「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」レビュー、極上のストーリー体験を用意した壮大なTRPGコメディ

2022年3月23日 22:03 by katakori
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「Borderlands」

昨年6月のアナウンスを経て、2022年3月25日の世界ローンチがいよいよ目前に迫る期待作「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」ですが、先日インプレッションをご紹介した先行デモに続いて、2Kより製品版相当のレビュービルドを提供いただき、遂に最新作の全容を実際に確かめることが出来ました。

今回は可能な限りネタバレ無しの「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」レビューをご紹介しますが、実際にプレイしたところ、本作は“ティナちゃんがゲームマスターを務めるTRPGセッションを遊ぶ”こと以外について余り深く言及できないタイプの作品だったことから、楽しみにしている方の経験を損なわないよう、簡単な評価を先にお伝えしておきます。

筆者は、先日のプレイレポートにおいて、ボーダーランズ3を踏襲するゲームプレイ自体が高品質で十分に楽しい仕上がりであることはさておき、このゲームが本当に面白い作品なのかどうか、まだ判断がつかないとまとめました。これは、前回の限定的なデモだけでは「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」の物語が何を描こうとしているのか全く分からなかったこと、そしてコンセプトである“ティナちゃんがゲームマスターを務めるTRPGセッションをおもしろおかしく遊ぶ”こと自体が、ボーダーランズ2の見事な大団円に対する大いなる蛇足なのではと感じる強い疑念に基づくインプレッションだったわけです。

つまり、新作に対する期待を抱きつつも、かなり疑心暗鬼な面持ちで製品版のプレイに臨んだわけですが、結論は端的に言って最高の最高。「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」がシリーズ史上もっとも“楽しい”ゲームであることは間違いありません。

これは、(思えばシリーズの熱心なファンなら誰もが抱くであろう)前述の疑念が全くの杞憂に終わったということで、本作は前回のプレイレポートにおいて言及した、“Gearboxは油断ならない”という面がこれまで以上に研ぎ澄まされ、まさしく筆者の疑念という油断を見事に見透かした上で、最後の最後の最後までこちらに揺さぶりを掛けながらわずかな間隙を縫うように物語を紡ぎ上げる、文字通りまんまとGearboxの手のひらの上でころころと転がされるような、素晴らしいストーリー体験が用意されていました。

一方、本作の戦闘やプログレッション、クラス、装備品等を含む基本的なシステムについては、前述の通り前作ボーダーランズ3を踏襲しており、部分的にさらに快適さや奥深さが増し、エンドゲームを含むボリュームも相当な規模であるため、目新しさこそ少ないものの、ゲームプレイ自体の面白さは既に折り紙付きです。

「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」のゲームプレイについて

参考:公式ゲームプレイトレーラー

本作のテーマやストーリーテリングについて触れる前に、まずは「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」の全体的なゲームプレイについてまとめておきましょう。

これまでにも何度か言及した通り、本作のベースとなるゲームプレイは、フォーミュラとして十分に磨き上げられたボーダーランズ3を踏襲しており、戦闘を含むプレイ感は見事なまでにボーダーランズ3そのもの。前作のプレイヤーであれば何の違和感もなくゲームが楽しめる一方で、メカニクス面での革新やゲームチェンジャーを求める方には少々物足りないかもしれません。

しかし、これが意図的なアプローチであることはまず間違いありません。本作は既に完成している既存のシステムの上で、どこまでふざけ、暴走できるか、どこまでメチャクチャな破綻を描くことができるか、その限界に挑戦しながら、物語の体をなんとか保てるぎりぎりのラインを突き詰めるような奇作・怪作であり、メカニクス面の革新は転がりながら疾走するようなグルーヴを遮るノイズになりかねないわけです。

とはいえ、数多く用意された新要素やコンテンツ、改善の数々は、何れも従来のフォーミュラをさらに進化させています。

とりわけ近接武器と多彩な魔法の存在感は大きく、これまでの近接攻撃のようなお飾りではなく、銃に匹敵する攻撃手段として機能しており、戦闘に新鮮な変化と新たなアプローチをもたらしています。

今回、筆者は新要素である魔法のポテンシャルを確かめるべく、魔法の特化クラスである“スペルショット”でプレイしました。

本作の魔法は、従来のグレネードに相当する装備カテゴリですが、攻守をカバーする多種多様な能力や効果を特色とするほか、所持数に制限されないクールダウン管理の能力に変更されており、アクションスキルや銃、近接攻撃と密接に絡む強力なシナジーを生むものだけでなく、純粋なダメージ源として銃に見劣りしない魔法も多数存在しています。

魔法を強化する特性やパッシブを持つスペルショットのプレイスルーでは、冒頭からエンディング、その後のエンドゲームに至るまで、魔法が一貫して主要なダメージソースの1つとして役立ちました。

最終的なビルドは、アクションスキルで2つ目の魔法装備スロットを解放し、グレイヴボーンとのマルチクラスで魔法クールダウン短縮に特化することにより、両手で高威力魔法を撃ちまくるスタイルに落ち着きましたが、これが実に強力で使い勝手が良く、ボーダーランズ3とはかなり赴きが異なる爽快感の高い戦闘を楽しむことができました。

近接武器については、ドロップした幾つかのレジェンダリーや他クラスの構成を確認した程度ですが、こちらも魔法と同じく、近接攻撃に軸を置くビルドの可能性を感じさせるものが多く、今からローンチ後の新キャラクター作成を楽しみにしています。

また、キャラクター/装備周りのシステム的な構成や全体的なプログレッションも従来通りの馴染み深いものですが、ペーシングや報酬の旨さはボーダーランズ3よりも寛容で、全体的に景気が良い印象。特にエンドゲームの“カオス・チャンバー”が(報酬的に)しっかり美味しいコンテンツとして仕上がっていたことも嬉しいところでした。

さらに、プレイの楽しさを大きく底上げしているのが、サイドクエストの驚くべき充実ぶりで、よくもまぁこんなにバカバカしいことが思いつくもんだと感心する愉快な内容もさることながら、クエストの規模や進行、展開、目標等のバリエーションも実に様々で、思わずメインクエストと勘違いしてしまうような大規模なサイドクエストも多数用意されています。

こういった数々の要素は、一見目立たないながらも、何れもボーダーランズ3の僅かな問題をカバーし、品質を向上させるもので、「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」はボーダーランズ3的フォーミュラの完成形とも言える作品に到達していたと言えます。

ここで言う、ボーダーランズ3のフォーミュラとは、いわゆるルーターシューターRPGの型のようなものを指していますが、さらにその中心部の核には、プレイしやすさや柔軟さ、カジュアルさのようなものが存在していると考えています。

ボーダーランズの魅力は、ストーリーやキャラクター、ゲームプレイに至るまで、幾つかの大きな要素に分類できますが、ことボーダーランズ3のゲームプレイにおいては、圧倒的な敷居の低さと奥深さの両立が鍵を握っているように思います。

筆者は現在もボーダーランズ3を定期的にプレイしていますが、ガーディアンランクのパークや3種のヴォルトカードも全て取り終え、特にやり残したこともなく、一部装備の厳選をだらだらと続けているような状況が続いています。

この間、レベル上限が解放されるたびにストーリーの全リセットを行い、キャンペーンを何周もし、一見苦行のようにも思える装備の刷新や厳選を行ってきたのですが、ボーダーランズ3は不思議とこれが苦ではない。なんとなく適当にプレイするだけでも事が進み、たとえ1度あたり数十分のプレイでも稼げる場所が多く存在する、ある種の“楽さ”こそが長くゲームプレイを楽しめた秘訣でした。

これは、極めてハードコアだったボーダーランズ2のエンドゲームと大きく異なる点で、ボーダーランズ3はある程度適当な装備で戦っても勝てる一方、ビルドや装備を詰めていけば、その分しっかり恩恵や報酬が得られるという絶妙なバランスを実現していたと言えます。

また、ビルドの柔軟な構築も楽しみの一つであり、特定のキルスキルやアクションスキル、グレネード、Proc等をトリガーとするひと続きの戦闘フェーズとしてコンボ的に組み立てていくプロセスは、本シリーズならではの面白さであり、「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」ではマルチクラスや近接武器、魔法の導入によって、さらに柔軟な戦闘の組み立てが可能となっています。

特にボーダーランズ3は、いわゆる“高度”(高尚と言い換えてもいいかもしれません)な作品ではないため、このあたりの魅力や懐深さは、とかくカジュアルの一言で済まされがちですが、ここには意識や記憶に残らないデザインや設計の凄さがはっきりと存在しています。

「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」のゲームプレイにおける進化は、まさにこのフォーミュラの核について、さらなる品質向上を図るもので、僅かに残っていた幾つかの無駄をはぶき、リワードを手厚く、ペーシングを早め、一部はコンパクトに、必要な部分は贅沢にボリュームを増し、ゲームプレイの堅強な地盤を整えることにより、その上層で繰り広げられる他に類のないメチャクチャなストーリー展開やトリッキーなストーリーテリング、ドタバタ、パロディ、コメディを下支えしているのです。

その他、ストーリー以外に特筆すべき点として、ビジュアルがリッチになり、ボリューメトリックフォグや反射、ゴッドレイが効果的に活用されているほか、シリーズを象徴するアウトラインエッジのレンダリングを薄めに抑えた絵画的なアプローチが印象的であること、さらに一部レベル環境のデザインが非常に素晴らしいものであることが挙げられます。

一方、唯一気になる点と言えば、新要素の一つであるオーバーワールドの操作性があまりよろしくないということくらいでしょうか。(オーバーワールドのギミックや探索はとても楽しいです)

もう一点、シリーズにおける本作の特殊な位置づけとして、本編のメインストーリーを十分に楽しむために、「ボーダーランズ3」をプレイしておく必要が一切ない一方で、「ボーダーランズ2」の本編とその第4弾キャンペーンDLC「タイニー・ティナとドラゴンの城塞」、もしくは先だって単体化されたスタンドアロン版「タイニー・ティナとドラゴンの城塞 ~ワンダーランズで一発限りの大冒険!」をプレイしておくことが強く推奨されることを明記しておきます。

ということで、ここからは「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」の物語的な構造やストーリーテリングに触れますので、何も知りたくない方は、ここで一旦止めて頂き、存分にゲームプレイとストーリーを堪能した上で、改めて以下の続きをご確認頂ければと思います。

「ワンダーランズ ~タイニー・ティナと魔法の世界」の物語的体験とストーリーテリングについて

参考:公式ストーリートレーラー

前回のプレイレポートでもご紹介した通り、本作は事前に予め“面白おかしい”ことが確約されている作品であり、その点についてまだ全貌がつかめなかったプレビュービルドでは、こちらが“面白おかしさ”に対してやや構え気味であること、想定通り面白かったことに加え、冒頭でもご紹介したテーマそのものに対する疑念が残ったことをお伝えしました。

結果的にこれは無事杞憂に終わり、個人的にボーダーランズシリーズの中で最も優れたストーリーテリングを達成したと評価していた「サイコ・クリーグのカオスな脳内で大暴れ!」DLCをさらに上回る、素晴らしい体験が得られた訳ですが、本作は同時にシリーズ史上で最も“変”なゲームでもあることから、本作が如何にエクストリームな作品であるか、幾つかの要素を分解して掘り下げてみたいと思います。

話者のレイヤーが多い

まず、本作をプレイして最初に驚くのは、登場人物達がとにかくずーっとやかましい!この一点に尽きます。

のべつまくなしに誰かと誰かが喋っているのですが、本作はゲーム世界に存在するテーブルトークRPGのセッションという状況を描いていることから、ゲーム世界側の会話とTRPGセッション内の会話が同時並行的に進行するだけでなく、さらに幾つか異なる階層の話者が登場することで、以下のように極めて複雑かつ重層的な話者のレイヤー構造が出来上がっています。

  • 最上層:ティナちゃんとフレッテ、バレンタインの会話、ここには新米と呼ばれるプレイヤー自身も同席中
  • 第2層:TRPGセッションのストーリーを導く“語り部”
  • 第3層:ゲームマスターのティナちゃんが語るTRPG内ナレーション
  • 第4層:なぜかTRPG内のプレイヤーキャラクターに語りかけてくる悪者ドラゴン・ロード
  • 第5層:TRPGセッション内の登場人物達や主人公、コンパニオン
  • 第6層:TRPGセッション内で入手できる、ある人物の記憶に関するログ

つまり、TRPGの参加者2人とティナちゃんがあーでもないこーでもないと無駄話を繰り広げながら、その内容に併せてTRPG内の進行や展開、ミッションがどんどん変化したり、時にはティナちゃんが設定自体を投げ出したりしつつ、ときおりドラゴン・ロードが耳打ちするようにあれやこれやとプレイヤーに語りかけてくる、そんな状況下でNPCとの所謂RPGゲーム的な会話や戦闘が続き、場合によってはコンパニオンや主人公の独り言まで混じってくる、文字通りああああやかましい!という他に類のないドタバタが、数々のメタ発言やギャグ、細かすぎるパロディと一体化し、最高品質の贅沢な吹き替えとローカライズによって延々と続いていくのです。

しかも、その内容のほとんどが実にくだらなく、場当たり的で、その場しのぎという(※ 本作に限っては最上級の褒めだと思ってください)、ティナちゃん主導のゲームとしてこれ以上ないほどパーフェクトにいい加減な場が出来上がっていること、そのものが本作の驚くべき功績の一つだと思えます。

全ての登場人物が例外なくどうかしている

ボーダーランズシリーズ全体にも共通して言えることですが、とにかく本作には(ある唯一の例外を除いて)まともな人がただの一人も登場しません。これは、ティナちゃんやフレッテ、バレンタインといった主要キャラクターから、ちょっとしたミッションのNPCに至るまで、清々しいほど徹底していて、これだけで思わず笑ってしまうほどの逸脱ぶりでした。

ボーダーランズシリーズは、こういう状況下で宇宙規模の壮大な物語を描く、非常にアクロバティックなアプローチのストーリーを特色としているわけですが、本作に至っては、そもそもティナちゃんがゲームマスターを務める時点で、TRPGセッションの物語や設定、進行がはなから破綻していて、物語としてまとまるはずもなく、ストーリーはあちこちがつぎはぎのまま、セリフと謎の勢いだけで疾走していくのです。

しかし、破綻したストーリーとおもしろ会話劇が暴走列車のように突き進んだり、突き進まなかったりするなかで、まれにほんの一瞬だけ本当の物語がその気配を覗かせるとき、本作には突如として極めて高い緊張感が走り、プレイヤーの心に揺さぶりを掛けてくるのですが、ティナちゃん自身がまさにそうであるように、全ての心象はうやむやに、曖昧に取り繕われ、その尻尾はいつまでも掴めません。

何も分からない

本作は、狭い洞窟の中で4人がプレイするTRPGセッションを描いていることから、一種の密室劇とも言えるのですが、困ったことに彼らがなぜ一緒にTRPGをプレイしているのか、ゲーム内の今がいつ頃で、皆が何をしようとしているのか(何をしようともしてないとも言える)、主人公は誰なのか、何度も台詞で語られる“運命”とは何なのか、とにかく何が何だか全く分からない状態で物語が進んでいきます。

何も分からないので、前述の緊張感が走るとき、或いはアムニジアックと呼ばれる人物が語る断片的な情報を耳にするとき、プレイヤーは色々なことを想像するわけですが、全ては煙のように現れては立ち消え、手の中をするりと抜けていってしまうので、そもそも面白いとも面白くないとも判断できない、目隠しで綱渡りをしているような感覚さえ覚え、筆者は実際に何度か“このゲーム、ただの蛇足なのでは……”と感じたことさえありました。

これもやはり意図して組み込まれた実に巧妙なストーリーテリングの一種で、思えば本作の発表時から、ある種の誘導とも取れるような仕込みは始まっていたように思え、今回改めて“Gearboxは油断ならない”と痛感した次第です。

破綻と破壊と創造、大いなるメタとギャグとパロディ、ほとばしる情熱と衝動、掴むべき運命、はみ出しもの達がこれら全てを巻き込みながら転がる先に何が待っているのか、それとも待っていないのか、重層的な視点で語られる世にも奇妙なTRPGセッションの行く末は、是非あなた自身の手で確認してください。

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