特集 第1回:傑作と謳われた「ディスコ エリジウム」は何が特別だったのか、発売当時の現象を改めて振り返る

2022年6月30日 12:41 by katakori
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「Disco Elysium」

2019年10月にオリジナルの海外ローンチを果たし、ビデオゲーム史に名を残す傑作の一つとして極めて高い評価を獲得した“Disco Elysium”の日本語版「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」(PS4/PS5/Nintendo Switch)が、いよいよ2022年8月25日に発売されます。

オリジナルの“ディスコ エリジウム”は、とかく革新的で巨大な、他に類を見ない特別な作品として語られるケースが多く、特に国内ではまず何よりも“英語の難しさ”が話題になりがちな状況も相まって、気にはなっているけれど実はどんな作品なのかよく分かってない、楽しみにしているけども敷居が高そう、もしくは英語版に手を出してみたものの、言語の壁が余りに高すぎて全く太刀打ちできなかったという方が多くいらっしゃるのではないでしょうか。

今回、待望の日本語版発売に向けて、スパイク・チュンソフトに協力いただき、当サイトで本作の魅力を掘り下げる特集記事をお届けできることになりました。

来る8月25日まで、10回程度の特集を通じて「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」を様々な角度から掘り返して、より多くの人に歴史的な傑作を味わってもらえるような特集になればと考えています。

「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」が極めて“難解”な文学的作品であることは疑いようもありませんが、本作は希代の大人向けコメディ/喜劇でもあり、ここまで腹を抱えて笑えるようなゲームは珍しく、同時にこれほどの悲哀やじりじりとした焦燥、祈るような感情を沸き立たせる作品を筆者は他にしりません。

これから、この“難解”さの正体を腑分けつつ、「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」が本来持ち合わせている魅力をご紹介していくわけですが、特集の第1回は本格的な解説に向けた導入として、既に発売から3年が経とうとしている海外市場で本作がいかに特別な革新的タイトルとして注目を集めたのか、その評価に焦点を当て当時の「ディスコ エリジウム」現象を振り返ってみます。

日本語版「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」の基本情報

参考:日本語版「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」のアナウンストレーラー

本作はプレイヤーが記憶喪失の刑事となり、殺人事件の謎を解いていくRPG『ディスコ エリジウム』の決定版。重厚なストーリー展開と、テーブルトークRPGをプレイしている感覚のゲームシステムが大きな特徴となっている。

プレイヤーはゲーム内で行動する際、まるでゲームマスターのような存在との対話を通じてさまざまな選択を行い、ダイスを使ったスキルチェックにより行動の成否判定を行う。物語を進めていく中で多くの問題が発生するが、ひとつの問題に対していくつもの解決方法が用意されており、自由度の高いゲームプレイが楽しめる。

ゲームスペック

  • タイトル: ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット
  • プラットフォーム: Nintendo Switch / PlayStation®5 / PlayStation®4
  • 発売日: 2022 年8 月25 日予定
  • 希望小売価格: 4,490 円+税/パッケージ版・ダウンロード版
  • ジャンル: RPG
  • プレイ人数: 1 人
  • CERO:D
  • 開発元: ZA/UM
  • 販売元: 株式会社スパイク・チュンソフト

「ディスコ エリジウム」の発売が海外市場に与えた衝撃

参考:海外版“DISCO ELYSIUM – The Final Cut”の発売時に公開された評価トレーラー

オリジナルのPC版「ディスコ エリジウム」(Disco Elysium)が2019年10月15日に発売された際、多くのメディアが独創的な設定とストーリー、革新的なライティングを絶賛し、Metascoreが91に達する圧倒的な高評価を獲得しただけでなく、デビュー作でこの偉業を達成したスタジオZA/UMが大きな注目を集めることになりました。

その後、2021年3月30日にローンチを果たした完全版「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」(Disco Elysium – The Final Cut)に至っては、PC版のMetascoreが97に達し、驚くべきことに“Half-Life 2”[96]や“Grand Theft Auto V”[96]を上回るPC部門のオールタイムベスト1位に現在も君臨しています。(※ もちろん作品の面白さがこういったスコアで決まるわけではありませんが、100位まで確認できる同ランキングの錚々たるラインアップを見れば、全く無名だったインディスタジオのデビュー作が首位に存在していること自体の異常さが分かるかと思います)

“Sekiro: Shadows Die Twice”がGOTYを獲得した2019年の“The Game Awards 2019”においては、GOTYノミネートこそ逃したものの、「ディスコ エリジウム」がインディスタジオ部門とベストインディーゲーム部門、ベストナラティブ部門、ベストロールプレイング部門を制し、見事その年の最多受賞を達成。

さらに、2019年に発表された大小様々なアワードにおいて、「ディスコ エリジウム」はUS GamerやRPG Codexを含む16ものGOTYを獲得。部門別では、30を超えるベストRPG部門賞、20近いストーリー/ナラティブ部門賞を獲得するなど、“Death Stranding”や“Sekiro: Shadows Die Twice”、“Control”といった傑作と並び立つ、2019年を象徴するビデオゲームの一つとして広くその名を馳せました。

また、海外のコミュニティやメディアを大いに驚かせたのは、「ディスコ エリジウム」がこれまで全く無名だったスタジオZA/UMのデビュー作だっただけでなく、そもそもZA/UMがビデオゲームの開発を目指して設立されたスタジオですらなかったという衝撃の事実でした。

エストニアで活動していたミュージシャンやアーティスト、小説家達のグループがビデオゲーム開発の経験もないまま、テーブルトークRPGと独自の作品世界に対する情熱だけで作り上げた「ディスコ エリジウム」は、新旧様々なジャンルの作品から強い影響を受けている一方で、従来のビデオゲーム的なセオリーや体系から大きく逸脱したまさに異形のRPGであり、これが従来の一般的な枠にとらわれない革新的な評価を獲得する大きな要因の一つになったわけです。

では、突如としてビデオゲームの世界に姿を現し、最も高く評価されるRPGの一つとなった「ディスコ エリジウム」を海外メディアはどう受け止めたのか。本作は独創的すぎる設定や圧倒的なディテール、作品世界の緻密な作り込み、否応なく現実世界を想起させる政治的な風刺、大人向けのビターなユーモアなど、とにかく“何かを熱く語りたくなる”要素に満ち溢れすぎていて、多くのメディアがZA/UMの情熱(あるいは執念)に負けじと、ときに鬱陶しいほどの熱量で本作の魅力を雄弁に伝えています。

「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」の具体的なディテールについては、次回以降の特集を通じてたっぷりとご紹介しますので、今回はお馴染みのメディアが本作の経験をどう捉えたか、全体的な印象やゲームの本質、プレイヤーにもたらされる影響等にフォーカスした論評の一部を抜粋してご紹介します。

「Disco Elysium」

最初にご紹介する“Wccftech”は「ディスコ エリジウム」の経験と本作が達成した功績を、非常に明瞭で分かりやすくまとめています。

テーブルトークRPGは、しばしば自分自身をゲームとは言わない。RPGの“G”が何を表しているのかを考えると、少々やっかいだが、理にはかなっている。ゲームマスターと共にプレイヤー全員がテーブルを囲むのは、勝利のためではなく、何かを物語るためだ。互いに協力して臨むストーリーテリング体験は、最も満足度の高い魅力的な体験の一つであり、「ディスコ エリジウム」はこの感覚を捉えた初めてのビデオゲームかもしれない。

Shacknews”は、「ディスコ エリジウム」の白眉である高品質なテキストを絶賛しており、非常にエモーショナルな作品であることを強調しています。

「ディスコ エリジウム」の文章は、屋上から叫び出したくなるようなもので、一度読み始めれば笑いと涙で疲れ果て、キム・キツラギとの結婚を望むか、テキーラで悲しみをごまかすまであなたを離さないだろう。

まるでハーラン・エリスンの物語が現実になったかのような体験だ。「ディスコ エリジウム」の血管には暴力的なエネルギーが流れていて、思わず歯をくいしばってしまう。ある瞬間は荒唐無稽に笑え、ある瞬間では絶望的に悲しい。ディスコ エリジウムは不条理で、心を打つ作品であり、そこには魂が込められている。

PC Gamer”は、本作の主人公に用意されたロールプレイングの圧倒的なバリエーションと強烈な個性に焦点を当て、二つと同じゲームプレイが存在しないことを紹介しています。

RPG史上最も変幻自在なキャラクターが誕生した。共感力の高い共産主義的なディスコミュージック愛好家、殴った後に質問する自虐的なアーティスト、民主主義に情熱を注ぎ人心を惑わすロックンロール警官、薬物中毒のフェミニストサイキックなど、様々なキャラクターを作ることができる。「ディスコ エリジウム」をプレイする人は、率直で大胆なロールプレイの奥深さによって誰もが違う経験をすることになるだろう。

満点を与えた“GameSpot”もやはりテキストの異様な品質について言及していますが、同時に本作と現実世界の(寓話的とも言える)類似を指摘し、「ディスコ エリジウム」の本質的なコンセプトを一段階深く掘り下げています。

なんと美しく、狂気に満ち、大胆な言葉たちか。「ディスコ エリジウム」はこれまでにプレイした中で、最も良く書かれたゲームの一つだ。滅多に見られない横柄さと自信がここにはある。

このゲームは、殺人事件の捜査を巡る巨大な物語を描いているが、それよりも私たちの考え方、権力と特権、あまねく全ての人が、所属する社会によって形作られているという事実に対する捜査そのものなのだ。

「Disco Elysium」

お馴染み“Polygon”は、ファイナルカットを含むレビューにおいて、上手くプレイすることを競うような所謂ビデオゲーム的ではない、本作ならではの楽しさと懐深い楽しみ方、本質的な魅力について次のように紹介しています。

失敗しても気に病むことはない。そもそも最初から失敗していたのだから。本作は完璧なプレイを目指すようなゲームではなく、混沌とした不確実性こそが楽しさの一部なのだ。

「ディスコ エリジウム」は極めるためにプレイするゲームではないが、その考えに目を向ければ現実世界を生きやすくしてくれるようなゲームだ。この作品は決して訪れることのない輝かしい未来を力なく待ちわびるあなたに寄り添ってくれる。例えその未来を手にしたとしても、それもまた愚かなことなのだから。

一方、「ディスコ エリジウム」を真の傑作と評した“IGN”は、作中の様々なトピックがプレイヤーに与える影響について言及していました。

痛烈な笑いや暗く深刻なテーマへと進むシニカルなアプローチ、ブルジョア達を追い落とす革命、カフカ的な精神分析といった様々なトピックは、プレイヤーの心を豊かにするもので、作品世界における主人公の立ち位置を明示するだけでなく、あなた自身について考えるきっかけを与えてくれる。「ディスコ エリジウム」は、刑事ものファンタジーのエクササイズであると同時に、あなた自身の社会的・政治的傾向を判定する作品でもあるのです。

PCGamesN”は「ディスコ エリジウム」の笑いと全体に通底する怒り、そして作品が内包する痛烈な批評性について次のように説明しています。

これほど笑わせられたゲームは、過去になかった。しかし、「ディスコ エリジウム」はただ面白いだけの作品ではない。怒りに満ちているのだ。本作の事件は作中で最も痛烈な社会批判と、どん底のヒューマニ二ズムによって締めくくられる。ここでは、(まるでサウスパークのように)全ての立場が批判されるが、ZA/UMは一部の立場をより瑞々しく描いている。たとえそうではなかったとしても、少なくとも私はある批判によって心を動かされた。

いずれにせよ、これは歓迎すべきことだろう。ビデオゲームを取り巻くメディアには、挑発的な作品を受け入れる余地が必要なのだ。

「Disco Elysium」

RPG専門サイトとして20年の歴史を持つ“PRG Codex”は、「ディスコ エリジウム」を評価するにあたって、従来のCRPG/ビデオゲームとして位置づけること自体に問題があると指摘。先ほどのPCGamesNと同じく、本作の存在そのものがビデオゲームに対するある種の警鐘だと伝えていました。

ちなみに、PRG Codexは2019年のGOTYに「ディスコ エリジウム」を選出しています。

「ディスコ エリジウム」が最高のゲームだとか、そんなことは思わない。そういう位置づけで考えるには、古くさいcRPGのヒエラルキーにこの作品を位置づける必要があり、そうすれば論点そのものがずれてしまう。

「ディスコ エリジウム」は最高傑作ではない。作品の形式や姿勢、インスピレーション、美学的に目指すところが他のビデオゲームとは全く異なっているのだ。アートの惑星からやってきた宇宙人が本物のディスコを持ち込んだ、そういう作品であり、ビデオゲームがエンターテインメントやアウトサイダーアートを超える存在たりえることを教示している。このレッスンは痛みを伴うが解放的でもある。この先どうすれば良いのかは分からない。しかし、ビデオゲームはこの警鐘を必要としていたのだ。

最後にCameron Kunzelman氏が担当したVICEのレビューから、本作の物語がもたらす経験とその影響を象徴するような論評をご紹介しておきます。

2012年にゲームデザイナーのウォーレン・スペクターは予算と時間と能力があるならば、一つの都市区画を完全にシミュレートすることが夢だと語り、当時ゲーム評論家だったジム・ロシニョールが、このアイデアを本当に実現するにはどうすればよいか、境界線はどうなってる?プロットはどう機能するだろう?と思索を巡らす記事を書いた。

7年後、「ディスコ エリジウム」は1ブロックよりも少し大きな区画だけで展開する見下ろし型のロールプレイングゲームとして登場した。これはまさに“1区画RPG”であり、スペクターが重視したシミュレーションを世界との対話や相互作用に置きかえた本作は、世界を形作る物事の根本的なつながりを基盤としている。人々には上役がいて、彼らにはイデオロギーがあり、イデオロギーは世界の中で物質的に表現され、人々はその表出の中で生きている。政治的なライフサイクルがぐるぐると回っているのだ。

スペクターやロシニョールが“1区画RPG”について語った時、彼らが本当に求めていたものは、壁を叩けば隣人がうるさいと窓を開け、ネコが外に出てしまい、3軒隣の子供が新しいペットを飼い始める、そんな出来事を引き起こす相関関係の組み合わせだった。区画は奥行きと物語性を内包し、時間と空間の中で物事を結びつけることでパワフルな体験を生み出すことができる、というアイデアに基づいていた。

「ディスコ エリジウム」は、この目標を別の手段で達成した作品であり、今後この種のゲームを評価する際の指標となるものだ。そして、私はこのゲームが世界に与えた貢献として、何が取り上げられ、認知されるのか思いあぐねている。

それは、小さな瞬間や大きな物語の文脈が紡ぎ出す驚きや喜びだろうか。それとも、イデオロギー的な人間、つまり考えなく信じすぎる人物に対する空虚な笑いだろうか。私は前者であってほしいと願っている。

「Disco Elysium」

意識と記憶を失うほど酒を浴び、ゴミ溜めのような部屋で目覚めるパンツ一丁のアルコール/薬物中毒中年親父が捜査に臨む殺人ミステリーに、なぜこれほど熱のこもった、一部の言及に至っては最早ビデオゲームのことを語っているとも思えないようなインプレッションや批評が集まったのか、なぜプレイした人の情動をここまで駆り立てるのか、その正体こそが「ディスコ エリジウム」の真の魅力であり、上に引用した海外メディアの反応は本作が単に難解な作品ではないことを如実に示している、実に分かりやすい例だと言えます。

当サイトの特集は、「ディスコ エリジウム」の誕生に影響を与えた作品や多くのゲーマーを驚かせた独創的なシステムの数々、作品世界等について掘り下げていきますが、第2回の特集は全ての基本となる「ディスコ エリジウム」の概要や主な見所についてご紹介したいと思います。

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