先日、ジェイク・ソロモン氏のインタビューをご紹介したFiraxis Gamesの新作『マーベル ミッドナイト・サンズ』ですが、先だってお伝えした通り、本作の発売に先駆けて2Kより製品版に近いプレビュービルドを提供いただき、一足先に期待のマーベルヒーローRPGを思う存分プレイすることができました。
という事で、今回はマーベルヒーローとシミュレーションRPGという異色の組み合わせにどんな化学反応が起こったのか、「XCOM」シリーズを生んだ開発チームが手がける『マーベル ミッドナイト・サンズ』のハンズオンプレビューとインプレッションをご紹介します。
最初に全体的な感想を伝えておくと、『マーベル ミッドナイト・サンズ』は(マーベルのダークサイドを描くと謳ったコピー等から)筆者が当初思い描いていた予想とはかなりかけ離れた、良い意味で“おもしろ”方向に突き抜けた驚くべき作品で、まるでハーレムのようなヒーロー生活が楽しめるだけでなく、デッキ構築系カードゲームとしての仕上がりも実に素晴らしく、テンポの良さと相まって非常に中毒性の高い、極めて危険なタイトルだと言えるものでした。
新生「XCOM」チームの最新作として『マーベル ミッドナイト・サンズ』を楽しみにしている方には、本作が傑作「XCOM 2 選ばれし者の戦い」のフォーマットをベースに、従来のターンベース戦闘をそっくりカードゲームに置きかえた本格RPGだと言えば分かりやすいかと思いますが、一方でゲームプレイのペーシングや構成要素の配分は「XCOM」シリーズと大きく異なっていて、かなりフレッシュなプレイが楽しめると思います。
今回、プレビューのお届けが遅くなったのは、ひとえに筆者が『マーベル ミッドナイト・サンズ』のプレイに熱中しすぎたことが原因です。元々プレビューとしてご紹介できる範囲には、“冒頭から10~15時間程度で到達できる○○ミッションまで”という制約があったのですが、本作は新生「XCOM」シリーズと同じく、序盤からやれることと試行錯誤できることが無数にあるタイプのゲームで、それほど寄り道したつもりはなかったのですが、あれこれに手を出しプレイに没頭した結果、件の○○ミッションに到達した時にはプレイ時間が50時間を軽く超えてしまい、思わず我に返るという体たらく。それもこれも、選択と報酬のサイクルが短いアクティビティや、ハイペースで高い爽快感が得られる中毒性の高い戦闘の面白さが悪い(悪くない)のであって、後を引くやめどきの分からなさは同じFiraxisの「シドマイヤーズ シヴィライゼーション」シリーズに似ているとも言えますが、止めるにはもう腕を折るしかない!と思うようなある種の焦燥感は、デッキ構築系カードゲームの傑作「Slay the Spire」の底なし沼に足を取られはじめたころを思い起こさせるほどの体験でした。
“マーベル”ユニバースが舞台となる『マーベル ミッドナイト・サンズ』は、ヒドラの企てによって数百年の眠りから甦った強大な悪魔“リリス”に立ち向かうヒーローたちの戦いを描くストーリ重視の1人用シミュレーションRPG。キャプテン・アメリカやアイアンマン、スパイダーマンといった誰もが知るマーベルヒーローたちに加え、“ハンター”と呼ばれるマーベルユニバース初のカスタマイズ可能なオリジナルヒーローが主人公として登場します。
ゲームは、“リリス”とその実子で母を止められる唯一の存在である主人公“ハンター”の対立と軋轢を軸に進むわけですが、ハンターの戦いを支え共に戦うのが、リリスの妹ケアテイカー率いるヒーローグループ“ミッドナイト・サンズ”であり、彼らの拠点“大聖院”が本作のヒーロー活動と日々の暮らしを送る主要な舞台の一つになります。
また、本作は多彩なヒーローそれぞれの個性や特性を活かした独創的なデッキ構築系カードバトルを用意しており、ヒーローのど派手な戦いとFiraxis Games作品ならではと言える本格的なタクティカルコンバットの両方が同時に楽しめる戦闘システムを特色としています。
■ ゲームの進行について
『マーベル ミッドナイト・サンズ』は3つにフェーズわけされた“1日”単位でゲームが進行します。まず、大聖院で起床後、研究やクラフト、各種分析、ニュースフィード/SNSのチェック、訓練、デッキ構築、カード強化、領内の探索、ヒーロー達との対話、任務へのヒーロー派遣、プレイ可能なミッションの確認といった戦闘前の準備に相当する時間があり、全ての準備を終えたらカードバトルで戦うミッションに出発。これを終えて帰還した大聖院は日が暮れていて、夜パートは主にヒーローとの交流を楽しむ時間となります。
これがゲームの基本的なサイクルで、ヒーローとの交流を終え自室で就寝すると、また次の一日が始まるという流れになります。
つまり『マーベル ミッドナイト・サンズ』の“1日”は、日中の“戦闘準備”とその後の“戦闘”、“大聖院”での交流からなる3つのパートで構成されており、このくり返しの中で様々なイベントが生じたり生じなかったりするゲームの進行やヒーローとの友情システムは、(先日ご紹介したインタビューにおいて、ジェイク・ソロモン氏もシリーズ名を口にしていた)2つの傑作「ペルソナ5」や「ファイアーエムブレム 風花雪月」のプレイ感にかなり近いものと言えるでしょう。
■ 「XCOM」シリーズとの類似点について
一方で、「XCOM」シリーズのファンから見れば、前述した『マーベル ミッドナイト・サンズ』の進行サイクルやアクティビティのラインアップは、「XCOM」シリーズにおける拠点での活動と戦闘パートの関係に似ていると感じるのではないでしょうか。
実際のところ、『マーベル ミッドナイト・サンズ』の大聖院と戦闘を軸とする流れは、まさしく「XCOM」シリーズのそれと同じで、(特に“XCOM 2 選ばれし者の戦い”における)兵士の訓練や治療、絆の強化、研究開発、アイテムクラフト、戦利品の解析、兵士を個別に派遣する秘密工作、兵士のカスタマイズ、フォトブースといった馴染み深い要素がRPG向けに調整・拡張、一部は大規模に刷新され、『マーベル ミッドナイト・サンズ』に存在しているだけでなく、研究開発やレベリングを含む大小様々なプログレッションも酷似しており、本作は「XCOM」シリーズのフォーマットを踏襲していると言っても過言ではありません。
つまり、『マーベル ミッドナイト・サンズ』の拠点となる“大聖院”は、ストラテジーレイヤーを簡略化したアヴェンジャー号のようなものであり、このフォーマットが『マーベル ミッドナイト・サンズ』に驚くほどマッチしていることは、むしろ「XCOM」自体がそもそもRPG的な作品だったことを如実に示す証左だと言えるでしょう。
一方で“大聖院”は、本格RPGのストーリーの根幹を支える探索可能な拠点として、様々な謎やロアを含むナラティブ要素、探索できる広大なエリアを含め(機能的に整理され一望できた)XCOM本部やアヴェンジャー号とは比較にならないほど拡張されており、「XCOM」の拠点よりも遥かに多くの時間を過ごすことになります。
また、『マーベル ミッドナイト・サンズ』が「XCOM」のフォーマットを下敷きにしていることは間違いないのですが、プレイ感が似ているかと言われれば、実際のところかなり異なっていて、特にフェーズの配分やゲームプレイのペーシングの変化に加え、戦闘システムの完全な刷新、三人称視点で操作できる主人公の導入は、『マーベル ミッドナイト・サンズ』を確かに本格RPGだと納得させる大きな変化をもたらしています。
『マーベル ミッドナイト・サンズ』のカードバトルは、ヒーローごとに大きく異なる多種多様なアビリティ(カード)とデッキ構築要素をベースに、グリッドレスな3D空間の戦場とターンベースコンバットを融合させた独自のシステムを特色としています。
本作には多数のヒーローが登場しますが、カードバトルに参加するチームは3名に制限されており、どのヒーローと戦いを共にするか、その特性やシナジー、ヒーロー同士の関係性などが勝敗の鍵を握ることになります。ちなみに、チームメンバーは戦闘毎に任意に選択可能で、サイドミッションであれば、主人公を含まない構成で戦うことも可能です。
通常、ターンベースのターンはユニットの行動で進行する場合が多いかと思いますが、本作の場合は主にカードを引くことがターンの進行を担うことになります。つまり、ユニット順に行動するのではなく、手札のカードを引くことで戦闘が進んでいくので、例えばスパイダーマンのカードだけを引いてターンが終了する、というケースもあり得るわけです。
本作のカードバトルとターンベースコンバットの面白さをお伝えする前に、まずは基本的な戦闘の概要をご紹介しておきましょう。
■ カードバトルの仕組み
これは、戦闘ミッションを開始した際のスクリーンショットで、画面中央に操作中のヒーロー(ここではニコ)と倒すべき複数の敵、攻撃に利用可能な(黄色でハイライトされた)環境アイテム、画面下部中央に手札のカードを含むHUDなどが確認できます。
ターンの進行を司るリソース部分には、ゲージと数値で表示される幾つかの項目と“ヒロイズム”と呼ばれる要素の数値が確認できます。
この数値やゲージは、1ターン内で行動できる内容を示しています。上から順にまとめると、まず3枚のカードを使用できるほか、手札を廃棄してデッキの山札から新しいカードを引く引き直しが2回、任意のヒーローを好きな場所に移動できる回数が1、消費アイテムの使用上限が2回であることを示しています。
また、ヒロイズムはターン中に特定のカードを使用することで増えていくリソースで、一部カードの使用に必要となるほか、戦闘エリアに配置された環境アイテムを利用する攻撃の発動にも用いられます。
つまり、1ターン内でできることは、3回のカードプレイと1度のヒーロー移動、カードの引き直し2回、アイテム及び貯まったヒロイズムの使用だけということになります。
この情報だけを見ると、ターン当たりの手数が比較的少ないような印象を受けますが、実際はヒーローのアビリティカードに様々な特性(キーワード)が存在していて、カードとヒーローを上手く組み合わせることで、戦闘の手数を大幅に増やすことができます。ヒーローの相性やデッキ作成、手札の善し悪し、試行錯誤と工夫が上手くはまれば、1ターンで全ての的を一掃できるほどの戦果を上げることもでき、報酬も爽快感も大きく増すことになります。
では、実際にどうやってターンあたりの戦闘行動や攻撃の手数を増やすのか、序盤で使用できる幾つかの代表的なカードを例に、戦闘の勝敗を左右するメカニクスの一部をご紹介してみたいと思います。
こちらは主人公“ハンター”の基本的な攻撃カード“クイックスラッシュ”。これを使用すると、任意の敵に23ダメージ(実際のダメージ値はヒーローのレベルやステータス値で変化)を与え、ヒロイズムが+1されるのですが、カード固有のキーワードとして、“クイック”と“ノックバック”の2つが記されています。
“クイック”の特性を持つカードで敵を倒すと、なんとカードプレイの数値が減りません。手札にある“クイック”や引き直しで“クイック”付きの攻撃カードが得られれば、(敵をノックアウトする条件を満たす必要がありますが)そのぶん1ターン当たりに使用できるカードの枚数が増えるということになります。
また、本作のカードバトルは対象を吹き飛ばず“ノックバック”が非常に有効で、このカードの場合は“クイック”で雑魚を処理しつつ、“ノックバック”させた雑魚を強めの敵にぶつけダメージを与えることで、カードプレイを消費せずに、雑魚処理と同時に強敵の体力を減らすことができるので、非常に使い勝手のよいアビリティだと言えます。
ゴーストライダーの“猛打”は、カード自体に与ダメージがない上、クイックもなく、ゴーストライダー本人が41ダメージを受けるという一見使いづらそうな内容ですが、この“強制ノックバック”は対象を吹き飛ばす距離とぶつかった際のダメージが2倍な上、分銅付きチェーンを利用して360度方向に敵を吹き飛ばすことができるため(※ 通常のノックバックは90度近い扇状の範囲制限あり)、戦場のクラウドコントロールが格段に向上します。
先ほどの“猛打”カードは、使用時にゴーストライダーの体力を奪っていましたが、ゴーストライダーのカードには、こういったリスクを補う“ライフスティール”付きのアビリティが存在しています。
このカードの使用にはヒロイズムが1必要ですが(カード上部左に記されたオレンジ背景の白い数値がヒロイズムの消費数を示しています)、“チェーン”効果も付与されており、2回攻撃が可能なことから、例え“猛打”カードでライフを41失っても、この“ソウル・ドレイン”カードの40回復でほぼ相殺できるというわけです。
スパイダーマンの“チェーンストライク”は、戦闘時の手数を増やすのに最適な攻撃カードだと言えます。上記の“ソウル・ドレイン”カードに付いた“チェーン”は、無条件で規定回数の攻撃が可能ですが、このカードの“チェーン”発動には条件があり、敵をノックアウトした場合のみ次のターゲットに攻撃を“チェーン”させることが可能です。(最大4ターゲットまで)
“クイック”によるカードのつなぎや“ノックバック”による巻き込み、カードプレイを消費しない環境利用攻撃、移動を利用した敵のノックバック等を上手く活用し、複数の敵のライフを予め38以下に削っておいて、“チェーンストライク”を使用すれば、一気に4体の敵を倒すことができるというわけです。
本作の敵は、ライフを持たない(つまり1ダメージで倒せる)“ミニオン”に加え、ライフを持つ“エリート”、強力な“ボス”の3種類に分類されます。また、ライフを持つ“エリート”にも様々なタイプの敵がいて、一部は高いライフ値や強力なシールドを持つ敵も存在しており、これまでご紹介したカードでは倒しきれない強敵も登場します。
スパイダーマンの“こっちだよ!”は、強めのエリートやボスに有効なカードで、ヒロイズムの消費量は2と多めですが、エリアダメージと敵の攻撃力を半減させる“弱体化”キーワード付きで、長丁場の戦いに適していると言えるでしょう。
こちらは、高コストカードの代表とも言えるゴーストライダーの“ヘルライド”。これはヒロイズムを3消費することで、ゴーストライダーがヘルライドで戦場を疾走し、直線上(しかも太い)の敵全てに大ダメージを与えてくれます。
本作のカードバトルは、ど派手な演出も見所で、ストラテジーゲームのユニット然としていた「XCOM」シリーズの兵士や攻撃に比べ、キャラクターの3Dモデルやアニメーションが飛躍的に進化しており、全ての攻撃がスーパーヒーローの戦いを見事に体現しています。
高レアリティ(※ コモン>レア>エピック>レジェンダリー)カードの中には非常に変わった能力を持つアビリティも存在しています。マジックの“増援”は、1ターン限定で4人目のヒーローと2枚の当該ヒーロー用カードを引くというもの。“使い切り”キーワードが付与されたカードは、1度使用すると捨て札に入らず、その戦闘時のデッキから廃棄されます。
■ デッキ構築について
本作のデッキ構築は、ヒーロー1人あたり8枚のカードを予め選んでおくというシンプルなもの。
デッキ構築に使用できるカードは、基本的な攻撃カードの“アタック”とヒロイズムを消費する強力な“ヒロイック”、バフやデバフを含む“スキル”に分類され、各デッキには、カテゴリ3種のカードを少なくとも1枚はデッキに入れる必要があるほか、同一カテゴリのカードは最大4枚までしか所有できません。
つまり、デッキのカード構成は、タイプを問わず“4枚+3枚+1枚”、“4枚+2枚+2枚”、もしくは“3枚+3枚+2枚”のいずれかであり、各ヒーローや多彩なキーワードを含むカードの特性を考慮に入れた上で、特化型にするか、バランス型にするかを決定する必要があるわけです。
また、カードバトル時は個別に構築したヒーロー3人分のデッキを混ぜて山札が出来上がるため、別のヒーローが持つカードを考慮に入れたデッキ構築も非常に大きなシナジーを生むことになります。
■ カードバトルのインプレッション
まだ、後半の戦いを経験していないことから、仕上がりについてはなんとも言えませんが、今のところ『マーベル ミッドナイト・サンズ』のカードバトルはとても楽しく、(「XCOM」の戦闘に比べて)非常にコンパクトにまとまっていて、簡単・手軽に楽しめる一方で、非常に奥深いシステムを内包しています。
戦闘の舞台となる3D環境は(今のところ)非常にシンプルで、全体が一望できる広さであることから、索敵が全く必要なく、一般的な戦闘が数分から10分程度で終わることもあって、手札やシナジー、敵の配置等を組み合わせてパズルを解くような快楽と中毒性の高さを生みだしています。
また、本作の戦闘におけるリソース管理や与/被ダメージを含む全体的なバランスは、まさに「XCOM」チームならではの磨き抜かれた素晴らしい品質で、後半がどの程度インフレするのか不明ながら、開始時から序盤の間ずっと戦闘が楽しいことは、製品版の仕上がりに大きな期待を抱かせるに十分なものです。
また、文字通りカードバトル“パズル”が楽しめるチャレンジや、ビルドの仕上がりを試せる訓練コンテンツ、カードの強化システム、通常ミッション向けの多彩なオブジェクティブなども用意されており、ヒーローの人数も多いことから、戦闘を飽きさせない工夫が随所に用意されているのも印象的でした。
加えて、神のごときヒーロー達のヒーロー性と戦闘の難しさに関するバランスも絶妙で、(「XCOM」の兵士達とは違って)絶対に攻撃を外さず、途方もない能力を持ち、パーマデスもあり得ないヒーローの英雄性と力強さを十分に担保した上で、高めの被ダメと行動制限を強めに設定することで、爽快感に満ちたヒーローの戦いと歯ごたえのある戦闘を両立していることも驚くべき点だったと言えます。
ゲームの進行にまつわる概要でご紹介した通り、ヒーロー達の拠点“大聖院”では、戦闘の準備や強化、研究開発、訓練など、強大な悪魔“リリス”と対峙するための決戦に向けた様々な準備が行われるわけですが、一方で“大聖院”はお馴染みのヒーローたちが互いに交流する生活の場でもあります。
プレビューの冒頭で、『マーベル ミッドナイト・サンズ』が当初の予想よりも、かなり愉快な方向に突き抜けた作品だったとご紹介しましたが、その面白さを存分に満喫できる場所がこの“大聖院”に他なりません。
もちろん、リリスとハンターの運命的な対立やクロスオーバー級の壮大なストーリーも確かに見所で、しっかり描かれはするのですが、本作はとにかくよく喋るヒーロー達(※ なんとダイアログだけで6万5,000行もある、ちなみに“The Elder Scrolls V: Skyrim”のダイアログが約6万行)のやりとりやじゃれあい、関係性描写が度を超していて、誤解を恐れずに言えば、本作はお馴染みのマーベルヒーロー達とひとつ屋根の下で暮らす夢の“ハーレム”RPGゲームだと言っても過言ではない内容になっています。
本作に出てくるヒーロー達は、(今のところ)ほぼ例外なくヒーローとしての英雄性よりも、人間としての苦悩やディスコミュニケーション、ヒーローならではとも言えるある種の欠如と過剰さ、社会不適合者っぷりをベールの下に隠さない、驚くほど人間くさい善人たちばかりで、もれなく全員が主人公“ハンター”のことを友人として尊重・尊敬し、なんなら友情よりも濃密な好意を男女問わずぶつけてきます。
また、ヒーロー間の対立、例えば挨拶がわりかと思うほどいつも言い合いしているトニー・スタークとストレンジ、或いは誰もが知るセレブなアベンジャーズと若いミッドナイト・サンズたちの世代間対立、驚異のコミュ障ヤンデレゴスであるマジックとその他全員などなど、様々な人間関係の軋轢も描かれるのですが、どれも決して深刻になることはなく、見ているだけで笑みがこぼれそうな子犬の甘噛み、あるいはネコパンチの応酬のような、愛らしいやりとりが続くわけです。さらに、皆と仲良くなればなるほど、友情レベルが上昇し、ヒーロー達がみるみる強化されていくので、面白いわ、ほほえましいわ、おまけに強くなるわで、ポジティブがどこまでも螺旋的に上昇するとんでもない世界が出来上がっているわけです。
さらに、大聖院で時間を持て余すヒーローたちは、戦いの傍ら幾つかのサークル活動まで始めてみたり、誰かの誕生日をサプライズで祝ってみたり、一緒に映画やビデオゲームを楽しんだりと、学園ハーレムものか!と思うほどのくつろぎっぷり。
とにかく登場するヒーローがみんないい人で、MCUならうっかり映画が一本できかねないレベルの軋轢も二言三言で丸くおさまり、お互い歩み寄ろうとする皆の善良さは本当に気持ちがよく、思わずMCUのあの人やこの人も、もうほんの少しでも聞く耳を持って話し合えばいいのにと愚痴ってしまうほどの“桃源郷”がここには存在します。おまけに大聖院には撫でられる可愛いわんこと凄いネコちゃんまでいるんですよ。
ヒーロー全員がもれなく甘々で、いい人というのは大げさでもなんでもありません。あのブレイドでさえ主人公を素直に褒め称え、まっすぐに好意(友情)をぶつけてくる容赦のなさ。そして、ハーレムという表現もまたまったく誇張ではなく、複数のヒーローと友情以上恋人未満なロマンスが平行して進むだけでなく、ヒーロー同士の友情や友愛も存分に描かれるので、毎日の交流が楽しくて仕方がありません。
こういったユーモラスな要素をちょっと意外に思う方もいるかもしれませんが、この兆しは傑作「XCOM 2 選ばれし者の戦い」からはっきりと存在していたものでした。3人の強敵“選ばれし者”と主人公の善悪を超えた、まるで少年漫画のような関係や外連味あふれる熱血展開は、まさに本作で本格的な花を咲かせ、この桃源郷へと至るために必要だったのではないかと思うほど見事に『マーベル ミッドナイト・サンズ』と自然な融合を見せています。
また、本作はフォトブースやヒーローの外観カスタマイズも異様に充実していて、「XCOM 2 選ばれし者の戦い」ではちょっと不釣り合いかなと思うほど面白要素だったフォトブースもまた、『マーベル ミッドナイト・サンズ』への礎だったのだと思わざるを得ない必然性のあるコンテンツに進化しています。
以前から、「XCOM」チームには真面目なシーンを思わず茶化して面白くしてしまう癖のようなものがあるなと感じていた筆者は、本作のゲーム開始からほどなく、ドクター・ストレンジと交流した際、ぽこんと彼の可愛い水着が報酬としてアンロックされた時、Firaxis Gamesが遂にファニーな方向で本気を出してきたぞと歓喜し、ゲームを進めるにつれて想像以上の本気ぶりに目眩がするほど当てられ、ウホウホと“大聖院”暮らしを楽しんでいる次第です。
まだ序盤のストーリーしかプレイしていないため、後半にどんな過酷な展開が待ち受けているのか(或いはこの楽園が最後まで続くのか)、全く分かりませんが、現段階でこういった面白さが壮大なストーリーのノイズになるようなことはなく、この面白さと壮大な物語の絶妙なさじ加減は「XCOM」チームがまさに得意とするところであり、今後の展開に大きな希望と期待を抱いています。
先ほど、『マーベル ミッドナイト・サンズ』のユーモラスな要素は、ゲームプレイやストーリーのノイズになっていないと明言しましたが、それは端的に面白さが物語やヒーローそれぞれの人物像を阻害していないからです。
『マーベル ミッドナイト・サンズ』(Marvel’s Midnight Suns)は、本作と同じくリリスと“Midnight Sons”の戦いを描いた90年代のコミック「The Rise of the Midnight Sons」や同じく90年代の大規模クロスオーバー“インフェルノ”、ゴーストライダーの“Spirits of Vengeance”といった作品にインスパイアされており、設定そのものはオリジナルですが、多くの要素を“Midnight Sons”から継承しており、コミック版ケアテイカーの孫娘がゲームのケアテイカーを務めているなど、その後の“Midnight Sons”とも言えるような骨太のストーリーを描いています。
また、数々の面白要素やヒーロー達の人間的な魅力は、全てがマーベル作品のロアや各キャラクターの出自、背景にしっかり基づく説得力のある内容として描かれていて、面白さとストーリーテリング、適切なキャラクター像の描写を両立しているのも素晴らしいところ。
「XCOM」チームによるマーベル関連のロアに対する掘り下げも相当なもので、ネタバレを避けるため細部の紹介は避けますが、(ダークホールドやクトンなど)神々級のヤバイものから超マイナーキャラクターまでカバーするロアの広範囲な網羅ぶりと濃密さは、近年のマーベルビデオゲームにおいて随一と言える品質と規模になっています。
また、本作はマーベルヒーローの入門にも適していて、ほぼ全てのキャラクターが自身の出自や経緯を丁寧に紹介してくれるため、例えばドラマ“ランナウェイズ”や映画“ニュー・ミュータント”(或いは原作コミック等)を観ていなくとも、ニコやマジックがどんな人物で、どんな過酷な旅をしてきたのか、過去の交友関係や家族関係まで十分に把握することができます。また、ゲームのニコをドラマ版と同じ岡野りりかがフェイスモデルと(海外版の)ボイスアクトを担当しているなど、アベンジャーズ関連のメジャーなMCU映画だけでなく、前述したランナウェイズやニュー・ミュータント、ワンダビジョンといった作品を楽しんだファンには、大小様々なお楽しみが用意されていて、こちらも必見と言えるでしょう。
ヒーローそれぞれの物語も個々に描かれるため、『マーベル ミッドナイト・サンズ』の物語がどんな着地を見せるのか、今のところ全くの未知数ですが、マーベルユニバースのビデオゲームとしても本作は非常に興味深いアプローチを見せています。
ということで、長々と本作の概要をご紹介してきましたが、端的にまとめると、今のところ『マーベル ミッドナイト・サンズ』は、ヒーロー感が満喫できるど派手なカードバトルよし、大聖院でのヒーロー生活よし、マーベル作品としての作り込みも上々!ということで、全てが高い品質に達していると感じられます。
中毒性の高いカードバトルは爽快で奥深く、大聖院でヒーローたちと暮らすハーレム生活は心が晴れ晴れとするほど愉快で面白く、アベンジャーズとX-メン、ランナウェイズ、ブレイド、ゴーストライダー、スパイダーマンまで集結するストーリーは大規模クロスオーバー級の壮大さ、ゲーム内経済と戦闘の絶妙なバランス取りは「XCOM」チーム印の高品質とくれば面白くないわけがなく、序盤だけでも忘れがたい瞬間を何度も味わうことができました。
冒頭から面白さがしっかり持続することは良いゲームの条件の1つであり、序盤からどんどん広がる巨大な風呂敷がどう畳まれるのか、『マーベル ミッドナイト・サンズ』の製品版ローンチに改めて大きな期待が掛かるところです。
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かたこり( Twitter ):洋ゲー大好きなおっさん。最新FPSから古典RPGまでそつなくこなします。
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