先日、2017年の“South Park: The Fractured but Whole”以来、実に7年ぶりとなる“サウスパーク”の新作ビデオゲーム「サウスパーク:スノーデイ!」(South Park: Snow Day!)が国内外でリリースされました。(参考:PS5、Xbox Series X|S、Nintendo Switch、PC Steam)
「サウスパーク:スノーデイ!」は、かつて2014年にObsidian Entertainmentが開発を手がけた傑作“South Park: The Stick of Truth”とその後継として登場した“South Park: The Fractured but Whole”の本格RPG路線を離れ、最大4人Co-opが楽しめるローグライトな3Dアクションとして開発された完全新作。
発売に伴い大手メディアの海外レビューが公開済みですが、スコアはいささか低迷気味で、熱心な原作アニメファンの間でも評価が分かれる状況となっています。
筆者も実際に本作をプレイし、ストーリーキャンペーンを含め、個人的には大いに楽しめたのですが、前述の評価もさもありなんと感じる箇所も確かにある、というのが正直なところ。
しかし、「サウスパーク:スノーデイ!」が見どころのない数多あるライセンスものの1つに過ぎないかと言えば、決してそうではありません。
端的に一言でまとめてしまうと“もったいない!”ゲームというのが一番しっくりくるかもしれません。
まずプロモーションが控えめだったことから、事前情報が少なく、耳目を集める“売り”が分かりにくかった。Co-op主体のゲームプレイは、かなりカジュアルで、欠点が目立ちやすいものの、良いところもたくさんあります。
一方、ストーリーは本作の大きな魅力の1つで、ファン必見の非常に優れた内容に仕上がっているのですが、近年の原作アニメや前述した過去の2タイトルとは大きくアプローチが異なっていて、シンプルで分かりやすい物語を描いているにも関わらず、その魅力をしっかり味わうには幾つかの文脈を抑えておく必要があり、等々……。
さらにやっかいな点として、日本国内の特殊な事情がここに重なってきます。
ここ数年、国内では“サウスパーク”アニメを日本語で視聴することがやや難しく(※ 現在はWOWOWとAmazon PrimeのMTVでのみ、シーズン15から23まで視聴可能)、“South Park: The Stick of Truth”とその続編“South Park: The Fractured But Whole”が日本語に対応していないことも相まって、国内では前述した幾つかの“文脈”を抑えること自体がそもそも難しい!という状況にあるわけです。
先ほど“文脈”のことを挙げましたが、詳細や背景はおいおいご紹介するとして、「サウスパーク:スノーデイ!」がどういった立ち位置の作品なのか、前もって簡単に説明しておくと、本作は“South Park: The Stick of Truth”とその続編“South Park: The Fractured But Whole”の出来事を踏襲した上で、アニメシリーズのとある重要エピソードの直接的な続編を“アニメの長編エピソードに匹敵する規模”で描く、文字通りサウスパークの歴史を踏まえた最新作だと言えます。
しかも本作は原作アニメシリーズにおける近年のスタイルとは大きく異なる、いわば原点回帰的とも言えるアプローチをとった、ちょっと変わったバランスの切り口を特色としていて、これが評価を分けるポイントの1つになっていることも大きな特徴だと言えるでしょう。
ということで、「サウスパーク:スノーデイ!」が非常にハイコンテクストな内容で、かつ“サウスパーク”作品としての見所が大いにあるにも関わらず、その魅力が伝わりづらい状況があまりにもったいなく思えるので、本作の(幾分か説明の必要な)魅力を十分伝えられるよう、3回にわけて解説記事を用意することにしました。
前置きが長くなりましたが、第1回となる今回は、前述した文脈を掘り下げる前に、まずは「サウスパーク:スノーデイ!」がどんなゲームなのか、その全体像と各種プレイ要素の具体的なディテールをまとめてご紹介します。
THQ Nordicの新作「サウスパーク:スノーデイ!」は、記録的な大雪に見舞われたサウスパークを舞台に、休校を喜ぶ子供たちのお祭り騒ぎを描くCo-opアクションゲームで、対応プラットフォームはPS5とXbox Series X|S、Nintendo Switch、PC。
開発はThe Magic CircleやThe Blackout Clubといった個性的なタイトルを手がけてきたカリフォルニアのデベロッパ“Question”が担当しているほか、“サウスパーク”のクリエイターであるお馴染みトレイ・パーカーとマット・ストーンのSouth Park Digital Studiosが製作を率い、両氏自らが脚本やストーリー、製作総指揮、ボイスアクト等を務めています。(※ 本作のストーリーと脚本にはTVシリーズや“South Park: The Fractured But Whole”、“South Park: Phone Destroyer”でも活躍したジャミール・サリームも参加)
また、本作は近年の“サウスパーク”ゲームとして初の本格3D作品となっていますが、アニメと同等の品質の2Dカットシーンも用意されており、こちらはアニメのSouth Park Studiosが制作を担当。もちろんこちらでもトレイ・パーカーとマット・ストーンが制作を率いていることから、オリジナルアニメシリーズや近年のスペシャル、“South Park: The Stick of Truth”や“South Park: The Fractured But Whole”と同じく、正当かつオーセンティックな“サウスパーク”作品となっています。
前述した通り、「サウスパーク:スノーデイ!」は“South Park: The Stick of Truth”以降の本格RPG路線を離れ、三人称視点の3Dアクションに舵を切った新作で、最大4人でわいわい楽しめるカジュアルなCo-opアクションや、カードベースのローグライト要素が最大の特徴だと言えるでしょう。
このローグライト要素は、様々なカードを引くことでキャラクターや武器、パワーを強化するもので、思いのほか本格的なシステムが用意されていて、キャラクタービルドやカードのデッキ構築的な要素こそ省かれてはいるものの、ラン毎に楽しい戦闘や軽めの試行錯誤を提供する、カジュアルさ重視のちょうどよいバランスのアクセントとなっています。
プレイを始めた際のゲームは、子供たちが人間とエルフ勢力に分かれて戦う5章構成のストーリーキャンペーンを通じて進行していくのですが、まずはベースとなる戦闘とローグライト要素に焦点を当て、幾つかの基本的なディテールをまとめておきます。
■ 「サウスパーク:スノーデイ!」の戦闘について
本作の戦闘は、プレイヤーが装備した近接武器と遠隔武器、2種類のパワーが基本となり、これを後述するカードで強化することによって進行します。
武器は近接と遠隔がそれぞれ3種類、いずれも強力なチャージ攻撃が利用でき、加えて様々な効果を持つ8種類のパワーが用意されているので、まずはそのラインアップをご紹介しましょう。
■ 近接武器
- ダガー:二刀流で素早い連続攻撃を繰り出し、相手に出血効果を与える。チャージ攻撃は前方へ勢いよく突進する連続攻撃。最初に使用できる武器で、扱いやすい。
- 剣と盾:チャージで盾を構え防御できるバランス型の武器。敵の遠隔攻撃に対して有利。
- 両手斧:ひと振りで複数の敵をなぎ払う。モーション遅めの大振り大ダメージ武器。チャージ攻撃で回転攻撃ワールウィンドを繰り出すほか、空中で攻撃を発動すると真下に急降下するエアスラムを放つ。強い。
■ 遠隔武器
- 弓:オーソドックスな弓。精度の高い遠隔攻撃が可能。チャージで敵を狙撃できるが、即着ダメージではない。3種の遠隔武器の中で最も遠距離戦闘向けだが、強化によっては近距離の乱戦時にも有効。
- 魔法使いの杖:火の玉を投げる中距離向けの投擲攻撃。チャージ攻撃で、大きめの範囲攻撃となる。
- 杖:近距離向けのいわゆる火炎放射器系武器。チャージ攻撃はなく、長押ししている間、炎を前方に放つ。
パワーについては、以下に紹介する8つの中から、同時に2つを装備でき、どちらも任意に発動可能ですが、使用時には“ムカつき”と呼ばれるリソースを一定量消費します。
“ムカつき”度はプレイヤーのヘルスバーの上に表示され、戦闘でダメージを与えたり攻撃を受けることで、ゲージが貯まっていきます。
■ 8種のパワー
- バブルシールド:プレイヤーを包むシールドを発生させ、飛来する遠隔攻撃を敵に打ち返す。
- ブルラッシュ:おならで前方に突進するチャージ攻撃。進路上の敵を巻き込んで突進するので、混戦から脱出しやすい。
- ドローンボム:敵を自動で追尾し爆発する飛行ドローン。連発できるため、様々な状況で安定して活躍してくれる。
- ファート・エスケープ:おならで上方へ飛び上がり、グライドでゆっくりと着地する。おならで敵を状態異常にするほか、移動用の能力としても利用可能。
- 重力爆弾:空中に風船上の虚無を発生させ、敵を吸い込んでダメージを与えるクラウドコントロール系パワー。
- ヒーリングトーテム:効果範囲内のプレイヤーと仲間を回復させるトーテムを設置。カード強化で蘇生能力や攻撃バフも付与できる優れもの。
- スノータレット:自動で雪玉を射出する大型のタレットが設置できる。敵の攻撃によって破壊されるので設置場所に注意。
- トリップ:ネコのおしっこをかけることで、敵を一時的に味方に転向させ戦わせる。射程は短いが、スプレー系の射出で複数の敵を一度に転向できるため、クラウドコントロールと与ダメージの両方を一度に兼ねる非常に強力なパワー。
なお、本作の近接武器と遠隔武器、2種のパワーは、ハブエリアであるクーパ・キープ内であれば、いつでも自由に変更可能です。
プレイヤーが選択した近接武器と遠隔武器、2つのパワーは、ミッションのラン中に得られるアップグレードカードを通じて強化でき、この選択によってプレイスタイルが大きく変化します。
この強化は一度のランスルーでのみ有効で、提示されるアップグレードカードは装備に応じてランダムに選ばれるため、これが本作のリプレイ性を大きく高めています。
ストーリーキャンペーンの各チャプターは、6つ程度の連続するミッションで構成されていて、ラン開始時に1枚、ミッションクリア時に1枚が選択できるほか、レベル環境をくまなく探索することでも取得済みアップグレードカードのレベル強化が得られる場合があります。
この他、チャプターの開始時に選択できる、使用回数に制限のある強力な“クソ強”カードが取得できるほか、敵側も同様にランダムなアップグレードカードと“クソ強”カードを選ぶことで、プレイスルーにさらなる変化が生じるわけです。
加えて、チャプターのラン中には、ゴスキッズのヘンリエッタが登場する場合もあり、前述のアップグレードカードやクソ強カードとは異なる、強力な効果を持つタロットカードが選択できます。
こういった要素が互いに絡み合って、本作のローグライト要素を構成しているのですが、70種を超える多彩なアップグレードカードには5段階のレアリティ(ふつう ≪ めずらしい ≪ 希少 ≪ 伝説級 ≪ 超伝説級)やランクも存在していて、その効果が大きく変化するため、一度アップグレードカードの具体的なディテールを見てみましょう。
これは、アップグレードカードの一例ですが、70種を超えるカードは、主に4種のカテゴリ(近接武器用強化、遠隔武器用強化、パワー用強化、プレイヤー能力の強化)に分類されます。このカード4枚は、各カテゴリから1枚ずつ例として選んだものですが、ここだけを見ても様々な効果を用意していることがお分かりいただけるでしょうか。
個々のアップグレードカードは、概ね上記のような構成で内容と効果の詳細を確認することができます。
アップグレードカードの効果は、レアリティとレベルによって強化され、この両方を高めると途方もない強力なコンボや攻撃を繰り出すことが可能になります。
以下、分かりやすい例として、弓を強化する2種のアップグレードカード“マルチショット”と“跳弾”がレアリティとレベルでどう変化するか、その詳細を見てみましょう。
例えば、弓でプレイ中に運良くマルチショットと跳弾のカードを両方入手した場合、複数の矢がそれぞれ複数回跳弾するよう変化することから、全てのレンジでとんでもないダメージをたたき出すことが可能になるわけです。(至近距離で放てば、複数本の弓を全て命中させることができ、中~遠距離でまとまっている敵は跳弾で一掃できる)
なお、入手したカードのラインアップはバターズが管理する“法の書”と呼ばれるカード収集用のシートブックで確認できます。
上掲のページを見ると分かるとおり、まだ入手できていないカードが存在していますが、これはゲーム内に用意された各種チャレンジをクリアすることでアンロックされ、使用可能になるという仕組みになっています。
このように、「サウスパーク:スノーデイ!」にはフルセットに近いローグライト要素が用意されているのですが、キャラクターのレベル進行やカードのデッキ構築は存在せず、シナジーを緻密に組み立てる必要もさほどないため、みんなでワイワイガヤガヤ、楽しい乱戦が毎回新鮮に楽しめる、カジュアルな面を強化するためのローグライト要素として機能しているわけです。
先ほど、アップグレードカードによる武器やパワーの強化は、プレイスルー毎にリセットされるとご紹介しましたが、「サウスパーク:スノーデイ!」には、これとは別に永続的な強化システムとして、ネスト型のパークツリーが用意されています。
これは、プレイ中に取得できるリソースの一つ“ダークマター”を集めて拠点のクーパ・キープに持ち帰り、みんな大好きミスター・ハンキーに渡すことで獲得できるもの。
このパークには、与ダメージの増加や移動速度の向上、獲得リソースの増加、死亡時の復活、ラン中に出現するアップグレードカードの品質向上など、30種に及ぶパークが用意されており、たとえミッションをクリアできなくとも、ラン中に取得したダークマターが累積して貯まっていくことから、プレイを重ねることで、どんどんキャラクター本人の性能を向上させることが可能になります。
また、取得するパークの構成は、キャラクターの性能を少なからず左右することから、ビルド構築に近い側面も持ち合わせていますが、容易にリスペックできるため、色々なアイデアや組み合わせを気軽に試すことができます。
「サウスパーク:スノーデイ!」は、エルフと人間勢力に分かれて戦う子供たちの戦いごっことお祭り騒ぎを描くストーリーキャンペーンを軸に進行しますが、これとは別に「To Danse with Ravenous Shadows」と呼ばれる無料DLCの配信が開始されており、これを導入することで純粋に戦闘だけを満喫できるウェーブ形式のHorde系サバイバルモード「Ravenous Shadows」が利用可能になります。
ゴスキッズのヘンリエッタが案内する「Ravenous Shadows」は、ストーリーを進めることで利用可能となりますが、小一時間かかるキャンペーンチャプターに比べ、1ランあたりのボリュームや専用マップもコンパクトで、より気楽にくり返し楽しめるため、リソース集めに適していると言えるでしょう。
本作の主軸といえるストーリーキャンペーンの内容については、“文脈”を含むストーリーの中身に関わってくるため、次回の解説記事で掘り下げますが、「サウスパーク:スノーデイ!」には今回ご紹介した様々な要素以外にも、プレイヤーの外観カスタマイズやクリア後のお楽しみとなる追加アクティビティ、さらにはシーズンパスによる追加武器や新規のゲームモードといったコンテンツ拡張も計画されており、気軽なカジュアル作品ながらも、長く楽しめる運用に期待したいところ。
また、ここまで駆け足でご紹介してきたローグライト要素のカジュアルなデザインとアプローチが、物足りないと受け止められているケースもあり、ゲームプレイ全体のペーシングやバランス調整、アクションの応答性といった品質不足のマイナス面が今後どう改善されるか、QoLの向上を含む全体的なボトムアップにも期待が掛かるところです。
ということで、「サウスパーク:スノーデイ!」の第1回解説はここまで。次回以降は、本作の目玉であるストーリーキャンペーンとお馴染みの人気キャラクターたち、マルチプレイヤー機能に焦点を当てつつ、本作を“サウスパーク”作品の一つとして味わうための基礎をカルチャー面から掘り下げていきますので、お楽しみに!
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