タイタンクエスト特集第2回:「Titan Quest II」に向けて改めて振り返る“Diablo系アクションRPG”の出自と歴史

2024年9月18日 11:40 by katakori
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「Titan Quest」

先日、続編「Titan Quest II」の登場に向けて当サイトのタイタンクエスト特集を開始し、第1弾として、2006年に発売された初代「Titan Quest」の魅力や概要、新エディションによる復活後の歴史などをまとめてご紹介しました。

本特集の第2回は、この初代「Titan Quest」と徐々に内容が明らかになりつつある続編「Titan Quest II」が属するサブジャンル「“Diablo”系アクションRPG」(Diablo-like)に焦点を当てて、その誕生やコンセプト、特徴を今一度改めて振り返ることで、群雄割拠の同サブジャンルにおける“タイタンクエスト”の位置づけや方向性を相対的に詳らかにする材料にしてみたいと思います。

「Titan Quest」シリーズも属するサブジャンル“Diablo”系アクションRPGとはどんなゲームなのか

現在の「ディアブロ IV」や「Path of Exile」に象徴される“Diablo”系アクションRPGというサブジャンル、国内ではしばしばハクスラと一言でまとめられたりしますが、ハック&スラッシュという用語には本来文脈的にアクションゲームとテーブルトークRPG由来の2つの異なる語義があり、このサブジャンルを一言で表す言葉ではないため、(日本だとハクスラで広く意味が通じることも多いため全然問題ないのですが、せっかくですから)この機会に“Diablo”系アクションRPGジャンルの定義を詳らかにしてみましょう。

一先ず、このサブジャンルをなるべく分かりやすく、過不足なく言い表すと、「戦利品のランダム生成システムと幾つかのローグライク要素を備えた斜め見下ろし型のハック&スラッシュ系アクションRPG」というのが最も適切と言えるでしょうか。

“戦利品のランダム生成システム”という文言ですが、これは実際は“Loot Based”と呼ばれているもの。少々ややこしいので、今回の特集記事では便宜上“Lootベース”と表記します。

また、“斜め見下ろし型”という表記ですが、正しくはアイソメトリックと呼ばれます。国内ではしばしばクォータービューと言い換えられますが、これは日本で長年に渡って用いられてきた造語ですので、そのことを念頭に置きつつ、アイソメトリックの表記を併せて覚えておくのが良いかと思います。
(※ Isometric、元々は等角投影法の2D作品を指していますが、3D化が顕著な近年は技法上厳密な等角投影法でなくとも、ざっくりアイソメトリックにまとめられます)

話が逸れましたが、こうやってまとめてみるとどうにも長すぎるので、端的に“Diablo-like”と分類するのが最もてっとり早いわけですが、近年こういったカテゴライズはますます有機的に他のサブジャンルと結びつきながら複雑化しており、ローグライクやハック&スラッシュといった個々のゲームメカニクスについても、一部ジャンルの構成要素として一体化しつつあるような状況も多く見受けられます。

また、前述の長い定義から幾つかの要素が欠けたり、或いは要素を別の何かと入れ替えるだけでも、全く近しくない別のサブジャンルになってしまうことも珍しくありません。例えば、一部の「ゼルダの伝説」作品や傑作「ELDEN RING」はまさにハック&スラッシュ系アクションRPGですが、Lootベースの作品ではありませんし、ご存じ「Destiny」や「ボーダーランズ」、「Tom Clancy’s The Division」はLootベースのアクションRPGですが、所謂“Diablo”系アクションRPGとは明確に異なる“ルーターシューター”という独自のジャンルを形成しています。

「Divine Divinity」
参考:“Divine Divinity”(2002)のスクリーンショット、当時は完全日本語版も販売されました

少々古いですが、アイソメトリック系アクションRPGである「Divine Divinity」(Larian Studiosが生んだ“Divinity”シリーズの記念すべき第1作目)などは、パッと見たところ“Diablo-like”風の作品ですが、実際はストーリー体験重視のLarian的オープンエンドCPRGであり、全く“ディアブロ”風ではありません。もちろん、「HADES」や「Weird West」、「The Ascent」、「No Rest for the Wicked」といった近年の人気タイトルにも同様のことが言えるわけです。

この辺りの感覚や違和感は、Steamの各ジャンルカテゴリで代表的な高評価タイトルをざっと眺めてみると分かりやすいかもしれません。(参考:アクションRPGハックアンドスラッシュローグライク&ローグライト

「Titan Quest」
参考:SteamにおけるアクションRPGカテゴリの高評価上位作品
当サイトのデイリーな記事では、“Diablo-like”を主にアクションRPGとして紹介していますが
この一言では、やはり要素が足りていないことが分かります
「Titan Quest」
こちらはハック&スラッシュカテゴリの高評価作品
一目で分かる通り、“Diablo-like”に対するハクスラ呼びの難しさが分かります
「Titan Quest」
こちらはローグライクとローグライトカテゴリの高評価作品
“Diablo-like”は間違いなくローグライクから誕生したジャンルですが
この並びを見ると、ローグライクから大きく剥離していることが確認できます

また、“Diablo-like”そのものについても、近年な様々な変化と進化を見せていて、主要タイトルにも個性豊かな違いや特性、アプローチ、試行錯誤が見られる一方で、変化の中にはトレンドと呼べるような類似性や傾向も見られます。

当の「Titan Quest」は、まさに生粋の“Diablo-like”であり、(2000年に発売された“ディアブロ II”がまだまだ支配的だった)2006年当時は強く切望された“Diablo-Killer”の一角でもあったわけです。

しかし、数々の“Diablo-Killer”が実際にディアブロの牙城を崩すには至らず、近年までこのシリーズタイトルが軸となり、自らサブジャンルそのものを再規定しながら、(良くも悪くも)新たなトレンドと新しいカウンターを生みだしてきた歴史は、熱心なゲーマーならよくご存じかと思います。

それにしても、このサブジャンルを最初に定義した初代“ディアブロ”とは、一体どんな作品だったのでしょうか。

“Diablo-like”の本質は、初代“ディアブロ”の極めて強固なコンセプトに宿ったものであり、この誕生と成功を改めて振り返れば、サブジャンルの本質的な魅力や特性が分かるかもしれません。

「ディアブロ」誕生の背景と出自、中毒性の裏側、没頭のデザイン

「Titan Quest」

“Diablo-like”と呼ばれるサブジャンルを築いた「ディアブロ」は、名門“Blizzard North”とその前身“Condor”の共同創設者兼社長を務めたDiabloの父David Brevik氏が高校生の頃から温めていた企画で、(要点を簡潔にまとめるため詳細な時系列は省きますが)元々はローグライクなCRPGを初代“X-COM: UFO Defense”のアイソメトリックなタイル手法で現代化するターンベースRPGとして構想されたものでした。

“ディアブロ”の開発が本格化した1993年後半から1994年前半頃は、ちょうど“DOOM”(1993年12月10日発売)が登場し、爆発的なヒットを記録していただけでなく、家庭用ゲームの人気と需要も高まっており、すぐに遊べるハイペースな体験のゲームが次々と登場するなか、(かつてのUltimaやMight and Magicのように)キャラクターの出生や大量のステータス値を細かく設定し、じっくり遊ぶスローな手続きベースのCRPGは、ビジネス的に“売れない”ジャンルとされ、緩やかな凋落を続けていました。

David Brevik氏が構想を練っていた“ディアブロ”は、プレイヤーの面倒な手続きや準備、ストーリーさえ省き、ローグライクの戦闘と探索をすぐに遊べる現代的なタイトルとして考案したもの。すぐに遊べるという点においては、スタート画面でボタンを数回押すだけで即ゲームが始まる“NHL ’94”などに感銘を受け、とにかく戦闘と戦利品に焦点を絞り、(面倒な手順を可能な限り省略して)すぐにプレイできるハック&スラッシュ的RPGを目指していました。

幸い、氏が“Condor”社時代に作成した初代ディアブロの最初のピッチ全文が今も残されているので、ターンベースの採用を含む当時の構想やコンセプトを容易に知ることができます。

■ 1994年に作成されたピッチの概要

  • リプレイ性と拡張性、汎用性を最大限に高めることを目標とするPC用RPG。(94年当時の)世のゲームがマルチメディアの贅をこらした作品に取って代わられ、壮大さと複雑さを追求するなか、ディアブロはハック&スラッシュや爽快感の高いゲームのオーディエンスを再び活気づけることを目指し、コンピュータゲーム市場で軽視されてきたニッチを埋めるための作品として生まれた。
  • 1994年時点で既に拡張ディスクの構想を掲げ、全く異なるテーマのコンテンツ導入を容易にするためにオープンなエンディングを計画していた。
  • 全ての行動は、ダイヤモンド型の正方形を敷き詰めたアイソメトリック視点のフロア空間で行われる。
  • ゲームの核となるのは、独自のダンジョンランダム生成システム(Dynamic Random Level Generation [DRLG] System)。これにより、部屋や通路、罠、財宝、モンスター、階段がランダムに配置され、プレイするたびに新しいゲーム体験が得られる。
  • ディアブロのDRLGエンジンには、ランダムな広間や部屋に加え、予め作成済みの迷路や地下聖堂といった大規模なセットピースを配置する機能があり、フロアのテーマ作りに役立つ。
  • プレイヤーキャラクターがダンジョンで殺されると、キャラクターはプレイヤーのハードドライブから完全に消去され、プレイヤーはゲームを最初からやり直さなければならない。
  • 拡張ディスクは、新装備やクリーチャー、罠、レベル環境のグラフィックスといったコンテンツを同梱する安価なものを多数販売する予定。拡張ディスクは1枚4.95ドル程度で、店頭のレジ脇での販売を想定。購入後にインストールすると、ディスクのコンテンツがDRLGエンジンに組み込まれ、ランダム環境や戦利品に用いられる。購入者には、新装備の1つを直接インベントリに提供するアイデアがあったほか、パック内のレア装備を描くコレクション可能なアートカードを同封することで、収集欲求を刺激する構想があった。(※ 現在のマイクロトランザクションに近いアイデアが存在していたことが分かる。ちなみに、このアイデアは、“Magic: the Gathering”のカードパック販売にインスパイアされたもの)
  • 開発期間はおよそ12ヶ月を想定。

もともと、ローグライク自体が手早く遊べる作品でもあったわけですが、ここでDavid Brevik氏たちが想定した本来の“ハック&スラッシュ”というのは、(先ほどご紹介したSteamのカテゴライズからも分かる通り)サブジャンルの一つとして海外で一般的に用いられている剣や武器による近接戦闘主体のアクションを指すものではなく、テーブルトークRPG“ダンジョンズ&ドラゴンズ”で戦利品の獲得だけを目的に、ストーリーのない単純な戦闘セッションを何度も繰り返す行為を指すものでした。つまり、“ディアブロ”のコンセプトとゲームメカニクスにおけるコアループは、“敵を倒して戦利品を獲得する”、この身体的な快楽のみを追求したものであり、同じロールプレイングゲームでありながらも、前述の伝統的な手続き型CRPGとは正反対のアプローチを取る、いわば“アンチRPG”と呼ぶのが相応しいような、文字通りニッチなものでした。

この後、Blizzard Northで色々すったもんだあり、本作は当初予定していたターンベース戦闘を取りやめ、既存のアセットを活かしたリアルタイム戦闘に移行するのですが、この実装に成功した歴史的瞬間を振り返ったDavid Brevik氏は、(当初はリアルタイム方式に強く反対していたものの)自らマウスで戦士を移動させ、クリックで敵スケルトンを殴り倒したその時、思わず“なんてことだ!最高すぎる!”と驚き、まるで天使から祝福されたような、自身のキャリアで最も晴れやかな瞬間を得たと語っています。(つまり、ここで“ディアブロ”は両方の意味を満たす本当のハック&スラッシュとなったわけです)

この身体的快楽をさらに補強し、ビデオゲームの強固なメカニクスに昇華させたのが、ローグライクにおいて装備やアイテムをランダム生成する戦利品システムや、マップのプロシージャル生成要素によるリプレイ性の強化、David Brevik氏が考案した色分けによるレアリティシステムでした。

「Diablo」

今や、(RPGやMMORPGのみならず、新生“God of War”を含むストーリー重視のシングルプレイヤーから近年のCall of Duty、果てはFortniteに至るまで)あらゆるジャンルで目にする色ベースのレアリティシステムですが、これはDavid Brevik氏が熱心にプレイしていたローグライクの1つ“Angband”の色付きテキストにインスパイアされたもので、初代“ディアブロ”は白(ノーマル)<青(マジック)<金(ユニーク)のみでしたが、同じくDavid Brevik氏が開発を率いた“ディアブロ II”にて、グレー(低級)<白(ノーマル)<青(マジック)<黄色(レア)<オレンジ(ユニーク)、緑(セット)まで拡張。その後、Blizzardがこれに手を加え、紫(エピック)やオレンジ(レジェンダリー)を含む“World of Warcraft”のレアリティを作り上げ、同作品が世界的なヒットを記録したことにより、このカラースキームが広く波及し、あたかもゲーマーの脳に直結しているかのような色ベースの段階的な希少感を世界的な共通認識として作り上げたわけです。

オリジナルのクリエイターであるDavid Brevik氏とErich Schaefer氏は、こういった個々の要素を組み合わせれば、単に“長い時間”ではなく、“無限”に遊べるRPGを作ることができると考えましたが、2人は計画の早い段階で、自分たちの作っているものが、比喩や例えではなく“スロットマシン”そのものであることに気付きます。

“ディアブロ”において、敵を倒して戦利品を得るというのは、スロットマシンにコインを入れてレバーを引き、当たりと外れ、大当たりの抽選を行うことと同じです。“ディアブロ”というのは、まさにモンスターの姿をしたスロットマシンが大量に闊歩しているようなゲームであり、次々とやってくるペースの速い抽選が、脅迫観念的とさえ言える極度に高い中毒性を生み出す、尽きることのない源泉となったわけです。

スロットマシンの下りをもう少しデザイン面から掘り下げると、これはつまり、プレイヤーの緊張や期待感を短い(抽選と報酬の)サイクルで維持させつつ、プレイヤーが自らを主体的に操作しているという場のコントロール感覚と知覚的集中によって、精神の“没頭”と快楽を意図的に生じさせるものであり、コアサイクルやペーシング、オッズの適切な調整による“没頭”のデザインこそが“ディアブロ”的体験の最も根源的な本質と捉えることができます。

こういった中毒性の高い劇薬ゲームに耽溺した経験がある方なら、この恐ろしさは重々ご承知かと思いますが、期待やフィードバックのループ、緊張の維持等に基づく没頭のデザインは、開発側のさじ加減や哲学によってその性質が大きく、かつ簡単に変異してしまいます。

この違いは、同一の技術から美しい大輪の花火と命を殲滅する恐ろしい爆弾が生まれるように、プレイヤーを楽しませるか、利用者の(近年、現実の金銭だけとは限らない)リソースを搾取するために用いるか、まさに正反対の性質になり得るもので、その手綱はパブリッシャーやスタジオ、クリエイターが握っています。

初代“ディアブロ”が生んだレアリティを含むスロットマシン的発明は、この後ビデオゲーム産業に多大な影響と応用的な波及をもたらし、一部の国ではルートボックスをギャンブルと見なすかどうか、法的な視点で議論されるような事態にまで発展するわけですが、David Brevik氏とErich Schaefer氏も当然この危険性やマネタイズのポテンシャルを把握しており、過去のインタビューにおいて、“ディアブロ”における中毒性の高いシステムがプレイヤーから金銭をむしり取るために作られたものではないこと、それよりもモンスターや戦利品が1つ増えるだけでも病みつきになるような感覚が楽しかったんだと述べ、戦利品を手に入れてキャラクターを強化する興奮、これが真の狙いだったと強調しています。

一方で、2人は例えどんなものであれ、善にも悪にも利用できると語り、近年のゲームにはこの仕組みを悪用するような意図も見受けられると明かした上で、没頭のデザインが(どのようなアプローチで用いるにしても)非常に有効なシステムであることは間違いないと伝えています。

この純粋性と悪用の可能性について言及したのは、David Brevik氏がもたらした“Diablo-like”の純粋な快楽こそが本質的な魅力の軸にあることを予め明示しておくためで、前述の善悪は本来合わせ鏡のような存在であるにも関わらず、(図らずも“ディアブロ III”がリアルマネーオークションハウスでその轍を自ら踏んでしまったように)軸や方向性、デザインの意図がずれた途端、本質的な経験が阻害され、全く面白くないゲームが生まれてしまった実例が幾つか存在するからに他なりません。

このさじ加減の難しい要素をどう扱っているか、個々の“Diablo-like”をスロットマシンに見立てて眺めてみると、その作品の強度が自ずと見えてくるかもしれません。

“Diablo-like”におけるローグライク要素について

前述した通り、“ディアブロ”の初期コンセプトは、(氏が大学時代に学内のUNIXマシンでプレイしたRogueやNetHack、Moria、Umoria、Angbandに代表される)ローグライクをモダンなインターフェースやビジュアルで遊ぶRPGだったわけですが、先ほどの定義づけでは幾つかの要素を“ローグライク”の一言で済ませてしまったため、これについても少しだけ掘り下げておきましょう。

前述した戦利品システムやレアリティも、元はと言えばローグライクから着想を得たものですが、ローグライクのランダム戦利品は非常に簡素なシステムで、“ディアブロ”の発明はこれにAffix(※ 接辞、prefix/接頭辞とsuffix/接尾辞からなる。“○○ ソード of △△”のような表記で様々なバリエーションを生む)やRandom Number Generatorを用いて非常に複雑かつ奥深い仕組みを作り上げたものでした。

先ほど一言でまとめてしまったローグライク要素は、マップのプロシージャル生成とパーマデス、未鑑定アイテムの識別の2つで、ストリクトな“Diablo-like”にはしばしば含まれているメカニクスですが、近年は一部が限定的であったり、完全なオプション、或いは全く含まれないタイトルなども存在しており、近年では必ずしもマストな要素ではなくなっていると言えるでしょう。

なお、近年は徐々に陰を潜めつつある戦利品の識別システムは、前述したスロットマシン的な中毒性を補強するためのアイデアでした。David Brevik氏は、レアリティと識別の2段階で期待値を保持することによって、1つのドロップで2回の抽選が楽しめる要素と捉えていたことを明言しています。

「Titan Quest」
参考:“NetHack”のスクリーンショット

蛇足ながら、ここで一旦脱線して、ローグライク(Roguelike)と呼ばれるサブジャンルに焦点を移してみましょう。ローグライクは、ご存じの通り80年代にUnixベースのコンピューターで広く遊ばれた“Rogue”に代表される“Rogue”的ゲームの総称ですが、ローグライクとは何か?というのは実のところ非常にやっかいかつセンシティブな問いで、ビデオゲーム史においてしばしば議論の的となってきた問題として知られています。

一応、これを定義づける主要な構成要素が2008年9月20日にベルリンで開催された記念すべき第1回IRDC(International Roguelike Development Conference)において策定されており、9種の高価値要素と6種の低価値要素からなる“Berlin Interpretation”(ベルリン解釈)が一般的な定義として広く用いられています。

■ 高価値要素

  • ランダムな環境生成によるリプレイ性の高さ
  • パーマデス、最初にプレイするキャラクターでのクリアは想定されていない
  • ターンベース
  • グリッドベース
  • ノンモーダル、戦闘を含む全ての行動が同じ方法で実行され、どの時点でも実行可能であること
  • 目標を達成するために複数の解決方法を考える必要がある複雑さ
  • リソース管理
  • ハック&スラッシュ(先ほどご紹介したTRPG由来の要素)
  • 探索と発見

■ 低価値要素

  • 1体のプレイヤーキャラクターを用いる
  • プレイヤーと同じルールが適用されるモンスター
  • 戦術的なチャレンジ
  • ASCII文字による描画
  • 部屋と通路によって構成される階層型のダンジョン
  • キャラクターの状態を示す各種数値

近年のビデオゲーム文化/ビジネスでは、この指標を元に構成要素をどの程度含んでいるかによって、主観的なさじ加減でローグライクと呼んでみたり、少ない場合にはローグライトと呼んだりしているわけですが、個人的にはこのベルリン解釈そのものに幾つかの問題があり、ローグライク的感覚を宿す最新のインディー作品などを鑑みるに、既に一部の要素が形骸化している一方で、ローグライト的体験を捉えることにも十分ではないケースがままあると感じています。

とはいえ、現代の“Diablo-like”には、一部でゲーム内ローグライク的(或いはローグライト)なコンテンツを再帰的に導入する動きも見られるため、個々のタイトルがどこに力を入れ、何を除外したか判断する際には、今も有用な指標だと言えるでしょう。

ローグライクの定義に関する難しさは、一連の作品が最も多く遊ばれた80年代初頭には、これを体系的に定義付ける動きが起こらず、90年代以降になって全体を見直す動きが始まり、前述のベルリン解釈が2008年に作られたという30年近い歳月がまさに体現しているわけですが(ローグライクの始祖とされる“Rogue”があくまでジャンルを普及させた名作であり、完全な原点とは言えず、前述した定義を広く満たす1978年の“Beneath Apple Manor”や1971年の“Star Trek”が存在した歴史なども踏まえると)、“Diablo-like”の原点はやはり“ディアブロ”(とサブジャンルの型およびフォーミュラを完全なものにした“ディアブロ II”)そのものであり、この点においては全体像を整理するのが極めて容易なサブジャンルだと考えられます。

蛇足ながら、近年大人気のルーターシューターにも同じことが言えます。一般的にはお馴染み“ボーダーランズ”が(普及させたという意味で)ルーターシューターの原点とされる場合が多く見受けられますが、実際のオリジンは同じくDavid Brevik氏とErich Schaefer氏がFlagship Studios時代に開発を率いた悲劇の名作“Hellgate: London”であり、前述したローグライクの曖昧さとは違って、“Diablo-like”のオリジナリティが如何に強固なものであったかを示す分かりやすい例だと言えます。

“Diablo-like”にとってストーリーは重要か?

「Titan Quest」
重厚なストーリーを予見させる“Titan Quest II”のスクリーンショット

もう1点、多くの“Diablo-like”に共通するトピックとして、このサブジャンルにおけるストーリーについて言及しておきましょう。

「Titan Quest」は世界各地の古代神話に基づく見事な英雄譚を描いていて、“ディアブロ”シリーズは天界と地獄の戦争にまつわる壮大なバックストーリーを特色としていますが、実のところゲームをプレイしていると、なぜかストーリーが頭に入ってこない、実は自分が何をやっているのか全然分からない、そもそもダイアログを読んでいない、極論を言えば“Diablo-like”のストーリーに全く興味が沸かないという方も多くいらっしゃるのでは。

筆者はロアと名の付くものなら何でも大好物だと自認しているのですが、なぜか「Titan Quest」を含むほとんどの“Diablo-like”では、ゲームをプレイしていても、目が滑ってストーリーが全く追えず、後からきちんと整理するか、或いはそのまま放置、気が向けばダイアログに目を通すようなケースが少なくありません。

こういった現象もやはり“Diablo-like”のコンセプトに関係していて、頻繁な会話やカットシーンなどは“敵を倒して戦利品を得る”スロットマシンの回転効率を端的に阻害する要素となり、ゲームプレイの体験と快楽を損ないかねないわけです。

とはいえ、ストーリーが無くてもよいのかと問われれば、当然そんなことはなく、没入感を損なうようなリアリティの欠如もまた“没頭”を阻害する要因であることから、プレイを邪魔せず、それでいて魅力的なストーリーやストーリーテリング、重厚な作品世界を任意に掘り下げられるオプションとして充実させておくことは、スタジオの力量を示す見せ所であり、着目すると様々な工夫が見え隠れする面白い要素の一つだと言えるでしょう。

なお、初代“ディアブロ”がこの点においてどうだったかと言えば、David Brevik氏はストーリーのことなど全く考えていませんでした。シリーズの名称である“ディアブロ”は、今でこそ強大な悪魔の象徴的な名として浸透していますが、この名前はDavid Brevik氏がハイスクール時代を過ごしたカリフォルニア州ダンビルのディアブロ山から取ったもので、高校時代の氏が響きのカッコ良さから選んだ文言だったことが知られています。(当時、氏はこの名称がスペイン語で悪魔を指していることも知りませんでした)

来る「Titan Quest II」がストーリーをどういうウェイトで扱うのか、まだその詳細は不明ですが、続編の開発を担当するドイツのGrimlore Gamesは、“SpellForce 3”シリーズで重厚かつ複雑な物語とファンタジー世界を極めて緻密に構築したストーリーテリングとストラテジー/RPGハイブリッドの知られざる名手であり、今回ご紹介したスロットマシン的面白さと魅力的なストーリーの“さじ加減”は、新作の見どころになるだろうと期待しています。

ということで、タイタンクエスト特集の第2回はここまで。次の第3回は今回ご紹介した“Diablo-like”のコンセプトや基本的な構成要素を元に、現行の主要な“Diablo-like”作品に焦点を当て、サブジャンルにおける近年の傾向やトレンドを整理しつつ、「Titan Quest II」の登場に備えたいと思います。

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