歴史あるシリーズに全く新しい視点をもたらす野心的拡張「シヴィライゼーション VI 嵐の訪れ」レビュー

2019年2月14日 12:18 by katakori
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「シヴィライゼーション VI 嵐の訪れ」

2016年10月の製品版ローンチを経て、2018年2月にリリースされた大規模拡張パック「文明の興亡」の登場により、大きくその姿を変えた人気シリーズ最新作「シドマイヤーズ シヴィライゼーション VI」ですが、予てから新文明と指導者、新要素の紹介が続いていた待望の第2弾拡張パック「シヴィライゼーション VI 嵐の訪れ」がいよいよ2019年2月14日に発売されます。

4以降の後期シリーズが何れも2つの拡張パックを以て完成となった経緯を鑑みるに、「シヴィライゼーション VI」そのものの真価を問う非常に重要な拡張になる可能性が高い「嵐の訪れ」の仕上がりと新コンテンツに期待が掛かるなか、2Kより「嵐の訪れ」の早期アクセスを提供いただき、一足先に激しい自然災害や世界会議、未来時代といった新要素を実際に確認することが出来ました。

「シヴィライゼーション IV」と「シヴィライゼーション V」の拡張パックが、何れも本編に足りなかった(或いはオミットされた)要素や問題があった箇所を補った一方で、Firaxis Gamesは第1弾拡張パック「文明の興亡」を以て、区域システムに象徴される「シヴィライゼーション VI」の挑戦的なコンセプトを既に十分過ぎるほど濃密に完成させていたと言えます。

もちろん「嵐の訪れ」も、従来通り微に入り細にわたる多種多様な新要素を導入していますが、100時間近いプレイを経て確信に至ったのは、「嵐の訪れ」が前2作の第2弾拡張が果たした役割とは大きく異なり、28年の長い歴史を持つ人気シリーズに全く新しい視点をもたらす、ともすれば今回のアプローチがシリーズの転換点にさえなりかねない、これまでにないタイプの拡張パックだったということです。

拡張パック「シヴィライゼーション VI 嵐の訪れ」の概要

参考:先日公開された新要素の字幕入り解説映像

「嵐の訪れ」は、その名が示す通り、嵐や水害、火山といった自然災害を含む、大小様々な地質と環境的要因がもたらす地球環境と国家運営への影響を扱う大規模拡張パックで、地球環境の変化にまつわる多彩な新要素をはじめ、新文明と指導者の導入、世界会議を含む外交要素の大幅な強化、情報時代以降の新時代として様々な最先端技術や社会制度が登場する未来時代といった新要素を特色としています。

要素を個別に見れば、「嵐の訪れ」はこれまで以上にダイナミックな国家運用や他文明とのさらなる関係性強化、新たなアプローチのゲームプレイを導入する順当な拡張パックだと言えますが、個々のコンテンツはオリジナルと「文明の興亡」の様々な要素と有機的かつ密接に結びついており、序盤から終盤まで、全ての時代においてプレイの幅が増え、油断のならない一貫した経験を提供してくれます。

では「嵐の訪れ」の一体何がそれほど特別なのか、その特殊性について触れるまえに、まずは本拡張パックの主な新要素を見ていきましょう。

「シヴィライゼーション VI: 嵐の訪れ」

自然災害の要素は、Civilization IVの第2弾拡張パック“Beyond the Sword”以来の復活となりますが、被害が即時的に生じるのみだったBtSの津波や竜巻、地震、洪水とは全く異なり、マップに恒久的かつ持続的な変化をもたらすだけでなく、火山や河川の周辺など、予めリスクが明示されるタイルに対する意識的な運用と管理が求められます。

自然災害を含む環境の影響は、これまでに争った他の文明や蛮族とは異なる類の永続的な脅威かつ恩恵であり、ダイナミックな環境とマップそのものが相手となる自然との対峙を、軍事ユニットや文化、宗教によって克服することはできず、新要素である運河やダムの建設、クリーンエネルギーの活用を含む自然の制御やリスクの軽減を想定した都市の建設や運用を計画する必要があります。

また、大きな変更の1つとして、ユニットや都市による“消費”を念頭に置いた戦略資源の新たな仕組みが導入され、産業時代以降の都市建造物が備蓄した石炭やウラン、石油に基づく“電力”を消費し、電力需要の充足や不足が生産性に影響を与えるようになったほか、鉄や硝石を要する一部ユニットの生産にも備蓄分の消費が必要となることから、戦略資源の獲得や取引がこれまで以上に重要な駆け引きの一部となっています。

「シヴィライゼーション VI: 嵐の訪れ」

長年に渡ってシリーズの課題でもあったAI指導者との関係性や外交を改善する新要素として、従来の好戦性スコアを置きかえる“不平”システム、そして新たなリソース“外交的支持”に基づく“世界会議”、さらに待望の“外交による勝利”が導入されました。

“不平”は、好戦性スコアと同じく外交上のペナルティとして機能する要素ですが、時代や行動と共に累積した好戦性ペナルティとは異なり、個別の事案について相手の不満を解消できることから、従来よりも文明間の敵対関係がよりタイトに管理・調整可能となったほか、AIの挙動に一定の改善や一貫性が見られることも「嵐の訪れ」の大きな変化の1つと言えそうです。

新たなリソースである“外交的支持”は、主に“外交による勝利”に必要となるポイントを“世界会議”で獲得するための投票力として機能しますが、資源の1つとして国家間の取引にも使用できるほか、外交の議論(と外交的支持の提供)を通じて都市の入植やスパイの配置を制限する誓約を得ることも可能となっています。

「シヴィライゼーション VI: 嵐の訪れ」
遂に実装されたマルチキュー機能!

多くのプレイヤーにとって心から喜ばしい新機能として、都市の生産に待望のキュー機能が実装されました。しかも今回は都市単体のキューだけでなく、全都市の生産を一度に管理できるマルチキュー機能も導入され、シリーズ随一の操作量を誇る「シヴィライゼーション VI」の複雑さと忙しさを僅かに軽減してくれます。

「シヴィライゼーション VI: 嵐の訪れ」

拡張パックも2つ目とあって、都市別の忠誠度管理を導入した「文明の興亡」におけるマプチェ/ラウタロのような、特濃の個性的な文明が幾つも登場しています。

何れの文明と指導者も、「嵐の訪れ」の新要素と緊密な関係にあり、文明と指導者を選択する前からゲームが始まっているような感覚すら覚える多彩なプレイスタイルを提供してくれます。

■ 新文明/指導者のラインアップと簡単なインプレッション

  • ハンガリー(指導者マティアス・コルヴィヌス):都市国家から徴用したユニットを大幅に強化するほか、河川を挟んだ区域と建造物に生産力ボーナスを付与する非常に個性的な文明。同盟の数によって攻撃力が上昇する固有ユニット“フッサー”も強い。
  • スウェーデン(クリスティーナ):偉人を獲得すると、なんと外交的支持が得られる。この特異な能力を活かし、とにかく偉人を回して、潤沢な外交的支持により世界会議、外交取引、誓約を通じて望みを無理矢理実現する超外交特化型文明。文化と観光の出力にも優れたアドバンテージを持ち、大量の偉人獲得による副次的な恩恵もあって、柔軟な対応力を持つ。外交勝利入門にはもってこい。
  • インカ(パチャクティ):山岳地帯と交易にアドバンテージを持つ渋い文明。食料生産による文明の早期成長と固有ユニットのワラカクによるアドバンテージで、早い時代の拡張に秀でる。
  • フェニキア(ディードー):地中海の南岸を支配した史実と同じく、沿岸に拡がる都市運用と海上の活動に特化した文明。沿岸都市の忠誠心と海洋ユニットの生産に大きなアドバンテージを持ち、任意の都市に首都を移すディードーの固有能力によって、国境や前線に大きなプレッシャーを与えることが可能。
  • マオリ(クペ):帆走術と造船が最初から解除済みで、なんと海からスタートする。最初の都市建設まで、毎ターン科学力と文化力を産出するほか、最初の都市建設時に無償の労働者と人口が得られる。文化爆弾持ちで資源が採取できないという極めてエクストリームな文明。
  • カナダ(ウィルフリッド・ローリエ):ツンドラ地帯特化型。固有のホッケーリンクで快適性や文化力、観光力、食料、生産力まで産出するほか、固有の特性により国家間の奇襲戦争を封じるもの凄い文明。文化・観光や外交面にアドバンテージ有り。
  • マリ(マンサ・ムーサ):砂漠地帯とゴールドの獲得(なんと固有ユニットが戦闘するだけでもゴールドが得られる)、交易に圧倒的なアドバンテージを持つお金持ち文明。しかも信仰力で商業ハブが購入できる。とにかくお金で全てを解決するゴールド超特化型。財務官レイナを成長させることで、区域の建設も金で解決可能となる恐ろしい文明。
  • オスマン(スレイマン1世):攻囲ユニットのコストが半分で済み、征服した都市からマスケット銃兵よりも安価で強力な固有ユニット“イエニチェリ”が得られる貴重な制覇特化型文明。征服した都市の鎮圧にも優れたアドバンテージがある。特筆すべき点として、スレイマン1世専用の総督としてイブラヒム(大宰相)が徴用でき、戦時下のあれこれを押さえ込む。総督を計8人任命できる点も非常に大きなアドバンテージと言える。
  • イギリスとフランス向けの新指導者アキテーヌ女公アリエノール:収集した傑作で、周辺に存在する他国の都市の忠誠心を低下させる。敵都市の離反時に最も強い影響を与えていた場合、自由都市を経由せず、直接アリエノールの文明都市となる。つまり観光特化型の生きる文化爆弾。イギリスとフランス、どちらの文明で運用しても恐ろしい指導者となる。
「シヴィライゼーション VI: 嵐の訪れ」
前作から復活を果たす巨大戦闘ロボット

この他にも、「嵐の訪れ」には多数の新コンテンツが用意されており、21世紀の技術と社会制度を扱う“未来時代”、一部の新要素と深く関係する幾つかの世界遺産と自然遺産、復活を果たす“巨大戦闘ロボット”、信仰力で購入できる観光ブーストユニット“ロックバンド”、自国のリソース産出やボーナス、国境を含むレイアウトが容易に把握できる“帝国レンズ”といった要素が利用可能です。

主に、これらが「嵐の訪れ」の表層的な所謂“コンテンツ”となるわけですが、「嵐の訪れ」が全体として「シヴィライゼーション VI」にどんな変化をもたらすのか、それを知るためには、今一度オリジナルと「文明の興亡」がどういった作品だったのか、そのテーマとコンセプトをもう一度振り返る必要がありそうです。

改めて振り返る「シヴィライゼーション VI」と「文明の興亡」のコンセプトとテーマ

2016年10月下旬にローンチを果たした「シヴィライゼーション VI」における最大の特徴は、単一のタイルを占有する“区域”や世界遺産からなる複数タイルの都市運用による革新とパズル的な内製、ユニットスタックの廃止等によって相対的に狭まった世界そのものを遊ぶこと、つまりこれまで勝利や文明を遊んだ従来のゲームプレイに、いわば“マップを遊ぶ”とでも言うような新しいレイヤーを追加した点にあったと言えます。

本来であれば、この新しいレイヤーから派生する様々なシナジーやメカニクスが、多彩なプレイスタイルを支える柱となるはずでしたが、バニラは確かに多様なプレイスタイルを提供する一方で、早期の戦争でアドバンテージを得て、それを維持することが非常にイージーだったことから、文化や宗教、科学等で勝利を得る場合も、まずは戦争という選択が盤石となる状況に陥っていました。

その後、2019年2月上旬にローンチを果たした第1弾拡張パック「文明の興亡」は、広範囲な新要素と調整で前述の問題点を文字通り完全に解消し、存分に“マップで遊べる”下地を完成させ、課題であった“プレイスタイルの多様性”を名実ともに成し遂げ、(時代の概念と巧みに組み合わせることで)ダイナミックな帝国の盛衰から生まれるプレイヤー自身の物語をゲーム的なナラティブとして導入しました。

都市毎に異なる忠誠度や総督の導入による都市管理の深化、時代の概念がもたらすプレイのダイナミズムは、賢明な選択により良い報酬や結果を与えることに成功し、「文明の興亡」を以て「シヴィライゼーション VI」を完成と見るに足る、つまり真の意味で“マップ、或いは世界を遊ぶ”要素を実現させた完全な拡張だったと言えるのではないでしょうか。

「嵐の訪れ」が“シヴィライゼーション”にもたらす新たな視点

「シヴィライゼーション VI: 嵐の訪れ」
“環境の影響”要素の一環として導入された“世界の気候”

オリジナルの「シヴィライゼーション VI」が掲げた“世界を遊ぶ”レイヤーを「文明の興亡」が完成させ、新たなレイヤーとして時代のダイナミズムと多様なプレイスタイルに基づくプレイヤーの物語的体験を導入することで、線が面を形成し「シヴィライゼーション VI」は1つの完成を見ました。

まもなく発売を迎える「嵐の訪れ」は、明確にこれらの要素をさらに深く広範囲に掘り下げ、従来の「シヴィライゼーション VI」体験をさらに拡張していますが、ある程度プレイを重ねて見えてきた大きな変化は、選択や計画に対する即時・短期的な報酬/結果とは異なる、プレイ全体の選択に対する結果、あるいはプレイスルーを超えて形成されるような、所謂4xジャンルのストラテジー的感覚とは明確に違う、ある種のサンドボックス性を感じさせる実験的感覚でした。

この感覚は、「嵐の訪れ」の新コンテンツとして導入された“環境の影響”要素の一部である“世界の気候”に最も顕著で、CO2レベルの上昇に伴う気温の変化、さらには海面の上昇といった地球環境そのものの大きな変化が、プレイヤー自身の長期的な選択、あるいは漫然と選択を怠った、もしくは実務的にやむを得ないトレードオフから、直接的に生じる動的な数値として提示されるわけです。

これは、現代を生きる私たちが今まさに直面している眼前の巨大な課題を、手のひらサイズで数千年単位の俯瞰として提示していることに他ならず、ゲームは前述のマップやタイルとはまた別の意味合いでプレイヤーに“世界を遊ぶ”ことを強いてきます。

地球環境の著しい変化に由来する災害の発生や管理を怠った原子力発電所の事故、防災を怠った沿岸部の深刻な水害、リスクと報酬を見誤った区域の壊滅といった被害を被りながら、都市別の産出/収入シートを広く見渡し実務的に勝利を収めることは単純に可能ですが、同じ内容の勝利にも、実はもっと優れた選択があったのではないかと省みてしまうのは、必ずしも現実の被災経験から到来する個人的な感覚だけではないように思えます。

近年の“シヴィライゼーション”のみならず、Pirates!やRailroads!、Ace Patrol、Beyond Earth等を含む“シド・マイヤー”シリーズにおける作品のトーンやアプローチは、スワヒリ語で神を讃えた4作目のテーマ曲“Baba Yetu”や、レオナルド・ダ・ヴィンチの夢と飽くなき探究心を歌った本作のテーマ曲“Songo di Volare”にも象徴される通り、楽観主義や希望を備えた人間賛歌が通底するモチーフとなっており、擬人化されたAIと文明を相手に、勝利や戦略、戦争を含む数千年規模の文明/国家運用が屈託なく楽しめる、ある種の歴史ファンタジー(数千年を生きるデフォルメされた指導者達はまさにその象徴とも言える)として成立していました。

「嵐の訪れ」に突如表出した現実的な問題との直面は、従来のFiraxis Games作品には見られなかったゲームと現実、プレイヤーの距離感によって巧みにゲームへと織り込まれ、折り重なる意思決定やコストを伴う運用を通じて、奇妙なサンドボックス感を生み、極めて高いリプレイ性を獲得することに成功しています。

「シヴィライゼーション VI」が夥しい量の操作を要求する点については緩和されておらず、むしろ今回の「嵐の訪れ」によってさらに増加する事態となっていますが、筆者にはこれがデザイン的に狙い通りの決定なのか、それともデザイン的なトレードオフによる産物なのか計りかねますが、本作の圧倒的な忙しさと多様性は、奇しくも現実の世界を反映しているようにさえ感じられます。

「嵐の訪れ」の登場によって、“あと1ターン……”の文言に象徴されるシリーズ固有の中毒性は驚くほどの魅力を備え増加しました。ただし、今回のそれは従来の作品には無かった思索を促す劇薬です。取り扱いにはくれぐれもご注意を。

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