先日スタートした当サイトの「バルダーズ・ゲート3」特集第1回では、来る日本語PS5版の発売に向けて、本作が海外で非常に高く評価された背景やこれまでにない再現度のテーブルトークRPG的経験、Larian Studiosが達成した驚くべき功績などについてご紹介しました。
参考:「バルダーズ・ゲート3」特集のリンク
- 第1回:日本語版の発売が迫る「バルダーズ・ゲート3」はどんなタイトルなのか、その魅力と海外で絶賛された評価について
- 第3回:「バルダーズ・ゲート」入門その2、2000年前後に訪れた海外CRPGの復活と“ファイナルファンタジーVII”
- 第4回:「バルダーズ・ゲート3」の魅力的なオリジン・キャラクターたちと主人公の選択、奥深いロマンスについて
- 第5回:「バルダーズ・ゲート3」の多彩なプレイアブル“種族”とキャラクター情報の基本について
- 第6回:「バルダーズ・ゲート3」の“クラス”ガイド前編、キャラクターの特質を形作る“能力値”の基本も
- 第7回:「バルダーズ・ゲート3」世界の魔法とは何か?“クラス”ガイドの後編も
- 第8回:「バルダーズ・ゲート3」のゲームプレイに関する基本的なシステムについて
- 第9回:攻撃が当たらない!アイテム整理が大変?遂に国内発売を迎えた「バルダーズ・ゲート3」の序盤で役立つゲームプレイ情報まとめ
- 第10回:「バルダーズ・ゲート3」の背景にある“フォーゴトン・レルム”の歴史と物語について
前回の特集でご紹介した通り、「バルダーズ・ゲート3」は過去作をプレイしていなくとも十分に楽しめる作品です。ゲームプレイのシステムは従来と全く違いますし、ストーリーやドラマはビデオゲーム史上最も魅力的で奥深いキャラクター達のやりとりと緻密に構築されたゲームマスターによる案内、プレイヤー自身の探索と選択によって駆動されるため、高品質なシネマティックと共に彼らが織りなす感動や興奮、恐怖、戦慄が目減りするようなことはありません。
一方で、本作は長い歴史を持つ「ダンジョンズ&ドラゴンズ」のビデオゲームとして、そして「Baldur’s Gate」シリーズの最新作として見ても、極めてオーセンティックかつ精巧に作られた巨大な作品であり、原作や過去作との関係はファン向けのサービスやカメオ程度に留まるものではなく、シリーズの歴史や過去作にある程度の理解があれば、面白さが大きく膨らむ文字通りの“ナンバリング”最新作でもあるわけです。
「バルダーズ・ゲート3」は単独でも十分に楽しめる作品である、というのを改めて前置きした上で、このプラスアルファについて言及します。
ナンバリングの3作目ですから、一般的には初代「Baldur’s Gate」(1998年)と続編「Baldur’s Gate II: Shadows of Amn」(2000年)をプレイしておけばよいだろうと考えるのは当然ですが、実のところシリーズの過去作はトリロジーとして既にかっちり完結していて、「Baldur’s Gate」と「Baldur’s Gate II: Shadows of Amn」、そして続編の大型拡張である「Baldur’s Gate II: Throne of Bhaal」の3つを合わせて、“バルダーズ・ゲートの英雄”或いは“ベハルの子”三部作とでもいうような壮大なサーガを描いていました。
では、Larian Studiosが開発を手がけた22年ぶりのシリーズ最新作「バルダーズ・ゲート3」はどういうタイトルなのか、簡単にまとめると、本作はLarian Studiosが2017年に発売した傑作「Divinity: Original Sin II」の全てを進化させ、「ダンジョンズ&ドラゴンズ第5版」のルールと融合させたシステムで、「Baldur’s Gate」シリーズの新たな物語を描くナンバリング最新作、ということになります。
実はこの説明でも全く十分ではないのが「バルダーズ・ゲート3」の恐ろしいところですが、細かいことは改めてご紹介するとして、これから初代と続編を初めてプレイするのは余りにもハードルが高すぎますし、昔クリアしたけどだいぶ忘れてしまったという方もきっと少なくないでしょう……ということで、特集の第2回は、過去作を改めてプレイしなくても済むよう、初代「Baldur’s Gate」を振り返りながら、シリーズの基礎となる情報をまとめる「バルダーズ・ゲート」入門その1をお届けします。
まずは、シリーズの名前にもなっている「バルダーズ・ゲート」についてですが、これはシリーズの舞台であるソード・コースト地方(“剣ヶ浜”や“剣の海岸”とも、この剣というのは海岸沿いに美しく聳え立つ花崗岩の白い崖に由来している)に存在する大都市を指す名称で、交易によって栄えた商業都市国家として知られており、現在の人口はおよそ12万5,000人ほど。
商業都市と言えば聞こえは良いのですが、チャンスと同じだけ危険が転がっている「バルダーズ・ゲート」は、不正や陰謀、犯罪、政治的腐敗が渦巻く極めて物騒な場所でもあり、言うなればこの世界の暮らしたくない町ナンバー1。 サイバーパンク2077のナイトシティ的な大都市と言えば分かりやすいでしょうか。
最新作「バルダーズ・ゲート3」を含むシリーズタイトルは、この大都市“バルダーズ・ゲート”を中心に展開するのですが、登場するロケーションはこの都市以外にも多数存在するので、手始めに“バルダーズ・ゲート”がどこにあるのか、作品世界の地理に関する全体的な背景をご紹介します。
■ 「ダンジョンズ&ドラゴンズ」の多元宇宙
ビデオゲームを含む“ダンジョンズ&ドラゴンズ”作品をプレイしている方ならご存じかと思いますが、「フォーゴトン・レルム」や「ドラゴンランス」といった単語を耳にしたことはあるでしょうか。
“ダンジョンズ&ドラゴンズ”には、多元宇宙と呼ばれるマルチバース設定が存在しています。前述した“フォーゴトン・レルム”や“ドラゴンランス”というのはマルチバースの一つで、「バルダーズ・ゲート」シリーズは“フォーゴトン・レルム”と呼ばれる作品世界に属しています。
「フォーゴトン・レルム」という世界は、数ある多元宇宙の中でも最も汎用的で一般的なヒロイックファンタジー世界として非常に人気が高く、“ダークエルフ物語”や“エルミンスター”(未邦訳)シリーズといった数々の著名な小説をはじめ、近年では映画「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」、ビデオゲームなら「Neverwinter Nights」や「Icewind Dale」、一昨年最新作がリリースされた「Dark Alliance」、古くは「Eye of the Beholder」や「Pool of Radiance」シリーズなども、この世界を舞台にした作品でした。
「フォーゴトン・レルム」以外にも作品世界は多数存在しており、知名度の高い世界として、同名の小説シリーズでも広く知られ壮絶な竜槍戦争が繰り広げられる「ドラゴンランス」、“ダンジョンズ&ドラゴンズ”の父ゲイリー・ガイギャックスが生んだ世界で最初期に最も人気があった「グレイホーク」、広大な砂の惑星で妖術師達が支配する世界「ダーク・サン」、スチームパンク的な技術が存在する魔法科学世界「エベロン」(TurbineのMMORPG“Dungeons & Dragons Online”の主な舞台がここでした)、CAPCOMの名作“ダンジョンズ&ドラゴンズ タワー オブ ドゥーム”と“ダンジョンズ&ドラゴンズ シャドー オーバー ミスタラ”の舞台でもあるクラシックな「ミスタラ」などが広く知られています。
映画「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」の話題が出たので、少しだけ脱線させてください。「バルダーズ・ゲート3」をプレイするために、シリーズの過去作を今からプレイする必要はありません。重要な情報は可能なかぎり当サイトの特集でカバーしますが、過去作も“ダンジョンズ&ドラゴンズ”も全くプレイしたことがない、「バルダーズ・ゲート3」で初めて興味を持ったという方、少し予習しておきたいという方には、全力で映画「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」をオススメします。(既にPrime VideoやU-NEXTといった主要な配信サービスでもレンタル可能です。参考:国内公式サイト)
舞台となる都市こそ違いますが、作品世界は同じ“フォーゴトン・レルム”で、クリーチャーや種族、愉快な小ネタを含め数多くの共通点があり、何よりめちゃくちゃ面白く、ミシェル・ロドリゲスやヒュー・グラントを含むキャストも最高で、“フォーゴトン・レルム”のとある著名人も登場し、“ダンジョンズ&ドラゴンズ”作品として非常に良く出来ていることから、これ一本で“ダンジョンズ&ドラゴンズ”の雰囲気、そして“フォーゴトン・レルム”がどんな世界なのかをビジュアルで直感的に知ることができる、これほど入門にぴったりな作品はありません。
こいつ映画に出てきたヤバイやつだ!この魔法は見たことあるぞ、あのネタ本当にあるんかい!などなど、かなり被っている要素があるので、「バルダーズ・ゲート3」の序盤でちょっと難しく感じる部分の心理的な障壁がだいぶ緩和されると思います。
■ 「バルダーズ・ゲート」はどこにある?
話を戻して「バルダーズ・ゲート」の場所を地理的に見てみましょう。
“フォーゴトン・レルム”世界には“アイビア=トリル”と呼ばれる惑星が浮かんでいて、トリルの巨大な中央大陸“フェイルーン”の西海岸沿い、ソード・コースト地方にある大きな商業都市。それが「バルダーズ・ゲート」です。
トリルに幾つか存在する大陸の一つ“フェイルーン”は、地球の北アメリカ大陸よりも僅かに大きく、無数の国と都市国家、文化、勢力、種族がひしめき合う多様性に満ちた土地で、長い歴史を持つことから、非常に込み入った複雑な場所ですが、幸い“ダンジョンズ&ドラゴンズ”の海外公式サイトにて、前述した“フェイルーン”大陸の詳細なマップが公開されているので、地理的な位置はすぐに分かります。
“最新”のフェイルーン地図にバルダーズ・ゲートの位置と、幾つか著名な都市と地域の場所を記してみました。この地図だと東西はおよそ4,400kmほどですが(アメリカの東西が約4,500km)、実際のフェイルーン大陸はさらに南東へ拡がっていて、この地図には大陸全土のおよそ5分の3程度が描かれています。
ちょっと広すぎるので、「Baldur’s Gate」シリーズに登場する主要なロケーションの位置関係が分かるよう拡大したものを用意しました。
地図には、幾つか耳慣れない単語もあるかと思いますが、まずはこの地図をもとに、「バルダーズ・ゲート」の成り立ちと初代「Baldur’s Gate」を振り返っていきましょう。
■ 町一番の英雄バルダラン
“バルダーズ・ゲート”は、もともとチオンター川の河口にあった“灰色港”と呼ばれる小さな村でしたが、初代“Baldur’s Gate”の開始からおよそ400年ほど前、“灰色港”出身の探検家バルダランと呼ばれる人物がソード海を越えて様々な土地と伝説の島々を探索し、莫大な富を携え帰郷。このことがきっかけで、さびれた港町は急速な発展を遂げることになります。
現在の“バルダーズ・ゲート”は巨大な壁によって囲まれているのですが、壁の内側にはもう一つの長い壁があり、貴族や金持ちたちが暮らす“上層地域”と、それ以外の貧しい市民たちが暮らす“下層地域”を隔てています。
かつてこの場所に立てられた最初期の防壁と門の1つは、前述の勇者バルダランが建設したもので、“バルダーの門”(つまりBaldur’s Gate)と名付けられたこの門の呼び名が定着し、いつしか街そのものを指す名称となったのです。
ちょうど本作の海外ローンチ直前にバルダーズ・ゲート市内で起こった殺人事件の捜査を描くマーダーミステリーオンラインRPG“Blood in Baldur’s Gate”にて、非常に分かりやすい街の地図が用意されていたので、これを参考に街のざっくりとした位置関係をまとめてみました。
街の発展に貢献したバルダランは、腰を落ち着けることなくすぐに新しい冒険へ出発し、その後二度と戻ることはありませんでしたが、彼の足跡や功績、失踪後の消息はやがて伝説のように語り継がれ、様々な逸話や遺品(強力な装備)が初代“Baldur’s Gate”や続編“Baldur’s Gate II: Shadows of Amn”にも登場し、一部ではその伝説やお宝の噂を振り返るようなコンテンツも存在していました。
ところで、バルダランの失踪後ほどなくして、“バルダーズ・ゲート”市の門外には誰が建てたのか分からない、バルダランの像が出現。ときおりなぜかポーズを変える謎の像は“海をみやるバルダラン”と呼ばれ、街の名所の一つになりました。
■ 冒険と危険に満ちた大都市「バルダーズ・ゲート」
チオンター川の河口にある「バルダーズ・ゲート」は、北の壮麗な大都市“ウォーターディープ”と南方の商人の国“オーム”(※ 旧シリーズの日本語版では“アムン”と呼ばれていました)のちょうど中間地点にあるだけでなく、チオンター川を上る東方には宗教国家エルターガルドとその首都である聖都エルタレルもあり、交易の経由地として栄えました。
ただ、この“交易”には、夜間にソードコーストの海岸沿いを進む商船を浅瀬で座礁させて積み荷を強奪したり、チオンター川を下るエルタレルの船を襲って得た荷を売りさばくような“仕事”も含まれていて、当然ながら周辺の国や街との関係は決して良いとは言えません。
「バルダーズ・ゲート」の街は大きく分けて、裕福な“上層地域”と普通の市民が暮らす“下層地域”、このほか貧民街が存在する“門外地域”に分類され、それぞれに様々な地区が存在しており、上層地域の貴族でも最も裕福な4人の公爵によって構成される最高権力機関「四公会議」と約50人の貴族で構成される“貴族院議会”が都市の政治と権力を牛耳っています。
「バルダーズ・ゲート」の政治は典型的な金権制で完全に腐敗していますが、上層地域とその他地域の間には暴力に満ちた社会階級の対立が、街の暗部や地下には強大な盗賊ギルドや闇のカルト勢力がはびこる裏社会もあり、街全体に犯罪が蔓延しています。特に治安の悪い門外地域では強盗目的の殺人が横行していて、日頃から道の脇に死体が積み上がっているほど物騒な状況が知られています。
一方で「バルダーズ・ゲート」の街には2つの軍隊が存在し、街の治安を“一応”維持しています。その1つは過去作のプレイヤーにもお馴染み“燃える拳”団(旧作の日本語版では“フレイミング・フィスト”表記)で、現在の“燃える拳”を率いる最高司令官レイヴンガード卿は、街で最も有力な大公爵として前述の「四公会議」を率いています。
もう1つの軍は、上層地域の貴族を警護する“衛兵隊”で、いわゆる騎士ですが、実質のところは頼りにならないお飾りの軍でしかなく、街では本来“傭兵”である“燃える拳”の兵士たちがまるで騎士のように振る舞い、その末端では様々な不正や賄賂が横行しています。
■ 図書館要塞“キャンドルキープ”
バルダーズ・ゲートから南西へ240kmほど離れた海岸沿いの断崖にフェイルーン最大規模の図書館“キャンドルキープ”が存在します。
巨大な壁と幾重もの魔法防壁によって守られる巨大な図書館“キャンドルキープ”は、大陸全土から集められた書物や巻物を収蔵する知識と知恵、魔法の宝庫で、高い学識を持つ強力な魔法使いでもある賢者たちが統治しており、高名な予言者アーロンドが残した予言や歴史、魔法の源泉に関する研究を日々行っています。
図書館の入館には、まだ収蔵されていない本を寄贈する必要があるほか、城塞内で効力を持つ唯一の絶対的規則として、“本は人命より貴重であり、炎や剣で知識を破壊したものは滅ぼされる”という、恐ろしすぎるルールが知られています。
「Baldur’s Gate」は、“アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ 第2版”をベースにしたコンピュータRPGで、発売は今から25年前の1998年12月21日。開発は“Dragon Age”や“Mass Effect”シリーズでおなじみ“BioWare”です。
「Baldur’s Gate」はビデオゲーム史に残る傑作RPGの一つとして広く知られ、ご紹介しておきたい情報が数多くあるのですが、まずはストーリーの概要と主要な登場人物達のラインアップを見てみましょう。
■ 「Baldur’s Gate」のストーリー(ネタバレなし)
初代「Baldur’s Gate」の物語は、「バルダーズ・ゲート3」の始まりから遡ることおよそ130年前、デイル歴1368年のキャンドルキープから始まります。
主人公はキャンドルキープの賢者ゴライオンに育てられた孤児。なぜゴライオンに引き取られたのか、本当の母と父は誰なのか、自分の素性をほぼ知らされないまま成長した主人公は、ある日突然育ての父であるゴライオンから僅かばかりの金貨を渡され、共にキャンドルキープを離れるよう命じられるのでした。
キャンドルキープを後にした主人公とゴライオンは、その日の夜、謎の武装集団による襲撃にあい、主人公をかばい逃がしたゴライオンは悪漢に殺されてしまいます。
キャンドルキープの保護も見込めない主人公は、旅の仲間を探しながら養父を殺害した謎の男の正体を探るなかで、原因不明の鉄不足や謎の傭兵組織“鉄の玉座”の暗躍、バルダーズ・ゲート市と南の商業王国オームーの間で緊張が高まる戦争の兆しと政治的陰謀、そしてある恐ろしい神の計画に巻き込まれることに……。
冒頭のプロットはだいたいこんな感じですが、これはあくまで一般的なさわりの部分で、最新作にも関わるか、あるいは関わらないかもしれないネタバレ系の出来事やロアについては、(気になる方が読み飛ばせるよう)最後にまとめてご紹介します。
なお、今回の「バルダーズ・ゲート3」特集では、海外版の発売前に公開された公式情報以上のネタバレを極力避けるよう努めますが、最新作を楽しむために役立つと推測される過去作の内容については、何れも20年以上前のタイトルであることから、ネタバレを含む情報をご紹介させていただきます。(例えば、発売前のトレーラーにはミンスクが登場しているので、“最新作にミンスクが登場する”という単純な事実はご紹介しますが、登場する理由には触れません)
ただ、「バルダーズ・ゲート3」の国内発売までに初代と続編をクリアする!もしくは今まさにプレイ中という方もいらっしゃると思います。今後扱う過去作のネタバレは、必ず記事の最後に掲載し、前段に断りを入れますので、気になる方は十分ご注意ください。
なお、初代をこれからプレイする場合は、Beamdogが開発を手がけた現世代向けの完全版「Baldur’s Gate: Enhanced Edition」(参考:Steam)が日本語対応済みでオススメです。
■ 「Baldur’s Gate」の主要な登場人物
・主人公(アブデル・エイドリアン)
初代「Baldur’s Gate」の主人公は、発売当初(プレイヤーが自由に設定できる)名も無き人物でしたが、続編「Baldur’s Gate II: Shadows of Amn」の発売前年に出版された小説版「Baldur’s Gate」にて、アブデル・エイドリアン(Abdel Adrian)という名前が与えられ、その後“ダンジョンズ&ドラゴンズ”の公式設定に昇格。現在では、勇者バルダランと並び愛されるバルダーズ・ゲートの英雄として広く知られ、「殺戮のバルダーズ・ゲート」や「マジック:ザ・ギャザリング 統率者レジェンズ:バルダーズ・ゲートの戦い」にも登場しています。
なお、初代「Baldur’s Gate」と続編「Baldur’s Gate II: Shadows of Amn」、三部作の完結編「Baldur’s Gate II: Throne of Bhaal」の主人公は全て同一人物であり、二十歳まで外の世界を知らないまま育ったキャンドルキープの孤児は、トリロジーの途方もない冒険を通じて、フェイルーンを崩壊の危機から救うことになります。
・主人公の幼なじみイモエン
イモエンは、主人公と共にキャンドルキープで育った幼なじみの女性。主人公と同じくゴライオンが引き取った孤児でしたが、彼女は図書館の城塞内にある宿屋の主人に育てられました。
明るく気さくで面倒見のよい彼女は最初に仲間になるパーティメンバーの1人で、初期クラスはシーフですが、基本ステータスが極めて高く、シーフ/メイジのデュアルクラスで大活躍してくれます。
彼女の出生もまた隠された秘密の一つであり、三部作を通じて主人公と共に壮絶な運命の歯車に巻き込まれるのですが……。
・キャンドルキープの賢者ゴライオン
主人公とイモエンを引き取りキャンドルキープで育てた心優しい養父。極めて博識かつ有力な賢者である彼が、なぜ主人公とイモエンを外界から断絶したキャンドルキープでかくまうように育てるに至ったのか、その背景が初代の物語に深く影響しています。
ゴライオンはハーパーと呼ばれる(フェイルーンでは極めて貴重な、ただ少々おせっかいな)正義の秘密結社の有力なメンバーで、以下に紹介する伝説の魔法使いエルミンスターはかつて冒険を共にした非常に親しい友人です。
ゴライオンは、主人公と共にキャンドルキープを去る際、もしものことがあれば信頼できるハーパーの仲間であるジャヘイラとカリードの夫婦を頼るよう伝えていました。
余談ながら、ハーパーは“フォーゴトン・レルム”の平和と調和を守る善の勢力として、数々の作品に登場しています。先ほどご紹介した映画「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」の主人公エドガンも元ハーパー出身の盗賊という設定で、劇中ではハーパーの活動が非常に分かりやすく描かれていました。
・死をもたらすものサレヴォク
初代「Baldur’s Gate」の象徴的なヴィラン。トゲだらけのプレートアーマーと鋭い歯のような装飾を施したバイザー付きの兜に身を包む恐ろしい姿が印象的です。
サレヴォクの情報については後述のネタバレパートでご紹介しますが、初代は彼の足跡を追う主人公一行の冒険を描く一方で、その後の彼には非常に奇妙な運命が待ち受けていて、主人公やイモエンとは大きく異なる立ち位置で壮大な三部作の重要な役割を担うことになります。
・黄金の心を持つ愛すべき勇者ミンスクとミニチュア・ジャイアント・スペース・ハムスターのブー
バルダランとアブデル・エイドリアンはバルダーズ・ゲートで最も高名な英雄ですが、シリーズで最も人気の高いキャラクター言えば、多くのファンがこのミンスクとブーの名前を挙げるでしょう。
ミンスクは、フェイルーンの北東部にある“狂戦士の地”ラシェメン出身のレンジャー。彼の地では成人を迎える男性の通過儀礼的な修行の旅として、魔女を護衛しながら異国の地で見聞を広める“ダジェマ”と呼ばれる儀式があり、ミンスクはダジェマの一環で魔女ダイナヘールと共にソードコースト地域を訪れ、主人公たちと出会うことになります。
ハムスターのブーは、ミンスクと一時も離れず行動を共にする親友であり、ミンスクはブーを単なるペットではなく、偉大なる正義の戦士、勇者にして優れた賢者でもあるミニチュア・ジャイアント・スペース・ハムスターだと心から信じているのです。(※ ブーはBioWareのマスコット的存在でもあり、Andromedaを含むMass Effectシリーズの全作品にこっそり登場しています)
ミンスクは小学生程度の知能を持つ心優しい戦士で、とにかく悪い奴をけっとばす英雄的行為と、戦いの中での迎える栄誉ある死にしか興味がなく、高度な作戦や駆け引き、潜入などには全く向いていないため、とりあえず突撃して大きな騒動を引き起こしがちというのが困ったところでもあり、憎めないところ。
この愛すべきコンビは、旧作の冒険を終えたあと、(130年が経過したにもかかわらず)ひょんなことから「バルダーズ・ゲート3」開始直前の市内に再び出現。ワイルドメイジのデリナや貴族の血を引く盗賊のクライドルと共に、壮大な冒険を繰り広げることになります。
この冒険譚は、コミックシリーズ「バルダーズゲートの伝説」にて描かれており、邦訳も発売済みですが、残念ながら日本語版は4巻で打ち切り。残る未訳の第5巻(Infernal Tides)と第6巻(Mindbreaker)がまさに「バルダーズ・ゲート3」の直接的な導入作品として完璧な内容だったので、惜しすぎると言わざるを得ません。
なお、「バルダーズゲートの伝説」は“バルダーズ・ゲート”ファンのみならず、フォーゴトン・レルムの熱心なファンにもオススメできる素晴らしいコミックで、デリナとミンスク一行がバルダーズ・ゲートのみならず、あのレイヴンロフトでストラード卿と対決したり、凍てつくアイスウィンド・デイルで巨人と死闘を繰り広げてみたり、果ては九層地獄まで足を伸ばして悪魔どもを蹴っ飛ばし、マインド・フレイヤーを信仰するカルトとまで戦う、劇アツの冒険活劇が描かれているほか、可愛いブーの大活躍も存分に描かれているので(一話丸ごと“ブー”オンリー回もあり)、興味がある方は既存の4巻だけでも是非手に取ってみてください。
余談ながら、第4版時代のバルダーズ・ゲート市内の広場には、ミンスクに命を救われた街の織物商がミンスクとブーの像を建て、市民がしばしば待ち合わせに使う“われらが愛するレンジャー”として広く親しまれることになります。
・ハーパーのジャヘイラ
ジャヘイラは、ゴライオンと共にハーパーで活動した旧知の友であり、信義を重んじる頑固で生真面目な(クールすぎる面もあって口も少々悪い)ハーフエルフのファイター/ドルイド。ジャヘイラは同じハーパーのメンバーである夫カリードと常に行動を共にし、パーティでも2人を分かち仲間にすることはできません。
危険を予見したゴライオンが、主人公にもしもの時には頼れと伝えていたのがジャヘイラとカリードであり、2人はゴライオンとの約束を果たすべく、主人公をしっかりと見守ってくれます。
彼女には辛い運命が待ち受けていますが、ミンスクと同じく最新作「バルダーズ・ゲート3」への登場が既にアナウンス済みで、かつてハーパーの一員として活躍したジャヘイラが最新作でどんな役割を担うのか、非常に気になるところ。
・女癖の悪い小悪党コーラン
エルフのコーランは、女性を見ると、とにかくちょっかいを出さないと気が済まない女たらし。クラスはファイター/シーフのマルチで、戦いの場では非常に頼りになる最強コンパニオンの一角ですが、とにかく性格がせこい。
彼は成功を夢見ながらケチな盗みや詐欺を働く小悪党ですが、悪賢しくもどこか憎めない人物で、トリロジー以降もしぶとく図太く生き残り(なにせ、フェイルーンのエルフは700年近く生きるので)、最終的にはバルダーズ・ゲートの上層で見事出世に成功。なんと貴族になって有力な政治家として暮らしています。
ちなみに、コーランが不敵な笑みを浮かべる絶妙な味わいのポートレートは、BioWareの父でシリーズの開発を率いたドクターGreg Zeschuk氏の写真を加工したもの。
コーランのその後と運命的なあれこれが気になる方は、コミックシリーズ「バルダーズゲートの伝説」をチェックしてみてください。
・奇妙な案内人ヴォーロとエルミンスター
初代を含む旧シリーズには、ときおり変な2人組ヴォーロとエルミンスターが現れ、主人公を導いたり導かなかったりするのですが、1人は“フォーゴトン・レルム”で最も高名な冒険家で伝承の大家、伝説の旅行家、そしてモンスター見聞家であるヴォーロサンプ・ゲダーム、残る1人は“フォーゴトン・レルム”最強の魔法使いエルミンスター・オーマーという、“フォーゴトン・レルム”随一のお騒がせ有名人コンビです。
旧シリーズの説明書は、ヴォーロがプレイヤーの冒険を助けるための手ほどきをまとめたもの、という設定で作られており、上掲した写真のように2人の愉快な掛け合いが至るところに添えられています。
ヴォーロは歩くトラブルメーカーのような人物で、“ウィッチャー”シリーズがお好きな方はダンディリオン的なお調子者だと思って頂ければ分かりやすいかと。
一方のエルミンスターは、一見おどけているように見えてフェイルーンで彼を知らない人は居ない、知名度で言えば、英雄ドリッズト・ドゥアーデンと並ぶほどの伝説的な人物。単に強いというだけでなく、今我々が現実世界で“フォーゴトン・レルム”の物語や冒険を楽しめているのは、次元を越えて惑星や異世界を旅したエルミンスターが地球人エド・グリーンウッドの自宅を夜な夜な訪れ、彼に語って聞かせた内容をまとめたものが“ダンジョンズ&ドラゴンズ”の作品世界の一つとして出版されたからにほかなりません。(※ エド・グリーンウッド氏は、“フォーゴトン・レルム”の世界と物語を書き始めた最初の作者。“ダンジョンズ&ドラゴンズ”が誕生する以前から、個人的な創作活動の一環として“フォーゴトン・レルム”を執筆していた)
魔法の女神ミストラの寵愛を受けた人物であるエルミンスターは、その強さも桁違いです。“ダンジョンズ&ドラゴンズ”には、クリーチャーの強さに併せて獲得経験値を決定する“脅威度”(CR)というステータスがあり、現行の第5版モンスター・マニュアルに記されている“脅威度”の最高値は30。天使の中で最も強力な“神々の子”が脅威度23、最強クラスのエインシャント級ドラゴンが23前後、物質界で最も恐れられている伝説の巨大怪物タラスクが設定済みの最高値である30となっていますが、エルミンスターの脅威度はなんと前述の最高値を大きく上回る“39”!定命の姿であれば、文字通り神でも殺せそうな、デタラメな強さの爺さんです。
エルミンスターには、彼自身が主人公である長大な小説シリーズ(未邦訳)があるのですが、とにかくあちこちに顔を出す機会が多く、映画「ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り」にもまさかの関係者が登場しファンを驚かせました。
■ 「Baldur’s Gate」が残した功績
「Baldur’s Gate」はビデオゲーム史に残る傑作RPGの一つとして広く知られ、1990年代初頭から様々な要因が重なり長らく低迷していたコンピュータRPGジャンルを華々しく復活させた革新的な傑作でしたが、本作は実は“BioWare”が開発した2作目のタイトルであり、1996年発売のデビュー作であるメックウォリアー系メックシム“Shattered Steel”がスタジオの設立以前に合流した別グループのプロジェクトだったことを考慮すると、スタジオの象徴である2人のドクターRay Muzyka氏とGreg Zeschuk氏が構想から開発を率いた作品という意味では「Baldur’s Gate」が最初のビデオゲームということになります。
(※ “BioWare”は、元々アルバータ大の医学部で博士号を取得し、その後同医学部の研修医として働いていたRay Muzyka氏とGreg Zeschuk氏、Augustine Yip氏が3人で立ち上げたBioware Corporationが前身で、当初はその名の通り医療機関向けのシミュレーション系ソフトウェアを開発していた。ここに“Baldur’s Gate: Enhanced Edition”等で知られる現BeamdogのCEO Trent Oster氏とその実兄、さらにGreg Zeschuk氏のいとこMarcel Zeschuk氏が3人で設立したFinite Element Softwareが合流し、現在の“BioWare”が誕生。スタジオのデビュー作“Shattered Steel”は、Finite Element Softwareが開発したアステロイドクローン“Blasteroids 3D”を発展させたものでした)
「Baldur’s Gate」は、BioWareが開発した内製エンジン“Infinity Engine”を採用する最初のタイトルで、当時としてはかなり精緻に描かれたアイソメトリック方式の見下ろし型2DグラフィックスとAD&Dルールに基づくタクティカルな戦闘、高度なキャラクタービルド、そしてまるで人間のようにふるまう活き活きとしたコンパニオンとモラルシステム、マルチプレイヤー対応、広大なマップを特色としており、当時のトラディショナルなコンピューターRPGとしては異例とも言える累計100万本販売を1年足らずで実現し、商業的な大ヒットを記録しただけでなく、“Baldur’s Gate”と“BioWare”をコンピュータRPG分野のトップブランドに押し上げることに成功しました。
(※ さらに余談ながら、Ray Muzyka氏とGreg Zeschuk氏は“Baldur’s Gate”の完成まで、CEOである自身の給与を捻出できず、平日は遅くまでBG1の開発に没頭し、週末は医師として患者の診察を続けていました。“Baldur’s Gate”の成功によって、2人はようやくビデオゲーム開発に専念することができたのです)
初代「Baldur’s Gate」の大きな成功には様々な要因が絡んでいるのですが、まずは大きな特徴について簡単に掘り下げてみましょう。
■ ポーズを併用するリアルタイム戦闘システム
旧シリーズの戦闘システムは、最新作にほぼ継承されていないため、簡単な紹介に留めておきますが、初代「Baldur’s Gate」が確立した戦闘システムは、当時人気を博していた“StarCraft”や“Warcraft”、“Command & Conquer”といったRTS作品にインスパイアされたリアルタイム戦闘をベースに、“アドバンスト・ダンジョンズ&ドラゴンズ”のRPG的な思考や戦術を練るためのポーズ機能を併用する、当時としては画期的な仕組みでした。
このポーズを併用するリアルタイム戦闘は、“Real Time with Pause”(RTwP)方式と呼ばれ、シリーズを超えてコンピュータRPGジャンルにおけるフォーミュラの1つとなり、後述する“Infinity Engine”タイトルをはじめ、“STAR WARS: Knights of the Old Republic”シリーズや“Neverwinter Nights”、“Dragon Age”シリーズ、“Pillars of Eternity”シリーズ、Owlcat Gamesの“Pathfinder”シリーズ、“Kenshi”、最近ではつい先日発売されたEvent Horizonの“Dark Envoy”など、様々なタイトルに採用され独自の進化を遂げることになります。
ただ、現在の“RTwP”方式は、いわゆるクラシックとしての印象が強く、近年ではXCOMシリーズの成功をはじめ、まさにLarian Studiosが開発を手がけた“Divinity: Original Sin 2”のターンベース戦闘が余りにも素晴らしい仕上がりだったため、ターンベース戦闘への傾倒が顕著で、“Pillars of Eternity”と“Pathfinder”シリーズには一部ターンベース戦闘が導入されたほか、Owlcat Gamesの次回作“Warhammer 40,000: Rogue Trader”はターンベース戦闘に完全移行。Obsidian EntertainmentのJosh Sawyer氏は“Pillars of Eternity”の次回作を作るなら、ターンベース戦闘を採用したいと明言していました。
なお、「バルダーズ・ゲート3」は“Divinity: Original Sin 2”のシステムを“ダンジョンズ&ドラゴンズ”に最適化させたターンベース制戦闘を採用していて、現存するコンピュータRPGの中でも最高品質の極めて面白いターンベース戦闘が存分に楽しめます。
■ 人間的なキャラクターの実装による複雑で動的な関係性の構築
「Baldur’s Gate」が導入した革新的な要素の一つに、人間的な魅力を持つ多彩なコンパニオンとその相関関係があります。
これは、後にBioWareの“Mass Effect”や“Dragon Age”シリーズを象徴するロマンスの原型とも言えるもので、プレイヤーの行動や善悪の考え方が合わなかったり、困り事を助けてあげなかったりするとパーティから離脱したり、馬の合わない仲間に不平不満を漏らしたり、種族間の対立で口げんかから戦闘に発展したり、夫婦の2人は一緒じゃないと仲間になってくれないなど、従来のプログラム制御による単調なNPCではなく、それぞれが独自の個性を持ち、まるで本物の人間のように活き活きと感じられる、当時としては画期的な品質の“仲間”を実現していました。(前述したコーランやミンスクがまさにその好例でしょう)
この要素はテーブルトークRPGの感覚をもたらす要素の一つとして人気を博し、シリーズの続編のみならず、前述の“Mass Effect”や“Dragon Age”にも継承され、BioWareの十八番として驚くべき進化を果たすことになるわけですが、来る「バルダーズ・ゲート3」はこの要素についても、現時点の最高到達点を間違いなく更新していて、胸をえぐって塩をすり込むようなとてつもないエモーショナルを描くことに成功しています。
■ コンピュータRPGの人気ジャンルを生んだゲームエンジン“Infinity Engine”
DLCを含む「Baldur’s Gate」と続編「Baldur’s Gate II: Shadows of Amn」は、BioWareが開発したエンジン“Infinity Engine”で動作しており、パブリッシャーBlack Isle Studiosがこれをライセンスしたことから、後に“Infinity Engine”系としてまとめられるコンピュータRPGの人気ジャンルが誕生することになります。(※ Pillars of EternityやPathfinderシリーズがまさに直系のInfinity Engine系RPGです)
このエンジンは、後に「Baldur’s Gate」となるマルチプレイヤーRPG「Battleground: Infinity」のために作られたもので(つまり、Infinity Engineの“Infinity”は、Battleground: Infinityに由来している)、BioWareはMMOという言葉や概念が存在しなかった1995年頃から従来のMUDマルチプレイヤーを発展させたMMO的なRPGの構想を掲げ、異文化の神々が生き残りを掛けてラグナロクを戦う作品をデビュー作として開発していました。(※ 1990年代中頃、MMORPG的なアイデアとコンセプトは国や地域を越えて同時多発的に浮上していたが、用語自体はウルティマシリーズでお馴染みリチャード・ギャリオット氏が1997年に提唱し一般化しました)
なお、“Battleground: Infinity”は動作するデモが開発され、様々なパブリッシャーに製品化を持ちかけたものの全く相手にされず、唯一目を付けたのが当時Black Isle StudiosのリーダーだったFeargus Urquhart氏(※ 現在はObsidian EntertainmentのCEO)でした。
当時のBlack Isleはちょうど“ダンジョンズ&ドラゴンズ”のビデオゲーム化権を取得したばかりで、“Infinity Engine”の仕組みが“ダンジョンズ&ドラゴンズ”に最適だと考えたFeargus Urquhart氏は、BioWareに「Battleground: Infinity」を“ダンジョンズ&ドラゴンズ”作品として作り直すことを提案。これによって遂に「Baldur’s Gate」シリーズが誕生したのです。
一方で、Black Isleは“Infinity Engine”のライセンスを取得し、BioWareと平行して独自の“ダンジョンズ&ドラゴンズ”ビデオゲームプロジェクトを始動。同じくビデオゲーム史上に残る傑作「Planescape: Torment」(1999)、そして“Baldur’s Gate”の戦闘面の面白さを追求する「Icewind Dale」シリーズ(初代は2000)を次々とリリースし、「Baldur’s Gate」の人気と相まってコンピュータRPGと“ダンジョンズ&ドラゴンズ”ビデオゲームの復権を担うことになります。
こういった出自から、BioWareは“Battleground: Infinity”で構想していたMMO的なアイデアをあきらめず、「Baldur’s Gate」にも本格的なオンラインマルチプレイヤー機能を導入し、プロモーションにおいてもテーブルトークRPG的なマルチプレイヤー体験を大きな売りの一つにしていました。
「Baldur’s Gate」のマルチプレイヤーはある程度の人気を博したものの、幾つかシステム的な問題もあり(※ 発売後のビルドでも一応マルチで本編クリアが可能でした)、思ったほど定着はせず、やはりシングルプレイヤー作品としての人気が圧倒的だったものの、BioWareはその後もこのコンセプトを継続し、(初代と続編、Throne of Bhaal拡張からなる)「Baldur’s Gate」トリロジーの全てにマルチプレイヤーを導入しました。
「バルダーズ・ゲート3」はこの伝統を継承し、マルチプレイヤーも楽しめる作品となっていますが、Larian Studiosは2014年の“Divinity: Original Sin”以来、テーブルトークRPG的なマルチプレイヤーシステムを熱心に追求しており、非常にスムースでモダンなマルチプレイを実装しています。
ここからは、前述の内容を踏まえた上で、初代「Baldur’s Gate」が一体どんな物語を描いていたのか、その内容をネタバレありでご紹介します。
改めてお断りしておくと、今回のネタバレは初代の内容に限定し、最新作「バルダーズ・ゲート3」と続編「Baldur’s Gate II: Shadows of Amn」および「Baldur’s Gate II: Throne of Bhaal」のネタバレは含みません。
初代はプレイしたけど、続編“Shadows of Amn”と“Throne of Bhaal”拡張のネタバレは知りたくないという方が読んでも問題無い内容にしてありますのでご安心を。
というわけで、以下の画像から先は強いネタバレが含まれますので、ご自分で初代をプレイしたい方はここまで。初代をプレイする予定がない方、昔プレイしたけど一応おさらいしておきたいという方だけお進みください。
BioWareが開発を手がけた「Baldur’s Gate」と「Baldur’s Gate II: Shadows of Amn」、「Baldur’s Gate II: Throne of Bhaal」は冒頭でもご紹介した通り、“バルダーズ・ゲートの英雄”サーガや“ベハルの子”サーガと呼ばれています。(※ ベハルについて、日本語版では“バール”と呼ばれていましたが、ここでは“ダンジョンズ&ドラゴンズ”側の表記に準じます)
“バルダーズ・ゲートの英雄”というのは、先ほどご紹介した主人公アブデル・エイドリアンを指していますが、もう一方の“ベハル”というのは、フォーゴトン・レルムに30柱以上存在する神の1人で、殺戮を司る死の神“ベハル”を指すもの。つまり“ベハルの子”というのは殺人の神の恐るべき落とし子たちを指しているわけです。
初代「Baldur’s Gate」の物語は、端的に言えばベハルの後継者を決めるための戦いを描くものであり、その候補は主人公アブデル・エイドリアンとその幼なじみイモエン、そしてヴィランであるサレヴォクの3人でした。
サレヴォクは新しいベハルになるための野心を募らせ、バルダーズ・ゲートとオームー、さらにはウォーターディープとの戦争を引き起こす陰謀を画策するのですが、アブデル・エイドリアンとイモエンは、その血塗られた運命と血統に立ち向かう戦いを繰り広げました。
なぜ、こんな後継者争いが起こったのか、その背景を知るために、“ベハル”という神について少し掘り下げてみましょう。
殺人の神“ベハル”は、戦と征服の神“ベイン”、そして死の神にして死者の王“マークール”と共に“死せる三者”と呼ばれ、定命の存在から恐れられていますが、一方では自分たちが他の神々よりも優れた存在だと考え、神々とその領域を支配するための強大な力を求めていました。
ベインとマークールは共謀し、神のなかの神である絶対神エイオーが所有する運命の書物を盗み出してしまうのですが、エイオーはそれぞれの信徒を省みず権力争いばかりに心血を注ぐ神々に激怒。信徒である定命の存在としっかり関わり合いを持って、ちゃんと面倒みんかい!と(エイオーと守護の神ヘルムを除く)全ての神々を定命の化身に変えてしまいます。
この変化によってパニックに陥った神々は、我さきに異次元へ戻らんと、文字通り神々大戦とでもいうような混沌とした戦いを繰り広げ、一部の神が実際に滅ぼされる大変な事態を迎えました。この事件は後に“災厄の時”として知られることになります。
“災厄の時”が起こったのはデイル歴1358年。初代“Baldur’s Gate”の始まりから僅か10年前の出来事ですが、ベインとマークールの野心を知るベハルは、先んじて自身の死を予見し、定命の存在となって(※ 死せる三者は元々定命の存在で、神格となった後も人知れずバルダーズ・ゲートに足を運ぶことがあった)自身の子供を大量に産ませ、彼らに死後の復活を遂げさせる計画を練っていたのでした。
後にベハルの計画を知ったエルミンスターは、ゴライオンを含むハーパーのメンバーと共に、落とし子たちと巫女が身を寄せるベハルの神殿を襲撃し、3人の子供の救出に成功。この子供達がまさに“ベハルの落とし子”であるアブデル・エイドリアンとイモエン、サレヴォクだったのですが、逃走中にはぐれた幼いサレヴォクはバルダーズ・ゲートの貧民街で孤児となり、悪徳商人ギルド“鉄の玉座”のリーダーに拾われ犯罪者の道を歩むことになりました。
師であるメイジからキャンドルキープに残された予言者アーロンドの予言を研究するよう勧められたサレヴォクは、自分こそが予言に記されたベハルの後継者だと確信。全ての落とし子を殺したうえで、大量の殺人を実現すれば新たなベハルになれると考え、巨大な犯罪帝国を作り上げ、自ら仕組んだ鉄の腐敗や政治的陰謀によって、予てから緊張状態にあったバルダーズ・ゲートとオームーの戦争を画策したのでした。
しかしサレヴォクの計画は、賢者ゴライオンによって大切に育てられ、頼もしい仲間を手に入れた主人公とイモエンによって阻止され、サレヴォクはバルダーズ・ゲートの地下に存在する荒廃したベハルの神殿で、失意のうちにその命を終えるのです。
ということで、初代のネタバレはここまで。次回の特集は「バルダーズ・ゲート」入門その2として、傑作「Baldur’s Gate II: Shadows of Amn」と完結編「Baldur’s Gate II: Throne of Bhaal」に関する情報をご紹介しますので、お楽しみに!
■ 出典および参考資料
MobyGames
BioWare: Stories and Secrets from 25 Years of Game Development
Forgotten Realms Campaign Set
Elminster’s Forgotten Realms
バルダーズ・ゲート:地獄の戦場アヴェルヌス
フォーゴトン・レルム・ワールドガイド
ソード・コースト冒険者ガイド
参考:「バルダーズ・ゲート3」特集のリンク
- 第1回:日本語版の発売が迫る「バルダーズ・ゲート3」はどんなタイトルなのか、その魅力と海外で絶賛された評価について
- 第3回:「バルダーズ・ゲート」入門その2、2000年前後に訪れた海外CRPGの復活と“ファイナルファンタジーVII”
- 第4回:「バルダーズ・ゲート3」の魅力的なオリジン・キャラクターたちと主人公の選択、奥深いロマンスについて
- 第5回:「バルダーズ・ゲート3」の多彩なプレイアブル“種族”とキャラクター情報の基本について
- 第6回:「バルダーズ・ゲート3」の“クラス”ガイド前編、キャラクターの特質を形作る“能力値”の基本も
- 第7回:「バルダーズ・ゲート3」世界の魔法とは何か?“クラス”ガイドの後編も
- 第8回:「バルダーズ・ゲート3」のゲームプレイに関する基本的なシステムについて
- 第9回:攻撃が当たらない!アイテム整理が大変?遂に国内発売を迎えた「バルダーズ・ゲート3」の序盤で役立つゲームプレイ情報まとめ
- 第10回:「バルダーズ・ゲート3」の背景にある“フォーゴトン・レルム”の歴史と物語について
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