特集 第10回:「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」の作品世界“エリジウム”と政治ビジョンクエストについて

2022年9月1日 18:05 by katakori
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「Disco Elysium」

前回の第9回特集は「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」発売前最後の特集として、本作の誕生に影響を与えたアートや文学系の作品についてご紹介しました。

先日、遂に日本語版の販売とアップデートの配信が開始された「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」ですが、皆さんマルティネーズでの捜査と観光、脱線、キムと過ごす楽しい毎日を満喫してらっしゃるでしょうか。

いよいよ最終回となる第10回の特集は、「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」の舞台となる架空の世界「エリジウム」そのものに焦点を当てて、プレイ中だと情報があちこちに分散していることから、今ひとつイメージがまとまりにくい作品世界の地理や歴史の大まかな全体像を少なからず整理できればと思います。

これに加え、今回はオリジナルの完全版である『Disco Elysium – The Final Cut』の新コンテンツとして導入された(本編のタスクとは少々仕組みや趣きが異なる)政治ビジョンクエストについても簡単にご紹介します。

9回に渡ってご紹介したこれまでの特集記事は、いずれも未プレイの方を想定したネタバレなしの内容でしたが、今回は一先ず本作のプレイを始めて、1日目の捜査がそろそろ終わりそうかなという方(もちろんそれ以上進んでいる方も)を想定した、幾つかの軽微なネタバレを含む内容となっています。

ただし、事件の捜査に直接関わる人物や出来事、展開に絡むネタバレはありませんので、プレイ中の方も安心してお読みいただければと思います。

なお、本作の舞台となる“エリジウム”は、ZA/UMの共同創設者でライター兼デザイナーでもあるRobert Kurvitz氏が10代の頃から、実に20年近くあたため続けてきた世界で、8000年に及ぶ歴史、7つの大陸、100を超える国家、200以上の都市、そして本作の象徴的なマジックリアリズム的要素の1つである“識域”を特色としています。

「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」において描かれた物語とマルティネーズ地区は、エリジウム世界の中では文字通り砂粒のように小さな出来事に過ぎず、このエリジウム世界が今後さらに登場するであろう“ZA/UM”作品の舞台になる可能性は極めて高いとみられています。

本作の奇妙なタイトル名「ディスコ エリジウム」に隠された意味「エリジウムを学ぶ」(※ 詳細は特集第2回にて)ことに興味がある方は、今回ご紹介するディテールを基に細部の情報を自分なりに補完してみてはいかがでしょうか。

マルティネーズを含むレヴァショールの地理

本作のゲーム内で実際に歩き回れる小規模なオープンワールド環境は、ご存じの通り“マルティネーズ”ですが、正確には「レヴァショール特別行政地域ジャムロック区マルティネーズ」と呼ばれる地区で、レヴァショールという巨大な都市のジャムロック区にある北端の小さく貧しいエリアを指しています。

以下、便宜的に“市”と呼びますが、レヴァショール市は南北に流れるエスペランス川を境に、大きくレヴァショール東レヴァショール西、さらにレヴァショール湾に流れ込むエスペランス川下流の三角州“ラ・デルタ”によって大きく分断されています。

「ディスコ エリジウム」がまだ『No Truce With The Furies』と呼ばれていた頃のアートワークに前述したレヴァショール西の大まかな地区やエスペランス川の位置関係が分かるイメージがあったので(※ 特典冊子にも掲載されていました)、少し手を加えてマルティネーズの場所が分かるイメージを作成してみました。

薄い赤で塗った箇所がマルティネーズ地区で、港(大レヴァショール・インダストリアル・ハーバー)やジョイスのヨット、ワーリング・イン・ラグズ等の位置を見てもらえれば、如何にマルティネーズが小さな地区だったのかが分かると思います。

「Disco Elysium」

中央の川を挟んで“The Cycle”と記されている箇所に位置するレヴァショール東は、富裕層たちが暮らす緩やかな丘陵地帯で、ル・シャルダンや連合軍侵攻時における上陸地点の1つだったステラ・マリス、薬品の名前でしばしば見かけるサン=バティストといった地区が存在し、特にサン=バティストには世界五大企業の本社が2つあることで知られています。

また、三角州のラ・デルタには、高層ビルが建ち並ぶレヴァショール市の最重要地域で、世界銀行や連合政府のインスリンデ司令部“INSURCOM”といった施設が存在するなど、マルティネーズの貧しい生活とは全く別世界とも言える十分に発展した社会と文化が広がっているわけです。

一方、ジャムロック区を含むレヴァショール西は、治安の悪い大規模なゲットーのような地域で、もちろんマルティネーズよりは随分マシながら、店舗の運営に私兵が必要なほど犯罪率の高い地域として知られています。

地図を見ると、マルティネーズからまっすぐ南に主人公が所属するRCMの41分署があり、その付近がジャムロックの中央区であることが分かります。(ジャムロックの南東には、西側でもまだマシなほうとされるクーロン地区が)

また、質屋の西側にある水路を南に遡ると環状の道路のような図が描かれていますが、これがジョイスやクーノを含む住民との会話にしばしば登場する高速道路8/81号線のインターチェンジになります。

インターチェンジの箇所に描かれている地区“Eminent Domain”(ドメイン)については、同じく『No Truce With The Furies』時代にコンセプトアートが描かれており、貧困にあえぐ現地の暮らしと、非常に巨大で近代的な高速道路の対比が確認できます。

「Disco Elysium」
“Eminent Domain”地区のコンセプトアート、巨大な高速道路が裕福な東側に向かって伸びている

ここで、馴染み深い「ディスコ エリジウム」のコンセプトアートを改めて見てみましょう。

「Disco Elysium」

これは、レヴァショール湾側から南向きに見たマルティネーズ地区を描いたものですが、見慣れた建物や港の向こうには、レヴァショール西の豊かな丘陵地やクーロン、街を東西に横断する高速道路が描かれていることが分かります。

という事で、本作はとにかく細かな地名や用語が頻出するので、とりあえずレヴァショール市の東西に関する違い、ジャムロック区の大まかな場所、高速道路や41分署の位置関係だけでも頭に入れておけば、あれこれの展開が把握しやすくなるかと思います。

ちなみに、マルティネーズを含むレヴァショールの地理は、ZA/UMが本作の開発を始めたエストニアの首都タリンを思わせる幾つかの共通点があるので、興味がある方は調べてみてはいかがでしょうか。

エリジウム世界の地理について

レヴァショールだけでもかなり詳細な設定が用意されていますが、レヴァショールは“エリジウム”世界の存在する大都市の一つに過ぎません。

レヴァショールは、インスリンデと呼ばれるイソラ(孤立した大陸)の大都市であり、エリジウム世界には、インスリンデ以外にも、6つの大陸が存在しており、世界人口はなんと36億~46億人規模に達しています。(地球人口の半分程度と考えると、その規模が分かりやすいでしょうか)

これらの大陸は、識域と呼ばれる危険な領域によって隔てられていますが、特殊な技術を用いたイソラ間の移動手段が確立されており、ゲーム内でも他のイソラや都市、地域、文化に関する言及がバンバン登場することから、なるほどこりゃ分からんと地理関係の理解を半ば投げ出している方も少なくないのでは。

現段階で発見されているイソラは、レヴァショールが存在するインスリンデをはじめ、イルマラーとカトラ、グラード、サマラ、ソゥル、ムンディの7つで、現段階でこれらの位置関係を正確に描いた公式な地図はゲーム内外を含め存在していませんが、レヴァショールの地域とおなじく、これについてもゲーム内の様々な会話から得られる断片的な情報を組み合わせることで、大体の位置関係を掴むことができます。

特にムンディやグラードに関する言及が頻出するほか、インスリンデについては群島であることから、セメナインを含む他の島が話題に上ることも少なくないため、ざっくりとでも全体像を頭に入れておくと煩雑な断片情報の整理が幾分かでも楽になるかもしれません。

「Disco Elysium」
ゲーム内の情報を基に作成した手製の地図です
一部の位置関係は予想に基づくもので、大陸や島の形状を含め正確なものではありません
なので、大体こんな感じ……かな?程度のものとご理解ください

余談ながら、“エリジウム”世界を生んだRobert Kurvitz氏の小説“Püha ja õudne lõhn”には、Aleksander Rostov氏が手がけた数枚のアートワークが掲載されており、英語版の小説が刊行されていないことから、舞台となるイソラや都市は不明ですが、「ディスコ エリジウム」の本編よりも僅かに先の年代とされるエリジウム世界の都市や乗り物を描いた興味深いイメージが公開されています。

「Disco Elysium」
空中に浮遊する駅、パリのような街並みとローターを用いない高度な飛行技術が確認できる

エリジウム世界の歴史

これまでの地理的な情報をもとに、次はエリジウム世界の歴史に焦点を当ててみましょう。

プレイした方ならもう存分に面食らっていると思いますが、「ディスコ エリジウム」には作品世界の歴史や地理に関する言及がとにかく多く、これが分散的かつ断片的に伝えられるため、圧倒的な情報の渦に飲みこまれてしまい、当面は(なにしろ主人公も記憶喪失ですから)何が何やら分からないまま捜査を進めるはめになります。

もちろん、本作の面白さの一部は、この過剰な量の情報が徐々に、点と点を繋ぐように結ばれていく過程にあるのですが、少しトリッキーな点として、本作の正確な年代と世紀が分からないということがあります。

本作のオープニングで汚部屋を出てすぐ、カレンダーのオーブをクリックした際の表記「51年の3月」が最も分かりやすい例で、8000年の歴史があるエリジウム世界の中で、本作の舞台が何世紀の出来事なのか、これを明示する情報は今のところ見つかっていません。(※ 8000年前を紀元1年とすれば、恐らく80世紀前後ということになるはずですが詳細は不明です)

ただし、今世紀の○○年代や前世紀、何百年前、○世紀前など、ゲーム内の現時点から時間を遡って表現される情報が相当数あるほか、一部の日付は世紀を省いたyy年mm月dd日といった表記で記されており、パズルのピースを並べていくように整理すると大まかな世界の歴史や流れが浮かび上がってきます。

また、同じ出来事でも人物によって説明が(時には数十年単位で)異なる場合や、世紀は特定できても、年代が分からないものも多数ありますが、現実の日常会話を鑑みれば当然こういった情報はアバウトなほうがリアルなわけで、このあたりを推察していくのも本作の面白いところではないでしょうか。

以下、海外wikiを参考に、筆者が実際に日本語版の文言を含め確認を取った情報のうち、事件の捜査に関わる出来事や人物の情報を排除した上で、幾つか調整・修正・補足を加えた“エリジウム”世界の大まかな(かつゲーム内の語り手やスキル、資料等が概ね正しいことを言っているであろうという前提の、あくまで表面的な)歴史をご紹介します。

先史時代

  • 120億年前:物質の拡大が始まり宇宙が誕生。
  • 26億年前:エリジウムで酸化虐殺が発生。有機体が初めて呼吸を始めたことにより、嫌気性生物が絶滅した。
  • 8000年前:記録に残っているエリジウムの歴史が始まったとされる。
  • 6000年前:古代ペリカーナッシス人達が、当時西方平野と呼んでいた識域の研究学エントロポネティックスをはじめる。

現在から5世紀前

  • 500年前:イノセンス・フランコネグロが戴冠。軍国主義によって、近代国家と世界的な統一通貨リァルの基盤を築いた。
「Disco Elysium」
参考:イノセント・フランコネグロに仕えた重騎兵隊のコンセプトアート
「ディスコ エリジウム」が『No Truce With The Furies』と呼ばれていた頃のもの

ドロレス世紀

  • イノセンス・ドロレス・デイが戴冠。
  • 380年前:インスリンデ・イソラが発見。シュレーヌ王国の植民地としてレヴァショール宗主国と都市が誕生する。(※ レヴァショールは、オクシデント諸国からきた入植者たち、セメナインやイルマラーの労働者たち、ウビ・サントの牧羊民等によって建国され、レヴァショール人と呼べるようなネイティブな先住民は元々存在していない。住民たちの名前や発音のアクセントがイギリス、アメリカ、フランス、オーストラリア、アフリカ系フランス、東南アジアなど、大きく異なるのは、彼らが全て移民の子孫である設定を反映したもの)
  • 320年前:ウビ・サントの入植者達がマルティネーズの海岸に人類のドロレス教会を含む7つの教会(七姉妹)を建設。
  • 200年前:ケーニヒシュタインでフェルド社の前身となる電脳集団が結成。

前世紀

  • レヴァショール宗主国の犯罪学者たちの進言によって、平時における後装銃の使用が禁じられる。
  • ケーニヒシュタイン大学の実験心理学者たちが、後にインスリンデ市民軍やRCMが採用するデコンプタージュと呼ばれる二重指揮系統システムを考案する。
  • レヴァショール湾の高層ビル群を模して、マルティネーズに12階立ての集合住宅が建設される。
  • 前世紀の中頃、レヴァショールが世界有数の染料輸出国となる。これを利用した芸術運動が起こり、黒を使用せず、補色の組み合わせによる極彩色の絵画が多数描かれる。
  • 50年代:レヴァショールがサフリにコカインを広め、中毒者を生むことで利益を得る。この流行は王国の発展を阻害し、地方が分離したあとも続いた。
  • 50年代:逆さの五芒星と枝角を配置したシンボルが発案され、その後の革命においてマゾフや共産主義者たちが活動にこれを利用した。
「Disco Elysium」
参考:前世紀に登場した“Harnankur”と呼ばれる飛行船の模型を描いたコンセプトアート
この船は初の商業イソラ間定期船として、グラードとカトラを結んでいたが識域に飲み込まれた

現世紀の始まり~10年代

  • 02年:ツァーラアト病によるパンデミックが引き金となり、グラード・イソラで新世紀革命が始まる。グラード政府がパンデミックの封じ込めに失敗したことで、クラス・マゾフが当時の政権を転覆させ、新たな指導者となる。
  • 02年:レヴァショール宗主国の王が退位し、レヴァショール・コミューンが設立される。
  • 02年3月7日:レヴァショール・コミューンが3月法令を発布。ラジオ経由で通信各社や各国の政府に送信し、レヴァショール・コミューンの創設を宣言する。
  • 07年:主人公がレヴァショール・コミューンの病院で誕生。
  • 08年:グラードとサフリの革命勢力が壊滅。クラス・マゾフ死去。
  • 08年5月13日:連合軍がレヴァショールに上陸。大規模な空爆によってレヴァショール・コミューンが壊滅。共産主義者が処刑され、多くの一般市民も犠牲となる。
  • 08年:キム・キツラギが誕生。
  • 10年:レヴァショールが降伏文書に調印し、レヴァショール・コミューンが正式に解体。これにより共産主義革命が終了する。しかし、共産主義者の抵抗は依然として強く、ことあるごとに連合との戦闘を行っている。
  • 18年:レズレクシオンが温泉地になる。

現世紀20年代

  • 連合の占領に対する共産主義者のゲリラ的な抵抗が小規模ながら根強く続いていた。
  • レヴァショールの民営化計画が失敗。都市がさらなる貧困に陥る。
  • レヴァショール西でギャング間の抗争が勃発し、水上プラットフォームが焼き払われる。
  • レヴァショール・コミューンが計画を開始したU型素粒子崩壊発電施設“民衆の原子炉”が完成。しかし、稼働開始直後に燃料格納容器が爆発し、放射性廃棄物をエスペランス川に放出。これにより緊急除染隊が派遣され、除染作業が始まる。この汚染除去作業はその後36年まで続いた。
  • 鳥類学者の研究グループが人間の聴覚を上回る高周波を捕らえる技術の実験を行っていたところ、コル・ド・マ・マ・ダクアの痕跡を初めて発見する。
  • グラードの科学者達が国際語と呼ばれる言語を開発。
  • ユーゴ・グラードで貧困と国際倫理機関が自由化を推進する経済政策の失敗に反発する暴動が発生。
  • ヴェートナ工芸研究所の研究員オーラ・タールが恒久的な耐久性を持つ物質エタナイトを発明。

現世紀30年代

  • 30年代:自由主義経済の繁栄によって、レヴァショール東が世界最大のタックス・ヘイヴンとなり、建築にゴールドとシャンパン色を用いる新近代スタイルが誕生。同時期にレヴァショールのディスコ文化が誕生する。
  • 30年代:ORG諸国(オクシデント、レヴァショール、グラード)が低電離層に向けた気象観測気球の打ち上げを開始。
  • 31年:キム・キツラギがRCMに加入。
  • 33年:主人公がRCMに加入。
  • 39年春:『ヘルムダルから来た男と三つ眼のどくろ』発売。
  • 39年:クーノ誕生。

現世紀40年代

  • 30年代に始まったレヴァショールの好景気が財政破綻により終わりを迎える。

現世紀50年代

  • 50年12月:マルティネーズの港湾労働者組合が大レヴァショール・インダストリアル・ハーバーで大規模なストライキを開始。
  • 51年3月4日:マルティネーズ地区のホステル“ワーリング・イン・ラグズ”の裏庭で吊られた死体が発見される。
  • 51年3月x日:主人公がマルティネーズ地区に到着。

「ディスコ エリジウム」のイデオロギーと政治ビジョンクエストについて

特集の最後にご紹介するのが政治ビジョン(Political Vision)クエストです。

なお、ここからご紹介する内容については、基本的にネタバレを伏せていますが、発動条件やクエストそのものの仕様等に関する具体的な内容を幾つか説明していますので、詳細を知りたくない方は一先ずご自身でクエストを解禁し、プレイするまでお読みにならないようご注意ください。

—– それではここから、政治ビジョンクエストの具体的な解説となります。

政治ビジョンクエストは、冒頭でもご紹介した通り、オリジナルの発売から1年半後にリリースされた完全版“Disco Elysium – The Final Cut”向けの新コンテンツとして導入された4つの特殊なクエストを指す名称で、本作に登場する政治的・社会的なイデオロギー“共産主義”と“ファシズム”、“ウルトラリベラル”、“倫理主義”それぞれの具体的な思想に焦点を当て、その詳細や背景、正体を具体的に掘り下げる内容を描いています。

また、“The Final Cut”のリリース時には、このクエストによって政治的な掘り下げが僅かに不足していた本編を完全な作品に仕上げたと言われるほど高い評価を獲得していました。

政治ビジョンクエストの仕組みについて

このクエストは、3日目の夜の就寝時に受託可能となり、タスクを引き受ける場合、ゲーム内の4日目朝から既存のタスクやメインの捜査と平行して、各イデオロギーを学ぶための調査を進めることになります。

ただし、3日目の夜にクエストを始動させるためには、各イデオロギー毎に異なる条件を満たしておく必要があり、普通にプレイしていると、一部もしくはクエストの存在そのものを見逃してしまう可能性も十分に考えられます。

また、1度のプレイスルーで選択できる政治ビジョンクエストは1つのみで、全ての政治ビジョンクエストをクリアするには、何度か本編を周回する必要が生じますが、一応4つのクエストの発動条件を全て満たした状態で3日目の夜を迎え、就寝後に引き受けるクエストを4つの中から選択することも可能です。(※ 3日目の夜の就寝前にセーブデータを作成しておけば、4周する必要はないわけです)

具体的な発動条件については、一応ネタバレを防ぐために詳細は伏せますが、条件自体はそれほど厳しいものではなく、主にプレイヤーのイデオロギー的な選択や行動、思考キャビネットに存在する幾つかの象徴的な思考に関係しているとだけご紹介しておきます。(※ 以下にご紹介するイデオロギーの解説が一応簡単なヒントとなっています)

「ディスコ エリジウム」のイデオロギーについて

政治ビジョンクエストの内容をご紹介するまえに、改めて本作のゲーム内に存在する4種のイデオロギーについて簡単に整理しておきましょう。

ある程度プレイを進めている方は、既に各イデオロギーを象徴する人物や思考の存在、そしてプレイヤーの捜査官プロフィールに用意された各種数値の存在に気が付いているかと思いますが、改めて概要をまとめると以下のようになります。

共産主義

今回の特集を通じて何度もご紹介し、ゲーム内でもしばしば語られることから、もはや詳しい説明は不要でしょう。本作の共産主義は、カール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスの著書『共産党宣言』と幾つかの市民革命をベースにした純粋な共産主義であり、ゲーム内の科学的共産主義を確立したクラス・マゾフは、もちろんカール・マルクスをそのままゲームに持ち込んだキャラクターです。

ゲーム内の共産主義は、ご存じの通り革命に失敗し、実現に至らなかったイデオロギーであり、現実社会と同じく、実現・持続できない理想として、ある種の郷愁と共に描かれています。

「ディスコ エリジウム」における共産主義の面白いところは、純粋な共産主義と社会主義、修正的社会主義、社会民主主義、ポピュリズムをはっきりと描き分けていることで、ストーリー全体を通じてこの違いに焦点を当てているわけですが、政治ビジョンクエストでは、これをさらに掘り下げていじくり回す必見の内容が描かれています。

  • 主要思考:マゾフ派社会経済学
  • 関連思考:クラス・マゾフの自殺
  • 代表的な人物:〈スカル族〉のシンディ、イヴラート・クレア
  • 関連団体・組織:レヴァショール・コミューン、インスリンデ市民軍

ファシズム

「ディスコ エリジウム」におけるファシズムは、いわゆるナチスやムッソリーニのそれとはやや異なり、もう少しプリミティブな民族至上主義や人種論寄りの理論で、むしろアドルフ・ヨーゼフ・ランツの『神聖動物学』や『神智学とアッシリア人の獣人』、或いはヘレナ・ペトロヴナ・ブラヴァツキーの『秘奥の教義』といった仏独近代オカルティズムのパロディをベースに、現代的な女性蔑視やオルトライト、インセルの問題をモチーフとして融合させたイデオロギーとして描かれています。

その尤もたる例がメジャーヘッドの優勢主義的な人種講義で、多くの人が序盤でこの説教に圧倒され、これは大変なゲームに手を出してしまったぞ……と焦ったのではないでしょうか。

メジャーヘッドの論についていえば、これは(英語版のテキスト処理や過剰な冗長さ、論の内容を鑑みれば)ZA/UM流のブラックすぎる壮大なギャグであり、ファシズムの政治ビジョンクエストでは、この理論武装がどういった背景から生まれているのか、思わず椅子からずり落ちてしまうような内容が描かれます。

  • 主要思考:レヴァショール人の国家意識
  • 関連思考:高等人種理論
  • 代表的な人物:ルネ・アルノー、レイシストのトラック運転手、メジャーヘッド、隠れファシストのゲイリー
  • 関連団体・組織:レヴァショール宗主国

ウルトラリベラル

ウルトラリベラルは、レヴァショールの共産主義革命を壊滅させ勝利した資本主義に相当するイデオロギーであり、ジョイスとの会話を通じて、その概要や巨大企業が支配する社会構造について詳しく知ることができます。

もちろん、現実社会の私たちをとりまく資本主義を直接持ち込んでいるため、4つ存在するイデオロギーの中で最も違和感なく、自然に理解できるのではないでしょうか。

特筆すべきはリベラルに付与された“ウルトラ”の文言で、これが何を指しているのかについては、当イデオロギーの政治ビジョンクエストを通じて、嫌というほど味わうことができます。

「ディスコ エリジウム」における資本主義/リベラルは、実体経済や信用、架空資本といった概念をしっかり考慮に入れており、潜在的・本質的な問いとして、(しばしば持続・実現不可能だったと揶揄される共産主義に対して)資本主義そのものの持続性にも目を向けるような視点があり、非常に興味深い問題提起を行っていると言えます。

  • 主要思考:間接的な課税方法
  • 関連思考:15番目のインスリンデ族、破産シーケンス
  • 代表的な人物:ジョイス・メシエ、シーレン
  • 関連団体・組織:ワイルド・パインズ

倫理主義

「ディスコ エリジウム」に登場するイデオロギーのなかで、最も捉えがたいのがこの“倫理主義”でしょう。

分かりやすく言えば善良さを重んじる中道主義といったところですが、難しいところは、レヴァショールにおける共産主義革命とこれを壊滅させた資本主義という極端に振れ幅の大きい2つの運動、そして識域というある種の絶対的存在が混在する世界における“中道”とはなにか?という点にあり、単なる思想の左右だけではなく、ものごとの前進や変化、過去への回帰といった時間的・空間的なダイナミズムに対して、モラルを対決させるZA/UMのアプローチは倫理について非常に興味深い内容を描いています。

倫理主義に対するZA/UMのアプローチは、アイロニカルなユーモアが半分、残りをシニカルさとシリアスさ、ある種の諦念で構成するような描き方で、本作のエンディングにも深く関わるため言及は避けますが、一部のプレイヤーにとって、今後長く後を引くような爪痕を残すことになるのではないでしょうか。

  • 主要思考:良心の王国
  • 関連思考:オピオイド受容体拮抗薬
  • 代表的な人物:キム・キツラギ、サンデーフレンド、トラント・ヘイデルスタム
  • 関連団体・組織:国際倫理機関、レヴァショール市民軍、EPIS、ICP

“政治ビジョンクエスト”について

「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」にて導入された件の“政治ビジョンクエスト”は、先ほどご紹介した4種のイデオロギー毎に異なるストーリーを用意した大規模なタスクとなっています。

クエストの具体的な内容については、ネタバレを避けるために伏せておきますが、クエストにはそれぞれ以下のような名称が用意されています。

  • 共産主義:「準備を整えろ」
  • ファシズム:「時間を巻き戻せ」
  • ウルトラリベラル:「懐が潤った男になれ」
  • 倫理主義:「“責任(ラ・レスポンサビリテ)”を引き受けろ」

何やら奇妙なタイトルが用意されていますが、“政治ビジョンクエスト”はその多くがサウスパークの政治ネタ回に匹敵するような、全方位に喧嘩を売っていくスタイルの超ブラックなコンテンツで、メジャーヘッドの講義さえ可愛く思えるほど、全てのイデオロギーを(もちろん共産主義も標的です)執拗にこき下ろすZA/UMの真骨頂と言える見事な暴れっぷりは、確かに“政治ビジョンクエスト”を以て「ディスコ エリジウム」が完全な作品に仕上がったと言わしめるだけの内容に仕上がっています。

また、一部のクエストには固有の報酬が用意されているほか、中にはエンディングに大きな影響を与えるものが含まれているため、「ディスコ エリジウム」を味わいつくしたい方にとっては、どうしても避けては通れないコンテンツと言えるでしょう。

そして、“政治ビジョンクエスト”の特筆すべき点は、思わず爆笑してしまうような内容であるにも関わらず、実は全く笑えない、痛烈なブラックコメディでコーティングした様々な問題提起や批判、諦念の空恐ろしさにこそあり、「ディスコ エリジウム」の奥深さを象徴するようなコンテンツだと断言できます。

ということで、10回にも及ぶ特集にお付き合い頂きありがとうございました。まだまだご紹介が足りていないトピックやコンテンツが残されているのですが、概ね作品のシルエットを詳らかにする包括的な特集に仕上がったと自負しています。特に影響を与えた作品特集の後半は、「ディスコ エリジウム」を理解するための入り口に過ぎません。今回ご紹介した“政治ビジョンクエスト”や本編のエンディングに何かの引っかかりを感じた方は、ゾラやジジェク、(ネタバレの関係でご紹介できなかった)ストルガツキー兄弟の作品などを起点に興味の方向を拡げてみてはいかがでしょうか。

当サイトの「ディスコ エリジウム ザ ファイナル カット」特集はこれで終了となりますが、一旦時間をおいて、多くの方が1周目をクリアしたであろう頃合いを見計らって、当サイトのレビューをご紹介したいと思います。特集の第9回まで、ほぼネタバレなしでご紹介してきたことから、レビューについては政治ビジョンクエストや識域、事件の関係者、エンディングの詳細にも遠慮なく言及する完全ネタバレのレビューを考えているのでお楽しみに。

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