PLAYISMでの『Dear Esther』日本語版配信を記念し、本作のプロデューサーでありシナリオを手掛けたthechineseroomのDan氏と、アート、デザインを担当したRob氏に特別インタビューを行いました。
今回は、その独創性に高い評価を得た『Dear Esther』誕生の経緯や、本作にインスパイアを与えた作品達、そして“良いストーリーテリング”に関する興味深い見解などが語られたインタビューの第1弾をお届けします。
Dan:イギリスのブライトンを拠点とするインディーズゲームスタジオ「thechineseroom」のDan Pinchbeckです。2007年にMOD開発のチームとしてスタートし、『Dear Esther』が初めての商業作品となります。
運営は私とJessica Curry(本作のライター兼作曲家)で行っており、ストーリー、ユーザー体験、感情的な体験に重きを置いたゲーム開発をしています。それと、本作では「LittleLostPoly」のRobert Briscoeとコラボし、彼に全アートとデザインをつくってもらいました。
Rob:そう、Danの言うとおり『Dear Esther』は私とthechineseroomとのコラボ作品です。LittleLostPolyと名前はついているけれど、今のところは私ひとりだけの会社です。ゲーム開発は2004年から携わるようになりました。
マップ造りからスタートし、後に環境アーティストとして『Mirror’s Edge』の開発に参加。その後、ちょっとクールダウンしたいなと思いながらも、休んでいる間に気が抜けてしまわぬよう、『Dear Esther』のリメイクを始めました。やっているうちに、ちょっとした活動の域を超えて、現在の『Dear Esther』が完成したというわけです。
Dan:元々『Dear Esther』は、2007年にイギリスのポーツマス大学で研究用の『Half Life 2』MODとして開発されたものです。
ファーストパーソンゲームでのストーリーテリングの手法やゲームプレイについていろいろ調査していて、じゃあ、一般的なFPSの要素をすべてなくした場合でも、プレイヤーに興味を与えられるのか、というのを研究したかったのですね。
結果的には、そのMODのダウンロード数は10万回以上に及び、十分に興味を与えられるということがわかりました。
Dan:研究のためでしたので、実は極めて実用的なアイデアに基づき、開発されました。
まず、動きを制限できるよう、舞台は自然と島に決まりました。そして、『Half Life 2』のアセットを利用しながら、でもあまり似すぎないようにするために、少し辺鄙な場所に設定しました。
Jessicaが作曲したBGMを聞きながら、スコットランドのアウター・ヘブリディーズ諸島にあるBoreray島をモチーフにした島を完成させ、その後にストーリーが生まれました。
Rob:確かに理解できない部分もわざと用意してありますが、決してプレイヤーを惑わせるためのものではなく、あくまでもプレイヤー一人ひとりに個々の解釈を持ってもらうためのものなのです。そこには、正しい解釈も正しくない解釈もありません。
ただ、すべてを明らかにしてしまうよりもほんの少しストーリーを提示することで、想像力でそのギャップを埋めようとしますよね。その行動が、良い物語づくりには欠かせないものだと考えています。
Rob:私にとっては、このプロジェクトを完璧に磨きあげるため、そして環境アーティストとして自分の可能性を広げるためですね。
実は、最初はビジュアルだけを変えようと思っていましたが、作業が進めば進むほど、この新しく生まれた環境によってストーリーをもっとおもしろく拡大できると思ったのです。
ゲームの環境は単なる背景じゃなく、ゲームストーリーにおける大切な一部として活かせるはずだと信じています。それで、『Dear Esther』のMODを元にして、その考えを実現してみようと思ったのです。『Dear Esther』は、探検の中に潜む物語がすべてです。しかし、元々のMODでは、探検の要素が非常に弱い。素晴らしい物語と歴史があり、音楽とナレーションがその空気感を表現していたのに、環境やビジュアルは、ちっとも役に立っていなかったのですね。
だから、私のミッションは、物語を支える環境を作ることではなく、環境によって物語とナレーションをもっと拡大させることでした。ストーリーのムードや雰囲気、その絶望的な寂しさ、その呪われた歴史、そしてストーリーの超現実的な部分を、もっとうまく伝えられるように環境を創りました。
そのひとつが、ランダムで生成される小さな「変化」ですね。落ちている本の種類が変わったり、壁面に文字が書かれたり、書かれなかったり……。そのランダム要素も、ストーリーのヒントを与えるものになりました。
Rob:実は、作業に取り掛かった最初の頃、インタラクティブな要素を取り入れることを少し検討しました。実際に簡単なパズル要素を試しに入れてみたのですが、Danが元々MODを介して作り上げた「FPSゲームモデルを利用しながらも、通常のゲーム概念を超える世界観」を薄めるだけでしたね。
それでも、例えばジャンプしたりしゃがんだり、物を手に取ったり、という動作は割と最後の方まで少し残してはいたけれど、テスターがウサギみたいにぴょんぴょんと跳ね回りながらペンキの缶をトイレの上に置こうとしているのを見たら、頑張って作ったゲームの雰囲気を壊す、無駄なものにしか感じられなかったのですね。
それで、結局すべて取り除いたんですが、操作の不自由さはプレイヤーをゲームの世界から切断するのではなく、むしろ逆にゲーム体験への没入を深めるものになったと思います。気を散らすものを取り除けば、プレイヤーが望む限り、自由にゲームの世界に浸ることができるのだと思いました。
Dan:実は、意見が分かれた、というわけでもないのです。ほとんどのプレイヤーは、これが「ゲーム」かどうかはどうでも良くて、話の本論は、ただ『Dear Esther』という体験がよかったかどうかに集中していました。今回リメイクするにあたっても、その意見は鍵になっていて、そもそも私らはゲームの理念を変えようなんてつもりはなくて、ただプレイヤーが没入できる体験をつくりたいだけなんですね。それをゲームで提示できるということがわかったから、それをもっと突き詰めたカタチでリメイクして販売することにしたのです。
と言っても、これが本当にゲームなのかという議論が出てきているのは事実です。でも、正直それは重要じゃなくて、作品として良いのか、没入できる体験があるか、プレイヤーに何かを与えられたのか。気にしているのは、そこですね。
Dan:私は東ヨーロッパの文学とゲームにかなりの影響を受けています。例えば、『Cryostasis』、『Pathalogic』、『メトロ2033』のようなゲーム、そしてストルガツキー兄弟、グルホフスキー、Bulychev、Bilenkinなどの作家。他にもフィリップ・キンドレド・ディック、J.G. Ballard、ウィリアム・バロウズ……。
でも、やっぱり一番のインスピレーションはFPSゲームです。元々のMODを作った時にFPSゲームのストーリーの研究をしていましたしね。それに、シューター大好きですから!だから、『Dear Esther』の源流を探っていけば『DOOM』に辿りつくでしょう!
もちろん、『Half Life』シリーズの素晴らしいストーリーテリングもそうですし、『S.T.A.L.K.E.R.』などにも影響を受けていますね。
Dan:良い質問ですね!私は、良いストーリーというのは、ゲームのデザインツールだと考えています。ゲーム全体を支え、システムを構築する役割を果たしてくれる。その意味では、『DOOM』は本当に優れたストーリーですね。決して深いわけでも、複雑でもないのですが、ゲームの内容とぴったり合わさって、上手くゲームを支えていると思います。
初代の『Half Life』もすごくいいですね。ただ、私の好きなゲームストーリーというのは、一般的なストーリーとして良いもの、というわけではないのです。『メトロ2033』の雰囲気が大好きで、本当にゲームシステムとして上手く機能していると思います。
あと、実はサバイバルホラーの熱狂的なファンで、『Silent Hill』は今でも大好きです。エンディングを迎えても、まだまだ言ってないことや解決してないことがたくさん残されており、それが天才的だと感じました。初めてクリアした時、ものすごくショックを受けましたね。あれから何年もたったけど、未だに覚えています。あと、『UFO』のシークレットエンディングも、素晴らしかったですね。
(インタビュー記事は明日に続きます。お楽しみに。)
- 開発:thechineseroom
- Windows用ゲーム
- ジャンル:アドベンチャー
- 配信価格:980円(税込み)
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