「XCOM: チーム・キメラ」レビュー、近年ますます多様な進化を続けるXCOMジャンルに突如現れた最高の入門作

2020年4月30日 18:13 by katakori
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「XCOM: Chimera Squad」

世界中のファンを驚かせた突然のアナウンスを経て、4月24日に早くも発売を迎えたXCOMシリーズの新作スピンオフ「XCOM: チーム・キメラ」ですが、発売に先だち2Kより本作の提供を受け、突如現れたスピンオフを実際にプレイして確認するすることができました。

XCOMチームの新作としては、従来の路線を極限まで進化させ新境地に達した傑作「XCOM 2 選ばれし者の戦い」以来、実に2年8ヶ月ぶりの登場となる「XCOM: チーム・キメラ」とは一体どんな作品なのか?今回は本作のコンセプトやインプレッション、さらに近年ますます多様化が進むXCOMライクのトレンドに見る本作の特徴といったトピックを中心に突如現れた野心作のレビューをご紹介します。

今回は、スピンオフという作品の性質上、過去作との違いや新要素に触れざるを得ず、前述したXCOMライクのトレンドや注目作の傾向に触れるため、どうしてもXCOM系のターンベースストラテジーに親しんできたファン向けの説明が多くなってしまいますが、はじめに一つの決定的な印象をご紹介しておくと「XCOM: チーム・キメラ」は8年に渡って進化を重ねてきた新生XCOMシリーズの最新作で、かつ目が眩むような超弩級の複雑なコンテンツをまとめあげた傑作“XCOM 2”のその後を描くという位置付けの作品でありながら、XCOM系のゲームをプレイしたことがないゲーマーにこそ強くオススメしたい、XCOMライクの入門に最適な1本だと断言できます。

これはつまり、「XCOM: チーム・キメラ」がシリーズの壮大な歴史に対する理解をほぼ必要とせず、適度にカジュアルで、気軽にさくさくと遊べ、ルールの学習が容易で奥深く、プレイヤーとキャラクターの成長が明確に感じられ、魅力的なキャラクターや軽快なストーリーに支えられたお楽しみが沢山用意されているだけでなく、一旦作品のシステムとコツを理解してしまえば、底なしの中毒性と歯ごたえのあるチャレンジが楽しめる作品だということです。

初心者にこそ本作をオススメしたいもう一つの理由に、XCOM/X-Comライクというジャンルそのものが抱える運命的な問題点や優れたゲームを完成させることそのものの難しさがあります。これについては後ほど具体的にご紹介しますが、「XCOM: チーム・キメラ」はこの点において最も正当に近い血統の作品であり、プレイのしやすさやバランス調整、学習カーブに癖がない、非常に優れた品質を均質に実現している1本なのです。

という事で、まずは「XCOM: チーム・キメラ」の概要をおさらいしておきましょう。

「XCOM: チーム・キメラ」の概要とスピンオフとしてのアプローチ

参考:“XCOM:チーム・キメラ”のゲーム紹介トレーラー

「XCOM: チーム・キメラ」は、“シヴィライゼーション”シリーズで知られるFiraxis Gamesが2012年に始動した“XCOM”シリーズの最新作で、ターンベースのタクティカルコンバットをベースにしたSci-Fiストラテジータイトルです。

Firaxisの“XCOM”シリーズは、90年代に一世を風靡した“X-Com”フランチャイズを現世代に復活させた精神的な後継シリーズで、これまでに初代「XCOM: Enemy Unknown」(2012)と大規模拡張パック「XCOM: Enemy Within」(2013)、続編「XCOM 2」(2016)とその大規模拡張パック「XCOM 2 選ばれし者の戦い」(2017)がリリースされ、何れも高い評価を獲得しています。

オリジナルの“X-Com”と新生“XCOM”は、どちらも共通のコンセプトとして、地球征服を図るエイリアン勢力と地球外生命体との戦いを想定して結成された人類の国際的な軍事組織“X-Com”および“XCOM”(※ 何れもExtraterrestrial Combat Unitの略)の生き残りを賭けた、文字通り地球規模の総力戦を描いてきました。

前作の「XCOM 2」は、遂に人類がエイリアンによって完全に征服され、新たな統一政府アドヴェントの統治が始まった世界が舞台で、XCOMが人類最後のレジスタンス組織となり、世界規模のゲリラ戦を繰り広げ、最終的に地球を取り戻すことに成功する壮大な戦いが描かれました。

本日発売を迎えるスピンオフ「XCOM: チーム・キメラ」は、前作「XCOM 2」の戦いから5年後、生き残った人類とアドヴェントの撤退時に地球に取り残されたエイリアン、アドヴェントの遺伝子手術によって造られたハイブリッドが互いに手を取り合い、平和で文化的な共存を目指す実験的な都市“シティー31”を舞台に、XCOM傘下の精鋭部隊キメラ・スカッドの活躍を描く作品で、プレイヤーはキメラ・スカッドの指揮官となり、様々な勢力や組織の思惑が交差する都市で、とある事件の真相を探るための捜査に乗りだすことになります。

まず、スピンオフ「XCOM: チーム・キメラ」と従来のナンバリングタイトルの最も大きな違いは何か?といえば、それは作品そのものの“スケール”にほかなりません。

地球全体が舞台となった旧作に対し、本作の舞台は僅かに9つの区域で構成される一つの都市になり、これまで巨大な屋外環境が多くを占めたマップは、主に部屋単位の屋内環境で構成される局所戦にふり切ったデザインに変化、このアプローチに併せてスナイパーライフルも無くなっています。

また、戦略的なストラテジー要素を担う戦略レイヤーは極限まで簡略化され、パズル的な要素を持っていた拠点の改築・改造要素も削除(本作のキメラ・スカッドは、なにしろシティー31に配属されたばかりで設備も十分に整っていない倉庫で仮住まい中。任務に遅れたエージェントがなんと町のタクシーで現場に駆けつけるような状況にあります)。マルチプレイヤーやチャレンジモードといったコンテンツも廃止されました。

「XCOM: Chimera Squad」
監視は従来の全方位から、対象範囲を指定するシステムに変更

電力や合金、技術者、科学者等を含む前作の多彩な資源は、エレリウムと情報、クレジットの3種のみに絞られ、最大6名だった戦闘部隊の規模は、原題にもある“Squad”が示す通り4名の分隊に変更。キャラクター重視のプロットに併せてパーマデスが無くなったほか、兵士のステータスやスキルツリー、プログレッションもシンプルにまとめられ、思わず笑ってしまうほど過剰だった兵士の外観カスタマイズやフォトモードも削減。プレイスルーのボリュームそのものも、およそ20~30時間程度とコンパクトにまとめられています。

さらには、広大なマップを索敵しながら部隊を進めた会敵までの流れもばっさりとオミットされ、本作では例外なくミッション開始と同時に会敵し、すぐさま戦闘が始まります。マップサイズを含む様々な変更により、長ければ40分近く掛かることも少なくなかったミッションは、早ければなんと3分ほどで終わるケースさえ見られました。

詰まるところ、「XCOM: チーム・キメラ」に何が起こっているかというと、従来のコンテンツを極端までそぎ落とすことで、“XCOM”の中核を担う重要な要素の一つであるタクティカルコンバットの楽しさが(品質は従来のまま)凝縮され、一番盛り上がるクライマックスだけを短時間で、気軽に、繰り返し、何度も何度も飽きることなく摂取できる、つまり“XCOM”シリーズの中毒性を一方向に純度100%で特化させた薬物のような代物が出来上がったということです。

また、本作の新要素として導入されたタイムライン方式のターンベースシステムとイニシアチブも兼ねる突入システムは、これまでになかった新しい戦術要素をもたらし、戦況に合わせてプレイヤーが導き出したオーダーやコンボに対する答えを直ちにフィードバックすることで、アドレナリンの放出をさらにブーストさせ、ゲームプレイの中毒性を見事に高めています。

「XCOM: Chimera Squad」
「XCOM: Chimera Squad」
ストーリーはアメコミ風のビジュアルで描かれる

もう一つ、愛らしいキャラクター達の楽しいおしゃべりと全体に通底する海外ドラマのような軽妙洒脱なノリ、様々な形で提示される断片的で非常にシリアスなナラティブも本作の大きな魅力で、“選ばれし者の戦い”のハイブローなユーモラスさとはまた趣が異なる、Firaxisの新しい魅力を見事に引き出した演出やストーリーの妙でプレイヤーを楽しませてくれます。

本作の価格も極めて重要です。通常価格が2,200円、5月2日まで50%オフの1,100円で購入できる「XCOM: チーム・キメラ」は、間違いなくビデオゲーム史上最もコストパフォーマンスの高い作品の一つであり、この点もプレイの障壁を下げる初心者に優しい、ジャンルそのものの起爆剤にさえなり得る本作の特筆すべき点だと言えるでしょう。

「XCOM: チーム・キメラ」の新要素“突入”とタイムライン方式のターンベースシステムについて

参考:“XCOM:チーム・キメラ”のゲームプレイトレーラー

「XCOM: チーム・キメラ」のゲームプレイにおける最大の変化は、自由に行動順を選べた過去作とは全く異なるタイムライン方式のターンベースシステム、“突入”と呼ばれるブリーチングフェーズ、そしてプレイアブルキャラクターの固定化とクラス制アーキタイプの廃止にあります。

まず、新しいターンベースシステムと“突入”システムの具体的なディテールを見ていきましょう。

本作のターンベースシステムは、決められた順番で敵味方が交互に行動するタイムライン制に変化しました。これは、“Banner Saga”トリロジーや“Divinity: Original Sin II”に近いシステムですが、イニシアチブによって行動順が変化するという点では、むしろD&D第5版ベースの“Baldur’s Gate III”に近く、CRPG分野でも昨今注目を集めるシステムを採用しています。

このタイムライン方式ともう一つの新要素“突入”は密接な関係にあり、“突入”そのものがタイムラインの行動順を決定するイニシアチブの役割を果たしています。

これにより、本作はブリーチング直後の会敵と突入時の攻撃ターンを経て、従来のタクティカルコンバットがスタートする訳ですが、突入の順番とそれによって決まる行動順がミッションの成否を大きく左右する非常に重要な要素となっています。

また、この順番とエージェントの能力をパズルのように組み合わせることで、敵を浮かせて強力な射撃で排除、敵を(スキル等で)強制的に移動させ自動反応系のスキルで反撃、或いは行動順を変更する能力やアイテムを繋いで繋いで、プレイヤーの連続ターン!で、見事敵殲滅といった爽快感の高いプレイが実現できます。

この組み合わせは、突入時の攻撃にも当てはまるため、パズルのピースが全て揃えば開始2~3ターンでミッションクリアというケースも珍しくありません。

また、“突入”は会敵時のポジション取りを深く考えなくても良いため、すぐに戦闘が始まるという点で初心者に優しく、上級者には奥深いコンボとハイペースなゲームプレイを提供することに成功しています。

このシステムを文字で説明すると、やや複雑になるので、ゲームプレイのUIを参考に実際の“突入”(イニシアチブ)と行動順の仕組みを見てみましょう。

「XCOM: Chimera Squad」

これが“突入”前の状態。侵入可能な入り口が2つ(メインドアとセキュリティカードが必要となるドア)あり、それぞれに空のスロットが4つ、さらに進入口毎に異なる条件が記載されています。

「XCOM: Chimera Squad」

これは、“突入”用のUIをトリミングしたものですが、赤い丸で囲んだ箇所の数字が変更可能で、これを入れ替えることで、侵入口自体のブリーチング順が決まります。(この場合、1のセキュリティー・ドアから侵入し、その後2のメインドアから侵入する)

「XCOM: Chimera Squad」

例えば、セキュリティ・ドアにターミナル、ゴッドマザー、メインドアにブルーブラッド、ヴァージを順に並べると、ミッション中の行動順はターミナル > ゴッドマザー > ブルーブラッド > ヴァージの順に決まります。

「XCOM: Chimera Squad」
突入順の通り、行動順はターミナル、ゴッドマザー、ブルーブラッド、ヴァージとなった
「XCOM: Chimera Squad」
例:このような順に変更すると……
「XCOM: Chimera Squad」
タイムラインは進入時の並び通りブルーブラッド、ゴッドマザー、ターミナル、ヴァージの順となる

この仕組みを頭に入れて、エージェントの能力やアイテムの特性を照らし合わせていくと様々なコンボが思いのままに繰り出せるようになるはずです。

キメラ・スカッドに所属するプレイアブルなエージェントとキャラクター描写、ナラティブについて

「XCOM: Chimera Squad」

ゲームシステムにおける最大の変化は、前述の侵入システムとタイムライン制のターンベース戦闘ですが、プロット面で言えば、やはり「XCOM: チーム・キメラ」のタイトルにも掲げられたエイリアンとハイブリッド、人類が手を取り共闘する“キメラ・スカッド”の存在そのものが最大の変化だと言えます。

従来のXCOM作品は、XCOMの司令官をストーリーの中心に据え、文字通り一人称視点で中心人物達の物語や苦闘を描く一方で、プレイアブルなユニットであるXCOM兵そのものの出自や人物像は描かれませんでした。

本作は、プレイヤーの役割が従来と同じ司令官ではあるものの、その存在自体は極めて透明で希薄となり、ストーリーそのものがプレイヤーではなく、“キメラ・スカッド”のチームメンバーとオペレーター、XCOMの局長を中心に展開していきます。

「XCOM: Chimera Squad」

従来のキャラクタークリエイトを廃した「XCOM: チーム・キメラ」には、名前や出自、人物像がしっかりと作り込まれた11人の魅力的なエージェント達が登場します。

この11人は、ミスター・スポックのようにボケてるのかボケてないのか全く掴めないポーカーフェイスの可愛いエイリアンや天使の心を持つ5歳のクローン、アドヴェントのプロパガンダに利用された少女、XCOMの新人教育役、女性ヴァイパー(?!)まで、まぁ驚くほど個性的なキャラクター達で構成されていて、互いに種族や文化の違いを乗り越えて理解しようと務めるエージェント達の愛らしいやりとりで始終ゲームを楽しませてくれます。

また、エージェントの個性をより際立たせるために、前作の遊撃兵や技術兵、サイキック兵といったクラスは撤廃され、従来のスキルや能力、新規の要素を上手くミックスし、11人全員が全く異なる特性とスキルツリーを持つ形式に変更となりました。(例:ターミナルは従来の支援系技術兵ビルドに近く、パッチワークは攻撃系の技術兵ビルドに近い役割を果たす)

「XCOM: チーム・キメラ」が描く社会

本作の主人公である“キメラ・スカッド”は、部隊ロゴの文言“Diversis Viribus”が示す通り、まさに究極の多様性が生み出す力を象徴する存在であり、これは作品の大きなテーマの一つにもなっているようです。

「XCOM: チーム・キメラ」の部隊である“シティー31”は、かつてアドヴェントの宇宙港として機能した要塞都市で、ここにはアドヴェントの撤退時に取り残されたエイリアン達が暮らし、皆がそれぞれの生活を模索しながらも、多様な種族の共存をささえる新しい産業と自治政府、生活基盤が既に出来上がっています。

本作の物語は、XCOMユニバースの“大きな物語”をそれほど大きく掘り下げはしませんが、その代わりにエイリアンとハイブリッド、人類が共存する都市と文化のディテールを驚くほど丁寧に描写しており、これは本作のストーリー面における白眉だと言えるでしょう。

このディテールは、リニアなストーリーによってではなく、ミッション間のたわいのない雑談やラジオから聞こえてくるニュースの放送、謎のパーソナリティによる啓蒙的なメッセージ、ミッション終了時に提示されるアーカイヴ等を通じて断片的に伝えられます。

これは、本作のナラティブチームが達成した実に見事な仕事で、種族間の軋轢から生まれる“人類ファースト”といったイデオロギーや互いに相容れない異文化、労働問題から生じる社会的な格差、差別や貧困の中から生まれる急進的な勢力・思想、メディアや政府の在り方、一方的に伝えられる情報の信頼性、プロパガンダの問題など、くすりと笑えるものから極めてシリアスなものまで、その多くが今の現実世界に山積する問題とそのまま置きかえられる身近なものであり、マイノリティと多数派の関係、社会の寛容さ、目指すべき未来といった要素について、はたと考えさせられる素晴らしい内容に仕上がっています。

このナラティブは非常に控えめながら従来のシリーズから大きく前進した点の一つであり、こういった掘り下げがシリーズの今後にどんな影響を与えるか、非常に楽しみな要素の一つだと言えます。

「XCOM: Chimera Squad」
以下、アーカイヴとして提示されるディテールの参考
「XCOM: Chimera Squad」
「XCOM: Chimera Squad」

XCOMライクにおける近年の傾向と「XCOM: チーム・キメラ」の重要性

「XCOM: Chimera Squad」

ここでは、便宜上XCOM系もしくはX-Com系のゲームを(ローグライク的なタームとして)XCOMライクと呼び、コア要素の一部をアレンジして用いる作品をXCOMライトとし、近年の数あるXCOM風ゲームとその傾向から、どうしても作品単体では語り切れない「XCOM: チーム・キメラ」の重要性に焦点を当ててみましょう。

X-Comを生んだカリスマ的なゲームデザイナーJulian Gollop氏がお墨付きを与えた“XCOM: Enemy Unknown”(2012)の大きな成功とフランチャイズの見事な復活以来、それまでに幾つか存在したX-Comクローンとは明確に異なる、XCOMライクと呼んで差し支えないタイトルがこれまでに数多く登場しました。

なかでも傑作「マリオ+ラビッツ キングダムバトル」を筆頭に、「Mutant Year Zero: Road to Eden」や「Phantom Doctrine」、「Warhammer 40,000: Mechanicus」、「Rebel Cops」、「CORRUPTION 2029」、「Fort Triumph」、「Phoenix Point」、そして最新のXCOMライクである期待作「Gears Tactics」、さらにはXCOMライトな「BATTLETECH」、「This Is the Police 2」、「トラブルシューター: 捨てられた子供たち」、「Hard West」等々見るべきタイトルを挙げればきりがなく、今後はロメロ夫妻のギャングもの「Empire of Sin」やGunpointを生んだTom Francis氏の魔法使い特殊部隊CQB「Tactical Breach Wizards」、クラシックX-Comクローンの期待作「Xenonauts 2」、傑作Crypt of the NecroDancerを生んだBrace Yourself Gamesが開発チームごと買収したメック系Sci-Fiストラテジー「Phantom Brigade」といった注目作の登場も控えています。

冒頭でXCOMライクは運命的な問題を抱えていると説明しましたが、これは端的に言って開発やデザインそのものの難しさを指すもので、開発側がXCOM或いはX-ComにインスパイアされたXCOMライクを掲げる(もしくは指摘される)ことで、作品に対する期待は多くの場合、クラシックに対する確かなオーセンティックさと新しいアイデアを楽しみたいというアンビバレンツな、呪いのような相反を抱えてしまいます。

この相反は開発側とファンの両方の視点やアプローチに影響を与え、多くのタイトルがそれぞれの独自性とオリジナルに対するストリクトさの兼ね合いに苦しみ、この相反が上手く融合しない、ちぐはぐな印象に終わるタイトルも決して少なくありません。

これは、始祖である“X-Com”(UFO: Enemy Unknown)の経験が余りに暴力的で強烈だったこと、それに対して“XCOM: Enemy Unknown”によるジャンルの復活が奇跡的なバランスの上に成り立っていたことに起因しています。

つまり、そもそも“X-Com”の魅力が決してウェルメイドとは言えないエクストリームなバランスや複雑さの上に確立された一方で、これを復活させた“XCOM”は、全くの初心者でもX-Com的な経験を楽しみながら無理なくエンディングまでプレイできるカジュアルさを担保しつつ、同時にハードコアなファンをうならせる挑戦的なコンテンツを見事に両立させるアクロバティックな離れ業をやってのけ、ボリュームまで過剰だったという点に尽きます。(これは、DARK SOULSを原典とするSOULライクが山の様に存在し派生する一方で、ごく僅かな一部の例外を除けば、結局のところSOULライクそのものがフロム秘伝の奥義のような存在になっていることと非常に似ています)

こういった背景から、幾つかのタイトルはハードコアに先鋭化し、非常に複雑で難易度の高い作品になってしまったり、ペーシングやバランスの悪いXCOMが出来上がってしまうこともあるわけですが、近年はXCOMライクにも幾つか興味深い変化が生じており、その変化そのものが今回の「XCOM: チーム・キメラ」と決して無関係ではないと考えています。

という事で、まずは実際に昨今のXCOMライクにおける幾つかの重要な作品と傾向を振り返ってみましょう。

新しい変化という点で最も端的な例は、スウェーデン製のTRPGをビデオゲーム化した「Mutant Year Zero: Road to Eden」です。本作はリアルタイムの移動とステルス要素を組み合わせた会敵へのアプローチを刷新し、セミオープンワールド環境の統合やXCOMライクでキャラクターを主眼に置く人物描写とストーリーテリングを深く掘り下げることに成功しました。

さらに無視できない注目作として、The Coalitionとお馴染みSplash Damageが開発を手掛けた人気シューターシリーズのスピンオフ“Gears Tactics”がまもなく発売を迎えました。

本作はAAA規模のシネマティックや重厚なストーリーを備えた驚くほど正当派のXCOM系タイトルで、グリッドを用いない自由に移動可能なマップをはじめ、戦場の霧や増援システムに独自のアプローチが見られるほか、大きな違いとして、(XCOMのフォーミュラである2ポイントアクション制:ユニットの行動時に移動と射撃、アビリティの中から2つを選択するシステムに対し)3ポイントアクション制の採用とボーナスが得られる処刑システムを組み合わせることで、ゲームの全体的なペーシングを向上させている点が挙げられます。

また、“X-Com”の父である伝説的なゲームデザイナーJulian Gollop氏も重要な作品をリリースしています。満を持して自らX-ComとXCOMの融合を図った野心作「Phoenix Point」は、戦闘時のフリーエイム射撃や敵の進化システム、ジオスケープの探索要素を含む様々な新要素を導入し、ハードコアへの先鋭化を突き進みました。本作は、あらゆる要素を複雑化し、圧倒的に重厚なストーリーを用意しましたが、バランスはまるで荒れ狂う獣のようで、多くのバグや一部詰めの甘い箇所もあり、強靭な意志と忍耐力を持つ選ばれたゲーマーのみが幾多の困難を超えてようやく他の類のない楽しさにたどり着ける、実にX-Com的な名作だと言えますが、ハードルは前述したタイトルの中でも最も高く、なかなか気軽にオススメできるような作品ではありません。

架空の冷戦をテーマに描いた“Phantom Doctrine”も、ハードコア方向へシフトした作品の一つで、様々な戦術要素を複雑に掘り下げており、中でもXCOMライクとして、ステルスと監視、ブリーチング要素を見事に拡張していました。

この他にも、“Mutant Year Zero: Road to Eden”を生んだThe Bearded Ladiesの非常に実験的な新作“CORRUPTION 2029”やファンタジー世界でXCOMとHoMMを組み合わせた“Fort Triumph”といった作品にも全体的なペーシングに対する興味深い取り組みが確認できます。

近年、これらの作品を実際にプレイする中で常に感じてきたことは、多くの作品がハードルを下げるにしろ、先鋭化するにしろ、ペーシングの調整に重きを置く一方で、難易度や学習カーブ、新要素とクラシックのバランスを含む全体的な調整に苦慮していることでした。そして、幾つか存在する優れた作品のなかでも、初心者からベテランまで、誰もが楽しめるXCOM的作品という意味において、非常に完成度が高かったのは“マリオ+ラビッツ キングダムバトル”と“Gears Tactics”の2作品でした。

ここで、改めて「XCOM: チーム・キメラ」はどういった作品なのか、近年の傾向から相対的に見てみると、本作は様々なXCOMライクが新たな可能性や方向性を模索するなかで、遂に本家本元であるFiraxisがスピンオフだからこそできる軽やかなフットワークで自ら作り上げた回答の一つだと言えます。ゲームプレイ全体のペーシングを極限まで加速させ、キャラクター中心のストーリーを掘り下げ、環境ストーリーテリングによるナラティブを拡張し、イニシアチブ制のタイムラインシステムで戦術に新しいレイヤーをもたらす最新のアプローチを用意した本作は、同時にやはり全くの未経験者からジャンルのコアなファンまで、幅広いオーディエンスを同時に熱中させる“理不尽ではない”バランスやプレイの気持ち良さ、全体的な品質の高さを兼ね備えているのです。

総評

という事で、スピンオフ単体として見た作品の特徴と、XCOMライクのトレンドから見た相対的な存在感について触れてきた「XCOM: チーム・キメラ」ですが、本作はこれまでに述べてきた通り、挑戦と安定の品質、最高のコストパフォーマンスを兼ね備えた極めて完成度の高い作品だと断言できます。

本来であれば、レビューはこの評価で十分だと言えますが、「XCOM: チーム・キメラ」は“XCOM”シリーズの実験的な最新作であり、本当の真価が明らかになるのは、“XCOM”が新たな展開を迎えるであろう数年後になるのではないかと考えています。

本作の開発は、“Sid Meier’s Civilization: Beyond Earth – Rising Tide”のプロデューサーを務めたAndrew Frederiksen氏や“XCOM 2”のデザイナー兼プログラマを務めたMark Nauta氏が率いており、新生“XCOM”シリーズの復活と成功を支えた中心人物Jake Solomon氏は参加していません。

現在、Jake Solomon氏のTwitterプロフィールには、XCOMとXCOM2、そして“何か”のデザイナーを務めていると記載されていますが、素晴らしい作品に仕上がった「XCOM: チーム・キメラ」がシリーズの何を担っているのか、今は前述したXCOMライクの様々な進化と模索の果てにFiraxis Gamesが見据えているものだけが、きっとその答えを知っているのでしょう。

最後に1つ、開発者と言えば、筆者の好きなコンテンツにビデオゲームのクレジットがあります。個人的にクレジットが素敵なタイトルには良作が多いと勝手に考えていますが、「XCOM: チーム・キメラ」には控えめながら、主要なチームの開発者をキメラ・スカッドの一員として描いたとても可愛らしいクレジットが用意されていて、本作がどういった背景から誕生したのか、その楽しそうな舞台裏や豊かな多様性が端々から類推できます。

とにもかくにも、まずは50%セールが終わる前に「XCOM: チーム・キメラ」を入手頂いて、初めてシリーズをプレイする方は、本作をクリアしたら弩級の超大作“XCOM 2”に手を出すもよし、推しエージェントと新しいパートナーの組み合わせを試すもよし、アイアンマンやハードコアオプションの底なし沼にはまるのもまた一興。シリーズのファンは周回を重ねて全コンテンツを味わい尽くし、来るシリーズとジャンルの未来に夢を馳せてはいかがでしょうか。

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