次回作から壮大な三部作構想まで、パトリス・デジーレ氏に「Ancestors: The Humankind Odyssey」の誕生とスタジオの今後について聞いた開発者インタビュー

2019年10月6日 15:17 by katakori
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「Ancestors: The Humankind Odyssey」

8月23日に待望のPC版ローンチを果たし、12月のPS4とXbox One版発売が迫るPanache Digital Gamesのデビュー作「Ancestors: The Humankind Odyssey」ですが、先だって東京ゲームショウ2019の会場で、本作の開発を率いたPanache Digital GamesのクリエイティブディレクターPatrice Désilets(パトリス・デジーレ)氏とお会いして、独創的なデビュー作の誕生や「Ancestors」シリーズの構想、そしてとんでもない紆余曲折を経てようやくパトリス氏の手に戻った「1666: Amsterdam」の動向まで、色々な話を聞くことができました。

パトリス・デジーレ氏は、かつてUbisoftで“Assassin’s Creed”シリーズの誕生と成功を率いた中心人物の1人と知られるカリスマ的な開発者でありながら、Ubisftと旧THQ、水面下で開発が進められていた新IP等を巡る裁判沙汰に巻き込まれ、この10年間ひとつのタイトルも発売できない不遇な状況が続いていました。

2014年のPanache Digital Gamesを経て、遂に発売を迎えた「Ancestors: The Humankind Odyssey」は、1,000万年前の広大なアフリカを舞台に、サルから猿人、類人猿への進化を描くオープンワールドサバイバルゲームです。本作は、トラバーサルや探索、戦闘といったコアメカニクスがアクション性の高い、ゲームプレイそのものの経験を重視した要素として構築されている一方で、本作のテーマである進化や世代、種、プログレッションといった要素は他に類のない非常に独創的な構造となっており、目の前に立ちはだかる困難に追われ続けることで経験が重ねられ、固有のテーマや目標が(意図して)分かりやすく提示されないことに加え、プレイスルーに50時間近くを要する規模の大きさもあって、ある種のゲーマーには一寸先で何が起こるか分からない高揚感と自らの手で運命を切り開く充足感を与えるかけがえのない作品となり得ますが、一部のプレイヤーにはやや難しいタイトルのように感じられるかもしれません。

また、2015年にアナウンスされた当初の「Ancestors: The Humankind Odyssey」は、人類のエポックメイキングな歴史を扱うエピソード形式の壮大な作品として報じられましたが、実際に発売されたデビュー作は、エピソード形式を廃し、壮大な歴史のはじまりであるサルの進化にのみ焦点を当てた単独の作品として登場しました。

今回は、こういった経緯を踏まえ、「Ancestors: The Humankind Odyssey」が一体どんな作品であるのか、どういった変遷で姿を変えていったのか、その背景を紐解く非常に興味深いコンセプトや構想、アプローチ、ゲーム開発に対する熱い思いを聞くことができました。

さらに、今回言及のあった「Ancestors」シリーズのトリロジー構想に関するとても具体的なディテール、そしてPanache Digital Gamesの次回作に関する計画は、世界中の報道を見回してもまだ全く語られていない極めて貴重な新情報となっていますので、コンソール版を含む「Ancestors: The Humankind Odyssey」が気になっている方、そしてパトリスさんのファンは一度確認しておいてはいかがでしょうか。

参考:8月に公開された「Ancestors: The Humankind Odyssey」のPC版ローンチトレーラー
「Ancestors: The Humankind Odyssey」
Panache Digital Gamesのクリエイティブディレクター兼共同創設者パトリス・デジーレ氏
自ら“Ancestors”をプレイしながら、まるで子供のように目を輝かせて開発について熱く語る姿が印象的でした

―― 当サイトは2009年7月にスタートしたんですが、これを始めた大きなきっかけの1つがその年の6月に見た「Assassin’s Creed II」のE3トレーラーでした。何か新しい時代が幕を開けたような、あの鮮烈な感覚は今でもはっきりと覚えています。

そんな経緯もあって、パトリスさんのゲームを本当に楽しみにしていました。10年間ずっとあなたの動向を追ってきたので、遂に「Ancestors: The Humankind Odyssey」がプレイできて本当に嬉しいです。

パトリス氏:そうなんだ。10年も掛かってしまったよ。僕には11歳と9歳の娘がいてね、ようやく新作を発売して彼女達にプレイしてもらえるゲームができたんだ。

―― 最初に「Ancestors: The Humankind Odyssey」がお披露目された際には、ミッシングリンクの存在に始まり、ローマ帝国の凋落や万有引力の発見、月面着陸といった大きな出来事を経て現在にまで至る、人類の歴史そのものを描くようなエピソード形式の壮大なビジョンが提示されました。

発売された「Ancestors: The Humankind Odyssey」は、この冒頭にあたるサルから人間への進化を深く掘り下げる作品になったわけですが、計画そのものがここまで大きく変化した背景を教えてくれますか?

パトリス氏:計画が変わったということについては、イエスでもあり、ノーとも言える。最初に紹介した内容は、確かに人類の歴史全体を指しているように見えた。ただし、それは私の考えていたコンセプトで、その始まりについて考えていたことを伝えたかったんだ。

発表した当初は、まだゲームを作っていなかったから、まずは30秒程度でみんなに紹介できるアイデアを練っていた。だけど、ゲームを作るに当たって、最も重要である人類の進化の歴史の始まり、つまり1,000万年前から200万年前の出来事に焦点を当てたんだ。

全ての出来事は、アフリカで一部の生き物が生き延びて多くの赤ん坊を生み、命を繋ぐことで、遂に別の何かになったことから始まっている。(最初のアイデアで紹介したような歴史的な変遷を経て)僕たちは今ここに存在して、このゲームのことについて語り合っているよね。

この全てに繋がる最初の出来事を描きたかったんだ。

―― なるほど。発表時の構想が頭にある状態で「Ancestors: The Humankind Odyssey」をクリアして一番驚いたのは、とても“大きな”ゲームだったことでした。とても凝った進行システムやサンドボックス性の高いオープンワールド、本格的なサバイバルまで、これほどメカニクスと経験を重視した、クリアに50時間も掛かるボリュームの作品だとは思ってもみませんでした。

この巨大なボリュームや独創的なメカニクスは、開発を進めるなかで膨らんでいったんですか?

パトリス氏:私のやり方は、最初に強固な1つのアイデアと操作方法を用意するところから始めるんだ。

コントロールの方法を中心にデザインを進めていくのが好きでね。このボタンは感覚、このボタンはインテリジェンス、次のボタンはコミュニケーションといった風に割り当てながら、ボタンの反射作用とアクションを追求していく。

そのほかの事は、これを進めているあいだに膨らんでいくんだ。例えば、どうやって仲間を作るか、ジャングルとどうインタラクトするか、どうコミュニケーションするか。

ジャングルのサルを扱うゲームは見たことがないし、もちろん自分だって作ったことがない。

サルを木々とどうインタラクトさせるか、それを考えている最中に、UIを徹底的に排除したサバイバルのアイデアが湧いてきたり、インベントリが左右の2本の手だけに限定される、つまり2スロットしか存在しないRPG要素を思いついたり、ゲーム開発を進めながらまるでロシアのマトリョーシカのように、ゲームそのものが成長していったんだ。

この手法を個人的に“ロシア人形”と呼んでいて、デザインやプロダクションというのは小さな人形を作ることだと言える。最初の人形が良ければ、次に別の人形を幾つか作ることができる。それが小さな人形1つだったり、人形が3つできることも。ときには同じ人形が20体できることだってある。そんなやり方が好きなんだ。(余談ながら、Panache Digital Gamesが設立された2014年末頃のスタジオ公式サイトには、可愛いマトリョーシカ人形の写真が掲載されていたが、今回ようやくその謎が解けた)

―― 確かにこんな作品は他にまったく見たことがないですね。最初に発表を聞いた時、“Assassin’s Creed”シリーズのこともあって、実はもっとコンセプチュアルなゲームを想像していたんです。

ただ、出来上がった「Ancestors: The Humankind Odyssey」は、よりその瞬間の経験を重視したプレイが楽しい、メカニクスが楽しい作品でした。まさかサルを操作しながら、本当に800万年分の歴史を体験するとは思わず驚きました。

進化の際に表示される“一般的な学説”よりも○○万年早いとか遅いとか、世代交代時の進化における年月の経過とか、スコアアタックのような要素もあって、カウント中は思わずいけいけ!と一喜一憂してしまうのも本作の不思議な魅力の1つですね。

総合的に考えて、やはりこんな作品は見たことも聞いたこともないという不思議な印象を抱いています。

パトリス氏:色んな人から何度も繰り返し「このゲームの目的は何?」と聞かれるんだ。あえて目的を言うとするならば、サイエンスに打ち勝つということかな。後に我々が振り返り語る科学よりも早く脳を進化させることができるか、それがゴールだ。はたして科学に勝つことはできるだろうか?

これがビデオゲームなのかどうか、それは確かではない。50時間にわたって続くインタラクティブな体験とも言える。ビデオゲーム的な要素も持ちあわせているが、ビデオゲームから完全に離れているわけでもない。私がどうデザインしたか、君にどうプレイしてほしいとかではなく、進化とアフリカを通じてプレイヤーが自らの個人的な経験を重ねていく。そんな作品だから、これがビデオゲームかどうかは自分でも分からないんだ。

―― なるほど。今回のアプローチに基づいて、当初「Ancestors」として思い描いていたアイデアを今後さらに継続させるビジョンやアイデアはありますか?

パトリス氏:実は3部作として計画してるんだ。第1弾は私たち人類よりも昔、続編となる第2弾はより人類に近い存在を描く。そして第3弾は現在の人類。ただし、私たちそのものではなく、クリー族(北米、主にカナダの先住民族)の文化のようなテーマを扱おうと思っている。

偶然のような出来事が重なって現在の人類は7万5,000年を生き抜いてきた。我々が一体どのようにしてここまでたどり着いたのか、“私達の物語”を伝えることはとても興味深いことだと思うが、まだ「Ancestors」は極めて初期の創世記の始まりを描いたに過ぎない。サヘラントロプスやアウストラロピテクスを経て、遂にホモ・エレクトスまでたどり着いた。

この先は、次の作品で会おう!

―― そうすると、次の「Ancestors」には全く違うデザインやメカニクスが必要になりませんか。

パトリス氏:そうなんだ。だけど、面白いことがあって、今の私達は確かに木の間を飛び回ったりしないけれど、子供時代には木登りを楽しむようなサルの気持ちが残っているんだ。

次の“Ancestors”はロープを使ってスイングしたり、何かを引っかけたり、ただの石や棒だけではなく、より多くの道具を使うことができる。そして、いよいよ“火”が登場するわけだ。これが“Ancestors”の第二部なんだ。

―― なんと!それはとても楽しみです。でも、パトリスさんには「1666: Amsterdam」もありますよね。こちらは経験を重視した「Ancestors: The Humankind Odyssey」に比べて、ストーリーがより重要な作品のように見えます。

「1666: Amsterdam」の計画はまだ続いていますか?

パトリス氏:そうそう、そうなんだよ。「1666: Amsterdam」は、よりアサシンクリード的な作品で、スタジオの次回作になる予定だよ。

“Ancestors”から一旦離れることになるけれど、既にキャラクターやRPG要素を作るための基礎となるメカニクスはあるからね。ジョークであることを前もって言っておくが、「Ancestors: The Humankind Odyssey」のサルにケープを着せれば新しいゲームの出来上がりさ(笑)。

冗談のようだけど、これが私にとってのゲームデザインの現実なんだ。

船のマストに登るために木を登ること、「1666: Amsterdam」の建築物を正面から登ることと岩を登ることが同じであるようにね。スタジオの仲間と道具を得た今、基礎とコアがあれば、他の新しい何かを作ることができるんだ。

遂に自分のレゴブロックを手に入れて、ゲーム作りを楽しんでいるよ。

「Ancestors: The Humankind Odyssey」を作った大きな理由の1つに、このコアと基礎を担う役割があったんだ。我々にとって“Ancestors”は初めての作品というだけではなく、ここから私たちが手掛ける全てのゲームの基礎となり派生する、文字通りの“Ancestors”(祖先)でもあるわけだ。

―― そうか!“Ancestors”こそが始まりなんですね。

パトリス氏:私の動向を追っていたということなら、詳しく知っているだろうけど、2013年に会社を追い出されて、ホームレスになりそうだった時期もあったんだ。でも、チームを手に入れて、ゲームを完成させ、2019年のいま再び東京ゲームショウに来られたことは、新しい旅の始まりのように思える。今見えているのは、光に満ちた虹色の美しい未来だ。

―― そんな言葉が聞けて本当に嬉しいです。ゲーム作りはやはり楽しいですか?

パトリス氏:スタジオを設立して、社長になることが好きかと聞かれるけど、それはノーだね。ゲームを一から作り上げ、製品としてリリースして、皆に届ける。ゲームを作るプロセスそのものが楽しいんだ。ゲームを作ることが心から大好きで、それこそが我が人生だ。全く簡単なことではないけどね。それが楽しいんだ。

―― ところで、パトリスさんはゲーム好きな印象があります。最近はどんなゲームをプレイしてますか?

パトリス氏:そうだね、最近はシヴィライゼーション6が好きかな。自分で作るタイプのゲームではないからね。

アクションアドベンチャーもプレイするけど、自分が手掛ける分野と被っているから、プレイしたいというよりも、勉強のため。

あとはスポーツゲームかな。モントリオールではNHLが大人気なんだ!

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という事で、パトリスさんのインタビューをご紹介しましたが、過去のパトリスさんに関する動向や「Ancestors」の変遷、「1666: Amsterdam」の概要について、50件近い過去関連記事の中から幾つか代表的なものをまとめておきますので、インタビューで語られた情報の背景が気になる方は是非ご一読を。

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