2016年10月27日、実に6年ぶりとなるMafiaシリーズ最新作「マフィア III」の日本語版がローンチを果たした。かつてLucasArtsで活躍したHaden Blackman氏率いる新スタジオHangar 13が開発を手掛け、アメリカの歴史において最も混迷を極めた1968年の南部を描くオープンワールドクライムアクションとして話題を集めている。
「マフィア III」は、ルイジアナ州のニューオーリンズをモデルとする架空の都市ニューボルドーを舞台に、街を牛耳るイタリアンマフィアの裏切りによって愛する家族を奪われたベトナム帰りの主人公リンカーン・クレイが、自らの全てを捧げ断固たる復讐の道を歩む物語を描いている。
今回お届けするレビューは、当サイトにおけるこれまでの特集を経て、「マフィア III」が最終的にどういった作品に仕上がったか、その達成にフォーカスしていることから、作品の基本的な概要については以前のディテールまとめとプレビューを確認してほしい。
本作の全ては、文字通り徹頭徹尾リンカーン・クレイの“復讐行”のみによって駆動する。しかしHangar 13は、その力強い1本の柱に南北戦争以降も残る北部と南部の軋轢やベトナム戦争、人種差別や移民の問題、ユース/カウンターカルチャーの台頭、マフィアとCIA及びFBIの関係、キューバ革命と東西冷戦、公民権運動とブラックパワーの台頭など、1960年代アメリカ、特に南部固有の文化と社会的な背景を多層的に重ねることで、ビデオゲームの大作史上前例のない作品を生み出すことに成功した。
開発を手掛けたHangar 13は、アメリカにとって現在もある種の繊細さを要するセンシティブな過去の(とはいえ、たった50年前にすぎない)人種差別問題を扱うにあたって、ゲームの冒頭に以下のような前文を掲げ、恥ずべき暗部を描くことに決して臆しないことを強調している。
『マフィア III』は、1968年に設定した架空のアメリカ南部が舞台です。当時のアメリカ南部での人種差別に対する表現も含め、激動の時代をリアルに、深く追求しました。
ゲームに登場するキャラクターには、人種差別的な思想を持ち、不愉快な言葉や態度を示す者がいますが、リンカーン クレイの物語を語る上で、このような表現を含むことは不可欠だと考えています。
そして何より、我々の歴史上、非常に嘆かわしくも現実にあった事実を無視することは、今までさまざまな形での偏見、差別、先入観、人権問題に直面してきた人たち、そして今でも悩まされている多くの人に対し、失礼にあたると考えました。
近年再び台頭する黒人差別の問題さえ想起させるこの前文に対し、Hangar 13のアプローチはその実極めて客観的だ。
Hangar 13はこの表明通り、歴史的な映像や写真も交えながら、50年代のアメリカが父権的な白人支配によって構築した繁栄と虚像の裏で抱え込み、60年代に爆発した恥ずべき暗部を容赦なくえぐり出すが、様々なイデオロギーの対立や差別の悲惨な現実をいくら描こうとも、作品を安易なアンチテーゼや二元的な問題提起、自己批判、自己言及に陥らせず、(まざまざと深刻な現実を眼前に突きつけながらも)社会的な良きこと、悪しきことをプレイヤーに問いはしない。
彼らは「マフィア III」に社会・文化的な問題を決してカリカチュアライズさせることなく、過去の歴史をありのままに認めることでリンカーン・クレイの復讐劇に重厚な背景と説得力を持たせつつ、従来のシリーズと同じく徹底して組織犯罪を描くことを選んだ。
その証左は本作の主要な対立構造にある。本作の物語は、支配階級であるアングロサクソン系プロテスタントの白人層と、虐げられた黒人達の二元的な戦いを描いてはいないのだ。
本作に多数登場するアンダーボスやカポ、コンシリエーレのなかでも南部の典型的なWASPは僅かに2人。本作の仇敵はあくまで“伝統的なイタリアンマフィア”であるマルカーノファミリーであって、白人の支配者層ではない。しかもマルカーノファミリーの全てを奪い去るべくリンカーン・クレイの元に集うのは、ハイチ人のリーダーとアイルランド人のギャング、うらぶれたイタリアンマフィア、飄々とした元CIAエージェントの5人という異例の顔ぶれ。
“伝統的なイタリアンマフィア”という表現にはいささか語弊がある。今作に登場するマルカーノファミリーは、オメルタの掟やFBI/CIAとの関係によって公には存在しないとされたかつての古き良きマフィアではない。彼らは後に暗殺されるケネディ兄弟の働きによって、遂にその存在が世間に広く知れ渡る結果となった1957年11月以降のマフィアであり、時代の流れに伴い落日を迎えたかつての伝統は、社会的な不平等の是正がようやく進み始めた世界で新しい力を手に入れたマイノリティ達によって追撃されるのである。
しかしHangar 13が選んだこのアプローチは、人種差別を含むアメリカの複雑な社会的背景の描写を二の次にするものではない。登場人物達のダイアログや市民の会話に見られる言葉の端々、プロットの細部、当時のニューオーリンズを再現したオープンワールド環境のディテール、登場人物達の詳細な解説など、1つ1つの要素に圧倒的な考察と調査に基づく深い意味や歴史の暗部を織り込み、確固とした説得力を持つゲーム世界を器として用意することによって、Hangar 13はリンカーン・クレイの復讐劇を1968年のニューボルドー(ニューオーリンズ)以外では絶対に起こりえなかった、運命的な作品に仕立て上げたのだ。
この客観性こそが「マフィア III」の白眉だと言える。Hangar 13は自国の恥ずべき過去と暗部を広く事実だと認めたことによって、はじめて驚異的な量のアイデアとモチーフで満たされた“1968年のアメリカ南部”というまたとない舞台を手にした。これを認めず、事実とは異なるイデオロギー的な良きこと、もしくは悪しきことを描く場合、作品はそのポテンシャルを大きく減じる。これはハリウッドが幾つかの映画で既に何度か立証してきた歴史の汚点ではないか。
しかし、この賞賛すべきHangar 13のアプローチは一部で思いもよらない事態を招いた。「マフィア III」は前述した通り、決してイデオロギー的な主張や物事の善し悪しを問う作品ではないが、モチーフとなった要素の容赦ない描写は、一部のメディアやコミュニティにイデオロギー的なバイアスと議論を生じさせている。
こういった現象の是非自体は差し置いても、この状況は「マフィア III」がいかに一筋縄では行かない問題作であるかを如実に表していると同時に、Hangar 13のアプローチがアメリカの“今”に文字通り刺さったことを示している。
これはなにも大げさな話ではない。1950年代に始まった公民権運動の波は、混沌とした激動の1960年代後半を経て、バラク・オバマがアフリカ系アメリカ人初の大統領となったことで1つの結実を見た。この揺り戻しが今まさにふつふつと吹き出しつつあることは、最も象徴的な表出としてドナルド・トランプが遂に第45代アメリカ合衆国大統領となった驚愕の事実がはっきりと体現している。
「マフィア III」がリアルに切り取った1968年の南部は、奇しくも(あるいは必然的にか)大きなサイクルを一巡した今現在のアメリカとリンクしてしまった。強いアメリカ、つまり50年代への回帰を掲げたレーガニズムを想起させるドナルド・トランプの振る舞いは、まさに本作が描くアメリカ史上最も混沌とした1968年の再来に向けた胎動さえ思わせるものだ。
これほど濃厚に時代性を映す大作を筆者は他に知らない。そういった意味でも「マフィア III」は極めて希有な作品に仕上がったと言える。
様々な社会問題と南部の歴史に基づくプロットやダイアログ、レベル環境が渾然一体となった「マフィア III」の重厚なゲーム世界は実に見事だが、Hangar 13が実現した本当の達成は、これをベースに極めて面白い、手に汗握るスリリングなストーリーを構築した点にある。
ビデオゲーム史上に名を残すであろう悪役サル・マルカーノの見事な存在感と悪行の数々、ある種の魅力さえ感じさせる奥深い人物描写、あっと驚くようなツイストの数々は、復讐の鬼となったリンカーン・クレイの残虐な殺しや見せしめに疑問の余地を持たせず、泥水をすするような状況から反撃の戦いに転じる腹心達の行動や、彼らの苦渋に満ちた選択もやむなしと納得させる素晴らしい推進力として物語を駆動させている。
また、シリーズの伝統とも言えるカットシーンは、キャラクターのフォトリアルな造型から、細やかな心情の機微まで瑞々しく描ききる驚くべきフェイシャルアニメーション、キャスト陣の素晴らしい演技(ノーラン・ノースの名調子!)、現在のシーンを映し出しているカメラの役割と意味まで加味した卓越した演出によって、ビデオゲーム史上最も素晴らしいカットシーンの1つと言える必見の仕上がりだ。
なかでもジェームズ神父とジョン・ドノヴァンの存在感は特筆すべき見所の1つで、ジョン・ドノヴァンが陰惨な復讐劇にパルプ・フィクション的な軽やかさと謎めいたアクセントを加える一方で、ジェームズ神父はこの復讐劇をリンカーン・クレイという男の魂の物語に昇華させる忘れがたい語り手を務めている。
さらに圧巻なのは「マフィア III」の構成だ。本作はリンカーン・クレイが引き起こした壮絶な復讐劇を振りかえるドキュメンタリー作品として進行する。一体何が起こるのかはっきりとは分からない、しかし予め決められた結末へと向けて、ゲームプレイが進行する1968年の過去と、ドキュメンタリーとして事件を振り返る未来、さらに上院が事件の真相究明を図る特別調査委員会が撮影した1971年の記録映像、この3つの時系列がそれぞれに事件のクライマックスへと突き進む過程はまさにスリリングの一言につきる。ここに幾つかのサプライズとファンサービスが用意され、そのうえ本編はマルチエンディングときている。
筆者は既に幾つかのエンディングを確認済みだが、メインストーリーを追ったプレイスルーは40時間から50時間程度。ただし、一部のサイドクエスト/ストーリーや収集物が残っている上、本編は腹心との関係にも複数の分岐が用意されている。先日、早くも素敵な衣装(しっかりカットシーンに反映される)が無料コンテンツとして配信され、今後は車両のカスタマイズやカーレースが無料のアップデートを通じて追加されるほか、ストーリーDLCの配信も控えており、ゲームプレイ全体のボリュームは相当なものだ。
そして、ローリング・ストーンズの“黒くぬれ!”や“悪魔を憐れむ歌”を筆頭に、ジョニー・キャッシュにオーティス・レディング、アレサ・フランクリン、クリームなど、ゲーム全編を60年代一色に染め上げる101曲もの超豪華なサウンドトラック。特有の建築様式や地域、文化に至るまで、当時のニューオーリンズを巧みに再現した表情豊かなロケーション。「マフィア III」はこういった要素が渾然一体となったまさに一級のエンターテインメント作品なのだ。
さらに本作を追い求める熱心なファンには、さらなる探求が用意されている。表層の復讐劇と世界をちらりと一皮めくれば、そこからは魑魅魍魎が跋扈する1960年代のアメリカ南部が抱えた暗部がどっとあふれ出てくる。
何気ないNPCの一言やドノヴァンの報告書に記されたディテール、車から流れるラジオニュース、市民達の会話に至るまで、「マフィア III」には膨大な量の情報と文脈が盛り込まれている。特に収集物のプレイボーイ誌には当時刊行された本物の表紙やセクシーなグラビアに加え、実際に掲載されたアーサー・シュレジンジャーやラルフ・ネーダー、ノーマン・トーマス、リー・ベイリー、ティモシー・リアリーといった人物の膨大なインタビューまでもが含まれている。(※ インタビューは全て掲載されたオリジナルのままだが、広告はニューボルドーの商品や企業のものに差し替え済み)
ここではこの人物達に関する詳細は控えるが、Hangar 13が意図してこうしたページを抜粋した背景は非常に興味深く、本作のテーマを1つ1つ紐解きながら改めて俯瞰することは、それ自体が大きな楽しみの1つだと言える。
「マフィア III」の特筆すべき点として、ストーリーテリングにおける達成についてあれこれと紹介してきたが、ゲームプレイについてはどうだろうか。
本作の戦闘は主にカバーを用いた三人称視点の銃撃戦とステルス、近接戦闘に分類される。カバーやADSを含む銃撃戦は非常にオーソドックスながら、操作はタイトで癖もなく、シューター作品を過去に経験済みのプレイヤーであればなんの障壁もなく戦闘をこなすことが可能だろう。また本作にはゲーム中、任意に調整可能な難易度とエイムアシストが用意されており、最も簡単な状態に設定すればTPSに不慣れなプレイヤーでも華麗な銃撃戦を繰り広げ、重厚なストーリーに集中することができる。
ステルスを含め、戦闘の難易度は比較的低めながら、我等が主人公リンカーン・クレイは攻撃力高め/防御力低めといったバランスで、しっかり緊張感のある戦闘が楽しめる。
また近接戦とステルスのシステムはシンプルながら、驚くほどバリエーション豊かなフィニッシュムーブが実装されており、単調になりやすい戦闘を飽きさせない。
本作の象徴とも言えるマッシブなアメ車の操作も非常にタイトで、アーケード寄りの荒々しいドライビングが楽しめる。また、本作には車体重量やハンドリングの挙動をよりリアルに再現する車両のシミュレーションモードが用意されているほか、比較的制御しやすいハンドブレーキや追突用の急加速、敵車両のタイヤを狙うオートエイムといった機能も存在し、文字通り映画“ブリット”のようなカーチェイスが繰り広げられる。
加えて多種多様なシチュエーションや趣向を凝らしたギミック、特別な舞台と展開を用意した幹部達との戦いは、それぞれがユニークな経験を与えてくれるのだが、メインストーリーを進めるために繰り返される通常のミッションはいささかバリエーションに乏しく、中盤あたりから義務的にプレイするケースが目に付き始める。
さらに強化と進行、難易度のラーニングカーブに絡むペーシングの問題からか、(能動的に工夫を凝らせば可能性は多いものの)多彩な武器やアクション、腹心達のサービスを活用する機会が少なく、強化に乏しいゲーム開始時の難易度が相対的に高く、後半につれて徐々に易しくなるといった減少が見られるのも気になるところだ。
この点については、無料のアップデートを通じて幾つかの拡張や改善が図られる予定となっており、今後の調整に期待したい。
当サイトでレビューを行う機会は決して多くないが、今後も幾つかのレビューが控えていることから、実験的にプレイ経験を含めた商品としてのビデオゲームが満たすべき要件を、5つの段階にカテゴライズした指標を用意させていただいた。各項目の階層の詳細については別途説明ページを用意してあるので、そちらをご確認いただきたい。
「マフィア III」は歴史ある名シリーズの最新作にして、新スタジオ“Hangar 13”のデビュー作でもある。
本作はミッションのバリエーションやプログレッションの学習カーブなど、全体的なペーシングに関係する幾つかの問題を抱えてはいるが、これらの課題はその要因が非常に明確だと言える。一方で、Hangar 13は非常に難解なテーマとモチーフを手に、驚くべき物語とストーリーテリングの妙を見せつけた。
とてもデビュー作とは思えない練り込まれたストーリーと歴史的な背景の融合は、Hangar 13の比類無いポテンシャルを明確に示している。これからこのスタジオがどんな作品を生み出すのか、さらなる改善と拡張が進められる「マフィア III」の今後と併せて、将来が楽しみでならない。
「マフィア III」は、幾つかの課題を越えてなおシリーズとマフィアジャンルの最高傑作であり、数ある復讐物においても新たな到達点の1つだと言える。
重厚なストーリーやじっくりと腰を据えて楽しむ作品を探している方は是非「マフィア III」を手にとり、リンカーン・クレイという男の忘れがたい物語を見届けて欲しい。
- 基本的な機能性:ローンチ当初に幾つかのバグやクラッシュ、パフォーマンス関連の問題が見られたが、クリティカルな問題はアップデートを通じて改善済み。
- 動作の信頼性:アクションや銃撃戦、ドライビングは何れもタイトで操作しやすい。統一感のあるタイル系のミニマルなUI/HUDのデザインが非常に優れており、運転時に表示されるAR風のHUDなど、60年代感を損なわずに直感的な操作とナビゲーションを実現している。
- プレイしやすさ
- +:難易度やエイムの強度、車両の操作など、多くの要素がプレイ中任意に変更可能。
- -/+:車両による移動が比較的多めだが、腹心によるデリバリーサービスは非常に便利。
- +:日本語はフォントとポイント、ウェイトの使い分けが何れも美しく、読みやすさとデザインの美しさを両立している。丁寧なローカライズが実に印象的。
- -:鍵開けのミニゲーム。
- 上達と奥深さ
- +:多層的で微細にわたる奥深いストーリー。
- +:キャラクターの緊張感に満ちた演技と見事なフェイシャルアニメーションに支えられた重厚なカットシーン。
- +:マルチエンディング。
- +:ゲームプレイとストーリーにマッチした贅沢なサウンドトラック。
- +/-:ボス達との対峙は何れもアイデアと工夫を凝らした見事なものながら、フェーズの進行中に繰り返されるミッションはバリエーションに乏しく、中盤あたりから単調さが増してしまう。
- +/-:物理演算系の破壊要素や異なる勢力間の対立を含むゲーム内生態系など、インタラクションは思いのほか豊富で、武器の種類も多くやれる事は多いが、序盤から終盤までステルスと基本的な戦闘でまかなえてしまうことから、プログレッションに応じて活かされる機会が少ない。
- 独創性:実際の歴史に基づく野心的なテーマと膨大な量のモチーフからなる複雑なバックグラウンドを、シンプルなストーリーと密接に融合させた手法は極めて革新的。
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