本日、遂に日本語版を含む世界ローンチを果たしたTechlandの人気シリーズ最新作「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」(Dying Light 2: Stay Human)ですが、先だってスパイク・チュンソフトより製品版に近いPlayStation 4/PlayStation 5版レビュービルドの提供を受け、一足先に続編の世界に足を踏み入れることができました。
昨年11月にご紹介したハンズオンプレビューでは、ハイエンドなPC版をプレイしたことから、今回はTechlandが先だってスムースに動作するプレイ映像を公開していたPS4版を選択し、無事クリティカルなバグに出会うこともなく、初回のクリアまで問題なく到達することができました。という事で、今回は「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」のネタバレ無しレビューをご紹介します。
「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」は、ゾンビ化ウイルスによって既存の国家や文明社会が完全に崩壊した世界と人類最後の都市“シティ”が舞台となる一人称視点のオープンワールドサバイバルアクションゲームで、生き別れた妹を探す主人公エイデンの物語を描くほか、流れるように都市を疾走できるパルクールアクション、プレイヤーの決断や行動によって大きく世界が変化する本格的な選択・分岐要素を特色としています。
本作は、“Dead Island”や“Call of Juarez”シリーズ、高い評価を得た前作“ダイングライト”で広く知られるポーランドのデベロッパ“Techland”が開発を担当しており、とにかく大量の要素がこれでもかと盛り込まれているため、基本的な概要は既存の一部トレーラーをご覧頂くのが最も分かりやすいでしょう。
20年以上前、人類はハランでウイルスと戦い、敗れた。そして今、我々は再び敗北に直面している。人類最後の大規模移住地の1つ、「シティ」は争いによって分裂し、文明は再び暗黒時代へと逆戻りしてしまった。それでも人類にはまだ希望が残されている。
流浪人の君にはシティの運命を変える力がある。ただしその並外れた能力には大きな代償が。理解不能な記憶に悩まされる君は、真実を探し求め…気がつけば戦闘区域に足を踏み入れていた。腕を磨いて敵を倒し、仲間を作れ。それには拳と頭が必要だ。権力を振りかざす者の裏に隠された邪悪な秘密を解き明かし、どちら側につくかを見定めて、己の運命を切り開け。ただし自らの決断の行く末がどこであれ、決して忘れてはいけないことが1つある。それは、人間であること。
昨年11月下旬、当サイトで4時間近いハンズオンに基づくプレビューをご紹介しましたが、その際の評価を簡単にまとめると、戦闘やパルクールといった個々の要素に素晴らしいポテンシャルが感じられるものの、発表当初から大きな柱として掲げられていたストーリー分岐に関する全容が見えず、Techlandの過去作におけるある種の雑さやまとまりのなさ(同時に魅力でもあるのですが)を考慮すると、肝心なところはまだ図りかね、実際に製品版を手にするまで油断できないぞ、というものでした。
今回、最初からエンディングまでプレイしたことで確信した結論を先にご紹介すると、前述の心配は概ね杞憂に終わり、Techland史上最も高品質で、スタジオの新たな歴史の1ページを切り開くことになるであろう、素晴らしく楽しい作品の完成が確認できました。
これは、戦闘からパルクールアクション、ストーリー、サウンド、クエスト、成長のプログレション、進行システム、作品世界の構築、ビジュアル、アニメーション、全体を通して一貫したトーン、オープンワールド環境の作り込みまで、文字通り全ての要素が初代“ダイイングライト”を含む過去作から全面的に改善され、お好きな方にとっては味わい深いところでもあった大ざっぱさや荒削りさ、癖の強ささえすっかり影を潜めた、およそTechlandタイトルとは思えないほどウェルメイドの“非常に遊びやすい”作品だったということで、個人的に大好きだった“Call of Juarez: Gunslinger”を超えるTechlandの新たな最高傑作が出来上がったといって間違いないでしょう。
また、「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」はナンバリングの直接的な続編でありながら初代のプレイを全く必要としない、独立した一つの作品として楽しめるほか、(Techland特有の異様なサービス精神が良い方向で発露した)あらゆる局面でプレイヤーを罰さず楽しませようとする景気の良さ、きっぷの良さもあって、Techlandタイトルを初めてプレイする方やゾンビアポカリプス系オープンワールド作品の初心者にも安心してオススメできる素晴らしい作品に仕上がっています。(プレイしやすさも間違いなくTechland史上ナンバー1です)
大きな柱だったサンドボックス的なストーリー分岐については、出来る範囲で確認したところ、もちろん選択に伴う変化は生じるものの、Chris Avellone氏が当初掲げていたほどダイナミックで野心的なものではなく、期待よりもスタティックで近年では一般的な範疇に収まる範囲の要素だと感じました。※ これについては時間的に検証不足なところがあり、実際には驚くような変化があるのかもしれません。その場合は後日追記・修正します。
一方で筆者が最も驚いたのは、思わぬ方向に進化を遂げたストーリーとストーリーテリングで、これについては後述しますが、結果的に「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」は、当初期待されていたTechlandの野心的な新機軸!といった方向性ではなく、スタジオの集大成的な作品だった初代“ダイイングライト”の優れたコンセプトとフォーミュラを純粋にブラッシュアップして完成度を高めることによって、総合的に過去作よりも高い到達点を更新したという位置づけでの最高傑作であり、一つのゲームとして全体をまとめあげる総合力やバランスこそがTechlandに最も求められる、これまでに欠けていたピースの一つではなかったかとも思うわけです。
これは、戦闘やパルクールにも顕著で、どちらもやれる事やスキルの内容自体、前作からさほど大きく変化していないにも関わらず、前回のプレビューでも強調した手触りやレスポンスの気持ち良さ、文字通り流れるようなフローは非常に素晴らしく、グラップリングフック(初代拡張の引っ掛けフック)の統合や新要素のパラグライダー、特性の異なる多彩な武器や強化MOD、戦闘用ツールを組み合わせたアクションの可能性はまさしく無限大で、初代よりも遥かにクリエイティブで自由なアクションを実現しています。
戦闘とパルクールそのものが大きく変化していない一方で、Techlandはこれを活かすための遊び場であるオープンワールド世界を進化・最適化させることによって、元々本作の戦闘とパルクールシステムが持ち合わせていたポテンシャルを最大限に引き出すことに成功しておて、高層ビルから敵を次々と蹴り落としてみたり、思う存分パルクールで高低差のある都市を駆け抜け、思わぬ失敗や追跡をグラップリングフックやパラグライダーでリカバーするといった、シンプルで中毒性のある瞬間の丁寧な積み重ねがゲーム全体の経験を大きく底上げしています。
新たなオープンワールド環境については、前述の通り“遊び場”としてもはや芸術的な域の品質に達しており、都市の高さがゲームプレイの楽しさに直結する要素として意味のある役割を果たしているだけでなく、高所での見晴らしや幾つかの景観には思わず息を呑むような瞬間がちりばめられていて、本当の意味で“移動しているだけで楽しい”世界がそこに存在していたことが非常に印象的でした。
そして、一見目立たないながらも本作の優れた経験を全体的に支えているのが、コンポーザーOlivier Deriviere氏によるサウンド演出です。氏はDontnod Entertainmentのゴシックな吸血鬼アクションRPG「Vampyr」や仏Asoboの傑作アクションアドベンチャー「A Plague Tale: Innocence」の楽曲を手がけたことで知られるコンポーザーで、「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」においてはスニークやパルクール、戦闘、支配勢力等の状況に応じて、音数やテンポ、音像そのものがまるで生き物のように絶えず変化するダイナミックなサウンド生成技術がフルに活用されており、音だけで状況の深刻さや敵との距離、現在のアクションといった情報をリアルなフォーリーサウンドと溶け込むように一体化して直感的に伝えてくる、ヘッドホン必須の素晴らしいサウンド体験を実現しています。
サウンドトラックも見事な名曲揃いで、“Vampyr”のように精神をかき乱す不穏な楽曲から“A Plague Tale: Innocence”のように荘厳でエモーショナルな楽曲まで、バリエーション豊富なスコアでゲームプレイを盛り上げてくれるほか、ストーリーを音で物語るような饒舌なモチーフ使いが実に秀逸で、プレイヤーの選択によって変化する専用の楽曲を含め、後述する劇的なストーリー展開をさらにヒートアップさせています。廃材を利用した手作りのエレキプサルタリーで何度も繰り返し奏でられる主人公エイデンの心象は本作の白眉の一つと言えるでしょう。
余談ながら、先だって国内外で議論を呼んだプレイボリュームについて言及しておくと、今回のレビューにおけるプレイ時間は、メインストーリーをかなり駆け足で進めつつ、数個のサイドクエストをプレイした状態で、クリア時間がおよそ33時間。クリア後にサイドクエストやアクティビティを幾つか追加でプレイした状態で約45時間程度といったところ。Techlandが説明していた(参考:過去記事)20時間のクリティカルパスは相当急いでプレイしないと難しいかなと感じました。また、1周目でやり残したクエストや探索、選択、やりこみ要素を考慮すると、Techlandの報告通り100%クリアが500時間を優に超える規模であることは想像に難くありません。
このボリュームを数字のみで説明したTechlandの報告は、残念ながら意図した通りに伝わらず、賛否の両方が報じられる事態になっていましたが、実際にプレイしてみると、これも前作の優れた点の一つだったバリエーション豊富かつ山盛りなコンテンツの規模をしっかり踏襲しつつ、品質面での進化を確実に果たしており、割り増しや単純なお使いも少なくなかった初代に比べて、アクティビティやメインクエスト、サイドクエストの品質は飛躍的に向上しています。
今後5年以上に渡って続けられるアップデートやコンテンツ拡張も考慮すると、「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」のコストパフォーマンスは(初代と同じく)他に類を見ないほど圧倒的で、このお得感もまた本作の大きな魅力の一つだと言えます。
ここまで、「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」の所謂“ゲームプレイ”に関するカタログスペック的な印象についてご紹介しましたが、ここからは筆者が最も驚いたストーリーとストーリーテリング、作品世界の構築について触れ、本作が一体どんな作品なのか、何を描こうとしているのか、ネタバレを極力避けた上でご紹介します。
今回は便宜的に「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」を“80点満点の90点”と評価した上で、その背景を紐解いてみますが、熱心なファンにとっては“どんなテーマの作品なのか”、“どんな世界を描いているのか”を探ること自体が大きな楽しみの一つだと言えますので、気になる方はご自身のプレイを優先して、クリア後に改めて本レビューをご確認頂ければと思います。
まず、「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」を支える大きな柱の一つとして、“初代から20年後”が舞台となる作品世界そのものが挙げられます。これは、続編の全体に一貫性を持たせる重要な支柱として機能するだけでなく、作品世界そのものが本作の大きな魅力の一つになるよう緻密に構築されています。
初代の舞台となった架空の都市“ハラン”は、ゾンビ化ウイルスのパンデミックから僅か2ヶ月後、外界からロックダウンされたばかりの状況で、生き残った市民や国際社会が“まだ”事態の収拾や救援を目指して活動していることから、文字通りウイルスの脅威に振り回され、右往左往する生存者達のパニックや奮闘が描かれていました。
一方で「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」の世界は、前作のパンデミックから既に20年以上が経過し、人類の文明社会や国家、軍事組織、近代的な科学技術が完全に壊滅しており、感染者の脅威がもはや日常となっている数少ない入植地で暮らす僅かな生存者達は、緩やかに終わりを迎えつつある残酷な世界に抗うこともできず、ウイルスに感染したまま転化を恐れながら、ひたすら今日と明日の水や食料の確保、そして小規模な勢力間の争いに戦々恐々とする、ぎりぎりの生活を送っています。
こういった状況化で、本作の作品世界は所謂“ゾンビもの”としてしっかり現実世界の社会構造や問題を生々しく反映する人間社会の縮図として機能しており、無力な市民の多くが沈みゆく世界の黄昏のなかで、それでも人間としてどう生きるべきか、平和で豊かだった過去の美しい記憶を懐かしく想いながら明日を生き抜く姿が描かれており、人をして人たらしめる“何か”に焦点を当てることが本作のサブタイトルである「ステイ ヒューマン」にも示されています。
異なるイデオロギーや思惑を持つ勢力間の対立のなかで、感染者との戦いを含め一進一退の攻防を繰り広げる主要キャラクター達は、人並み外れた貪欲さや欲望、権力の渇望、他者への貢献、復讐心、理想、強い諦念といった分かりやすい推進力やアンビバレンスな矛盾/葛藤を抱えた人物として描かれていますが、本作は同時に前述したような名も無い市民の多くを丁寧に扱っていて、そこには演劇を試みるひと、楽器の練習にいそしむひと、忘れてはならない歴史の記憶を子供に伝えようとするひと、祖母との楽しかった記憶に耽溺するひと、報道を試みるひと、例えだまされても他者の善意を信じるひと、様々な人々の暮らしを描くことで、生活感のある活き活きとした作品世界を構築することに成功しています。
主人公エイデンもまた多くの人たちと同じく過去に囚われた人物であり、本作は人類の存亡や未来といった分かりやすい目指すべき結末ではなく、人々の様々な思惑に巻き込まれながらも、呪われた過去にケリをつける、“追憶の旅”を描いていることが、初代と続編における最も大きな違いだと感じました。
また、全体的なストーリーテリング手法も初代から大きく改善された要素の一つで、派手なプロットに頼り散発的でまとまりに欠ける印象だった前身のデッドアイランドシリーズや初代ダイイングライトのストーリーに比べ、「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」は全体的な物語の流れや展開が格段に分かりやすく整理され、複雑な人間模様や相関関係をドラマチックに描くことに成功しているのです。
さて、肝心のストーリーですが、ここまでの流れを鑑みれば、当然ながらアナウンス当初の予告通り、初代よりもさらにダークでハードな物語が描かれるのだろうと誰もが予想するであろうことは容易に想像でき、筆者もまたそうだった訳ですが、実のところ本作で最も大きな驚きだったのは、正直思ってもなかった方向性で突き進むストーリーそのものでした。
本作は事前に予想していたダークでハードな重厚感のあるストーリーではなく、強烈な個性のキャラクター達が次々と紡ぎ出す裏切りや友情、陰謀、どんでん返し、熱いブロマンス、死、別れ、次々と明らかになる驚きの真実、景気のいいど派手な展開のつるべ打ちによって推進し、思わず昼ドラか!ソープオペラか!と突っ込みをいれたくなるほどベタベタの、今時なかなか見られないテンションを維持したまま猛然と突き進むのです。
これは、一見ネガティブな評価に感じるかもしれません。そして、恐らく人によって大きく評価が分かれるところだとは思うのですが、筆者はここが本当に心から楽しめたところで、さじ加減を一つ間違えるだけで、瞬時に陳腐化してしまいそうなストーリーが、丁寧な作品世界の人々やロアの作り込み、主要キャラクター達が抱える内面の奥底までしっかりと光を当てる確かな掘り下げ、細部まで入念に編まれたダイアログ、素晴らしい吹き替えによって、ぎりぎりのラインで陳腐化することなく、むしろ活き活きと登場人物達を輝かせているのです。
加えて、主人公のエイデンが本当にまっすぐないい子で、暗い世界に輝く希望の灯火となって人々を繋いでいく様が驚くほどフレッシュに感じられたことも実に印象的でした。
主人公エイデンが生存者達の居留地と居留地を繋ぐ危険を顧みない届け屋“流浪人”の一人であることもゲームプレイにポジティブな影響を与えていて、どうしても避けられないお使い系の展開やクエスト、頼まれ事も“流浪人”であることによって物語上の意味が生まれ、自分が能動的にストーリーを紡いでいるという主体性を担保する手堅い作りもストーリーを破綻させない重要な構成要素の一つだと言えます。
こういった構成は、一見奇妙なバランスにも見えますが、深刻な設定を人物描写を中心にあくまで軽やかに描いてみせる手法は、実のところ優れたヤングアダルト小説/ドラマのそれであり、派手なストーリーに感情移入しながら誰もがきゃっきゃと気楽に楽しめる、まさしく万人向けの作品に仕上がっているわけです。
先ほど、筆者は「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」を“80点満点の90点”だと評価しましたが、これはこのヤングアダルト作品的なアプローチに加え、ゾンビアポカリプスもの自体がもはや手垢にまみれたジャンルであることに由来しています。今やビデオゲームを問わず、様々なゾンビアポカリプス/ゾンビサバイバル作品があの手この手でフレッシュなアイデアやまだ見ぬ設定を模索しながら、競い合うようにエクストリーム化していくなかで、なんのてらいもなくど真ん中の直球を丁寧に磨き抜いた本作は、まさにジャンルゲームとしてのゾンビものを制する作品であり、近年とかく意識が高くなりがちな大作や高評価作品群において、そうそう!これくらいでいいの、こういうゲームがプレイしたかったんだよ的なポジションを見事に射貫く究極の「ちょうど良い」ジャンル作品だと言えるのです。
ゾンビゲームはもうしばらくこれでいい、「ダイイングライト2 ステイ ヒューマン」は戦闘よし、パルクールよし、ストーリーよし、コスパ最高という、どこを切っても楽しめる特盛りボリュームの逸品です。
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