第2回と第3回の特集を通じて、シリーズ全体の基盤となる「バルダーズ・ゲート」そのものに関するあれこれをご紹介してきましたが、第4回となる今回の特集から、いよいよシリーズ最新作「バルダーズ・ゲート3」の具体的な内容の紹介を進めていきます。
今回の特集は、初回のゲームプレイを始めた際に、一番最初にやることになるプレイヤーキャラクター(主人公)の選択と作成に焦点を当て、その基本的なシステムに加え、本作最大の魅力の1つでもあり、現在海外メディアやコミュニティでとんでもない人気を博しているオリジン・キャラクターたち、さらに彼らと楽しめる濃厚なロマンスについてご紹介します。
参考:「バルダーズ・ゲート3」特集のリンク
- 第1回:日本語版の発売が迫る「バルダーズ・ゲート3」はどんなタイトルなのか、その魅力と海外で絶賛された評価について
- 第2回:初代“Baldur’s Gate”と共に振り返る「バルダーズ・ゲート」入門その1
- 第3回:「バルダーズ・ゲート」入門その2、2000年前後に訪れた海外CRPGの復活と“ファイナルファンタジーVII”
- 第5回:「バルダーズ・ゲート3」の多彩なプレイアブル“種族”とキャラクター情報の基本について
- 第6回:「バルダーズ・ゲート3」の“クラス”ガイド前編、キャラクターの特質を形作る“能力値”の基本も
- 第7回:「バルダーズ・ゲート3」世界の魔法とは何か?“クラス”ガイドの後編も
- 第8回:「バルダーズ・ゲート3」のゲームプレイに関する基本的なシステムについて
- 第9回:攻撃が当たらない!アイテム整理が大変?遂に国内発売を迎えた「バルダーズ・ゲート3」の序盤で役立つゲームプレイ情報まとめ
- 第10回:「バルダーズ・ゲート3」の背景にある“フォーゴトン・レルム”の歴史と物語について
まず、冒頭で主人公として選択できるキャラクターは、大きく2つに分類されます。1つは予めストーリー的な背景や出自、人物像、外見、ステータスなどが設定済みの“オリジン・キャラクター”。もう1つはプレイヤーが自由に種族やクラス、ステータス等を変更できる(独自の背景や出自をもたない)“カスタム・キャラクター”です。
どちらを選んだとしても、プレイヤーが選択しなかったオリジン・キャラクターは(1人の例外を除いて)パーティメンバーとして仲間に迎え入れることができ、共に冒険の旅を歩むことになるわけですが、誰でプレイするか、もしくはどんなキャラクターを作ればよいのか、“ダンジョンズ&ドラゴンズ”やクラシックなコンピュータRPGに不慣れな方にとってみれば、ここがまさに最初の大きなハードルになるはずです。
Larian Studiosの前作“Divinity: Original Sin 2”をプレイしている方であれば、主人公の選択やオリジン・キャラクターのシステムはほぼ同じ仕組みなので非常に分かりやすいかと思います。現行の“ダンジョンズ&ドラゴンズ”を楽しんでいる方も特に迷うことはないでしょう。
一方、旧“Baldur’s Gate”シリーズをプレイしてきた方については、キャラクター周りの仕組みがかつての“アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ 第2版”から大きく変わってしまっているので(面倒なTHAC0もなくなりました)、少し戸惑うかもしれません。
なにもかもが初めてだという方は、正直どこを眺めても意味不明で理解できず、おまけに情報量が多すぎて、何から手を付ければいいのか分からないという状況に陥るかもしれません。
実のところ、本作で一からキャラクターを構築するのは非常に複雑で難易度が高く、それ自体が1つの“沼”だと言えます。ですので、まず主人公選びをどうすべきか?という最初のハードルについて、不慣れな方向けの一番シンプルな解決方法をご紹介しておくと、既にキャラクターメイキングが終わっているオリジン・キャラクターの中から、プレイヤーキャラクターとなる主人公を選ぶのが最も手軽で手堅い選択、ということになります。
オリジン・キャラクターには、それぞれの出自に関する概要に加え、本人が自分の置かれた状況や目的を語るイントロが用意されていますので、素直に興味が惹かれたキャラクターを選択するのがオススメです。ただし、本作にはとても楽しいロマンスがあるので、推しになるかもしれないキャラクターの視点でゲームをプレイするのか、それともロマンス対象としてパーティに迎えるか、そこは少し考える必要があります。
何もかもが初めてで不慣れだと、戦闘における強さやプレイしやすさが気になるかもしれませんが、これについても掘り下げ始めると、やはり途方もない別の沼が待ち構えているので、まずは迷わず難易度を最も簡単な“探検家”にしてしまいましょう。(※ “探検家”にすると、敵のHPが減り、パーティのHPが増加し、アイテムの購入価格がかなり割り引きされるほか、サイコロを振る際の補正や各種判定も有利になり、ターン制限が設けられる特殊な戦闘で追加のターンが与えられるなど、かなり心強い調整が適用されます)
“探検家”であれば、高い安全性を確保しながら、歯ごたえのあるタクティカル戦闘も楽しめますし、難易度によってストーリーやコンテンツが制限されるようなこともありません。(唯一の例外として、“探検家”難易度ではマルチクラスが利用できませんが、これもまたゲームを非常に複雑にする悩ましい要素なので、戦闘やシステムに慣れるまで手を出さないのが吉です)
難易度はゲームのプレイ中でも自由に変更することができるので、ゲームの難しさに頭を悩ませるよりも、簡単な難易度で自分だけの物語と探索をどんどん進めて、プレイヤー本人の経験値を上げるほうが冒険の旅をよりエンジョイできると思います。
■ カスタム・キャラクターを利用する場合
カスタム・キャラクターを選択した場合は、主人公の種族とクラス、背景、6種の能力で構成される能力値、技能を自由に設定できるほか、キャラクターの外見を非常に細かくカスタマイズでき、ノンバイナリーを含む性自認や声色まで変更可能です。
カスタム・キャラクターの作成やレベルアップ時に役立つ種族やクラス関連の情報については、今後数回の特集を通じて詳しくご紹介しますが、本作のキャラクターカスタマイズは非常に選択肢が多いため、極端なミスマッチが重なってしまうと、プレイが困難になる場合もあり注意が必要になります。
こういった問題に直面しないよう、カスタム・キャラクターとオリジン・キャラクターの能力値調整時には、“推奨を使う”という自動設定が用意されており、プレイヤーが選択したクラスやキャラクターに適した能力値を自動で設定してくれますので、迷わずこれを利用しましょう。
キャラクターの強さや有用さは、クラスと能力値の組み合わせだけで決まるものではありませんが、とりあえずこの“推奨”だけでも抑えておけば、序盤で“詰んだ!”と感じるような状況は避けられるはず。また、ある程度プレイを進めた状態でクラス選びやレベルアップ時の各種選択をやりなおしたいと感じた場合、少しゲームプレイを進めた段階でクラス選択とレベルアップのやり直しが利用できるようになります。僅かにゴールドが必要ですが、このやり直しは気軽に試すことが可能です。
このクラス変更機能は、主人公だけでなく、仲間になったオリジン・キャラクターのクラス変更やレベルアップのやり直しにも対応しています。“探検家”難易度であれば、ゴールドにも余裕がでるので、心配ご無用。
クラシックなRPGに不慣れでプレイに不安がある方は、“探検家”難易度と出来合いのオリジン・キャラクターを選ぶ。どうしてもカスタム・キャラクターでプレイしたい場合は能力値の“推奨”を忘れない。この組み合わせを是非覚えておいてください。
「バルダーズ・ゲート3」は、選択したキャラクターや種族、プレイヤーの行動・選択、ダイスロールの結果等に応じて展開がばんばん変化するので、実際にプレイしてみると、あれもこれも全てが気になりすぎて、やり直しや周回欲に駆られがちです。本作は掘っても掘っても新しい何かが出てくる底なし沼のような超大作なので、凝ったキャラクタービルドやカスタムキャラクターの作成はゲームに少し慣れてからでも全く問題ありません。恐れることなく、まずはお気軽にイージーにゲームを進めていきましょう。
■ 「バルダーズ・ゲート3」はチュートリアルと用語解説も充実
ゲームのプレイ中には大量の“ダンジョンズ&ドラゴンズ”用語が頻出しますが、本作には(キャラクターの作成時を含む)ゲーム中にいつでも参照できる非常に便利なハイパーリンク形式の用語解説機能が用意されています。これがとても高機能なので、使い方とその例を簡単にご紹介しておきます。
ゲーム内のUI/HUDには、多くの項目や要素に“詳細を表示する”機能が予め用意されており、これを利用すると、その解説が簡潔な文章で表示され、この解説に含まれる“ダンジョンズ&ドラゴンズ”用語は薄い黄色の文字で強調表示されます。
表示した解説に別の“ダンジョンズ&ドラゴンズ”用語が含まれる場合は、さらに用語の数だけ解説枠(子)が追加で並べて表示され、その中にさらに用語が含まれる場合はさらなる解説枠(孫)が表示され、という具合でどんどん用語を掘り下げていくことが可能です。テキストで解説すると分かりにくいので、画像で確かめてみましょう。
さらに、この用語解説とは別に、ゲームプレイの進行に併せてポップアップ表示されるチュートリアルが多数用意されているほか、チュートリアルをまとめたメニューもしっかり用意されています。
チュートリアルの表示は設定から切り替え可能で、慣れればオフにできますが、リセット機能も用意されているので、プレイスルーの途中でも1から改めてチュートリアルを再表示させることも可能です。
ということで、主人公の選択システムとチュートリアル周りの紹介はここまで。では、本作にはどんなオリジン・キャラクターが用意されているのか、個性的な面々を順に紹介していきましょう。
なお、今回のキャラクター紹介では、ゲームプレイの驚きや楽しみを極力そこなわないよう、出自や背景に関する詳細はゲーム開始時点で把握できる程度の内容に抑え、人物的な魅力やプレイ時の役割、特性等にフォーカスしてご紹介します。
1人目は見るからにキザそうなイケメン「アスタリオン」から。憎らしいほど顔のいい“ワルい”男!(Detroit: Become Humanのイライジャ・カムスキーとギャビン・リード役でもお馴染み)俳優ニール・ニューボーンの名演が冴え渡りすぎる「バルダーズ・ゲート3」で最も人気の高いキャラクターの1人です。
“アスタリオン”はバルダーズ・ゲート出身のハイ・エルフで、クラスは“ローグ”。特筆すべきは、200年以上生きているヴァンパイア・スポーンであり、マインド・フレイヤーによって脳内に埋め込まれた幼生の力で、太陽の下でも活動できる驚きの進化?を遂げた存在ということでしょう。
ヴァンパイア・スポーンというのは、本物のヴァンパイアに血を吸われた犠牲者がクリーチャー化した“ヴァンパイアの落とし子”を指すもの。“ダンジョンズ&ドラゴンズ”世界のヴァンパイア・スポーンは、自分を作り出したヴァンパイアに支配されており、主の血を飲むことが許された場合のみ真のヴァンパイアになることが可能です。
“アスタリオン”は、幼生の力によって昼間の行動が可能になっただけでなく、前述した血の呪いからも解放され、200年に渡って自分を奴隷として使役したかつての主に対する復讐を固く誓っています。
ゲームプレイにおいては、ステルスやスニークアタック、解錠、罠の解除、索敵等が得意な盗賊系のキャラクターですが、ハイ・エルフの種族特性として簡単な呪文も使用可能で、さらに任意の対象の血を吸うことでバフと回復を得る“吸血の噛みつき”も使える便利屋さん。
“アスタリオン”は、貴族のように優雅な振る舞いと流れるように口を突いて出てくる皮肉や悪口が印象的な一方で、ときおりサディスティックな冷徹さも見え隠れするような、いわゆる“危険な男”ですが、同時に自分の魅力を分かっている独善的な快楽主義者でもあり、かわいげと高慢と小憎らしさを固めて出来上がったような人物です。
また、“アスタリオン”は本作の画一的ではない奥深い心理的表現と善悪の描写を象徴するようなキャラクターで、彼にまつわる善と悪の深淵をのぞき込むような、その境界が極めて曖昧な物語は、個人的にビデオゲーム史上最も危ういバランスの挑戦的な達成だと感じています。
筆者はカーラック推しなんですが、“アスタリオン”の魅力は抗いがたいほど強烈で、うっかり何かに目覚るんじゃないかと思うほど。前述の通りコミュニティ人気もダントツで、ソーシャルメディアを通じて毎日大量のファンアートが噴出してくるだけでなく、物憂げな美しい顔を魅力的に撮影したスクリーンショットも多く流れてきて(なにしろ、Larian Studiosが自ら次々紹介してくるもんですから)、せっせといいねせざるを得ない充実した毎日を過ごしています。(参考:Xの#Astarion)
“アスタリオン”の優雅な魅力は、やはり俳優ニール・ニューボーンの力によるところが大きく、先日授賞式が開催された“Golden Joystick Awards 2023”では、見事Best Supporting Performer賞を獲得。年末の大規模イベント“The Game Awards 2023”でもベストパフォーマンス部門にノミネートされ、大きな注目を集めています。
プレイヤーキャラクターとして選択しなかった場合、最初に仲間になる人物として出会うのが、ギスヤンキのファイター「レイゼル」です。
“ギスヤンキ”は、旧シリーズをプレイ済み、かつ“ダンジョンズ&ドラゴンズ”に不慣れな方には余りなじみのない種族かもしれません。続編“Baldur’s Gate II: Shadows of Amn”のアンダーダークでマインド・フレイヤーに捕虜として捉えられていたグループや、シルバーソードのクラフトに絡んで襲撃してきたグループがまさにギスヤンキでした。
種族としての“ギスヤンキ”に関する情報は次回の種族特集回で詳しくご紹介しますが、“レイゼル”を含むギスヤンキたちは、かつてマインド・フレイヤーの奴隷だった歴史があり、マインド・フレイヤーの殲滅と根絶を目指しています。
この対立は、「バルダーズ・ゲート3」のオープニング映像にも見られ、マインド・フレイヤーのノーチロイドを執拗に追うギスヤンキのドラゴンライダー達が描かれていました。
“レイゼル”はギスヤンキの女王ヴラーキスに絶対の忠誠を誓う若き戦士で、自身の身を立てるためにマインド・フレイヤーの首を持ち帰ることを強く望んでいます。(※ ギスヤンキにとってマインド・フレイヤーの首を獲ることは通過儀礼の一つでもあるわけです)
“レイゼル”は、(第3回特集で次限界の解説を行った際にご紹介した)アストラル界で育ったことから、物質界の社会とは全く異なる価値観や規範を持っています。自身の種族と女王に強い誇りを抱いていることから、異文化の考えや習慣と衝突しがちで、表面的には傲慢で怒りに満ち、目的を達成するためなら手段を選ばない人物に見える一方、実は非常に率直で強い意志を持つ情熱的な人物でもあります。
ゲームプレイにおける“レイゼル”は、文字通り頼もしい近接系の戦士で、タンクとして活躍してくれるほか、レベルが上がるとギスヤンキ固有のサイオニック能力を得て、機動力を高めることができます。
ウォーターディープで名を馳せた「ゲイル」は、芸術のように魔法の力を操る、卓越した才能を持つウィザードで、その天賦の才は魔法の女神ミストラの目に留まり、彼女の寵愛を受けるほどのものでした。
ある出来事でミストラとの関係が終わり、現在は贖罪の道を探す“ゲイル”は、非常に平和的で心優しく、知的で思慮深い、善行を重んじる好人物ですが、ある重大な問題を抱えています。
また、“ゲイル”は詩やワインを愛する非常にロマンチックな人物でもあり、ローンチ当初はオリジン・キャラクターの中で最もエッチなコンパニオンとして話題になっていました。(※ これはロマンス進行のバグによるもので、当時はアプローチが早すぎて思わず笑ってしまうほど積極的でしたが、現在は残念ながら?修正済みです)
ゲームプレイにおける“ゲイル”は、柔軟でクセのない、様々な状況に対応できるピュアキャスターで、攻守にかかわらず様々な局面で活躍してくれるでしょう。
また、様々な局面で役立つ“魅力”が他のメンバーよりも高めに設定されているほか、彼自身の物語が“ダンジョンズ&ドラゴンズ”的に見所の多い内容でもあるため、プレイヤーキャラクターとしてもオススメです。
「シャドウハート」は、前回の特集でご紹介した闇の女神“シャー”を信仰する敬虔なクレリックで、“アスタリオン”に並ぶ本作の人気キャラクターとして広く知られています。
“シャドウハート”は、極めて強い信仰心と動物を愛する心を持つハイ・ハーフエルフのクレリックですが、自身の過去を語ることは少なく、非常に慎重で、他者に対する警戒心が強く、謎の多い秘密主義な人物として描かれています。
その背景には、彼女が所持している謎の遺物(上掲のキーアートに描かれている奇妙な形状の物体がまさにその遺物です)とそれを巡る過去の出来事が関係しているようですが……。
ゲームプレイにおける“シャドウハート”は、唯一のクレリックとして回復や各種バフでパーティの戦闘を支えるだけでなく、序盤から大いに役立つ“祝福”や“導き”、“聖域”といった便利な呪文に加え、彼女が崇める“欺きの領域”由来の能力で冒険全体を通じて大活躍してくれます。
■ ビデオゲームカルチャーの新たなクィアアイコン
先ほど、“シャドウハート”は“アスタリオン”と並ぶ人気キャラクターの1人だとご紹介しましたが、この絶大な人気には、彼女のアクターである女優ジェニファー・イングリッシュの存在が深く関係しています。
現在、ジェニファー・イングリッシュはLarian Studiosの撮影チームを率いるパフォーマンス/モーションキャプチャーディレクターで女優としても活躍するAliona Baranova氏と交際しており、YouTubeとTwitchで“Jen and Aliona”チャンネルを開設し、2人で仲良く「バルダーズ・ゲート3」のローカルCo-opを楽しむ多幸感溢れるプレイ映像を多数公開しているほか、レイゼルやカーラックのアクターがゲストで出演するなど、大きな話題となっています。
(※ 余談ながら、Aliona Baranova氏は元々アクターとしてシャドウハートのオーディションに応募したものの、選考に落ち、その後Larian Studiosの撮影ディレクターとして採用された人物。つまり、ジェニファー・イングリッシュは本来、彼女が望んだ役を手に入れた疎ましい存在だったわけですが、ジェニファーと出会ってすぐ、その優れた才能と人柄に魅了され、多くを学んだそうです。一方、ジェニファー・イングリッシュにはADHDの特性があり、ベルクロだらけのモーキャプスーツを着用し、大量のカメラに囲まれる撮影においてフィジカル面での負担が生じていました。2人は互いに協力しながら撮影に臨む過程で、演技の対象であるシャドウハートと対峙するのではなく、ADHDの特性や現場で生じる困難さのなかにシャドウハートの本質を見出し、これを逆に利用することで、現在の人物像を作り上げたことが知られています)
また、“シャドウハート”は(その他のオリジン・キャラクターと同じく)パンセクシュアルながら、過去とその生い立ちにはクィアな共感を呼ぶ背景があり、ジェニファー・イングリッシュが彼女を演じたアプローチやゲーム中の(ロマンスに限らない)シャドウハートとレイゼルの関係性なども相まって、シャドウハートとジェニファー・イングリッシュがビデオゲームカルチャーにおける新しいクィアアイコンとして注目を集めているわけです。
この後、ロマンスの解説にて改めてご紹介しますが、「バルダーズ・ゲート3」は現存するAAAビデオゲームの中で最もLGBTQフレンドリーな作品であり、開発においても最先端の取り組みを進めている希有なタイトルです。本作のロマンスは、ほとんどの性的指向と性自認をカバーし、特定のセクシュアリティを意識することなく楽しめる素晴らしいコンテンツなので、“シャドウハート”(と中の2人)がそこで注目と共感を集めている人物であることには、大きな意義があると言えます。
「ウィル」は、ある出来事によって7年前にバルダーズ・ゲートを追放され、その後ソード・コーストの平和を守るためにモンスターや悪魔と戦ってきた正義の味方。レイピア一本で戦う彼は、いつしか人々から“辺境の刃”と呼ばれるようになりました。
しかし、あるやっかいごとに巻き込まれたことで(キーアートで分かるような気もしますが)問題を抱え、魔法使い“ウォーロック”になるのですが……。
こういった背景を持つ“ウィル”は、心優しく英雄的で、陽気な、端的に言えば“いいヤツ”。ただ、ちょっと抜けてるところがあって、かわいげもある魅力的な人物です。
なお、早期アクセス期間中の“ウィル”は、残忍な面を併せ持ち、自身の役割や責務に悩む二面性のあるキャラクターでしたが、製品版の発売に向けて人物像の全面的な刷新が行われ、現在の心優しく楽しい、前向きでオープンな性格に生まれ変わりました。これはファンのフィードバックに基づいて改善されたもので、3年に及んだ早期アクセスとファン参加型開発の有用性を示す事例だと言えるでしょう。
ゲームプレイにおける“ウィル”については、売買から戦闘、交渉まで、多くの場面で役立つ“魅力”の数値がオリジン・キャラクターで最も高いこと、“辺境の刃”と呼ばれる出自からレイピアの扱いに長けていること、そして最初から使用できるウォーロックの魔法“怪光線”(エルドリッチ・ブラスト)が極めて強力であることから、プレイヤーキャラクターとしても選択しやすい人物だと言えます。
「カーラック」は、前回ご紹介した次元界の中で、一般的に“地獄”として認識されている次元界“九層地獄”の第一層“アヴェルヌス”から逃げてきたティーフリングのバーバリアン。
悪魔のような角と大きく長い尻尾が印象的なティーフリングという種族は、地獄の血筋を持つヒューマンの一種で、呪われた忌むべき存在として都市や社会で強い迫害を受けています。
“カーラック”は、ティーフリングとしての厳しい出自だけでなく、戦士として地獄で10年に渡って奴隷のように奉仕させられた過去を持ち、さらには心臓に自分自身を灰にしてしまいかねない地獄の動力炉まで埋め込まれるなど、とんでもない逆境に身を置く人物ですが、彼女の性格はとにかく元気で陽気、誰にでもフレンドリーで情熱的、細かいことは気にしない楽天家、つねに前のめりでポジティブという、別の意味でモンスター級のメンタルを持ち合わせていて、幸か不幸かマインド・フレイヤーに捕まって地獄の脱出に成功したことを、人生の喜びと自由を謳歌する絶好のチャンスだと考えています。
ゲームプレイにおける“カーラック”は、非常に頼りになるバーバリアンで、近接戦闘だけでなく投擲にも秀でる初心者にも扱いやすい戦士として活躍してくれます。
3年に及ぶ早期アクセス運用を経て、製品版1.0のローンチ時に突如実装された謎のオリジン・キャラクター。それが「ダークアージ」です。
過去の記憶を一切持っていないにもかかわらず、(“Dark Urge”、闇の衝動という意味の名前が示す通り)残虐な衝動に駆られ自身の闇と対峙する人物として設定されており、オリジン・キャラクターの中で唯一、種族やクラス、外見、能力など、全ての項目を自由にカスタムできます。
つまり、“ダークアージ”は固有の出自を持つ特殊なカスタム・キャラクターという位置づけの人物ですが、プレイヤーキャラクターとして選択しなかった場合、“ダークアージ”は他のオリジン・キャラクターと違ってゲーム本編に登場せず、仲間としてパーティメンバーに迎えることができません。
カスタム・キャラクターでプレイする場合は、“ダークアージ”を選択してキャラクター作成を楽しみつつ、血塗られた謎の出自を追うというのも選択肢の一つになります。
もうご存じの方も多いかと思いますが、「バルダーズ・ゲート3」には、プレイヤーキャラクターと仲間との間で関係性が発展する本格的なロマンスが用意されています。
ロマンス対象となるのは、先ほどご紹介してきた(ダークアージを除く)6人のオリジン・キャラクターと、数人の登場人物。オリジン・キャラクター以外のロマンス対象については言及を避けますが、既知の1人として、クマセックスで世界を驚愕させたスケベすぎるドルイド“ハルシン”が知られています。
本作のロマンスは、機械的に好感度を上げた報酬として性的表現や性行為があるようなタイプの仕組みではなく、冒険と対話を通じて動的に変化していく相互理解や関係性をしっかりと深めていった先に生じる、ドラマチックでエモーショナルなコンテンツで、3Dキャラクターがマネキンのようにセックスしてみせる、なんとも気まずい即物的なものではなく、あのクマセックスからも想像が付く通り、もの凄いピロートークや極度に甘美で情緒的な演出に、絶妙なユーモアを混ぜてくるような、大人向けの描写を特色としています。(ときには信じられないような体位とか、直情的なシーンもあります)
この関係性は、冒険の旅や拠点での休息を通じて深まるケースが多いので、お目当てのコンパニオンとなるべく多く行動を共にすることを心がければ自然と物事が進んでいくはずです。
アクション要素を持たないオールドスクールなコンピューターRPGである「バルダーズ・ゲート3」において、最も現代的な要素がAAA品質のアニメーションとキャラクターの描写、そしてこの本格的なロマンスであり、これが本作を最先端のコンピュータRPGに位置づけている大きな原動力となっています。
本作のロマンスが革新的なのは、多くのプレイヤーに“自分のためのものじゃない”と感じさせない思い切ったデザインとアプローチ、そしてビデオゲーム産業のなかでも珍しい最先端の取り組みとアティチュードにあるので、少しその取り組みや特徴についてご紹介しておきましょう。
■ ロマンス対象キャラクターは全員がパンセクシュアル
ロマンスを導入している既存の大作には、異性愛者向けのキャラクターと同性愛者向けのキャラクターを分けているケースが見受けられますが、本作のロマンス対象キャラクターは、全員がもれなくパンセクシュアル(全ての性別に対して性的惹かれを持つ全性愛者)であり、プレイヤーの性別についても男女とノンバイナリーの選択が可能であることから、ヘテロ規範の画一的なものではなく、ほぼ全ての性的指向をカバーし、セクシュアリティそのものを謳歌し称賛するロマンスの構築に成功しています。
また、本作の作品世界(特にパーティメンバー間)では、性別や性自認、特定のセクシュアリティが問題になるようなこと自体が発生せず、パンセクシュアリティというよりも、むしろプレイヤーセクシュアリティといったほうが相応しいようなファンタジー世界が出来上がっているわけです。
加えて、こういった対応によってロマンスの表現や描写が弱くなるようなこともなく(まさに高品質なライティングが為せる職人技!)、プレイヤーは自分だけの性的指向とそのファンタジー、推しとの関係性を存分に追求することができるのです。
なお、本作のロマンス対象キャラクターは、確かに全員がパンセクシュアルですが、関係のオープンさや許容には個性があり、細かな言及は避けますが、ロマンス対象者の中には複数パートナーとの関係を否定しないポリアモリーや、1対1の関係を重視するモノガミーな人物も含まれており、ここでもある種のドラマが発生したりするのが本作の面白いところだと言えるでしょう。
■ ロマンスシーンの開発と撮影には、インティマシーコーディネーターを起用
ビデオゲーム産業では非常に珍しい、もう一つの取り組みとして、近年の映画やドラマ業界では広く一般化しつつある、“インティマシーコーディネーター”を起用したことが知られています。
“インティマシーコーディネーター”というのは、セックスや露出の高い衣装、キス、ヌード等に顕著な性的なシーンの撮影にあたって、俳優と制作側の間に立ち、俳優の身体的・精神的ケアや安全性を維持するための交渉、演技に臨むためのコーチングを行う専門家。「バルダーズ・ゲート3」の開発には、長年ドラマや映画、舞台で活躍してきたAsha Jennings-Grant氏がインティマシーコーディネーターとして参加し、数ある親密なシーンの撮影で様々な調整やガイドラインの作成を行いました。
ビデオゲーム産業では、Sam Barlow氏の傑作「Immortality」が実写シーケンスの撮影時にインティマシーコーディネーターを起用したことが知られていますが、実写ではないフルレンダリングのビデオゲームにインティマシーコーディネーターを起用したのは本作が初めての事例と見られており、撮影の現場では前例のないビデオゲーム向けの撮影に最適化したガイドラインやフローが構築され、俳優と撮影者だけでなく、ライターから映像編集者まで、撮影場所にいる全てのスタッフが詳細な情報を共有する体制が構築されたとのこと。
また、インティマシーコーディネーターが演技に介在することにより、これまでは俳優同士の感覚に任せていた性的な演技が(これにより、かつてはセックスシーンが本来演技であるにもかかわらず、俳優自身が個人的な行為を見せてしまったような感覚を覚えてしまったり、観客側も役柄と俳優を同一視して見るようなケースがままあり、大きな負担となっていた)、より一歩引いた客観的な状況で演技に集中することが可能になり、ロマンスシーンの品質そのものと親密さの表現が向上したと報じられています。
こういった本格的な取り組みによって、どんなとんでもロマンスでも安心して楽しめるというのも「バルダーズ・ゲート3」の大きな魅力の1つだと言えるでしょう。
■ 「バルダーズ・ゲート3」のロマンスはビデオゲーム文化の到達点か?
ほとんどの性的指向をカバーし、そこに捕らわれない大人向けのロマンス、多種多様すぎる性癖の数々、そしてインティマシーコーディネーターを起用した撮影時の取り組み等を考慮すると、「バルダーズ・ゲート3」が現存するAAAゲームにおいて最もLGBTQ+フレンドリーな作品であることは間違いありません。(もちろん、インディー分野には様々なマイノリティをテーマに扱う優れた作品が数多く存在していますが)
こういったところに限らず、Larian Studiosの過剰すぎる取り組みはある種の“異常さ”と常識を打破する情熱を多分に伴っているため、敢えて言及しておくと、「バルダーズ・ゲート3」のロマンスには、まだ取りこぼされている人々がいて、将来的にもっと優れた高みに到達できるはずだと考えています。
全く当事者ではない筆者が口にするのはとても差し出がましいのですが、本作のロマンス対象キャラクターたちは、大前提として性的惹かれに基づく関係性の構築を積極的に謳歌し、賛美する、文字通りロマンティックな存在であり、ここにアロマンティック(他者に恋愛感情を抱かない)やアセクシュアル(他者に性的惹かれを感じない)を含むエースたちの居場所はほぼありません。
もちろん、ロマンスが必須の作品ではないので(ただかなりのボリュームを占めています)、無視すればよいと感じるかもしれませんが、本作のキャラクター達は前のめりで関係を深めようと迫ってくるため、友情だけで終えることができず、性的な関係を断ると良い顔をしないケースなどもあり、場合によっては、ここでも現実か!と少々むなしく感じる方もいるのではと容易に想像できます。(※ テクニカルな問題や課題はさておき、例えば、プレイヤーとのロマンスではなく、コンパニオン同士のロマンスを見るとかどうでしょう。別の性癖を開花させる人が出そうですが)
世の中には、文字通り無限のスペクトルが存在するため、もちろん全てにおいて完璧なコンテンツを作り上げることは不可能ですが、「バルダーズ・ゲート3」でここまで到達したLarian Studiosならば、もっと先のファンタジーが描けるのではと、思わせてしまうところは、特集第1回のレビューまとめで言及が見られた、「テーブルトークRPGの再現におけるビデオゲームの限界性」にも似たトピックでもあり、これもまた「バルダーズ・ゲート3」が途方もない傑作であることを如実に示す1つの素晴らしい成果だと考える次第です。
ということで、オリジン・キャラクターとロマンスのご紹介はここまで。次回の特集は、さらにゲームプレイを掘り下げる重要な要素として、プレイアブルな種族に関する情報をご紹介しますので、おたのしみに!
■ 出典および参考資料
参考:「バルダーズ・ゲート3」特集のリンク
- 第1回:日本語版の発売が迫る「バルダーズ・ゲート3」はどんなタイトルなのか、その魅力と海外で絶賛された評価について
- 第2回:初代“Baldur’s Gate”と共に振り返る「バルダーズ・ゲート」入門その1
- 第3回:「バルダーズ・ゲート」入門その2、2000年前後に訪れた海外CRPGの復活と“ファイナルファンタジーVII”
- 第5回:「バルダーズ・ゲート3」の多彩なプレイアブル“種族”とキャラクター情報の基本について
- 第6回:「バルダーズ・ゲート3」の“クラス”ガイド前編、キャラクターの特質を形作る“能力値”の基本も
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- 第8回:「バルダーズ・ゲート3」のゲームプレイに関する基本的なシステムについて
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- 第10回:「バルダーズ・ゲート3」の背景にある“フォーゴトン・レルム”の歴史と物語について
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