2019年11月の正式アナウンスを経て、実に11年ぶりのナンバリング最新作となる2023年6月6日の発売に大きな期待が掛かる「ディアブロ IV」ですが、先日Blizzard Entertainmentがメディア向けのプレゼンテーションを実施し、序盤のコンテンツが体験できるプレビュービルドを実際にプレイすることができました。
今回は、プレビュービルドのプレイレポートと全体的なインプレッションをお届けするわけですが、最初に決定的な感想をお伝えしておくと、「ディアブロ IV」は25年の歴史を持つシリーズを再定義するポテンシャルを十分に秘めた新作で、仕上がりは予想以上。予てからBlizzard Entertainmentが掲げてきた“闇への回帰”やオープンワールド化がただのおためごかしではない、心から待ち望んでいた“ディアブロ”が本当の復活を果たすんだ、そんな思いを強く抱かせる素晴らしいものでした。
ただ、この絶賛は個人的に極めて予想外の結果であり、その背景をお伝えするには、筆者の“ディアブロ”に対する強い思い入れと、これに相反する情熱の低下やある種の懸念、不安について詳らかにする必要があるのですが、これは一旦置いておいて、まずはプレビュービルドの概要についてご紹介しましょう。
今回提供を受けたのは、本格的なキャラクター作成に加え、プロローグとAct1の舞台“破砕山脈”エリアがプレイできる開発中のビルドで、利用可能なクラスはローグとソーサレス、バーバリアンの3種。レベル上限は25に設定されていました。(製品版のクラスは前述の3種にドルイドとネクロマンサーが加わる計5種、最大レベルは100となる予定。一方、パラゴンは50で解放)
舞台となる“破砕山脈”は、たえず積雪が続く陰鬱としたオープンワールド環境で、タウンポータルを持つ幾つかの小さな町をはじめ、20種を超える本格的なダンジョン、3種の解放可能な拠点、その他大量の探索要素が用意されており、冒頭のプロローグ終了直後から文字通り自由に世界を探索することができます。
ゲームプレイの進行については、途中の分岐を含む一続きのメインクエストが用意されているほか、20種を超えるサイドクエスト、チュートリアル系のクエストも複数用意されており、プレイヤー自身の判断でプレイするコンテンツやアクティビティを自由に選ぶことが可能です。
また、マルチプレイヤーやシェアードワールド機能も実装済みで、プレイ中に何度か冒険中のプレイヤーを見かけることもありましたが、今回はゲームプレイを急いでいたことから、エモートで多少挨拶を交わす程度で共闘はできず。
筆者のプレイについては、ローグをレベル上限の25まで上げ、Act1のメインクエストと幾つかのクエストや拠点をクリア。ソーサレスをレベル22までプレイし、同じくAct1のメインクエストを完了。バーバリアンはレベル10台前半までプレイし、各クラスの大まかな特性を掴むことができました。
この概要をもとに、幾つか印象的だった要素について簡単にご紹介しておきます。
Act1の舞台となる“破砕山脈”は、雪が吹きすさぶ荒涼とした山岳地帯で、全体的にかなり高低差のある立体的な作りになっていて、あちこちに崖を登ったり降りたりする箇所もあり、過去作の平坦なレベル環境とは大きく印象が異なる、新鮮な探索が楽しめます。
また、一部の場所ではプレイヤーの視点に近いアングルで眼前の壮大な景観を望むことができ、2.5D的なテクニックを駆使していた“Diablo III”とは異なり、完全な3D空間として構築された世界が広がっていました。
なお、町や解放可能な拠点を含む“破砕山脈”(とAct2以降のその他エリアを含む)の屋外環境は、ローディングをはさまない完全なオープンワールド環境として構築されていますが、ダンジョンや小規模な洞窟、地下の部屋といった幾つかのロケーションは、ローディングが発生するインスタンスとして存在しています。このあたりの構成は、“Destiny 2”のシェアードエリアとインスタンスの関係に似ていると言えば、分かりやすいでしょうか。
■ 探索要素の充実
「ディアブロ IV」の広大なオープンワールド環境は、まるで絵画のように美しく、散策するだけでも楽しいものですが、本作にはエリアの探索にフォーカスした専用の報酬システム“Region Progress”を筆頭に、ランダムなイベントや遭遇、特殊なゾーンイベントなど、様々な工夫とアクティビティが用意されており、作品世界の探索と調査そのものが大きな楽しみの1つに進化していたことが大きな驚きでした。
特に前述の“Region Progress”システムは、エリアの発見やダンジョンのクリア、サイドクエストの完了、町の発見、収集要素の獲得など、細かな行動や達成に“Renown”と呼ばれるポイントを付与するもので、この累積ポイントに応じて、非常に魅力的な報酬を複数回受け取ることができます。
この報酬には、大量の経験値とゴールドに加え、なんとアカウントワイドなスキルポイントやポーションのチャージ数上限増、パラゴンポイントまで含まれており、プレイ中のキャラクター強化だけでなく、2人目以降の新キャラ育成までぐっと楽にしてくれます。
また、各地に存在するダンジョンには“Codex of Power”と呼ばれる専用のクリア報酬システムが用意されており、クラスのビルド構築に多大な影響を与える“Aspect”という名の強化を得ることができます。
ダンジョン毎に異なる“Aspect”報酬の効果は、攻撃や防御、リソースなど、多岐にわたり、その数はなんと110種以上。この中には、基本攻撃に大きなAttack Speedボーナスを与えるものや、特定のスキルに固有のボーナスを付与するもの、特定の条件で移動速度を向上させるものなど、クラスに左右されない汎用的な強化から、特定クラス専用の強化まで、多種多様な能力が存在しています。
“Codex of Power”の報酬内容は、ダンジョンを発見した時点で判明することから、現在のクラスに応じて攻略するダンジョンを選んだり、たまたま獲得したボーナスに合わせてビルドを最適化したりと、プレイに新鮮な変化をもたらしてくれるわけですが、筆者の場合、1人目のキャラクターをプレイしている際、この仕組みを知らないまま別クラス向けのボーナスを獲得してしまい、結果として思わぬタイミングで2人目のキャラクターを育て始めるという場面がありました。
また、本作の開発を率いるゲームディレクターJoseph Piepiora氏に伺ったところ、“Diablo III”におけるグローバルなルートテーブルとは別に、「ディアブロ IV」にはモンスターのファミリーに基づく新たなルートテーブルが導入され(例:ゾンビは宝石をドロップしやすい等)、モンスターのファミリーが特定の地域と紐付けられているため、ローカルなルートテーブルに近い役割を果たしているとのこと。
また、クラフト素材としてオープンワールド環境で入手できるハーブや鉱石、モンスターの部位なども、地域によって変化することから、前述の“Codex of Power”システムや新方式のルートテーブル等と併せて、「ディアブロ IV」では特定の目的を持ってある場所を探索するという根源的な楽しみが、大幅に拡張され復活しているのです。
「ディアブロ IV」の発表当初、本作のスキルツリーは文字通り大きな樹木にアクティブスキルとパッシブスキル、スキルスロット枠を配置した大胆なデザインを採用していましたが(参考:過去記事)、その後何度か変更が加えられ、“Diablo II”に近いツリー構成に落ち着いたことが知られていました。
今回のビルドに実装されていたスキルツリーは、これまでの仕組みにさらなる改良と変更が加えられ、“Diablo II”のシステムを踏襲しつつ、段階的に進行する親子ノード型の仕組みに生まれ変わる非常に興味深いものでした。
このスクリーンショットを見ると、赤い線で繋がる親ノードを中心に、アクティブスキルやパッシブスキルが放射状に配置されたレイアウトが確認できます。(※ ■がアクティブスキル、◆がスキル用アップグレード、●はパッシブスキル)
個々のスキルは、レベルアップ時に得られるスキルポイントを消費し、アンロックすることで利用可能となるほか、全体的な消費ポイントに応じて、ノードを繋ぐ赤い線が延び、特定のポイントに達すると(つまり、赤い線が次の親ノードに到達すると)新しいノードから派生するスキルや強化にアクセスできるというわけです。
また、多くのアクティブスキルには、1種の拡張アップグレードに加え、そこから枝分かれする二者択一の特性アップグレードが用意され、各スキル固有の強化が得られるほか、アクティブスキルとパッシブスキルの多くは数段階の強化が可能で、レベル進行に応じて各種スキルやルーンがリニアに解除されていた“Diablo III”とは全く異なる、非常に柔軟でバリエーション豊かな奥深いビルド構築が可能となっています。
■ アクティブスキルの強化例:バーバリアンの“ワールウィンド”
- “ワールウィンド”:回転しながら周囲の敵にすばやくダメージを与える。ランク上昇で与ダメ増。
- ワールウィンドのアップグレード“Enhanced Whirlwind”:ワールウィンドの攻撃を敵に命中させた際にリソースFuryを生成。エリートに命中させた場合はFuryの生成量がさらに増加。
- 選択式の強化1“Violent Whirlwind”:ワールウィンドの発動から2秒後以降、ワールウィンドの与ダメージが増加。この効果はワールウィンドを終了するまで続く。
- 選択式の強化2“Furious Whirlwind”:Slashing武器装備時のワールウィンドに出血持続ダメージを付与。
■ 便利な“キーワード”システムが登場
また、「ディアブロ IV」のスキルツリーシステムにおける特筆すべき点として、個々のスキルが持つ固有の特性を分かりやすく明示する“キーワード”システムが挙げられます。(例:“Frost Bolt”スキルのキーワードは“Basic”と“Frost”の2種)
本作のスキルツリーには、このシステムに基づくキーワード検索機能が用意されており、特定のキーワードに関係するスキルや強化、パッシブを簡単に見つけることができます。
前述した“Frost Bolt”スキルを例に取ると、新しいスキルや強化を解除する際に、“Frost”キーワードでフィルタを適用することで、“Frost Bolt”にシナジーをもたらすアップグレードやパッシブを簡単に選別することができるわけです。
このキーワード検索で真っ先に思いつくのは、やはり出血や凍結といった状態異常特化ビルドの作成がめちゃくちゃ楽!というものですが、実際には低レベル帯のプレイやシリーズの初心者にも極めて有用で、色々と迷いがちな序盤のビルド構築において、限りのあるスキルポイントを無駄にせず、より多くの相乗効果が得られる選択肢を簡単に見極めることができます。
また、「ディアブロ IV」のビルド構築は、リニアなD3方式ではなく、D2に近いポイント式であることから、アンロックするスキルの選別が重要で、その試行錯誤自体がとても楽しい要素の1つになっているのですが、消費したスキルポイントの個別回収/全回収および振り直しが非常に簡単でコストも安く、ゲームの開始冒頭から気軽にスキル構成を見直しながら、ビルドを強化していくことが可能です。
さらに、スキル+付き装備も復活しており、比較的簡単にドロップすることから、ちょっと気になるスキルを気軽に試すことができるのも嬉しいところ。
この他にも、クラス毎に全く異なる仕組みの強化メカニクスが導入されており、前述したダンジョンクリア報酬“Codex of Power”の多彩な強化や新方式のスキルツリーによって、非常に柔軟で奥深いビルド構築・カスタマイズを実現しているのが印象的でした。
■ 参考:クラス毎に導入される新メカニクスの概要
- バーバリアンの“Weapon Expertise”:1H剣や2H斧、ポールアームなど、7つの武器カテゴリ毎に倒した敵の数が集計される。これは最初から利用可能で、各カテゴリのポイントが規定値に達すると固有の強化が得られる。
- ソーサレスの“Enchantment”:規定レベルに到達すると、エンチャント用のスキルスロットが解除される。このスロットに任意のアクティブスキルを割り当てることで、固有のパッシブ効果が得られる。例:メテオを割り当てると、延焼ダメージを受けた敵に3%の確立でメテオが落下してくる。
- ローグの“Specializations”:とある専用クエストをクリアすることでアクセス可能となる。複数の強化から1つの能力が選択でき、変更も自由。今回のビルドでは、通常攻撃の強化に加え、ボス戦に適したリソースの一時無尽蔵化が確認できた。
「ディアブロ IV」のプレビュービルドを実際にプレイして、最も驚いたのが舞台となるサンクチュアリの見事な作り込みと、常に一貫している作品の抑制されたトーンでした。これは、Blizzard Entertainmentが本作のコンセプトとして掲げた「闇への回帰」が見事に成功していることを指しています。
もちろん初代とD2、D3における作風の大きな違いは分かった上で、それでも最新作の“闇への回帰”というコンセプトについては、実のところ今ひとつぴんと来ていなかった、まあダークでゴシックなんだろうな、というのがプレビュー以前の率直な印象でしたが、実際にプロローグとAct1をプレイし、サンクチュアリの暮らしや過酷な環境を目の当たりにすることで、ようやく“闇への回帰”の意味するところを感覚として理解することができました。
ネタバレを避けるために、ストーリーに関する具体的な言及は控えますが、「ディアブロ IV」のロケーションや住人たち、大小様々なストーリーやドラマ、ちょっとしたクエストの端々からにじみ出るダークっぷりは相当なもので、単に暗くて怖いだけではなく、ずっと殷々鬱鬱と、じめじめどろどろした、(良い意味で)陰気などこまでも地味なトーンで、人々が闇にゆっくりと飲み込まれていくような堕落や憎しみ、貧しさ、みじめさ、ある種の狂気を、地べたを這いずるような視点から描いていて、初代が持っていた“絶対にこんなとこで暮らしたくない”と強く願うような、あのどうしようもなく絶望的で嫌な雰囲気と感覚を、作品世界全体から醸し出しています。
前作“Diablo III”は、天と地獄の壮大な戦いに身を投じる英雄的な主人公を物語の中心に据え、高い視点で作品世界を描いていましたが、今回の「ディアブロ IV」については、プレイヤー自身が陰鬱な世界の底辺にいる小さな虫けらのように感じられるだけでなく、緻密な作品世界の構築によって、人々を闇に飲み込むサンクチュアリそのものが新しいキャラクターに進化したような、これまでにない印象を受けました。
この変化は、非常に意義のある要素としてオープンワールド化した世界の探索やリニアな進行と密接に結びついていて、「ディアブロ IV」のゲームプレイに高い没入感をもたらすことに成功しています。
ここまで、オープンワールド環境やクラス、ビルド構築、作品世界のトーンといった要素から、プレビュービルドの見所をご紹介してきましたが、冒頭でご紹介した通り、筆者は現時点で全面的な絶賛に近い感想を「ディアブロ IV」に抱いている一方で、これは正直かなり意外な結果でした。
この背景には、「ディアブロ IV」に対する個人的な期待値が著しく低下していた状況が前提としてあり、今回目の当たりにした「ディアブロ IV」のプレビュービルドがこの落胆を粉々に打ち砕くほど素晴らしかったことを意味しています。
期待値が下がっていた背景を端的に言えば、初代の発売から20数年に渡って寝食を忘れるほど熱中し続けた“Diablo”シリーズに対する情熱が、近年のBlizzard Entertainmentが抱える諸問題、そして“ディアブロ イモータル”がどうしても自分に合わなかったことで、もう自分は“Diablo”を楽しむことができない体になってしまったのではないかという懸念と不安を抱いていたということです。
血で血を洗うような初代“Diablo”の荒々しい衝撃は、まちがいなく今の自分を形成した経験の一つであり、“Diablo II”では本格的なオンライン要素を含む新時代の到来に胸を躍らせ、ちょっとどうかと思うほど多くの時間を費やしプレイに没頭しました。
前作“Diablo III”は、冷静に振り返ると本当にいびつでおかしなタイトルだったと思うのですが、面白さという意味では劇物に近い中毒性を持っていて、さすがにペースは落ちたものの、一先ずシーズン報酬を欠かさず取得する程度に続けてきたメインアカウントのパラゴンは4桁後半を超え、加えてうっかり手を出してしまったNintendo Switch版もパラゴン4桁手前までプレイしてしまい、さすがにやることも欲しい装備もなくなってきたと思えるまで、存分に味わいつくしたと感じています。
近年の“Diablo III”について言えば、確かにプレイ(特に戦闘とプログレッション)は今も楽しいのですが、もはやシーズンの初周もただの作業に過ぎず、ただただGRの深部を目指してステータスを伸ばしていく、なんの試行錯誤もなくひたすら数字だけを積み重ねていく状況が続いていました。
“Diablo”というゲームは、(良くも悪くも)時代ごとにいわゆるハック&スラッシュ系アクションRPGのスタンダードを形作る作品であり、前述した3つのナンバリングはいずれもその偉業を成し遂げ、Diabloライクという一大サブジャンルを都度更新してきました。
極論を言えば、“Diablo”というゲームは、よく出来た作品である必要はなく、衝撃的な体験と終わることのないゲームプレイによってジャンルそのものを押し広げる、或いは次の世代に進めることが肝要なのであって、その点で言えば、初期の“Diablo III”は全くウェルメイドな作品ではなかったにも関わらず、新しいスタンダードを築くという点においては本当に素晴らしい功績を残したと言えます。(この成果が、ある意味でD3的なるものへのカウンターとも言える“Path of Exile”やTQ直系の“Grim Dawn”、“Last Epoch”といった作品の成功の礎となったわけです)
“Diablo III”発売当初、Infernoで一組のエリートと30分以上戦い続けても一進一退で削りきれず、世界中のプレイヤーが敵に目もくれずMFを積んで壺を割り続けた日々の思い出(当時のRMTを鑑みると良い思い出では済まないのですが)、Nerf前のASを山積みに今では考えられないほどの速度で剣を振るプレイヤー、Nerfされるティラエル、障害物バグをはじめとする思い出すだけで笑ってしまうようなエクスプロイトの数々、迷走の象徴とも言えるオークションハウスの存在など、初期の“Diablo III”は色々な意味で凄まじいゲームでしたが、経験という意味では(善し悪しは置いておいて)本当に愉快で面白い思い出を与えてくれる作品でしたし、安定した中期以降は、高品質なアクションRPGとして存分に楽しめました。
一方で、今年6月にローンチを果たした“ディアブロ イモータル”は、とてもよく出来たゲームであり、“Diablo”のゲームプレイを実に上手くまとめた、オーディエンスの拡大に適したタイトルだと思いますが、(もちろん作品としてのコンセプトやテーマの違いもあって)従来のナンバリングで感じたようなワクワク感が抱けず、単純に肌が合わないという理由でプレイを断念してしまいました。
この“肌に合わない”は、宝石と紋石のあれこれもさることながら、むしろメインストーリーのヒロイックで派手な展開や軽やかなトーンに筆者がついていけなかったというのが正直なところです。
つまり、「ディアブロ IV」に対する期待値の低下と懸念は、“Diablo III”から“ディアブロ イモータル”への流れで、この方向性を追求するナンバリング最新作が登場すると、自分は全く楽しめないかもしれないという不安だったわけです。
長々と説明してしまいましたが、「ディアブロ IV」はこのこじれにこじれたシリーズに対する深い愛情と執着、根深い懸念が入り交じるアンビバレンスな思いと警戒心を見事に払拭してくれました。
「ディアブロ IV」のプレビュービルドをプレイしはじめたばかりの印象は、とにかくあちこちが“よく出来ている”というものでしたが、これは前述の通り“Diablo”という経験に対して最も重要な要素ではないわけで、かえって警戒心が増してしまい、恐る恐るプレイしていました。しかし、やがて“あれ?これはよく出来ている……”という思いが強くなり、最終的には“大変だ!これは凄い!よく出来ている!!”という確信に辿り着く、自分でも本当に驚くような心持ちの変化を目の当たりにすることができました。
そして、前述した“よく出来ている”ということが“Diablo”的経験を形作るための必須条件ではなかったというシリーズの歴史に対して、「ディアブロ IV」は“よく出来ている”こと自体で過去を上書きし、よく出来た作品としての新しい“Diablo”的経験、つまりこれまでになかったような素晴らしいゲームプレイのワクワク感を醸成することに成功しています。
プレビューの段階でこう言い切ることは、ある種の暴論でもあるわけですが、視点を変えると、最初から面白くないものが、後半になって面白くなるというケースは得てして少なく、奇跡的に後半が素晴らしく面白くなる作品であっても、結局のところ商業的に失敗する事例は近年も後を絶ちません。
「ディアブロ IV」のプレビュービルドが良く出来ていたのは、作品のトーンを低く抑制することに妥協していないこと、そして一歩間違えばプレイヤーを簡単に圧倒してしまう量の多種多様なメカニクスやシステム、プログレッションを(まさしくオープンワールド環境の探索とおなじように)極めて慎重に拡げながら、プレイヤーが冒険と経験のカスタマイズ、試行錯誤を存分に楽しめる量を適度に制限しながら供給する学習曲線とプレイ障壁の絶妙なバランスの良さ、そしてあらゆる行動に用意される報酬とそのバリエーションの豊かさ、その行動と報酬が文脈を逸脱しない十分な意味づけ、ビルドの試行錯誤を極限まで楽にするコストと手間の低さ、報酬サイクルの短さ、作品世界への没入感を直接的に向上させている高度なグラフィックス技術、高品質で配慮の行き届いたUI/UXデザインなど多岐に渡りますが、こういったウェルメイドな要素が全体の経験を形作ることで、通常のプレイがエンドゲームに向けた作業的な途中経過ではなく、プレイしている“今”この瞬間がまさに楽しいと感じられる、初代や2作目をプレイしていた頃に驚いた未知へのワクワク感にも通じるような経験に大きく進化していました。
つまり、ゲームやストーリー、作品世界のベース部分を支える基礎の出来は現段階で明らかに優れていて、今後ここに新たな柱となるライブサービスやAct1以降のストーリー、Blizzard Entertainmentが最初から充実させると強調しているエンドゲームがどう重なって作品全体を構成するか、そこが最終的な評価を左右するわけですが、「ディアブロ IV」は前述した“出来の良さ”だけでも、D3世代のあいだにどんどん複雑さを増して(プレイヤーを圧倒するように)先鋭化してきたハクスラ系アクションRPGジャンルそのものを一旦リセットし、より多くのゲーマーに向けて開かれた新しい時代のスタンダードを提示するだけの十分なポテンシャルを持っていると断言できます。
昨日、遂に2023年6月6日の発売が決定した「ディアブロ IV」ですが、今はただ一日も早く冒険の続きをプレイさせてくれ!と強く願い、この渇望を埋めたいと考えるばかりです。
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