2020年12月の「サイバーパンク2077」発売からおよそ3年、そしてビデオゲームをアニメ化するアダプテーションの新たな指標を提示した傑作「サイバーパンク エッジランナーズ」の公開から1年を経て、CD PROJEKT REDが自ら“サイバーパンク2077”の集大成と謳う大型拡張パック「仮初めの自由」がいよいよ発売を迎えます。
「仮初めの自由」は、ナイトシティの非常に危険な新エリア“ドッグシティ”を舞台に、新アメリカ合衆国大統領や彼女に仕える凄腕ネットランナー、新合衆国の諜報機関であるFIAのスリーパーエージェントまで登場し、我らが“V”を陰謀と策略が渦巻く新たな厄介事に駆り出す、スパイスリラーテーマの大規模ストーリー拡張パック。加えて、本拡張のリリースに先駆けて、大規模な無料アップデート2.0が配信済みで、このアップデートと「仮初めの自由」の組み合わせが「サイバーパンク2077」にもたらす変化はビデオゲーム史上前例がないほど大きく、もはや全く新しいゲームに生まれ変わったと言っても過言ではありません。
この2つがもたらす変化は、余りにドラスティックで広範囲に及ぶだけでなく、個々の要素が有機的かつ複雑に絡み合いながらゲームプレイそのものを再構築していて、CD PROJEKT REDが「仮初めの自由」を指して集大成だと豪語するのもまさに納得という仕上がりでした。
個々の新要素を細かく挙げると、あまりに膨大すぎてキリがないので、まずはアップデート2.0と「仮初めの自由」によってゲームがどう変化したのか、ストーリー以外の部分で印象的な部分をまとめてみます。
■ “V”のビルド作りが大幅に拡張、パークツリーやサイバーウェアシステムは全面的に作り直し
既に2.0をプレイ中の方はご存じの通り、5種類の能力値毎に存在したパークツリーと各パークが完全に作り直され、やや煩雑だった従来のパークがすっきりと整理。よりシンプルで分かりやすく、かつ奥深い仕組みに生まれ変わりました。
生まれ変わったパークとパークツリーは、能力値の割り当てによって解放される4段階のランクをベースに、直線的なツリー状のパークノードと、それに付随する子ノードに分類され、一部パークはランクアップもできる非常に直感的なもの。
また、これまで12種類もあったスキル進行システムも、すっきり5種類に整理され、報酬の内容も大幅に見直されました。
さらに新規要素として遂に“RELIC”ツリーが導入され、専用のポイントシステムとより特化型のビルドが楽しめる新パークが登場しています。
また、サイバーウェアのシステムが大きく刷新され、アーマー値が衣類ではなく、骨格と外皮系のサイバーウェアによって強化されるシステムに生まれ変わりました。
サブダーマル系インプラントによる防御力の強化は、オリジナルのTRPGに近いシステムであり、ロア的にも歓迎すべき改善であると共に、この新システムによって、“V”のオシャレがより自由に楽しめるよう進化したのが喜ばしいところ。
なお、防弾チョッキや各種ヘルメットを含む一部の装備には固有のボーナスが存在しており、従来のワードローブとコーデ機能も併用できるため、“V”のカスタマイズは飛躍的な変化を遂げたと言えるでしょう。
もう一つ、サイバーウェアの大きな仕様変更に、装備可能なサイバーウェアの数や質に影響する“サイバーウェア限度”の導入があります。
これは、全てのサイバーウェアに導入コストを設け、合算のコストが上限を超えないよう制限するもので、詰め込み放題だった従来のシステムと比較すると、一見後退したようにも見えますが、実際は前述したパークや装備、プレイスタイルと併せて慎重に吟味する必要があり、ビルド構築の楽しさを大きく増加させるだけでなく、この吟味や上限値のやりくりそのものが、パンクにサイバーをたたきこむオリジナルの感覚を見事に醸し出していて、サイバーサイコシス一歩手前のぎりぎりまで踏み込むプレイを存分に楽しむことができます。
加えて、個々の武器やサイバーウェア、グレネードや回復アイテムを含むクイックアクセス品についても様々な変更や追加要素が用意されており、クイックアクセス品はクールダウン方式に変化。個々のパークや武器、サイバーウェア、スキル進行報酬についても、特定の効果や能力を強化するためのシナジーやトリガーが無数に用意されていて、武器とサイバーウェアの強化システムも刷新されるなど、ビルド構築そのものが(“ディアブロ”系のアクションRPGに匹敵するような)ゲームの大きな楽しみの一つに進化しています。
出来上がるビルドについても、銃カテゴリ毎に大きくプレイ感が異なる多様な射撃ビルドをはじめ、カタナ+サンデヴィスタン特化や投擲特化ステルス、しゃがみで高速移動するアグレッシブステルス、敵を正面から殲滅する攻めのネットランナーなど、ざっと全体を見渡しただけでも、膨大な数のプレイスタイルが存在することは間違いなく、文字通り自分だけのサイバーパンク作りが楽しめるでしょう。
■ 敵のAIが大きく進化
ビルド構築が強化され、多種多様なプレイスタイルが実現できたとしても、この力を存分に振るうための強敵がいなければ、強い主人公も無用の長物に過ぎません。
アップデート2.0と「仮初めの自由」では、敵AIが大幅に進化し、ギャングやNCPDを含む敵がプレイヤーの行動や装備、状況に併せて戦術を変え、従来とは全く異なるレベルの多種多様な戦いを繰り広げるよう生まれ変わりました。
最新の敵AIは、サンデヴィスタンやハッキングを含む様々な能力を積極的に使用するよう進化し(これによって敵ネットランナーが恐ろしい脅威に)、NCPDの手配システムを含め相当な規模の拡張を導入しているのですが、端的に言えばこれまでベリーハードでもさほど強くなかった敵が本格的な強敵に生まれ変わったことで、前述のビルド構築を含め“V”を強くすることの意義が大きく増したと言えます。
ちなみに、筆者が最大レベル60に到達し、ある程度強化したつもりのビルドでベリーハードのマックス・タックに挑戦したところ、思わず笑ってしまうほどボッコボコにされたので、戦闘の歯ごたえは相当増したと感じました。また、新エリアのドッグタウンには、非常に強力な敵が潜んでいるので、こちらもお楽しみに。
■ 新たなアクティビティの登場
アップデート2.0と「仮初めの自由」の追加要素として、全く新しい2つの動的生成系アクティビティ“投下物資”と“車両配達”が導入され、ゲームに新しい変化をもたらしています。
従来のプレイスルーは最終的にやることがない、買う物がないという状況に達していましたが、アップデート2.0と「仮初めの自由」導入後のビルド構築やキャラクターの強化、新車両の購入には、多くのエディやクラフト素材が必要で、最新のゲームプレイには戦利品を吟味する楽しみもあり、エンドレスでプレイできるアクティビティには一定のニーズがあると言えるでしょう。
実のところ、“投下物資”と“車両配達”には、キャラクター強化に役立つ非常に美味しい報酬が用意されているので、最強サイバーパンクを目指すプレイヤーにとっては嬉しい追加要素になりそうです。(“投下物資”を守る敵グループが、手強い戦闘相手として申し分ない点も見所)
■ ドッグシティの街並みが凄い
「仮初めの自由」の大きな見所の一つに、従来のナイトシティを上回る喧噪とカオスを封じ込めた超濃密なオープン環境としての“ドッグシティ”があります。これはもう見た目にはっきりと違いがあるので、言葉で紹介するよりも、実際に散策してその凄さを堪能してほしいところ。
“ドッグシティ”は、以前のパシフィカ地区を北西と南東に二分する程度の大きさで、面積自体はさほど広くないのですが、高さを最大限に活かした空間デザインにより、コンテンツの密度を大幅に(かつ強迫的と言えるほど)高めていて、本当にやばいコンバットゾーンに迷い込んでしまったと思わせる説得力に満ちています。
“ドッグシティ”でしばらく過ごすと、ナイトシティの馴染み深い地区がまるで洗練された素敵な都会のように見えてくるのが実に恐ろしいところ。
「仮初めの自由」は、サイバーパンク都市のデザインにおいても、新しい進化を成し遂げたと言えるでしょう。
■ 多くのアップデートを経て到達した「サイバーパンク2077」の圧倒的な臨場感
また、本作の没入感や体験をダイレクトに増幅させる特筆すべき点として、本格的なパストレーシングを採用したPC版のオーバードライブモードが挙げられます。こちらは今年4月に実装された機能ですが、2.0の導入に併せて、DLSS使用時のレイトレース品質をさらに向上(AIデノイザーによるボケを解消し、細部のディテールを精細化)させるレイ再構築オプションが導入され、「仮初めの自由」の舞台であるドッグタウンの見事なレベル環境と併せて、しばしば信じられないほど美しいビジュアルでゲームプレイを楽しませてくれます。これにドルビーアトモスを加えた臨場感は、本当に並外れたもので、本作は最高の環境でプレイすることに大きなアドバンテージがある貴重な作品だと言えます。
本来であれば、こういったプラットフォーム固有の技術的強化は、あくまで付加的なものであるべきですが、“The Witcher 2: Assassins of Kings”以降のCD PROJEKT REDにとって、次世代の大作ゲームの指標となるような実験的技術を導入するのは、もはや伝統とも言える取り組みで、“Witcher 2”は異例とも言える品質のハイポリキャラクターとハイポリオブジェクト、リッチなリアルタイムライティングを用意し、当時の最高スペックPCでも十分なパフォーマンスを出せなかった“UberSampling”やシネマティックDoFといった最先端技術を導入。
続く“The Witcher 3: Wild Hunt”では、NVIDIA HairWorksやHBAO+、高解像度レンダリングを用いるダウンサンプリングなど、こちらも超ヘビー級の新技術と新しい世代のビジュアルを提示し話題となったのも記憶に新しいところ。
そもそも、REDengine自体が初代のころから最先端技術の実装を強く掲げてきたエンジンであり、10年以上に渡る改良と進化でver4となったREDengine最後の採用タイトルとなる「サイバーパンク2077」と「仮初めの自由」の法外なリッチさは、技術的な側面から見てもCD PROJEKT REDの集大成だと言えるわけです。(※ ウィッチャーの新作を含む次回作以降は、Unreal Engineへの移行が決定済み)
これまでにご紹介した通り、大規模なアップデート2.0と「仮初めの自由」の導入によって、「サイバーパンク2077」のゲームプレイは全く新しい姿に生まれ変わるわけですが、CD PROJEKT RED作品と言えばやはりストーリーこそが命。今回、CD PROJEKT REDは「仮初めの自由」を通じて、ビデオゲーム分野では非常に珍しい“スパイスリラー”をテーマにしたストーリーテリングに挑戦しています。
スパイゲームやスパイ系ステルスアクションは数あれど、ストーリーとプレイヤーの選択に主軸を置く“スパイスリラー”というのはほとんど前例がなく、ノンリニアな展開の変化を持つAAA規模かつストーリー重視の本格“スパイスリラー”にまで焦点を絞れば、同様の挑戦を試みたタイトルはただ一つ、かつてObsidian Entertainmentが2010年にリリースした隠れた名作「Alpha Protocol」のみだと言えるでしょう。
「Alpha Protocol」は、後に野心的なロールプレイシステムや選択に重点を置くインタラクティブなストーリーテリング、スパイスリラーに対する確かなアプローチで評価を幾らか取り戻しましたが、リリース当初はバグを含む様々な要因によって評価が低迷し、残念ながら掲げた目標を達成したとは言いがたい仕上がりでした。
この前例と類似タイトルの不在は、つまるところ“スパイスリラー”テーマの難しさを直接的に示しているわけですが、この難題に挑んだ「仮初めの自由」は、予想をはるかに上回る、実に見事な“スパイスリラー”ゲームとして完成していました。
「仮初めの自由」の物語は、陰謀と策略、裏切りに満ちていて、衝撃的な展開は本編以上にネタバレ厳禁であり、一部の見所に至っては、正直“どう感じたか”を口にすることでさえ憚られる驚くべき内容です。
ここでストーリーの具体的な展開やディテールには言及しませんが、“スパイスリラー”としての出来を見れば、そこにはジェームズ・ボンドやジェイソン・ボーン、ジャック・バウアーを想起させるようなジャンル映画的外連味やマクガフィン、定番の展開がしっかり用意され、、ジョン・ル・カレやイアン・フレミングの風合いも色濃く、ゲームプレイそのものにも非常に手の込んだスパイスリラー的コンテンツや仕掛けがたっぷり盛り込まれています。
つまり、“スパイスリラー”っぽい要素を十二分に担保しているのですが、「仮初めの自由」の素晴らしさはこういったインスピレーションや使い古された定番の要素が個々に分離せず、全体で一つの立派な“スパイスリラー”ドラマを作り上げていることにあります。
この成功に大きく寄与しているのが、ソングバードやソロモン・リード、ロザリンド・マイヤーズ、そしてジョニー・シルヴァーハンドといった主要キャラクター達の強固な人物像とキャラクターデザイン、思わず息を呑むような品質のアニメーションでしょう。
確かな説得力に満ちた、ご都合主義的でない極めて緻密に作り込まれた人物像、そして彼らに生命を吹き込む(特にソロモン・リードとソングバードに顕著な)驚くほど繊細な演技は、全く先の展開が読めないドラマを力強く支え、忘れがたい瞬間を与えてくれます。
結論を言えば、「仮初めの自由」は真の“スパイスリラー”を初めて実現したAAAゲームであり、ゲームプレイのメカニクスから広範囲な刷新、圧倒的なボリューム、ストーリーの面白さに至るまで、全てに秀でた拡張パックであり、新規に追加されるエンディングを含め本編のプレイスルーをシームレスかつ包括的に拡張する大規模ストーリーコンテンツという意味でも、他に前例のないプレイ必須の作品だと言えるでしょう。
加えて、特筆すべき見所として、キャラクターの台詞から様々な固有名詞、膨大なログ、気の利いたクエスト/ミッション名とその概要など、相変わらず仔細に渡って信じられないほど高品質な日本語ローカライズ!そして、本拡張のメインテーマ“Phantom Liberty”が鳥肌もののとんでもない名曲であることを付記しておきます。
前述の通り、「仮初めの自由」はどこから見ても申し分ない拡張であり、CD PROJEKT REDが掲げたコンセプトを十二分に実現した文字通りの集大成だと断言できます。
ここからは、「仮初めの自由」を「サイバーパンク2077」という巨大な物語を締めくくる最終章として見たインプレッションをご紹介しますが、以下の内容には筆者の個人的な見立てや解釈、思い入れを過分に含む内容となりますので、(“仮初めの自由”に関するネタバレは一切しませんが)気になる方はここまでとして、後は存分に「仮初めの自由」を満喫して頂ければと思います。
閑話休題。
いきなり個人的な話で恐縮ですが、筆者にとって「サイバーパンク2077」は非常に特別な作品で、強い思い入れがあり、2020年12月の発売以来、自分の好きなタイトルランキングで圧倒的1位のゲームです。
かつて寝食も忘れて熱中したTPRGを大好きなスタジオがAAA規模でビデオゲーム化し、愛するキアヌ・リーブスがジョニー役で出演するだけでなく(JMの、そしてBill & Tedのテッドがジョニーだなんて最高すぎる)、長年大ファンだった“Refused”が“SAMURAI”をやる、デニスがジョニーの歌声役?!もう卒倒しそうなほど大好きな要素を詰め込んできたのが「サイバーパンク2077」でした。
ビデオゲームに限らず、余りに強い思いでお気に入りのアダプテーションを迎え撃つとき、理想とのギャップに落胆することは良くある話ですが、「サイバーパンク2077」が凄かったのは、こちらの思い入れなど軽々と超えて、様々なカルチャーを横断する“サイバーパンク”というジャンルそのものを内包するような、巨大な作品世界をまるっと作り上げ、あたかもナイトシティに迷い込んだかのような没入感でエッジに生きるサイバーパンク的経験をこれ以上ない密度で提示したことです。
2012年5月末のアナウンス後は、手持ちの“サイバーパンク2.0.2.0.”関連書籍を引っ張り出し、手元になかった日本語ドキュメントと英語版のソースブック/アドベンチャーを可能な限り買いそろえ、本編のリリースを万全の体制で迎えたのですが、「サイバーパンク2077」の発売後は、ずっとこのゲームが何を描いたのか、寝ても覚めてもそのことばかりを考える、思っても見なかった状況に陥りました。
当サイトの本編レビューでは、「サイバーパンク2077」が古典の神話的英雄譚を描いたものだとご紹介しましたが、これは最終盤のとある別々のシーンにぽつんと置かれた「イーリアス」と「オデュッセイア」、そしてある重要人物が語るイェイツの「ビザンティウムへの船出」およびT・S・エリオットの「J・アルフレッド・プルーフロックの恋歌」の引用を指して記したものです。
CD PROJEKT REDがホメロスとイェイツを特になんの意味もなく、重要な場所に雰囲気で置くような、そんな雑なことをするはずがなく、実際にこれらの書籍と多くの解説書を読みあさり、ゲーム内の出来事や人物、[Maximum Mikeを含む]マイク・ポンスミス御大の言葉などを鑑みて得た極私的な結論は、Vとジョニーが神に相当するような“何か”に選ばれてしまった英雄であり、同時にその神の慰み者であるということでした。
つまり、Vとジョニーは、アキレウスとオデュッセウスのような巻き込まれ型の神話的英雄であり(それぞれの人物像に多くの類似点があることも興味深く)、人間から見れば並々ならぬ存在ではあるものの、神にとっては玩具のように代替可能な存在に過ぎないと考えるに至ったのです。
ここで言う“神”とは何か?全てを呑み込むナイトシティの街がそうなのか、それとも壁の向こう側に拡がるNET、はたまた人ならざるものが生んだAIか、或いはテクノロジーそのものなのか、それは未だにわかりませんが、アラサカやミリテク、新合衆国、自由州連合といった勢力もまた神の掌で躍る脆弱な存在に過ぎないことは想像に難くありません。(蛇足ですが、本編に登場するとある謎の人物は、まるでデウス・エクス・マキナの使いのような存在といえないでしょうか)
Vとジョニーは、生殺与奪を握られたまま、それでもなお巨大な何かに叛逆し抗う本物のサイバーパンクであり、本編の終わりには本当の自由意志によって神に抗う2人や、慰み者としてより大きな役割を担うような様子が描かれていたわけです。
シリーズのクリエイターであるマイク・ポンスミス氏は、“サイバーパンク”という概念について幾つかの異なる定義を提示しています。
— サイバーパンクは逆境のヒーローであり、生き延びるために行動する。そのためにときには犯罪を犯し、権力にだって逆らう。理由のある叛逆、それがサイバーパンクだ。
— サイバーパンクとは、人類を救うことではない。自分自身を、そして自分が大切にしているものを救うことを描いている。
— 最高の『サイバーパンク』ゲームは、悲恋と息をもつかせぬアクション、目もくらむようなパーティ、薄汚いストリート、そしてどんな不利にでも正しいことをやるんだというドン・キホーテ的な探究のコンビネーションだ。『カサブランカ』にサイバーウェアを持ち込んだらかくや……という感じだ。
またオリジナルのルールブックには、ジョニーの言葉を含め、サイバーパンクを象徴するような幾つかの文言が記されています。
— どんな時も、エッジまで踏みこむんだ
そいつがサイバーパンクのやり方さ— スタイルは実像に勝る
“態度”(アティチュード)がすべてだ
エッジに生きろ
ルールなんて破れ
ここには、“サイバーパンク”である主人公(Vとジョニー)がどういう類いの人間なのか、その人物像がはっきりと記されていて、CD PROJEKT REDが「サイバーパンク2077」の本編を通じてこのコンセプトから全くぶれることなく、強固にキャラクターを描ききったことがはっきりと窺えます。
「仮初めの自由」を目の当たりにした今、筆者は「サイバーパンク2077」と「サイバーパンク エッジランナーズ」、「仮初めの自由」が、三つで一つの小さなアークを形成しているように感じています。
エッジランナーズのデイビッドは、前述の定義を見ても分かる通り、Vとジョニーと同じ正真正銘のサイバーパンクであり、100万人に1人の人間性/共感値(サイバーウェア限度)を持つとんでもない逸材でしたが、神に選ばれた英雄ではありませんでした。
デイビッドは(比喩的な意味で)悪魔と契約し大切な存在を守ったサイバーパンクであり、Maximum Mikeが語ったサイバーサイコシスの陰謀論的な背景を考慮すると、「サイバーパンク エッジランナーズ」の背後にはクロスロードの伝説のようなモチーフさえ感じられ、「サイバーパンク2077」の残虐な神話的構造にもう一つの視点を加えているようにも思えるのです。
本編でホメロスを引き合いに出すような残酷な英雄譚を描き、エッジランナーズで巨大な力に呑み込まれる人間の落ちゆくさまと地獄のボーイ・ミーツ・ガールを描いたこのアークが、最終章となる「仮初めの自由」で一体何を描くのか、ぜひ全ての展開と結末を自らの手で解き明かしてください。
“V”の目を借りて共に歩んだこの数年間が、幕引きを迎えることで、長く刹那的でもあった旅をどう振り返り反芻するか、筆者はまた数年掛けてこれを考えあぐねることになりそうですが、優れたビデオゲームにはプレイヤーの主体的な行動とその結末を(それが例え望まない結果だったとしても)自分だけの忘れがたい体験として強く植え付けるポジティブな力があり、「仮初めの自由」はまさにそういった体験を与えてくれる希有な作品です。
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