2017年5月にパブリックベータ入りした人気カードゲーム“グウェント ウィッチャーカードゲーム”のストーリーモードとして昨年8月にアナウンスされ、今年8月にスタンドアロン化が報じられた期待のカードバトルRPG「奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ」が、いよいよ明日10月23日に待望のPC版ローンチを迎えます。(PS4とXbox One版は2018年12月4日発売予定)
“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”は初代“The Witcher”のオープニングよりも数年前、日本語版も発売中の原作小説で言えば、第1巻“エルフの血脈”と第2巻“屈辱の刻”の間に起こった出来事を描くウィッチャーファン待望の新作で、大規模アップデート“Homecoming”を携え製品版リリースを果たす“グウェント ウィッチャーカードゲーム”の新システムに基づくカードバトルを特色としています。
ウィッチャー世界の知られざる戦いと物語を、手書きの美しいアートワークやアイソメトリックな2D世界、収集要素を持つカードゲーム、選択と結果を備えたダイアログを組み合わせ描く“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”は、一見馴染み深いクラシックな要素を組み合わせた作品に見えるかもしれませんが、30時間を超える壮大なストーリーキャンペーンを擁する本作は、前述の要素すべてを丹念に磨き上げ、まるで工芸品のような品質にまで高めた大作で、現行のビデオゲーム産業におけるトップクラスのストーリーテリングや豪華なアートワーク、魅力的で個性豊かなキャラクター達、CD Projekt Redならではの軽やかなユーモアと善悪の境界を意図して曖昧にするビターな語り口、1年以上に渡って培われたグウェントのメカニクスを存分に活かしたシングルプレイヤーならではの外連味溢れるカードバトルとパズルによって、ウィッチャーシリーズのファンのみならず、誰もが気軽に楽しめる、極めて豊潤で贅沢な作品に仕上がっています。
一方で、“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”には昨今他に余り見られない、構造的に幾つかの興味深い取り組みが散見されます。
筆者は、近年(特に“Divinity: Original Sin”や“Pillars of Eternity”に顕著な)AA規模のオールドスクールなアイソメトリックCRPGが見事な復活を遂げている状況において、CD Projekt Redが“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”を一体どんな作品として世に送り出すのか、とても興味深く発売を待ちわびていましたが、実際にプレイした“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”は、予想を斜め上に飛び越え、思いもしなかった方向へと舵を切った新しい傑作に仕上がっていました。
前述の“Pillars of Eternity”はビデオゲーム史に残る傑作CRPG“Baldur’s Gate”を現世代に適合するモダンな手法と技術で進化させ、“Divinity: Original Sin”はオールドスクールなCRPGをテーブルトークRPG的なアプローチで新時代のタクティカルサンドボックスRPGへと昇華させました。一方で、“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”はと言えば、驚くべきことにかつて80年代に一世を風靡した(ソーサリーやファイティング・ファンタジーに代表される)ゲームブックや黎明期に存在した一部のRPGが強烈に促したある種の渇望や想像力の喚起をそのままに封じ込め、著しく高い品質のテキストと現代的手法を以て、“今”これを再現することに成功しています。
“The Witcher 3: Wild Hunt”の成功に伴い、名実ともにビデオゲーム産業を代表するTOPスタジオの1つとなったCD Projekt Redですが、初代“The Witcher”の頃から今も変わらない(愛すべき)悪癖のような何か、もしくはそもそも存在しないのではと思われる概念として、物事を小さく、ほどほどに収めるという能力を全くといって良いほど持ちあわせていないことが挙げられます。(さらに言えば、我々プレイヤーが実際に目にする最終的な成果品は、その背後に積み上げられた膨大な作業の中から僅かに抽出された何割かのコンテンツに過ぎないはずです)
これは、分かっていても普通なら実行しないような、例えば“The Witcher 3: Wild Hunt”を代表する大都市ノヴィグラドの現実的な存在感を際立たせるために、都市の全てを手作業で構築し、ミスマッチなアングルで建築物や細かなオブジェクトを配置するような取り組みに顕著ですが、期待作“サイバーパンク2077”の舞台であるナイトシティを見るに、近年この傾向がさらに重篤化していることはもはや疑いようがありません。
そして、当の“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”もやはりこの例に漏れず、個々のパーツが既存の馴染み深い要素でありつつも、それぞれの品質と分量(特にテキスト)はやはり常軌を逸しており、プレイ中には感嘆を超えて、余りの過剰さに思わず笑ってしまうことが何度かありました。
しかし、“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”最大の魅力は、極めて膨大な分量のコンテンツを理路整然とまとめた多層的なストーリーテリング、そして多彩な要素を有機的に組み合わせ、まるでオールドスクールなゲームブックのようにプレイヤーの想像力をあの手この手で刺激するツールとして見事に機能させている点にあると言えます。
ここでいう“多層的なストーリーテリング”は、主に幾つかの距離と視点で分類されるレイヤーのようなもので構成されており、以下の項目がそれぞれの機能と役割を持って絡み合い、ゲーム全体のうねりと大局に翻弄される小国の運命を左右する壮大な物語を織り上げています。
- 語り部:賞金首らしい正体不明の語り部が、酒場で周りの聴衆に聞かせる語り口調のカットシーン。主人公であるメーヴ達からは最も遠い、いわばストーリーの外縁に存在しつつ、まるで全ての出来事を眼前で体験したかのような主要キャラクターの台詞と説明、その現場を写真で撮影したようなアートワークを特色とする。なお、実際のシーンをビジュアルで写実的に描くのは、このシーケンスと極一部の会話シーン、ゲーム内のイベントに添えられる挿絵的なアートワークのみで、分量としては非常に少ない。
- 美しい2Dマップ:主人公メーヴ率いる一団が移動し探索するアイソメトリックな2Dマップ。驚くほど美しく精緻に描き込まれている一方で、レベル環境や人物、オブジェクトそのものを1:1で描いているわけではなく、(メーヴ一行を含む多くの要素が)極めてシンボリックかつ便宜的に描かれている。プレイヤーの行動や決断に併せて、世界の様相がダイナミックに変化する点も見どころ。
- 主要キャラクターの会話:物語の内側で繰り広げられる主要キャラクター達の会話シーン。一部の場面を除いて、キャラクターは書き割りのようなアートワークを背景に、紙芝居的に横並びで対話する。ここでの語り部はナレーション調の司会進行役に徹している。
- イベントの解説:サイドクエストを含むイベント発生時の状況解説。会話シーンと同じく語り部はナレーション調の司会進行役に徹し、その都度でメーヴ達が見ている眼前の景色や出来事が挿絵として写実的に描かれる。
- グウェント:グウェントの最新バージョンを用いたカードバトル。ここでは、指揮官を除く全てのキャラクターとアイテム、装備、兵器、敵勢力、モンスターがカードとして扱われる。また、戦闘中も台詞や戦況によってストーリーが進行する。
“The Witcher 3: Wild Hunt”や“サイバーパンク2077”は、視点の違いこそあれど、基本的にほとんどのシーンが主人公/プレイヤーの眼前で起こる出来事をゲーム内の現実として描いていますが、前述の通り“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”がその場をビジュアルで直接的に描くのは僅かなシーンに抑えられており、ほぼ全ての場面が巧みなテキストとダイアログ、補足的なアートワーク、そしてカードバトルを通じて間接的に描写されます。
例えば、筆者が行動を共にし、いくつかの楽しい時間を共に過ごしたとあるキャラクターが命を落とすシーン。ここでは、「斬首が言い渡され、日が暮れる前には刑が執行された」という一文と、彼が生前に愛用していた品が地面にぽつんと転がっているイラストのみを利用し、その死が伝えられました。
これは、いわゆるビデオゲーム的なシネマティックやアートワーク、キャラクター当人のボイスオーバーではっきりと描写される劇的な“死”よりもはるかに衝撃的で空恐ろしい、文字通りプレイヤーの想像力をかき立てる本作の象徴的なシーンの1つで、本作では多くの場面でことほど左様に(近年のとかく没入的なブロックバスター経験で損なわれがちな)受け手の想像力やゲームの原体験的な感覚を心地よく刺激してくれます。
また、グウェントそのものにも興味深い構造的な逆転が存在します。従来のグウェントは、大作RPGの中に存在したゲーム内ゲームであり、カードは文字通り収集要素を持つ手札(つまりトランプのカードそのもの)でしたが、“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”においてはこれが逆転し、グウェントのカードは全てがゲーム内に実在する兵士や仲間、装備品、アイテムそのものであり、プレイヤーの行動や選択も影響するキャラクターの死や離反によってそのカードが実際に失われる(逆に参加した場合はカードが得られる)など、ストーリーとゲームプレイの両面で非常に重要な役割を果たしており、こちらもプレイヤーの想像力を大いに刺激する極めて重要なストーリーテリングのツールとして機能しています。
個々のカードバトルには各シーンや文脈に基づくストーリードリブンな展開が設けられており、時には専用デッキや特別ルール、パズルを用いる(エールの飲み比べから死体の後片付け、ステルス潜入まで、様々なバリエーションを用意した)戦闘を含め、あっと驚くようなアイデアの数々、そして自軍の育成や強化・拡張によって常に新鮮なバトルが楽しめるのも本作の白眉と言えるでしょう。
こういった従来の“ウィッチャー”シリーズとは全く異なるアプローチと手法を用いる“奪われし玉座:ウィッチャーテイルズ”の物語は、北方諸国の四王国(ケイドウェンとレダニア、テメリア、エイダーン)から僅か南方に位置するライリアとリヴィアを舞台に、タイトルにもある通り、“奪われた玉座”の奪還を図るメーヴ女王の壮絶な戦いを描くわけですが、本作のもう一つ大きな見どころとして、結果や山場を決して性急に扱わない、堂々としたストーリーのペーシングが非常に印象的でした。
CD Projekt Redは、女王メーヴの壮絶な旅を、主要な登場人物達の機微や葛藤、(海千山千のゲラルトではなく)ごく普通の市民から見た怪異や侵略の現実、ニルフガードの圧倒的な国力に翻弄される四王国の関係、ドワーフやエルフの文化や人間社会との軋轢といった要素を深く集中して掘り下げることによって、ウィッチャー世界のディテールをより濃厚に描いており、巧妙に張られた伏線をじっくりと回収する素晴らしいカタルシスやサプライズを贅沢に楽しむことができます。
もちろん、CD Projekt Redならではの笑いやユーモア、パロディ、イースターエッグ、お好きな方向けの萌えキャラもふんだんに用意されているだけでなく、初代や続編を含む“The Witcher”シリーズの理解をさらに深める大ネタもあれこれ用意されており、初代で壮絶な運命が待っている“とある騎士”の出自とその人物が頑なに拘る出来事や、馴染み深い人物の過去、相変わらず妙なところで飲んで騒いで怒られるアイツまで、シリーズファン向けのご褒美もたっぷりと控えています。
そして、本作が描く初代以前の第二次ニルフガード戦争における四大国とニルフガードの動向(とそれぞれの思惑)、戦況を左右する戦略上重要な要所の攻防、CD Projekt Redが初めて本格的に描いたマハカムの文化といった要素は、“The Witcher”シリーズと“グウェント”、原作小説、来るドラマシリーズ、そして今後さらに続くであろう“ウィッチャーテイルズ”シリーズの新エピソード全てに新しい理解をもたらす必見の手引書でもあり、全“ウィッチャー”ファンがプレイすべき新作であることは間違いありません。
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