先日、Visceral Gamesの閉鎖と「スター・ウォーズ」プロジェクトの再編と移行が報じられ、開発を率いたAmy Hennig女史の動向だけでなく、(昨今のルートボックス/ギャンブル問題も重なり)本作の頓挫が現世代におけるリニアなAAAシングルプレイヤーゲームのビジネス的な終焉を意味するのではないかといった議論が紛糾する事態となっています。
そんな中、Kotakuがプロジェクト“Ragtag”と呼ばれた“スター・ウォーズ”プロジェクトの開発に参加していた元Visceral Gamesの開発者達の証言を集め、スタジオの閉鎖とプロジェクトの頓挫に至った経緯を報告。さらに、スタジオの閉鎖と開発の移行をアナウンスしたその人であるEA StudiosのボスPatrick Soderlund氏がKotakuの確認に応じ、今回の決定に関する声明を発表。どうやら、Visceralのスタジオ閉鎖とプロジェクトの開発移行が、各所で懸念される“所謂ライブサービスやマネタイズを優先したビジネス的な決断”ではなく、スタジオに所属した元開発者でさえ“安楽死”だったと語るようなクリエイティブの問題だったことが浮かび上がる状況となっています。
また、Visceral版“スター・ウォーズ”の主要キャラクター達を描いた未見のコンセプトアートも登場しており、事前情報通り本作の共同脚本家でもある俳優トッド・スタッシュウィックが主人公“Ragtag”ことDodger Boonのモデルだったことが判明しました。
■ コンセプトアートに描かれた主要キャラクターの概要
- Buck(最右):犯罪者として半生を過ごした60代後半から70代前半の男性。現在は孤児を集め反乱軍に参加させるための訓練を行っている。主人公Ragtagの師匠。
- Dodger Boon(中央の男性):俳優トッド・スタッシュウィックが演じる“Ragtag”と呼ばれる本作の主人公。かつて帝国軍に所属すたオルデラン人。デス・スターのスーパーレーザー砲による惑星オルデランの破壊を生き延びた生存者の一人であり、ハン・ソロのような人物として描かれていた。Buckの弟子。
- Robie Mattox(右から2番目の若い女性):女優ナタリー・モラールズが演じていたDoctor Aphra(※ Star Wars: Doctor Aphraシリーズの主人公)似のガンスリンガー、コルサントの1313で犯罪ファミリーに育てられた。“Ragtag”の相棒であり、Robieが主人公となる続編の計画も存在した。
- Lunak(左から2番目に描かれた獣人系種族):Gudonと呼ばれる新種族の50代男性。自動翻訳機を装備しており、Dodgerのメカニックとして活躍する。
- Doc(最左のドロイド):Dodgerが盗んできた医療ドロイド
- Oona Sable(中央奥の女性):過度に甘やかされて育った裕福な20代女性。
Visceral Gamesの閉鎖とプロジェクトの再編、開発移行の発表を経て、各所でEAがシングルプレイヤー作品であることを理由に本作を中断させたといった疑念や、AAA規模のリニアなシングルプレイヤー作品のビジネス的な終焉が声高に叫ばれる事態となっていますが、こういった状況を鑑みKotakuの確認に応じたEA StudiosのボスPatrick Soderlund氏は、今回の大きな決断がシングルプレイヤーゲーム、もしくはストーリーとキャラクターによって駆動されるゲームの死に関係するものではないと明言。
自身がシングルプレイヤーゲームのファンであることを強調したPatrick Soderlund氏は、ストーリーを語ることがEAにとって常に欠かせない要素であり、今後も当然ながらシングルプレイヤーゲームに対する取り組みを継続すると説明。マネタイズとクリエイティブは何れも重要な課題ながら、今回の頓挫はマネタイズを重視したビジネス的な決断ではなく、結局のところクリエイティブな決定だったと語り、十分に奥深い経験とストーリーを伝え、これまでの限界を超える目標において、Visceral版スター・ウォーズは全く適切な状態ではなかったと明らかにしています。
一方で、閉鎖となったVisceral Gamesでプロジェクト“Ragtag”の開発を進めていた複数の開発者や関係者が、匿名でスタジオの閉鎖やプロジェクトの再編に至った経緯や当時の状況について語っており、真偽の程は不明ながら(ただし過去の情報を考慮すると確度は決して低くないと言える)前述したPatrick Soderlund氏の発言を一部裏付けるような、非常に興味深い問題の数々が浮かび上がる状況となっています。
- Visceral Gamesが閉鎖に至った複数の要因として、スタジオの人材不足とタイトルの余りに野心的なゴール、Amy Hennig女史の重責と疲弊、シングルプレイヤー市場の難しさを懸念するEA上層部の強いプレッシャー、承認プロセスの鈍化、三人称アクションにおけるFrostbiteの問題、サンフランシスコに拠点を置くVisceral Gamesの維持コストといった問題が挙げられている。また、元Visceralの開発者の1人は、スタジオがここまで続いたことがまず信じられない状況だったと述べ、今回の閉鎖はむしろ“安楽死”であり、所謂シングルプレイヤー云々の問題とは全く関係なかったと説明している。
- プロジェクト“Ragtag”の誕生に至る経緯とVisceral内部の士気について:元開発者によると、“Dead Space 3”の失敗に起因するここ数年のVisceral Gamesは、人材の流出が続いており、スタジオ内部では従業員達が常に閉鎖を心配する不健康な状況が続いていたとのこと。
- 2013年2月に“Dead Space 3”のローンチを果たしたVisceral Gamesは、その後2チームに分割され、大規模なチームが“Battlefield Hardline”のプリプロを開始。もう一方の小規模なチームはコードネーム“Jamaica”と呼ばれるオープンワールドの海賊ゲームに取り組みはじめていた。
- 2013年5月にEAが“スター・ウォーズ”のコアゲーム開発と販売に関する独占権を獲得。これに伴い、Visceral Gamesのスター・ウォーズ計画が始動し、前述のオープンワールド海賊プロジェクト“Jamaica”が中止となり、“スター・ウォーズ エピソード6/ジェダイの帰還”後のジャバの宮殿にスポットを当てるプロジェクト“Yuma”が始動。Jamaicaチームは、Yumaに海賊要素を継承させ、ハン・ソロ的な悪漢が銀河を探索するアイデアをもちこんだ。当初、プロジェクト“Yuma”はリニアなアクションシューターとオープンワールドのハイブリッドとなる予定だった。
- この間も、“Dead Space 3”後のVisceral内部の雰囲気は悪く、チーム間の移行(三人称アクションから一人称シューター)を含む数度の再編も重なりスタジオの士気は低く、Battlefield Hardlineに乗り気ではなかった少なくない開発者の存在もあり、Hardline開発の2年間はEAの内部調査において最も不健全なチームと評価されていた。
- 2014年4月、こういった状況にNaughty DogでUnchartedの成功を支えた立役者Amy Hennig女史が参加。これにより、オープンワールドとリニアなアクションシューターのハイブリッドだったプロジェクト“Yuma”は、ならず者達の物語を描くアイデアを継承しつつ、スター・ウォーズとオーシャンズ11を組み合わせたような“Uncharted”的な物語に生まれ変わり、オープンワールド要素を排したリニアな作品(プロジェクト“Ragtag”)に生まれ変わった。Amy Hennig女史は参加早々、オルデランの消滅や犯罪組織、ならず者達のチームが協力して帝国の何かを強奪するまさにオーシャンズ11的なストーリーを作り上げ、不健全な状況が続いていたVisceral Gamesの開発者達を熱狂させた。
- 2015年3月中旬に“Battlefield Hardline”のローンチを果たした数週間後、Visceralを率いたGM Steve Papoutsis氏と数人の製作総指揮、プロデューサー陣が退社。これに伴い、(EAのLarry Probst会長の実子である)Scott Probst氏が後任のGMに就任し、スタジオのクリエイティブを促進すべくNaughty Dogにインスパイアされたフラットな1チーム体制を導入する再編を実施。Amy Hennig女史の参加もあり、当初はこれで全てが解決し、ようやくことが上手く運ぶと思われた。
- その後、Battlefield Hardlineの拡張パックに取り組むため、スタジオが再び2つに分割される。HardlineのDLCに参加した2人の開発者によると、この再編はスタジオに新たな摩擦を生み、“スター・ウォーズ”に残った開発者チームがスタジオのMVPであり、HardlineのDLCチームはあくせくと働く二番手といった空気が生まれたとのこと。
- スタジオの維持コストについて:予てから継続していた問題として、スタジオの維持コストが挙げられている。(手厚い税制優遇策が適用されるバンクーバーやモントリオール、オースティンと比較して)サンフランシスコのスタジオを運営する経費は非常に高価で、従業員1人当たりの月コストは1万6,000ドル以上掛かり、Visceral GamesはEAで最も高価なスタジオだったとのこと。開発者の一人は、“Dead Space 3”や“Hardline”を開発していた時でさえ、スタジオ内部でEAがなぜ今もここにスタジオを構えているのか理解できないと冗談をかわしていたと説明。Visceralを維持することは財政的になんの意味もなかったと語っている。また、Visceralの元従業員は、開発者の維持コストが驚く程の差があると説明しており、モントリオールやバンクーバーの雇用コストは、サンフランシスコ・ベイエリアの僅か3分の1程度だと伝えている。
- この問題に対処すべく、EAはモントリオールのMotiveを参加させ、70人規模の開発リソースを投下。さらに、プロジェクト“Yuma”のアイデアを一部継承するスペースコンバットテーマのマルチプレイヤーモードを手掛けていた。
- Frostbiteや“スター・ウォーズ”ライセンスの問題について:Visceralは“Hardline”を通じてFrostbiteを利用した開発に挑戦済みだったが、プロジェクト“Ragtag”において、三人称視点のゲームを実現するために、主要な機能をゼロから構築する必要があった。これにおよそ1年から1年半近い開発を要したとのこと。また、他者のIPを扱う“スター・ウォーズ”のクリエイティブに関する短所として、あらゆることに承認が必要だったことが挙げられている。例えば、オリジナルIPであれば衣装やキャラクターの外観は早ければ1週間程度でOKが出るが、スター・ウォーズにおいては衣装や外観、所有品、キャラクターが存在した年代に至るまで、あらゆることに数ヶ月から場合によっては1年近い承認が必要となるとのこと。
- クリエイティブとマネタイズの対立:ゲーム開発において、クリエイティブとビジネス、あるいは開発者とパブリッシャーが衝突することは、決して珍しい事態とは言えないが、プロジェクト“Ragtag”については、2014年からスタジオの閉鎖に至るまで、絶えず2つの議論が存在していた。
- 求めるスター・ウォーズ像:Amy Hennig女史と開発チームはプロジェクト“Ragtag”を犯罪者やならず者たちに焦点を当てる(シスやスカイウォーカーの一族、ミディ=クロリアンが登場しない)現実的な作品を計画していたが、EAの役員が思い浮かべるスター・ウォーズは、ローブを着たジェダイがフォースを用いるシーンだった。市場調査に重きを置くEAは、スター・ウォーズにとって重要なものを調査し、フォースやライトセーバー、ジェダイ達が調査対象にとって重要だったという調査結果をもちこみ、ミーティングの度に議題として上がるトピックとなっていた。
- プロジェクトは一体何を担っていたのか:Amy Hennig女史を擁したプロジェクト“Ragtag”に対するEAの期待は、“Uncharted 4: A Thief’s End”に競合するような作品だったが、Visceralの開発チームにとって、その前提は不条理に感じられるものだった。EAはMetascoreで90を超えるような作品を期待していたとも言われているが、Visceralは全く新しいタイトルに取り組んでおり、初代“Uncharted”に相当する最初の作品さえ出来上がっていない段階で、4つのナンバリングを重ね作り上げられた“Uncharted 4: A Thief’s End”に匹敵することは、スタジオがたとえ最高の状態でさえ無理だと感じていたとのこと。
- Amy Hennig女史にのしかかる重責:前述した通り、Visceralへの参加後早々にスタジオの開発者達を熱狂させるAmy Hennig女史の手腕は見事だったらしく、Visceralの元開発者達は、彼女が異常とも思えるほど有能で、才能があり、物語や作品の雰囲気、手掛けたカットシーンは信じられないほど素晴らしかったと説明している。一方で、数人の元開発者は、2015年頃からAmy Hennig女史とデザインチームの間に衝突が生じ始めたと明かしており、非常に高い目標と能力、評価基準を持つAmy Hennig女史が経験の浅いチームの信頼を得ることができなかったと説明している。
- さらに、Amy Hennig女史はストーリーからゲームプレイ、レベルデザインまで、プロジェクトの全てを監督し、全ての決定を自ら下す必要があったことから、勤務や週末を含む長時間にわたり、さらには多くの俳優と撮影に取り組むべくロサンゼルスを何度も往復していたとのこと。
- ある開発者は、“Uncharted 2: Among Thieves”の開発時においてAmy Hennig女史を支えたBruce Straley氏のような役割を果たす優れたディレクターがVisceral Gamesには存在しなかったと説明。Amy Hennig女史の素晴らしい才能や能力は、Naughty Dogに在籍する多くの才能ある個人によってはじめてバランスが保たれるものだったと振り返っている。こういった背景からも、Visceralの開発者達はAmy Hennig女史が自分達を信頼していないように感じていたとのこと。
- 一方、Amy Hennig女史は自治的なクリエイティブが常に一定量確保可能なNaughty Dogと比べて、EAのような企業との仕事に慣れていなかったとの言及もあり、スタジオ内部で軋轢が生じる一方で、EA側とは売上げに対するプレッシャーが存在したことが伝えられている。
- その他、スタジオの閉鎖とプロジェクトの変更に絡む要因について:さらに前述した状況を悪化させる要因として、2016年全体にわたってVisceralにはプロジェクト“Ragtag”専任のアートディレクターが在籍しておらず、ルーカスフィルムのアートディレクターにこれを一任していた。こちらも信じられないほど才能溢れる人物だったが、やはり承認等に掛かる時間がさらに鈍化した経緯が伝えられている。ただし、その後EAのロサンゼルスオフィスから新しいアート・ディレクターが参加したとのこと。
- こういった経緯から、EAは2016年後半に新しい計画を立ち上げ、当時未発表の“Plants vs. Zombies”ゲームに取り組んでいたEA Vancouverの計画をキャンセルし、Visceral“スター・ウォーズ”への参加を決定。既にVisceral向けの新規雇用は制限され、この時点でMotiveが取り組んでいたマルチプレイヤーモードの中止も決定していた。
- 2017年初頭から、Visceral GamesとEA Vancouverによる共同開発がスタートしたが、両者はスタジオ文化の違いや主人公に対するアクションのアイデア(VancouverチームはBatman Arkham的なガジェット要素のアイデアを持っていた)から衝突し、最終的に管理能力に長けるEA Vancouverによる計画の主導をEA自身が望むように変わっていったとのこと。
- Visceralの元従業員は、こういった複雑な要素が絡み合い、既に開発者の多くが(スタジオの閉鎖と開発スタジオの移行を含む)EAの決断以外にこのプロジェクトを終える方法はなかったと感じていたと語り、今回EAが発表した決断は、正直にいって“安楽死”のようなものだったと説明。シングルプレイヤーかどうかは全く関係なく、このゲームがこれ以上良くなり完成することはなかったと振り返っている。
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