幽霊海賊団の奇想天外な大冒険を描く「Shadow Gambit: カリブの呪い」レビュー、ステルス戦略ジャンルの新たな未来を切り開くMimimiの集大成的傑作

2023年8月18日 1:02 by katakori
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「Shadow Gambit: The Cursed Crew」

2016年の“Shadow Tactics: Blades of the Shogun”と2020年の“Desperados III”によって、長年途絶えていたCommandos系のリアルタイムステルス戦略ジャンルを現世代に復活させるという、途方もない離れ業を成し遂げたドイツのデベロッパ“Mimimi Games”の新作「Shadow Gambit: カリブの呪い」(Shadow Gambit: The Cursed Crew)が本日いよいよ発売を迎えます。

PS5とXbox Series X|S、PC向けの新作「Shadow Gambit: カリブの呪い」は、呪われた不死の海賊アフィア・マニカートとなり、魂を持つ幽霊船レッド・マーリー号と共に海賊モルデカイが残した伝説の宝を追う物語を描く、いわゆる“パイレーツ・オブ・カリビアン”的な海賊冒険もので、プレイヤーは魂を奪われたレッド・マーリー号の船員達(これまた全員アンデッドですが)を復活させながら、同じく伝説の宝を狙う狂信的な異端審問会“燃える乙女”と一進一退の激しい戦いを繰り広げることになります。

今回、Mimimi Gamesより製品版に近いビルドを提供いただき、一足先に本編をクリアしましたが、「Shadow Gambit: カリブの呪い」は“Shadow Tactics: Blades of the Shogun”と“Desperados III”の成功を経て、もはやMimimi Gamesの独壇場と言えるステルス戦略ジャンルの到達点をさらに更新するスタジオの集大成であり、素晴らしい傑作でした。

プロットの概要が確認できる“Shadow Gambit: カリブの呪い”の発売日告知トレーラー

前述したスタジオの過去作や往年のCommandos/Desperadosに代表されるステルス戦略ゲームをプレイしたことがない方向けに、「Shadow Gambit: カリブの呪い」の戦闘に関する概要を紹介しておくと、異なる能力や特性を持つ3人の船員チームを操作し、(多くの場合、数人で集まっている)敵の視界範囲を示すコーンをチェックしながら、まるで針の穴に糸を通すように船員をベストな位置にこっそりと配置し、タイミングを見計らって一斉に排除するという流れが基本にあり、これを繰り返しながら敵を排除しつつ、舞台となる島を探索し、ミッション目標の完了を目指します。

Mimimiの作品は、索敵から邪魔な敵を排除するための段階的な仕込み、一斉排除までの流れが非常に戦略的で、リアルタイムで進行する世界で一時停止を併用しながら、位置取りやタイミング、移動、能力の組み合わせなどを試行錯誤する必要があり、これでいける!と思っても失敗するケースがままあるため、必然的にクイックセーブとクイックロードを何度も何度も繰り返すことになります。

それこそ1ミッションで数十回ほどリロードすることもあるわけですが、その分やっかいな配置の敵の排除に成功したときの爆発的な快感は格別で、迅速かつ快適なクイックセーブ/クイックロードがこの快感と経験を増幅することで生まれる、CivilizationやSlay the Spire、Vampire Survivorに匹敵するような、かなりヤバめの中毒性がMimimi作品の大きな魅力の一つだと言えます。(※ PC向けの日本語化済み無料デモも配信中)

参考:ゲームプレイの概要がよく分かる日本語字幕入り解説映像

一方、Mimimiの過去作をプレイしている方について言えば、「Shadow Gambit: カリブの呪い」はこれまでの2作で十分に練り込まれたフォーミュラとメカニクスをしっかり踏襲していることから、たとえ初見であってもほぼ迷うことなくスムースにプレイを楽しむことができるでしょう。

もちろん、ステルス戦略ゲームとして見た「Shadow Gambit: カリブの呪い」の完成度と面白さは折り紙付きで、絶妙なさじ加減のバランスや爽快感はShadow TacticsとDesperados IIIのそれをさらに突き詰めた、もはや職人芸とも言える域に達していて、文字通り曇り一つない仕上がりとなっています。

「Shadow Gambit: カリブの呪い」の新たな魅力

前述したステルス戦略ゲームとしての確かな品質は、ゲームの基礎部分に当たるわけですが、「Shadow Gambit: カリブの呪い」の見所はこの堅固なシステムをベースに、Mimimiならではの爽やかなユーモアと素晴らしいストーリーを用意した愉快な大冒険、忘れがたい魅力を備えたキャラクター達とドラマ、感心するようなツイスト、見事な作り込みで大幅に進化した複層的なマップ、大ボリュームのコンテンツとやりこみなど、前2作から大きく進化を果たしたコンテンツそのものにあります。

「Shadow Gambit: カリブの呪い」は、決して壮大なロアや重層的な人間ドラマを描く作品ではありませんが、エンターテインメントとしてのストーリーテリングやフックは前2作を遥かに上回る仕上がりで、とにかく話が軽やかで楽しく、謎に満ちた伝説の宝を軸に熱い友情や贖罪、過去との折り合い、愛するものとの別れといったモチーフをさらりと交えながら、胸躍る大冒険を真っ向から描く一大娯楽作品となっています。

加えて、本作のストーリーにおける大きな見所の一つに、Commandos/Desperados系ステルス戦略ゲームやMimimi作品とは切っても切れず、深く考えすぎると物語の没入感を削ぐノイズにさえなりかねなかった「セーブとロードの果てしない繰り返し」の扱いがあります。本作は、この所謂ビデオゲーム的事情の行為をストーリーの根幹を支える“カギ”として物語に持ち込み、リロード行為そのものをストーリーテリングの手法として融合させる、とんでもない離れ業をやってのけたのです。

ネタバレを避けるために詳細は伏せますが、これはセーブとリロードを繰り返すことの理由を提示する程度のマクガフィン的な扱いではなく、ストーリー全体の駆動力やある種のサプライズ、よくこんなことを思い付くもんだと感嘆する変態的なツイストに至るまで、作品全体の構造を貫く文字通り“カギ”となるもの。

本作は、これを必然とするだけでなく、プレイヤーの試行錯誤を物語的に補強し作品に不可欠な要素として融合させることで、セーブとロードのサイクルを単なる失敗の繰り返し・やり直しではなく、プレイヤーが自ら司令塔となって困難な事態を段階的に修正・改善・洗練しているような、つまり“自分ってゲーム上手いんじゃない?!”と思わせるような一体感とポジティブな錯覚さえ引き起こすストーリーテリングのフックとして見事に機能させているのが非常に興味深いところ。

また、プレイアブルな船員を含む多彩なキャラクターの愛らしさと面白さ、アクの強さも実に素晴らしく、Mimimiのフレッシュなユーモアが見事なスパイスが加わって、本当に活き活きとしたキャラクターと人物描写、関係性の構築に成功しているのですが、ここに不死の船員たちが乗る幽霊船という、(前2作とは打って変わって)いわばやりたい放題の舞台や現実離れした数々の設定を重ねることで、Mimimiは終始にぎやかで面白い、奇想天外な冒険譚を作り上げているのです。

ここで、船旅の愉快な仲間であるプレイアブルな船員たちについて、ネタバレしない程度にそれぞれの概要と人物像、ちょっとした見所をまとめておきましょう。

「Shadow Gambit」
伝説の宝を追うレッド・マーリー号の愉快な仲間たち、全員アンデッド

■ プレイアブルな船員たち

  • アフィア:レッド・マーリー号の航海士となる我らが主人公、時間操作能力による瞬間移動や時間停止能力を持つ。野心溢れる熱いリーダー、いいやつ。
  • スレイディー:半ば植物化した船医。隠れられる茂みを任意の場所に発生させるほか、敵を持ち場から移動させる誘導能力を持つ。かわいい。
  • ガエール:どてっぱらに大きな風穴が空いた大砲手。背中に背負った大砲で仲間や敵を高く離れた場所や遠方に打ち出す。この能力により様々な戦略が可能となるが、攻撃は非殺傷系というテクニカルな純サポート。爆竹で敵の注意をひく能力もあり。見た目はいかついが、非常に文化的かつ善良な人物で、キャラクタークエストは必見。
  • クエンティン:自分と宝の事しか考えてない守銭奴のトレジャーハンター。色んな用途を持つ釣りざおで味方の危機を救ったり、敵の死体を隠蔽したり、遠方からオブジェクトを操作したりと、様々な状況で活躍するサポート。金ピカの首を投擲して敵の注意を引くこともできる。徹底的に自分本位でけちくさく、どこまでもセコい面白船員。
  • ジョン:巨大な碇を抱えた船大工。碇で冥府に潜り姿を消す、完全なステルス能力を持つ超有能船員。アンデッド魚のレジナルド卿が友達。
  • ピンクス:船の需品係を務める貴族風のおじさん。敵の体を乗っ取り支配する、完璧なステルス能力を持つ。能力の有用さと戦闘時の活躍ぶりは目を見張るものがあるが、ストーリー上の人物としてはナルシストでまごうことなき真の無能。Mimimiのおバカ描写が秀逸すぎて凄い。
  • テレサ:かつて異端審問官だった盲目の凄腕スナイパー、とあるシナジーで鬼神のごとき強さを発揮する。敵の視力を奪う能力もあり。とにかく渋くてかっこいい婆ちゃんで、彼女のストーリーも実に忘れがたいものだった。
  • トウヤ:伊賀出身の忍者で凄腕の料理人。任意の場所に設置した形代に一瞬でワープする能力を持ち、口笛で敵をおびき寄せることもできる。トウヤもかっこいい担当。作中では、ひょんなことから弟子を取ることになるのだが……。
「Shadow Gambit」
左のもやもやした髑髏が幽霊船レッド・マーリーの魂、本作の真のヒロイン

本作の物語は、伝説の宝を追うメインのクエストに加え、各キャラクターの人物像を掘り下げるサイドクエスト、さらに船員達の過去に焦点を当てる固有のミッション等によって構成され、全体的なボリュームは相当なもの。特にサイドコンテンツには、船員が被害者となる毒殺事件の調査や異端審問によって穢れた審問官の巡礼、船体のお掃除、突然詩作にめざめたガイコツの自分探しなど、バリエーション豊かな面白エピソードが揃っています。

およそ30時間強でキャンペーンをクリアしたことから、ボリュームとしては“Shadow Tactics: Blades of the Shogun”と“Desperados III”よりも少し多い程度ですが、体感としては過去2作の1.5倍近く楽しんだような印象を受けました。

これは、恐らくミッション単位のペーシングや構成によるもので、「Shadow Gambit: カリブの呪い」はミッションのプレイ時間が比較的コンパクト(20~30分程度)に収まるケースが多い代わりに、ミッションの数が増えており、そのバリエーションが豊富なことから、密度の高いプレイ体験が得られたと感じたように思います。

ただ、ミッション当たりのプレイはコンパクトであっても、探索や会敵、戦闘からなるサイクルの密度が増していて、プレイの満足感と濃密さはそのままに、ペーシングのみが向上したようなメリハリのあるプレイ感が印象的だったと言えます。

こちらもネタバレは避けますが、本作はキャンペーンクリア後のお楽しみもしっかり充実していて、サイドコンテンツもかなり楽しんだ上でキャンペーンをクリアしたものの、やり残したことやクリア後の楽しみはキャンペーンのプレイスルーに匹敵するような規模で眼前に立ちはだかっています。まだまだ遊べる豊富なコンテンツとやりこみ、さらなる未解放要素が存在するため、当分は賑やかな海賊暮らしを続けることになりそうです。

2016年の“Shadow Tactics: Blades of the Shogun”の発売以来、7年を掛けてニッチなステルス戦略ジャンルを単独で開拓・復活させ、「Shadow Gambit: カリブの呪い」に到達したMimimi Gamesが、次回作でこの高みをどう上回るのか、「Shadow Gambit: カリブの呪い」のプレイには、スタジオの著しい成長を目の当たりにする喜びもあり、今や堂々たる注目スタジオの一つとなったMimimiの今後に改めて大きな期待が掛かるところ。

「Shadow Gambit: カリブの呪い」はステルス戦略ジャンルの入門にも最適な、Mimimi史上最も遊びやすい(良い意味で)ポップな作品に仕上がっていますので、隠れた名作として名を馳せた“Shadow Tactics: Blades of the Shogun”や“Desperados III”が気になっていた方は、「Shadow Gambit: カリブの呪い」でステルス戦略ゲームに挑戦してみてはいかがでしょうか。

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