先日、限定版購入者向けのオリジナルサウンドトラック解禁を経て、楽曲のミックスに関する問題が浮上していたidの新たな傑作シューター「DOOM Eternal」ですが、新シリーズを象徴するコンポーザーMick Gordon氏が今後のコラボレーションに疑問を呈し、idを間接的に批判する事態となっていた問題の動向に注目が集まるなか、本日“DOOM Eternal”の開発を率いた製作総指揮Marty Stratton氏がidとMick Gordon氏の関係に関する声明を発表。恐れていた両者の決別が現実のものとなってしまったことが明らかになりました。
ミックスの問題に関する詳細については、先日ご紹介した過去記事をご参照頂くとして、Marty Stratton氏は今回の問題が表面化し大きな議論を呼んだ結果として、全59曲のうち47曲のミックスを担当したidのリードオーディオデザイナーに直接的な非難と個人攻撃が生じていると説明。これはidによって受け入れがたい事態であり、皆の楽曲に対する深い情熱と大きな誤解を鑑みれば、これまでに築いてきたファンとスタジオのオープンな関係を維持するためにも、この事態へと至った全ての経緯を詳らかにする必要があると伝えています。
ファンの懸念が、Mick Gordon氏に十分な時間やクリエイティブな自由を与えていなかったのではないか、さらにidがゲーム音楽に無頓着なのではないかといった憶測に基づくものであることを理解していると語ったMarty Stratton氏は、そのどれもが真実ではないと強調。
Marty Stratton氏は、Mick Gordon氏が作曲とミックスに対して、ほぼ無制限のクリエイティブな自由を持っており、その結果出来上がった楽曲は何れも傑作であり、新シリーズの代名詞であることは間違いないと前置きした上で、Mick Gordon氏の素晴らしい才能とは別の側面で、十分なコミュニケーションを取ることが出来ず、プロジェクトが不確実なリスクを抱える状況が生じていたと述べ、以下のような経緯を紹介しています。
- 2019年6月:2019年のE3で“DOOM Eternal Collector’s Edition”(以下:DOOM Eternal CE)向けの公式サウンドトラック(以下:OST)同梱を発表。この時点で、Mick Gordon氏とサウンドトラックの契約は結んでいなかった。この頃には開発に必要な楽曲の提出に関する問題が続いていたため、Marty Stratton氏は契約でMick Gordon氏の手を煩わせたくなかったと説明している。
- 2020年1月:idとMick Gordon氏の協議が行われ、“DOOM Eternal CE”にデジタルOSTを同梱する発表を実現し、3月20日の発売に間に合うよう、3月初旬までにMick Gordon氏がOSTを納品する条件で大筋の合意を得た。この契約条件は、最低12曲の提出を求める点で前作の契約と似ていたものの、期限通りに納品した場合のボーナスも付与されており、納品物に対するクリエイティブコントロールは全てMick Gordon氏に与えられていた。
- 2020年2月24日:Mick Gordon氏と氏のチームは契約条件に問題はないとした上で、作業に予想以上の時間が掛かっており、作業は進んでいるものの、多くの作業が必要だと報告。Mick Gordon氏はこの段階で、理想的なスケジュールとして4週間の追加期間を与えてほしいと要請し、この期間があれば、ゲーム内の楽曲を全てサウンドトラック形式にアレンジした最高の品質で、計2時間に及ぶ30曲以上のトラックが提出できると提案している。
- idは、Mick Gordon氏の要請と提案を受け入れ、6週間の延期を可能する最終的な納品日を4月中旬に設定。これに伴い前述した契約の追加ボーナスをMick Gordon氏が受け取れるよう、支払いの日付を改訂。
- 2020年3月上旬:idが公式Twitterで“DOOM Eternal CE”向けのOST配信に遅延が生じている旨を報告。この時点で、id側の失望はOSTを発売と同時に配信できなくなったことだけではなく、多くの国の消費者保護法により、発表された期日にコンテンツが配布されない場合は購入者が全額返金を要求できる点にあった。ただし、idは4月中旬の配信であれば、Mick Gordon氏が理想とした時間を確保しつつ、顧客との約束を果たすことができると考えていた。
- 2020年4月:Mick Gordon氏からのOST納品が期日通りに行われるか、雲行きが怪しくなってきたため、Marty Stratton氏は個人的にidのリードオーディオデザイナーChad Mossholder氏に納品が間に合わなかった場合の代替策として、id版のサウンドトラックを制作するよう依頼。これを完成させるために、Chad Mossholder氏はMick Gordon氏がゲームのために納品した楽曲を全て受け取り、トラックを編集し、包括的なサウンドトラックとしてアレンジする必要があった。
- この時点で非常に重要な事実と誤解の直接的な要因として、ゲームに組み込む楽曲とOST向けにミックスされた楽曲に、大きな違いがあることが挙げられている。今回、ミックスの問題として浮上したダイナミックレンジの足りない(コンプレッション不足のように見えた)サウンドは、ゲームに組み込むために送られてきた楽曲の断片的なデータを使用したもので、Mick Gordon氏が納品前にゲーム用のミックスと圧縮を行っている。Mick Gordon氏が納品した楽曲の断片的な圧縮済みデータは、“DOOM Eternal”のオーディオシステムに送られ、ゲームのプレイ中にリアルタイムで合成して再生される。
- OSTのミキシングとマスタリングを行う際、Mick Gordon氏はid側がアクセスできないソース素材から作業を行い、高音と低音がクリップしないようOST用のリミックスを行うが、Chad Mossholder氏は前述の事前にミックスと圧縮を終えた断片データを元に、ゲーム内で流れるものと同じ楽曲を編集で再現し、OSTを作成する必要があった。また、この時点でさらなるクリッピングを防ぐため、一部の楽曲で音量調整が行われている。
- 4月初旬:Marty Stratton氏がMick Gordon氏にメールで連絡し、延長した納品期日の重要性と顧客への約束を果たす必要がある理由を説明。このメールで、Chad Mossholder氏が代替策となるトラックの作業を開始している旨を伝えた上で、Mick Gordon氏による楽曲をリリースすることがidの望みであり、優先事項であることを伝達。これに対し、Mick Gordon氏は自身とChad Mossholder氏の作業を組み合わせて、より包括的なリリースを検討してはどうかと提案している。
- 翌日、Chad Mossholder氏はゲーム用に用意された楽曲の断片を元にサウンドトラックを再構築しているとMick Gordon氏に報告。Mick Gordon氏は12曲の納品を行う予定だとして、12曲以上のサウンドトラックを作るためにChad Mossholder氏のアレンジをしようしてみてはどうかと再度提案し、Chad Mossholder氏が作業した全楽曲のバランスを調整した上で送ってほしいと依頼。Chad Mossholder氏がこの依頼に応じ、全ての楽曲をMick Gordon氏に渡した。
- 4月の楽曲納品日:Chad Mossholder氏の確認に対し、Mick Gordon氏はまだ仕上げを行っている最中で、深夜には12曲を超える60分規模のトラックを送ると説明。翌朝、Mick Gordon氏から一部のトラックに問題が発生していると連絡があり、完成にはさらなる時間が必要であること、id側のローンチが逼迫している状況を理解している旨が伝えられた。これに対し、Marty Stratton氏は、一先ず完成分のトラックを納品し、残りのトラックについてもできるだけ早く仕上げてほしいと伝えている。
- Mick Gordon氏が完成分の9曲を納品。Marty Stratton氏がこれを確認したところ、ヘビーな戦闘系のトラックは1曲のみで、他はアンビエント系の楽曲だった。Marty Stratton氏は、これがDOOMやMick Gordon氏のファンの期待に応えるものではないと感じた旨をMick Gordon氏に電話で報告。Mick Gordon氏は納品が遅れている残りのトラックがまさに戦闘トラックであり、これが最も難しい作業となっていると説明。Mick Gordon氏は、さらに多くのヘビーな楽曲が必要な場合は、Chad Mossholder氏のトラックで肉付けしてはどうかと提案した。
- idはこの提案を受け入れ、包括的なサウンドトラックのコレクションを実現するために、共同作業を進めることとなった。idはChad Mossholder氏が曲順を編集するOSTの制作をMick Gordon氏に報告。Mick Gordon氏の楽曲をこれに組み合わせて、Chad Mossholder氏が制作した似たテーマの曲を削除。追加の戦闘曲が納品された場合は、すぐOSTに組み込むか、後日ボーナストラックとして提供する旨を伝えた。その後2曲が納品され、最後のトラックをボーナストラックとして後日配布する旨に加え、最初に“DOOM Eternal CE”購入者向けのOST配布を行い、その後他のプラットフォームでリリースする当初の計画を改めてMick Gordon氏に伝達した。
- 4月19日:“DOOM Eternal CE”購入者向けのOST配信を開始。配信後すぐにファンからミックスに関する指摘があり、ネットの投稿が行われた。ファンの質問に応じたMick Gordon氏は、自身がミックスしていない旨と、自分はこのようなミックスをしないだろうと説明。Marty Stratton氏は、この短い説明が実際の状況と距離を生む要因となり、不必要な憶測と判断を生んだとの見解を提示。idの従業員を中傷し、攻撃するファンが出てきたと説明。この件について、Mick Gordon氏はChad Mossholder氏が中傷されている状況に心を痛めているとMarty Stratton氏に語ったが、その後この状況を改善するための発言は行われなかった。
- その後、この件について何度かメールで連絡を取ったあと、Marty Stratton氏とMick Gordon氏が直接話し合う機会が得られた。まず、今回の件について、Mick Gordon氏は59曲もの楽曲がリリースされたことに驚いたこと、idが編集した楽曲に、元々デモやモックアップとして送られたデータが使用されていると感じていること、そしてidトラックの一部ミックスと編曲に満足していないことを問題点としてあげている。一方、Marty Stratton氏は配信の内容に不満がある場合、追加で十分な品質の楽曲を配信しても構わないと考えていること、id側の編集はゲーム内とゲーム内シネマティックに用いられたデータのみ使用している点を説明。また、id側は(Mick Gordon氏が全てをコントロールしたOSTが理想であることから)元々OSTの内容そのものに関与したいとは考えておらず、Mick Gordon氏の要望やクリエイティブを妨げる行為を一切していないこと、要求に応じて複数回の延長を行ったことを説明している。
- また、Mick Gordon氏はChad Mossholder氏に共同作曲者のクレジットを与えたと懸念しているが、idはこれを完全に否定し、OSTのメタデータにおける唯一のコンポーザーで唯一のアルバムアーティストはMick Gordon氏だけだと断言。idが編集したトラックには、貢献したアーティストとしてChad Mossholder氏の名前がリストアップされているが、これは熱心なファンのために、Mick Gordon氏が提供した楽曲と、id側の編集曲を明確に区別する最善の方法だったと述べ、これがなければ他の誰かが編集したトラックをMick Gordon氏の楽曲だと誤解を招く恐れがあったと強調している。
- 今回の件で、idとMick Gordon氏は決別することとなり、現在開発が進められているDLCはMick Gordon氏の楽曲を採用しない状況となっている。ただし、Marty Stratton氏はMick Gordon氏の楽曲が信じられないほど素晴らしい傑作であり、他に類のない希有な才能を持つコンポーザーとして、今年の年末には“DOOM Eternal”での偉業を讃えられ、数多くの受賞を果たすことを願っていると説明。こんな状況を迎えてしまったことに誰よりも失望していると明かした上で、これまでもそうしてきたように、状況の変化に適応し、今後も才能あるアーティストとのコラボレーションを追求したいと伝えている。
先日、新生DOOMとMick Gordon氏の楽曲は不可分だとご紹介しましたが、今回の極めて残念な結果を受け入れ“DOOM”が今後どんな進化を果たすか、Mick Gordon氏のさらなる活躍や新生Wolfensteinを含むBethesdaと氏の関係、今後改めて発売されるであろう“DOOM Eternal”サウンドトラックの仕様を含め、今後の動向に改めて注目が集まるところです。
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