のようなカーチェイスが手軽に楽しめる。情報を持つNPCを助手席に乗せ、危険な運転で脅すなど、改善を活かしたアクティビティも用意されている。
  • 向上したナビゲーションやUI、HUD:ゲーム中のHUDとUI、メニューには、シンプルで統一感のあるタイルデザインのインターフェースが用意されており、ゲーム中には同じスタイルのAR風HUDが用いられる。また、運転中はミニマップに目的地への経路がハイライトされるだけでなく、画面上に直進や右/左折の標識風アイコン、目的地までの距離を示すアイコンが適宜表示され、ストレスなく移動やプレイに集中できたことが印象的だった。
  • ローカライズについて:日本語版“マフィア III”は英語音声と日本語字幕表示となっている。翻訳の質は相変わらず高く、ハードボイルドな作品世界にどっぷり浸ることができた。フォントも非常に読みやすく、作品にふさわしい全体的に高級感漂う(英語版に遜色ない)仕上がりとなっている。本作は街を歩くNPCの台詞も充実しているが、一部の台詞に字幕が確認できた。
「Mafia III」
参考:日本語化されたUIとフォントが確認できるマップ画面
画像は原寸大のイメージにリンクしてあります

これらの改善やブラッシュアップは、総じて直感的でストレスのないゲームプレイの底上げに貢献しており、“マフィア III”の重厚なストーリーとゲーム世界へとプレイヤーを没頭させることに成功しています。

「マフィア III」におけるオープンワールドのストーリーテリング

裏切りの一幕を描いた“強奪”トレーラー

先ほど、“マフィア III”はオープンワールドジャンルに新しいフォーミュラをもたらす可能性があるとご紹介しましたが、改めてオープンワールドジャンルにおけるストーリーを振り返ると、ノンリニアでサンドボックス的な楽しさと、リニアで強力なストーリーラインは作品毎に異なる精度の差こそあれ未だ相反する関係にあり、どちらを優先するかによって作品の方向性が大きく変わる状況が続いています。

広大なオープンワールド環境に大量のアクティビティとイベント、ストーリー要素を点在させ、メインストーリーが添え物に近い作品から、アクティビティとサンドボックス性を抑えることでリニアなストーリーを強化するもの、アンロックとプログレッションを軸にメインストーリーのコンポーネントを散発的に差し込みながら進行する作品、ひいては壮大な対立や事件を世界の背景に据えながら、大局の一部にプレイヤーを放り込むことでそもそも物語を(意図的に)進展させないシリーズまで、二律背反に対するさじ加減は様々です。また、現段階でオープンワールド的なゲームプレイといわゆる映画/ドラマ的なストーリーラインとナラティブを動的に構成する作品の到達点は、恐るべき力業で頭一つ抜けた傑作“The Witcher 3: Wild Hunt”だと言えるでしょう。

“マフィア III”には、大量のサイドミッションと地区固有のアクティビティ、1968年の歴史に関係する収集要素、ゲーム環境で突然生じるイベント、多数のマフィア・ギャング勢力と対立構造、ストーリーや進行に影響を与える選択要素など、膨大な量のコンテンツが用意されていますが、開発をリードするHangar 13は、スタジオ設立当初から柔軟なストーリー構築を実現するために独自技術の開発を進めており、本作はこういった全ての要素やダイアログ、プロット、リアルに再現された都市環境と市民を含むNPC、各種UIとナビゲーション、緻密に構築された背景、入念に選ばれたBGM、多彩な記録映像など、ありとあらゆるレイヤーとコンテンツ、アセットが“たった1つ”のメインストーリーを力強く物語るべく動的に集約・構成され、プレイヤー毎に異なる体験と物語を届けることに成功しています。

“マフィア III”におけるHangar 13の緻密且つシステマティックなストーリー手法は、“Middle-earth: Shadow of Mordor”におけるMonolithの取り組みや、RocksteadyによるCity以降の“Batman Arkham”、Ken Levine氏が提唱するナラティブレゴといったアプローチに近い非常にロジカルなもので、とかくイベントドリブンなストーリー進行が支配的なオープンワールドジャンルにおいて、プレイヤーの行動や選択そのものが有機的にストーリーやナラティブと一体化する、アクションドリブンとでも言えそうな構造の体系化を実現していました。

唯一無二の復讐劇を支える「マフィア III」のストーリーと過剰な作り込み

「Mafia III」

“マフィア III”の物語を収めるシステムや枠組みは、巨人の肩に立つ非常に包括的なものですが、ここに収まる肝心のストーリーはどうでしょうか。

冒頭で、“マフィア III”は「“大人向け”の成熟したストーリー」を描くことについて一切の妥協や迎合を見せないとお伝えしましたが、Mafiaシリーズ最大の魅力は何れも優れたストーリーにあり、その血統は“マフィア III”にもはっきりと受け継がれていました。

ここまでに挙げたアクティビティやシステムを含む全ての要素は、リンカーン・クレイの“復讐”を描くために存在しており、家族を奪ったマルカーノファミリーを殲滅すること、そのたった1つの目的と結末を描くことが“マフィア III”の全てだと言えます。

冒頭から(恐らく)結末まで、“絶対に殺す”類いの竹を割ったような復讐劇を描く“マフィア III”のストーリーそのものは、強力で明確な単一のテーマが故に決して難解なものではなく、例え予備知識なくプレイしたとしても、充実したアクティビティや多彩なアプローチを用意した戦闘とミッション、オーソドックスな操作感、ど派手なカーチェイス、ゲームプレイを通じて提示されるプロットによって、ストーリーを存分に楽しむことができるでしょう。

ただし、“マフィア III”の真骨頂は、徹底的に作り込まれた世界観や1960年代の歴史/文化/地理的な背景、人物や事件、犯罪、人種差別、政治・民族的なイデオロギーといった要素に対する一切妥協のない描写から構成されるゲーム世界そのものと、リンカーン・クレイの復讐劇が一体化し生まれる重層的な物語にあります。(※ 余談ながら、リンカーンが“復讐の鬼”と化す複雑且つ説得力のある背景は、アクションアドベンチャー作品における主人公の大量殺人鬼化問題とノイズを本作から排除することにも成功している)

例えば、マルカーノファミリーがキューバで行っていた活動の描写に見られる「カストロはハバナを掌握すると、バティスタに協力している可能性がある奴らを片っ端から処刑していった」といった文言(バティスタ政権や処刑に関する具体的な説明は当然ない)や、ジェームズ・アール・レイの実名を挙げながらキング牧師やマルコムXの死について語りあう道ばたの黒人女性達、リンカーン・クレイがアメリカ陸軍の第5特殊部隊に所属していた過去、街中に貼られたボストークロケットのポスター、富裕層の娯楽として高級車や安価な住宅並みの高額で取引されるマンディンゴ的な奴隷売買の実態など、歴史的なディテールの描き込みは文字通り枚挙にいとまがなく、これらが意味する背景全てが、黒人と白人の混血であるリンカーンによる壮絶な復讐劇を、1968年のニューボルドー(ニューオーリンズ)以外では絶対に成立しえない唯一無二の物語に昇華させています。(※ ここに挙げた例が示す背景や意味については、今後数回に分けてお届けする新たな特集記事にて可能なかぎり解説します)

一切の妥協や迎合を見せないと紹介した本作の描写は、単に残虐な描写や、登場人物がFワードやNワードをばんばん口にする刺激的な表現に留まるものではありません。人種差別にスポットを当てれば、社会的な隔離や非人間的な扱いの表面的な実態だけでなく、南部の白人富裕層が“南部国家の誇り高い純血の歴史と伝統を守るために、台頭する混血と戦い先祖代々続く自らの土地を守る”ための隔離政策であることを一点の曇りもない信念として持つイデオロギー的な思想まで描ききる。仇敵となるサル・マルカーノであれば、行った悪事のみをもって安易に悪人とせず、この男の機嫌を損ねれば絶対に怖いことが起こると思わせる圧力や一代で街を支配した強引さと狡猾さ、フランクで明るい魅力的な人物像の空恐ろしい描き分けなど、復讐劇の最終的な標的にふさわしい、真に邪悪な存在として驚くほど緻密な人物描写がなされています。

さらに、舞台となるニューボルドーには、モデルとなったニューオーリンズの街が、リーサークルやジャクソン・スクウェア、セント・ルイス大聖堂、セントルイス墓地、クレセントシティーコネクションといった名所の数々、ニューオーリンズブードゥー、マルディグラ、ニューオーリンズ特有のアイアンレースに飾られた色鮮やかな建築物などによって見事に再現されており、これもやはり68年のニューオーリンズという非常に特殊な舞台設定に確固たる説得力とソリッドな背景をもたらしています。

ストーリーが大きく進展する、まさにここぞというところで流れだすローリング・ストーンズの“悪魔を憐れむ歌”や“黒く塗れ!”が、その出自や意味と併せて物語を否応なく盛り上げる様は、もはや最高としか言いようがなく、挙げれば切りがないこういった作り込みや緻密な演出全てが、ただ1つの復讐劇、ひいてはリンカーン・クレイの魂の物語を力強く支えるために理路整然と配置されているのです。

ただし、本作が実現した本当の達成は、オープンワールド作品として“ただ1つの復讐劇”をプレイヤーそれぞれに異なるダイナミックなストーリー体験として提示し、あまつさえ冒頭から前もって描かれる“予め決められた結末”に向けて進むはずの物語がマルチエンディングであること、そして1968年の復讐劇を振りかえる複数の視点と時制を用意し、さらにはこれを撮影するカメラと撮影者の存在まで意図的に描き分けている点にあると考えます。

さらに、“マフィア III”は「大人向けの成熟したストーリー」のモチーフに“人種差別”の問題を取り上げ、決して安易な寓話やメタファーではなく、現実的な事象としてその事実をソリッドに捉え切り取るビデオゲーム史上初のAAA作品でもあるのです。

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