かつて、ビデオゲーム史に残る名作として知られた“Mafia: The City of Lost Heaven”の現世代向け完全リメイクとして、今年5月にアナウンスされた期待作「マフィア コンプリート・エディション」が先日国内外で待望のローンチを果たしました。
今回は、発売に先駆けて2Kより提供を受けたレビュービルドによる「マフィア コンプリート・エディション」のレビューをご紹介しますが、18年もの歳月を経て復活を果たす初代“マフィア”のオリジナルは、長年国内外で入手困難な状況にあり、2017年10月に海外版の再販が開始されたものの、日本語版は現在も極めて入手が難しく、“マフィア II”と“マフィア III”を楽しんだファンであっても、未だ初代をプレイしたことがない方も多くいらっしゃるかと思います。
2Kがクライム・サーガと掲げる通り、“マフィア”フランチャイズは3つのナンバリングタイトルを通じて1つの壮大なストーリーアークを構成するシリーズであり、今回ようやく初代が現世代でプレイできることは、前述の状況もあって、単なるリメイクを超える大きな意味を持っています。
「マフィア コンプリート・エディション」を評価するにあたって、オリジナルの初代がしばしばシリーズ最高傑作と呼ばれる名作であり、シリーズ全体の基礎を担っている背景を踏まえると、どうしてもオリジナルの魅力や問題点、シリーズタイトル間の関係に触れざるを得ません。
具体的なディテールをご紹介する前に、まず「マフィア コンプリート・エディション」の仕上がりについて言及しておくと、本作は非常に優れたリメイクで、あらゆる要素がオリジナルの魅力を際立たせているだけではなく、、これまで幾つかの理由で完全とは言えなかったクライム・サーガを本当の意味で完成させる“マフィア”シリーズの新たな最高傑作だと断言できます。
という事で、まずはオリジナルの魅力とシリーズタイトルの関係について振り返ってみましょう。
1938年、アメリカ中西部の都市“ロスト・ヘヴン”。1人の男が市警の刑事ノーマンを呼び出し、ある情報と引き替えに取引を求めた。その男トーマス・アンジェロが語り始めたのは、平凡な日々を送っていたタクシー運転手が思いもよらぬ事件からマフィアの一員となり、非情な犯罪に手を染め、暗黒街をのし上がる成功と裏切りの物語だった。
2002年8月に発売された“Mafia: The City of Lost Heaven”は、第一次世界大戦後の投資ブームと著しい技術革新が生んだ巨大なバブルに沸いた狂騒の20年代を経て、大恐慌を迎えた1930年代のアメリカが舞台となるオープンワールドゲームで、主人公トミーの視点を通じて、血で血を洗うファミリー間の抗争や様々な組織犯罪を軸とする古き良き時代の伝統的なマフィアと映画的なストーリーを描き高い評価を獲得しました。
また、本作のストーリーは映画“ゴッドファーザー”や“グッドフェローズ”のような、いわゆる王道のマフィアものですが、幾つかのツイストと語り手であるトミーの存在が本作固有の相乗効果を生み出し、非常に高い難易度を含め幾つか問題のあったゲームプレイを補って余りある、ビデオゲーム史上屈指の濃密なストーリー体験を描くことに成功しています。
“Mafia: The City of Lost Heaven”の魅力は、まさにこの卓越したストーリーにあるわけですが、本作を忘れがたい作品にした要因は、暗黒街をのし上がる王道のプロットそのものよりも、むしろ非常に不思議な存在感を持つトミーそのものにあったと言えます。
これは、語り手であるトミーの大局を見通す冷静さや客観性、人情深い優しさ、非情な残虐さ、貪欲な野心を同時に持ちあわせる複雑な人物像に依拠していました。
初代“マフィア”は、観客となるプレイヤーとの距離を決して詰めすぎない、意図して没入感を抑えた演出と構成によって、細いロープを渡るように危険な物語をクールに進めながらも、ある瞬間に冷静な語り手だったトミーと物語の中のトミーの人生、彼らを見つめてきたプレイヤーの存在、ストーリーそのものを突如として一体化させることで、決して忘れることの出来ない魔法のようなストーリー経験を実現したのです。
■ シリーズにおける初代“マフィア”の位置付け
つまり初代“マフィア”は、強烈なツイストを備えながらも、ジャンルの王道的なストーリーを真っ正面から描いた作品だった訳ですが、その後登場した「マフィア II」と「マフィア III」は、この王道をベースにしたカウンター的な位置付けの作品であり、長年続いた初代の(事実上の)不在がシリーズとサーガの全体像をやや不明瞭なものにする不幸な状況を生んでいました。
もちろん「マフィア II」と「マフィア III」が、それぞれ単独で楽しめる独立した作品であることは間違いありませんが、続編の「マフィアII」は、時代の大きな流れと権力に翻弄され、(クレバーなトミーとは対称的に)大局を全く見渡すことができなかった主人公ヴィトの主観を通じて、アメリカンドリームの残酷な光と影をアメリカン・ニューシネマ的に描いた、文字通り王道の初代があってこそ輝くカウンター的な野心作でした。
一方の「マフィア III」は、ブラックスプロイテーション的なアプローチで犯罪組織に復讐する側から逆説的にマフィアやアメリカの歴史を描いており、南部の問題や公民権運動、60年代の文化、政治的な社会背景、人種問題に至るまで、非常にセンシティブなトピックとエンターテインメントを包括する巨大な作品である一方、血の掟に基づく伝統的なシチリアマフィアは全く登場せず、こちらもやはり“マフィア”の大胆な発展系だったと言えます。
今回ようやく原典である初代が「マフィア コンプリート・エディション」として楽しめる訳ですが、3つのシリーズタイトルは全て同じユニバースを共有しているだけでなく、ストーリーも(詳細はネタバレを防ぐため伏せますが)緩やかながら直接的に続いており、完全リメイクの登場は単なる歴史的名作のリメイクに収まらない意味合いを持っています。
ただし、本シリーズのストーリーアークとユニバース、各タイトルの関係性は、続編「マフィア II」の登場と共に後付けで始まったもので、本来オリジナルの初代は“マフィア II”以降の存在を考慮した作りになっていませんでしたが、「マフィア コンプリート・エディション」は予め続編の舞台であるエンパイアベイやマフィア IIIのニューボルドーが存在する世界として再構築されており、前述のとある“後付け”を正式に補完したことによって、本作は(冒頭でご紹介した通り)遂に“クライム・サーガを本当の意味で完成させた”極めて重要なリメイクだと言えるわけです。
では、「マフィア コンプリート・エディション」そのものの仕上がりについてはどうでしょうか。
率直に言えば、本作の評価は恐らくプレイヤーが求める内容によって大きく様変わりするでしょう。
本作は三人称視点のいわゆる犯罪系オープンワールドゲームですが、Grand Theft Autoシリーズに代表されるサンドボックス系の要素は“フリーライド”と呼ばれる独立したゲームモードに予め集約されており、メインのストーリーモードはリニアでタイトなチャプター進行によるストーリー重視の映画的経験を描くことに特化しています。
また、銃撃戦や格闘、車両の運転システムも初代から大幅な進化を遂げていますが、もとより本作は戦闘や運転にCall of DutyやForza Horizonのような品質や密度を期待して楽しむといった方向性の作品ではありません。
サンドボックス要素を排したリニアな展開やリマスターにおける全面的な改善は、全てが本作最大の魅力であるストーリーを引き立てるためのものであり、Hangar 13がリメイクにあたって(サイドコンテンツやアクティビティによる)現代的なコンテンツの肉付けを行わなかった点は、人によって異なる印象を受けるかもしれません。
しかし、“ビデオゲーム的な遊びの多様さ”と“映画的なストーリー経験の強固さ”は(もちろんそれぞれの要素を十分に追求した上での話ですが)互いに二律背反の関係にあり、今回Hangar 13がオリジナルのタイトさとリニアな構成を忠実に守ったことは、明確な意図を以て誘惑に打ち勝った、極めて重要な英断だと言えます。(※ この二律背反については、前回のプレイレポートにて詳しくご紹介していますので、興味がある方はそちらをご確認ください)
つまり、今回のリメイクにおける最も重要なポイントは、2002年当時のビデオゲーム文化において稀少だった“大人向けの成熟したストーリー”をいかに現世代向けの作品として再構築するかにあり、この成否こそが本当に本作の評価を左右する軸ではないかと考えます。
前述の通り、今回のリメイクにおける様々な取り組みは、その全てがストーリーの魅力を最大限に引き出すための材料だと言えるわけですが、その試みそのものは十分に成功しているでしょうか。
■ 完全リメイクにおける主要な変更・改善点
- 4K/HDR対応や新たなライティング技術を含むグラフィックスの全面的な刷新
- 新しい俳優陣を起用した主要キャラクターモデルの完全な再構築、ボイスアクトの再収録、フェイシャル/モーションキャプチャー撮影からなる全登場人物の演技を一新
- カットシーンの再構築
- 舞台となるロスト・ヘヴンの全面的な再構築と移動制限の撤廃
- オリジナルで問題のあった難易度とバランスの全面的な見直し、および選択可能な難易度の導入
- 多彩な収集アイテムの導入
- ライセンス曲の一部刷新
- オーケストラスコアの再録とサウンド面の強化
- 戦闘および運転システムの現代的な改善
- バイクや近接格闘攻撃を含むゲームプレイ要素の追加
- チェックポイントシステムを含む進行の改善
- フリーライドモードの仕様変更(これは、オリジナルのフリーライドとクリア後に利用可能だったEXコンテンツを統合したもの。ストーリーから完全に独立したコンテンツとして、思う存分ロスト・ヘヴンの探索と愉快なミッション、収集等が楽しめます)
まず、非常に大きな変化として、キャラクターモデルが完全に刷新され、リアルなアニメーションや高品質なボイスアクト、美しいグラフィックス(スーツやコートを含む衣装のデザインとディテール、夜の暗さが素晴らしい!)で描かれることによって、トミーやポーリー、サムといった登場人物達の機微と情動が驚くほど詳細に表現可能となり、演技の質がオリジナルと全く比較にならないほど向上した点が挙げられます。
登場人物の動機や心情、人物像そのものが深く掘り下げられることで、それぞれに一癖も二癖もある魅力的なキャラクター達に文字通り命が吹き込まれ、物語全体の深みが大きく増しているほか、全て一から撮り直されたカットシーンの品質も実に素晴らしくリメイクによる技術的な刷新がストーリーの魅力を直接的に底上げしています。(※ 中でも、思わずため息がでるほど見事な仕上がりのシーンが幾つか存在し、非常に印象深い。リメイクのカットシーンは、かつて初代のリードアニメーターを務めたシネマティックディレクターTomáš Hřebíček氏が率いている)
また、ビジュアルや登場人物達の演技、シーン技法の写実的・映画的な進化に伴い、脚本そのものが全面的にリライトされたことも大きな変化の1つとして見逃せません。
これは、オリジナルと比較しなければ分からない刷新ですが、前回のプレイレポートと今回のレビューにあたって、オリジナルの初代とリマスターを実際に平行してエンディングまでプレイしたところ、プロットそのものの全体的な進行やシナリオはオリジナルを忠実に踏襲しているものの、シーン毎の細かな描写や台詞、演出、構成はほぼ全面的な作り直しと言えるほど大きく様変わりしている様子が確認できました。
写実的な演技やドラマによる補足的な表現に基づいて最適化された脚本により、オリジナルに存在したいささか説明的すぎる台詞や冗長な表現は大幅に省略され、より現実的な台詞やストーリーテリングに重きを置く描写が可能となり、オリジナルとリメイクで同じ内容のシーンであっても、リメイク側はキャラクター毎の人物像や関係性、心理描写がより深く豊かに掘り下げられ、オリジナルの良さを全く減じることなく、映画的なストーリー経験の質を純粋に向上させることに成功しています。
一見地味で目立たない変化ながら、スタジオのボスでもあるナラティブディレクター兼リードライターHaden Blackman氏による脚本の徹底的な再構築は、今回の完全リメイクにおける白眉の1つであり、優れたライティングが大人向けの成熟したストーリーを一段上のレベルに引き上げる大きな役割を果たしたことは間違いありません。
また、グラフィックスの技術的な進化や美しく生まれ変わったロスト・ヘヴンの街並み、サウンド面の進化も映画的な経験の向上に大きく貢献しており、特に再録されたオーケストラBGMと多数追加されたデューク・エリントンの楽曲、非常にリアルなフォーリーサウンドはゲームの臨場感を見事に高めています。
また、収集要素として追加されたカードやレベル環境に用意された幾つかのインタラクションは、本作の社会的な背景やキャラクター情報を補足する役割も兼ねており、こちらも本作のストーリーに多層的な厚みを加える新要素となっています。
「マフィア コンプリート・エディション」の見どころは、濃密なストーリー体験にこそあると考える筆者にとって、今回のリメイクがもたらした変化は、オリジナルの魅力を何ら損なうことなく2倍にも3倍にも大きく増すもので、難易度の導入やチェックポイントの改善、全体的なQoL改善によるプレイしやすさも相まって、もはやオリジナルには戻るのは難しいというのが正直な印象です。
余談ながら、あらゆる要素が品質の向上に繋がったといって相違ない完全リメイクにおいて、幾つか些細なバグを除き筆者がやや気になったのは、トミーが関わった事件の情報や社会情勢を知らせるラジオのニュースに字幕が用意されていないこと、もう一つはグラフィックス技術の著しい進化(PBRや高解像度テクスチャ、3Dモデル、ライティング、ボリューメトリックなパーティクル、アンチエイリアス等)が顕著ななか、LoDと遠景描画処理だけがその他の見事な技術改善に追いついていないこと、主にこの2点程度でした。
■ 最後に
これは作品の良し悪しを左右する指摘ではなく、初めて初代をプレイする方に全く影響ない些細な変化ですが、オリジナルをクリアしたファン向けに1つ付け加えておきたいことがあります。
プレイの楽しみを奪わないよう詳細は伏せますが、これはあるシーンにおいてトミーの非常に重要な台詞と一部シーンが改編されたことによって、初代のトミーとリメイクのトミーに対して最終的に抱く印象が大きく変化したことを指しています。
筆者はここで改編と書きましたが、これは改善と言い換えることもでき、まだこの変化が示す意味と意図を十分計りきれずにいるというのが正直なところです。
ここで言う、初代のトミーとリメイクのトミーの違いとは、語り手であるトミーと物語、プレイヤーの距離間にあります。
初代のトミーは正直何を考えているのか分かるようで分からない、自分自身を律する冷静さと人間的な優しさ、残虐性、どこか達観したような客観的視点を兼ね備えた非常に複雑な人物で、奇妙に遊離する3つの視点が突如交わることによって、1人の男が奈落へと落ちる物語に不変的で寓意的なトゲを残していました。
完全リメイクで生まれ変わったトミーも同様にやはり複雑な側面を持つ人物として描かれていますが、前述の映画的ストーリーの大幅な向上や緻密なキャラクター描写、フォトリアルなアニメーションによって否応なく感情移入が促されてしまい、語り手である幕間のトミーと劇中のトミー、プレイヤーの距離がぐっと縮まり、オリジナルとは全く異なる一体感と没入感を生み出しています。
完全リメイクは、手に汗握る映画的体験を強化したわけですから、一体感が強まることは“Hangar 13”がもとより意図した結果であり、「マフィア コンプリート・エディション」にはこの変化をしっかり踏まえた新しい結末が用意されています。
“Family”の文言が指す2つの全く異なる意味を鑑みれば、(オリジナルを忠実に再現したプロットにおいて唯一大きな変化ともいえる)この改編は「マフィア II」と「マフィア III」に続くサーガのテーマに絡む新しい解釈と考えることもでき、この変化をどう受け取るかという点も、完全リメイクの新しい楽しみの1つかもしれません。
クライム・サーガを真に完成させる非常にスマートで上手い、得心が行く落としどころか、それとも心に消化しきれない違和感を残すトゲがお好みか、気になる方は是非オリジナルとリメイクの違いを自身の手で紐解いてみてはいかがでしょうか。
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